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童話のワンシーンに出てくるような完璧な秋晴れだった。
こんな日は、幼き日に母親と手を繋いで公園に行ったことを思い出す。その儚い夢のような思い出に触れても、もう重苦しい気持ちにはならなかった。
『いってきまーす』の言葉と共に白い扉が開かれる。待ち侘びたこの瞬間。秋の空気と等しく澄んだ少女の瞳がオレの姿を認めて僅かに揺れた。
『あれ、サソリ?おはよう』
美羽は訝しみながら長い髪を秋風に揺らした。オレは苦笑する。
「せっかく迎えにきてやったのに。もっと喜んだらどうだ?」
『嬉しいけど。こんな時間にサソリが起きてるなんて嵐でもくるのかなと』
「酷い言われようだな」
そう言われるのも無理はない。時刻は丁度6時。いつもなら言うまでもなく布団の中の時間である。
「最後くらいは彼女の勇姿を見届けようと思ってな」
今日は体育祭本番。努力を重ねてきた美羽の一世一代の晴れ舞台である。
美羽は門扉を閉じながら長いまつ毛をそっと伏せた。朝日のせいか、色白な彼女の肌がいつもより更に透き通って見える。
オレは黙って彼女に手を差し出した。彼女も当然のようにオレの手に自分のそれを重ねる。
オレたちの何気ないいつも通りの光景。それなのに、別世界に踏み込んでしまったような妙な違和感が胸を差す。
『…?どうかした?』
動きを止めたオレに、美羽はきょとんとしている。オレは彼女の指に自分の指を絡めた。
「なんでもねぇ。早く行こうぜ」
美羽は首を傾げながら、しかし素直に『うん』と答えた。