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朝の過ごしやすさはどこへやら。時間が進むにつれ気温が上がり、短針が天井を向く頃にはすっかり蒸暑くなっていた。
用意していた水筒も、今日は予定外の消費があったために空っぽだ。財布を持って私は席を立った。
「美羽、どこ行くの?」
『ちょっと自販機に』
「一緒に行こうか?」
『ううん。大丈夫。すぐ戻ってくるね』
皐月に手を振り、私は足早に階段を降りた。自販機は学食の前にある。この昼時、急がなければ混み合ってしまう。
到着した頃には懸念した通りすでに無数の生徒の列ができていた。がっかりしながら、しかし他に選択肢もないので私は大人しく列の最後尾に並ぶ。朝もまともに食べていないしお腹がすいた。早く戻ってお弁当が食べたい。
「…あれ?君」
その声に顔を上げると、大量のペットボトルを抱えた大柄な男の子が一人。あっ、と思わず声が出た。
「…月野さん?だよね、確か」
『そうです。…えーっと…』
視線を泳がせていると、少年はニコッと優しく笑った。
「ダルイだよ」
名前を覚えていなかったことをすぐに察されてしまい肩身が狭い。しかしダルイくんは全く気分を害した様子を見せず、私に好意的な視線を向けたままだ。
「今朝はありがとね。凄い助かった」
『いえ…別に大したことはしてないので』
「いやいや。大変だったでしょ。部員もめっちゃ驚いてたよ。こんな綺麗な部室初めて見たって」
どうやらお節介ではなく、きちんと喜んでいただけたようだ。その事実にホッとする。
『お役に立てたようで何よりです。私、早瀬くんにかなりお世話になってて。そのお礼もしたかったから』
「千秋に?………」
ダルイくんが初めて私に懐疑的な視線を向ける。言いたいことがなんとなくわかるような気がして少し慌ててしまう。
『あ、えっと。今体育祭に向けて走りの練習見てもらってるから』
「…ふぅん。アイツも諦め悪いっつーか、したたかだねぇ」
その発言にどうリアクションしたらいいかわからなくなってしまう。曖昧に微笑んで視線を逸らした。
『じゃ、私お茶買って戻るから』
「お茶?それなら一本あげるよ」
はい、とダルイくんが私に一本のペットボトルを差し出した。驚いて両手を振る。
『そんな、いいよ。サッカー部の皆の分でしょ?』
「余分に買ってるからいつも余るし」
『あっ…じゃあ、待ってお金…』
「いらないいらない。今日のお礼みたいなもんだから。逆にこんなので申し訳ないけど」
財布を開けてあわあわしている間にダルイくんはさっさと踵を返してしまった。汗をかいた冷たいお茶を握りしめながら、私はその背中を呆然と見つめる。
…お礼、言い損ねちゃった。