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私が早瀬くんの部屋に戻ると、早瀬くんが真っ先に両手を合わせて頭を下げた。
「ほんとごめん。なんか…本当にごめん」
『はは…』
シーくんが早瀬くんのベッドの上で参考書を読んでいる。まるで自分の家のようだ。サソリの部屋で寛いでいる皆のことを思い出した。恐らく彼もいつもこうなのだろう。
「別にそんなに謝ることじゃないだろ。お前は悪くない」
「どの口が言ってんだよ。元はと言えばお前が無断で風呂使うからいけねーんだろ!」
「だからさっき言ったろ。借りるって」
「事後報告がすぎるんだよ…ああ、もうほんとごめん」
いいからいいから、と嗜めながらサソリの隣に腰を下ろす。サソリが頬杖をつきながらチラッと私を見た。
「…どした?」
『え…なにが?』
「元気ねぇから。まさか何か、」
『されてないされてない。全然されてないよ』
サソリは流石、私の気分の落ち込みに直ぐに気付いたようである。何かあったのは確かだけれども、何かされたという表現は適切じゃない。
「心配しなくても、オレはその”姫ちゃん”に全く興味はないから」
シーくんは我関せずで参考書のページを捲っている。我が道を行くという言葉がしっくりくる、そんな人である。
色々なことを置いておいて、今は勉強に集中。私は数学の教科書に視線を落とした。
『そういえば早瀬くんは今回のテストどう?』
「うーん、ぼちぼちかな。古典だけがネック」
『古典が苦手なの?』
意外である。早瀬くんは古典の教科書に目を落としたままうん、と頷いた。
「僕理数脳なんだよね。文章とか漢字があまり好きじゃなくて」
『へぇ…』
隣で黙々と作業を進めていたサソリがシャープペンを置き、ノートを一冊私に手渡した。
「必須のところまとめておいたぞ。これでわかんなかったら声かけろ」
『えっ、早!さすがサソリ』
シャワーに行っていたのなんて大した時間じゃないのに、流石サソリは仕事が早い。
誰よりもわかりやすいノートを作成してくれる先生である。これがあるからこそ私はここまで成績を伸ばすことができた。
サソリは既にスマホに視線を落としている。いつも通りの光景。ダメ元で、しかし若干期待しながら私は口を開いた。
『ねぇ、サソリ』
「ああ?」
『古典の要約もできない?』
サソリが私を見る。早瀬君の肩がぴくっと震えた。
「…できるっちゃできるけど」
私は両手を合わせる。サソリは眉間に皺を寄せた。しかし嫌そうなのは顔だけで、直ぐに鞄から教科書を探している。その様子を見て私は声を弾ませた。
『優しい!ありがとう』
「別に。ついでだ」
「…今日は本当に、どうしたの?」
早瀬君が狐に摘まれたような顔でサソリを見ている。今までのサソリの様子から考えて、自分のために何かしてくれる彼の姿が信じ難いのは当然だろう。
サソリは既にノートを開き、シャープペンを走らせている。
「だからついでだ。特に深い意味はない」
「…嵐にならないといいなぁ」
「やってやらねぇぞ」
「ごめんって。怒るなよ」
早瀬くんがくしゃっと笑う。早瀬くんがサソリに懐っこい表情を見せたのを私はこの時初めて見た。
仲良くなってくれるといいな、と思う反面、関われば関わるほどややこしくなりそうだという微妙な感情も捨てきれないコンビである。
私は再び数学のノートに目を落とした。数字の羅列に目蓋が重くなる。しかしテストまでの時間は残り少ない。私は霞む目を擦って、数学の問題に挑んだ。