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目前に迫るのは中間テスト。しかしその後にはすぐ体育祭も控えている。行事盛り沢山の二学期は文字通り立ち止まる暇がない。
教卓に向かってゆっくり歩いていく。マダラ先生と目が合う。無表情の向こうに、何か期待しているような気配を感じる。
先生が握っているこよりの束を祈るように見つめた。白、白、白白。白がいい。どうか白をお願いします。
心臓が強く胸を打つ。ごくりと生唾を飲み込んで、右手を伸ばした。
いざ、勝負の時。
「お前は本当に期待を裏切らないよな」
『待って待って…本当にそれだけは無理です~!』
マダラ先生が笑いを堪えながら私の名前を板書する。私は赤を握りしめながら教卓にへなへなと突っ伏した。
体育祭の競技決め。無難なものから順々に決まっていき、最後に残ったのは女子のリレーの選手。男子は早々に決まったのに、女子は皐月以外足に自信のある人間がいなかった。苦肉の策のくじ引きである。それ自体に異論はなくとも、まさか1/17の確率を自分が引き当てるなんて思いもしなかった。くじ運が悪いにも程がある。
『やり直しを要求します!』
「却下。そんなことしたら収集つかんだろ」
『…でもっ』
「引き取れ、赤砂」
マダラ先生がサソリに向かって手招きをする。窓際でいつものメンバーと雑談をしていたサソリがめんどくさそうに、しかし素直に腰を上げた。
「はい、回収」
『ねぇ、無理。無理です。サソリからもなんか言って…』
「決まっちまったもんは仕方ねぇだろ」
グイグイ背中を押されながら席に戻る。私は
駄々をこねる子供のようにサソリの制服の袖を掴んだ。サソリが仕方なさそうに私の隣に腰を下ろす。こういう時だけ優しく女子に「悪い、席借りるな」と甘い声を出して。
その猫被りに突っ込む余裕すら今の私にあるわけがない。
『無理。無理無理。絶対無理代わって』
「代われるもんなら変わってやりてぇけど、男女別だしな」
残念、と全く感情のこもっていない声。というか、サソリだってかなり足は早いはず。それなのに彼はリレーの選手に選ばれていない。
『そういうサソリは何に出るの?」
「借り物競争」
『めっちゃマイナー競技じゃん!ずるい!』
「ずるくねぇよ、公正な選別の結果だ」
サソリは学校行事のような盛り上がるイベントがそもそも好きではない。のらりくらりとかわして楽な競技を無事手に入れたようである。相変わらず器用な人間だ。それに比べて私ときたら。
黒板を改めて確認する。リレーに選ばれたメンバーは皐月とイタチ、早瀬くんと私の4人である。どう考えても私は場違い。即退場レベル。勉強も苦手だけれども、運動はもっともっと苦手。晒し者になるのが目に見えている。
落ち込んでいる私を涼しい顔で眺めながら、サソリは頬杖をつく。態度と反してむにゅっとなるほっぺが柔らかそうで可愛い。
「お前、50メートル走何秒?」
『……びょう』
「うん?」
『……12秒』
一瞬間を置いて、ぶっとサソリが吹き出した。口を押さえて笑っているサソリを無言で睨む。
『だから言ってるじゃん!私走るのは苦手なの!』
「じゃあ逆に何ならできんの?」
『……。玉入れ?』
「それ得手不得手関係あんのかよ」
そもそも高校生にもなって玉入れなんてねぇし、とサソリが正論で私を追い詰める。要は私は運動が全て苦手なのである。虚しいからわざわざ言わせないでほしい。
私は項垂れながら椅子に体重を寄り掛からせた。文句を言ったところで現状は変わらない。ならば現状を変えるための努力をするしかないだろう。気を抜くと出そうになるため息を喉の奥に押し込んだ。
『今日から走るのも練習するか…』
「つっても、中間まで一週間だぞ。そんな余裕あるか?」
『余裕はないけど…でもリレーって花形競技でしょ。醜態を晒すわけにはいかないし』
「……」
サソリが少し考えるような仕草を見せる。
クラス中をぐるっと見回して、ブラウンの瞳が獲物を定めた。
「早瀬」
放たれた名前は、意外すぎるものだった。青い瞳と目が合う。彼も驚いたようだった。
数個前の席で雑談していた早瀬くんは、サソリに名前を呼ばれて何?と応えた。穏やかを装いながら、内側から刺々しいものが隠しきれていないのがわかる。
反してサソリはまるで友達に話しかけるように気楽な態度だ。
「お前、今日部活ある?」
「…今日からテスト休みだけど。なんで?」
「コイツの走りの面倒見てくれないか」
えっ!と私と早瀬くんの声が重なる。サソリは私に視線を戻した。
「習うなら上手い人間に習ったほうがいい。生憎オレは運動は教えられるレベルではねぇから」
『……そう言われれば、そうだけど』
確かに、早瀬くんは強豪のサッカー部に所属しているだけあって走りにも精通している。頼む人材は間違っていない。間違っていないけれども。
どういう心境の変化だろう。サソリの横顔からは何も読み取れない。今まであんなに早瀬くんのことを毛嫌いしていたのに。
早瀬くんはサソリに視線を向けながら小骨が喉に引っ掛かったような顔をしている。恐らく心境は私と一緒だろう。
海のように深い青の瞳に、サソリの赤は全く馴染んでいない。
「それは…僕は構わないけど。どういうつもり?」
「どういうつもりも何も。理由はもう説明したろ」
「敵に塩を送る、ってやつか」
はっ、とサソリが鼻を鳴らして笑った。
「まさか。そんなつもりはねぇよ」
「……」
「そもそもオレとお前は同じ土俵にすら立ってねぇ」
お約束の如くサソリが煽り始める。不穏な空気を察し私は慌てて二人の会話に割って入った。
『えっと…練習見てもらえるのはとてもありがたいんだけど。本当にいいの?』
「僕は構わないよ。月野さんと……赤砂が良ければ」
早瀬くんがサソリから目を逸らさない。サソリはその視線に興味を示さないまま、決まりだな、と呟いた。