03
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次の日、美羽がなんとなくオレを避けている気がした。
弁当はいつも通り渡してくれる。でも、やはり避けられている。わかるのだ。小さな変化に気づくくらいには、彼女のことが好きな自信がある。
「どしたん?旦那。元気ないじゃん」
デイダラがオレの様子を怪訝そうな顔で見る。はあ、ため息をついて答えた。
「別に」
「美羽と何かあったんだろ」
言われて、また否定することはできない。デイダラは真顔でオレを見た。
「オイラでよかったら相談乗るぜ?」
「……美羽が」
「えっ、喋るの?うん」
「んだよ、お前が言ったんだろ」
いや、珍しいなと思って。デイダラはオレに向き直った。
「…で、何があったんだよ」
オレは昨日の経緯を説明した。あー、とデイダラは声を漏らす。
「それはやっちまったな、うん」
「……」
「ただでさえ自分に自信がないんだろ。派手な元カノ見て更に自信なくしちゃったんだろ、うん」
「元カノっつーか、セフレなんだが」
「じゃあそう言えば?」
「余計引かれるだろ」
だよなあ、とデイダラは笑った。
「まさか旦那があんな純情清楚少女好きになるとは思わなかったしな」
「オレだって思わなかったっつーの。でもしょうがねえじゃん。好きなんだから」
「何度も何度も伝えてわかってもらうしかねえよ。美羽が旦那のことを気にしているのもまた事実なわけだし」
「……」
「美羽は真面目だから。真剣に伝えればわかってくれるって、うん」
デイダラの言葉に、オレはまた大きく息を吐いた。
****
とりあえず美羽と話がしたかった。なんでもいい。それこそ今日の天気の話でもなんでも。
教室に姿が見えなかったので廊下に出ると、美羽が談笑しているのが目に入った。しかも、男と。
誰だ、アレ。
じっと見ていると、美羽がこちらを見た。一瞬顔を強張らせ、相手の男に軽く手をあげている。こちらに向かってくる彼女は、何やら怒っている様子だった。
『なんでもないよ』
開口一番に美羽は言った。オレは美羽の隣に続く。
「別に何も聞いてねぇ」
『顔に書いてあんのよ。あんなにガンつけて。早瀬くんも怖がってたよ』
「早瀬くん?」
『早瀬千秋くん。委員会が一緒なの』
何委員会だったっけ、と考えたところで美羽が続ける。
『美化委員だよ。見事に押しつけられたから』
「あー…お前はそういうタイプだよな」
入学式終わり早々に委員決めがあったはずだ。興味もないしやるつもりもなかったので記憶にはないが。
美羽はチラッとオレを見た。
『本当に何もないから。気にしないでね』
「そこまで言われると逆に気になってきた。あいつお前のこと好きなんじゃねえの?」
オレの問いに、美羽は黙った。は?図星かよ。オレは無言で美羽を見る。
『何も言われてない』
「はぁ?」
『…よく、話しかけてくるなとは思ってたけど。でも別に何も言われてないから、多分違う』
「……」
オレはチッと舌を打った。
「じゃあ言われたらどうすんだよ」
『…え』
「好きだって言われたらどうすんの?」
『そんなこと言われても』
わかんないよ、と美羽は続ける。わからない?わからないってなんだよ。
「アイツと付き合うのか?」
『…そうは言ってない』
あのなあ、とオレは言った。
「言ったろ。八方美人はお前の悪い癖だ。嫌なら最初から嫌と言え」
美羽はじっとオレを見た。その瞳に、侮蔑の色が混じっている。
『…サソリくんだって、いろんな女の子と遊んでるくせに』
「いつの話だよ。今はやってない」
『今は違くても。沢山したんでしょ』
イライラした。昔を蒸し返されてもどうにもならない。
「モテたんでな。多少の火遊びは仕方ねぇだろ」
『だったら私の男友達との関係にも口出さないで』
珍しく尖った声だった。オレが想像した以上に、昨日の出来事は彼女のことを傷つけたらしい。
周りの奴らがチラチラとオレたちを見ている。これはさすがに、移動したほうがよさそうだ。
オレは無理矢理彼女の手を引いた。
****
視聴覚室に押し込んだ。この教室は基本使われていない。誰かが入ってくることも滅多にない。
美羽は終始俯いていた。
傷つけたいわけじゃない。喧嘩をしたいわけでもない。ただ、オレは彼女に自分のことを信じてもらいたかった。
いつも通り屈んで、美羽の目線に合わせる。彼女はビクッと肩を震わせた。
「傷つけたことは謝る。でも、オレはどうしてもお前が好きなんだよ。それはわかってほしい」
『……』
「どうしたら信用してくれる?」
美羽はじっとオレを見ている。
『信用してないわけじゃない』
小さな声だった。声が震えている。
『ただ、嫌だったの。サソリくんがああいう子が好きなんだなって思ったら、なんか』
拍子抜けした。それってつまり。
「…嫉妬してくれたってことか?」
『……』
美羽は目を泳がせる。自分でもわかっているようだった。
なんだ、とオレは首筋を掻いた。
「したいならいくらでもしてやるのに。今日オレの家くる?」
『そーいうことじゃなくて!』
「じゃあどうしてほしい?」
美羽の腰に手を回した。嫌がっている様子がなかったので、そのまま抱き寄せる。
「オレはお前の望む通りにする。どうしてほしい?」
『……』
美羽は初めて、オレの背中にそっと手を回した。
『私以外の女の子に、優しくしないでほしい』
「……」
ゾクゾクした。美羽が可愛すぎて。
顔を真っ赤にした美羽が、それを悟られないようにオレの胸に顔を押し付けている。
『…何か言ってよ』
「いや…可愛いなって」
『からかわないで』
「からかってねーよ。ほんと可愛い」
ぎゅう、と美羽のことを抱きしめる。今言うしかないと思った。
「美羽」
『うん?』
「好きだよ」
『……』
「オレと付き合ってほしい」
美羽がオレの腕の中で何か言葉を発した。聞こえず、何?とオレ。
美羽が顔を上げた。相変わらず顔が赤い。
その時。
「あー、やっぱりいた。ここは生徒の侵入禁止」
ばっ、と凄い勢いで美羽がオレから離れた。
オレは盛大に舌を打つ。
教師はオレたちを訝しげに見ている。
「逢瀬は放課後にしろよー」
「そんなんじゃねーよ」
くそ。いい感じだったのに返事を聞き損ねた。