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サソリの家は、オレたちにとってのオアシスだった。どんなに騒いでも、散らかしても、何時間ゲームをしても咎める人間は誰もいない。とんでもなく居心地のいいオレ達の城。それが変わったのは、サソリに本命の彼女ができてからだった。
月野美羽、というのが彼女の名前だった。勿論知っている。クラスメイトだから。
初めて見た時の印象ははっきり言って思い出せない。それくらい、彼女は大人しいし、はっきり言って地味だった。可愛いかブスかの二択で問われたら前者ではあるものの、可愛い子の話をする時に率先して名前は出てこない。その程度の認識。害も無ければ取り立てて印象には残らない。恐らく誰に聞いてもオレの意見は大きくは外れないだろう。
だからサソリが月野さんを好きだと聞いた時は心底驚いた。だってあのサソリである。死ぬほど女にモテるのに女が嫌いで、他人の心に無関心なオレ様のサソリの初めて惚れた女。
それが、よりにもよってあの月野さん。
趣味が悪いな、というのが正直な感想だった。彼女にしたところで、絶対に面白くない。潔癖そうだし、繊細そうだし、気を使ってやらなきゃすぐ泣かれそう。
なんでよりにもよってあんなつまらなそうな女を選んだのだろう。おっぱいがでかいからか?それくらいしか理由が思いつかない。
サソリと美羽が付き合い始めたのは一年の夏。あのサソリが死ぬほど苦労して口説き落としたらしい。口では賛美の言葉をかけておいて、内心では馬鹿にしていた。
手に入ったらどうせ飽きて十中八九ヤリ捨てる。可哀想、美羽ちゃん。絶対に処女なのに。
しかしオレの予想と反して、二人の付き合いは順調だった。聞けば、まだキス止まりで身体の関係はないらしい。
驚きと同時に、初めてそこで嫌悪の気持ちが露見した。
なんだよ。お前は”こちら側”の人間だろう。散々他人をゴミのように扱っておいて今更好きな女ができたなんて。急に普通の人間になってんじゃねーよ、気持ち悪い。
仲睦まじいサソリと美羽の二人の姿を見るたび、胸が騒いだ。
どうして二人とも、お互いをあんなに大事に思い合えるのだろう。オレには理解し得ない感情だった。そして何より、気持ち悪い。綺麗すぎて、正しすぎて。まるで教科書の例文のような二人が気持ち悪いのだ。
壊れてしまえばいいと思った。お前達がいなければ、自分が欠落した人間なのだと気付かされることもない。どちらかが浮気でもして、あっさり別れてしまう姿が見たかった。そうしたら今までの自分が正しかったのだと、オレはオレを認めてやることができる。
しかし二人は、当たり前のように余所見をしなかった。お互いがお互いを好きであることに疑いを持っていない。面白くなかった。どんなに揺さぶりをかけても、決して揺らがない二人が。
そしてこんなくだらない理由で二人に固執してしまう自分自身が、本当は一番気持ち悪かった。