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夢小説設定
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朝の教室はいつだって騒がしい。でも、今日はいつもと少しだけ様子が違う。
「千秋、その顔どうしたんだよ」
「なになに?喧嘩?」
早瀬くんに群がるのはいつものサッカー部男子である。顔に無数のガーゼを貼っている早瀬くんは、ニシシ、と悪戯に笑った。
「違う違う。階段から落ちたんだよ」
「は…階段?」
「気を付けろよー、お前貴重なニ年レギュラーなんだからさー」
聞き耳を立てなくても、会話は筒抜けである。周りの女子も、痛そうー、早瀬くん大丈夫?と声をかけている。
私は興味がない振りを装いながら髪の毛をいじった。と同時にそっと彼の席を確認する。
チャイムが鳴るまであと3分といったところ。しかしまだサソリの姿は見えなかった。彼も早瀬くんと同じくらい怪我をしているはずだけど、ちゃんと消毒とかしたのかな。…きっとしてないんだろうな。
「美羽」
声をかけられ、私は顔を上げる。すると皐月が知らぬ間に私のことを見ていた。
『なに?』
「あんたさ、全然気付いてないと思うけど」
『?』
「今日めちゃくちゃ不細工よ」
ぶっ、と吹いた。皐月はそれだけ言うと再びスマホに視線を下ろしている。
不細工って。確かに昨日あんまり寝られなかったけど、化粧でごまかしたはずなのに。相変わらず鋭い。何か変化があればすぐにバレてしまう。
皐月はスマホを見つめながら続けた。
「言いたくないなら聞く気はないけど。一人で抱え込むのはやめなさいよ」
『……別に、喋りたくないわけじゃないんだけど。うまく説明できる自信がなくて』
「は!?どうしたんだよ、サソリちゃんその顔」
その時である。飛段の声で、彼が登校したことを知る。周りもザワザワと動揺している気配がした。
予想通り、サソリは顔にガーゼの一枚も貼っていなかった。顔にある無数のアザが生々しい。
サソリは好機の目を全く気にすることなく、自分の席に堂々と腰掛ける。
「別に。なんもねーよ」
「なんもねー顔じゃねぇだろ…うん」
「なになに、喧嘩?…あ」
クラス中の疑問が一気に解消された瞬間である。サソリと早瀬くん。どう誤魔化そうとも、二人が喧嘩したということは明白だった。そして、この二人が喧嘩したということは。
皆の視線が一斉に私に向けられる。予想されていた事態だ。
私はただひたすらに下を向くしかなかった。なにを聞かれても答えられる気がしない。
教室にチャイムが響き渡る。私は何事もない風を装い、自分の席に向かった。