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自販機に行き、100円を取り出す。迷わずブラックコーヒーを押すと、デイダラがニヤッと笑った。
「疲れたけどイライラはしてねーんだ?うん」
その発言の意図に気づき、思わずムスッとする。
「よかったな。ミスコン出るの辞めてくれて」
「…なんの話だよ」
もう一枚100円を出して、今度はミルクティーのボタンを押す。デイダラがまたぷっと笑った。
「甘やかすねぇ、うん」
「お前も変わらねぇだろ」
そう言うデイダラも手にはコーラと午後の紅茶を持っている。誰に買っているのかは明らかだ。
「まあアイツも頑張ってるからな。これくらいやってもバチは当たんねーだろ、うん」
「お前はいつか天罰下りそうだけどな」
「は?なんでだよ、うん」
皐月の思いを10年以上棒に振っている罪深い男である。いつか刺されても文句は言えないだろう。あんなにバレバレなのにどうして気づかねーんだ。と、言ってやりたいがやはり言えない。
二人で駄弁りながら暫く時間を潰す。すると、ポケットの中のスマホが振動した。開いてみれば予想通りの人物の名前である。
「終わったとよ」
「んじゃ戻るか、うん」
お互いの分は飲み終え、ゴミ箱に放り込んだ。汗をかいたペットボトルを揺らしながら教室に戻る。
入ってみると、もう他の女子の姿はなかった。美羽と皐月が散乱した道具の片付けをしている。背後から近づき、首元にペットボトルを当てた。ひゃっ!と美羽の背中が跳ねる。
『びっくりしたー…』
「お疲れ。どんな感じだ?」
『そんなに難しくないから、明日から皆教えてもらったメイクで登校してくれるって。皆で新しいメイク道具買いに行ったみたい。喜んでたよ』
ありがとう、と美羽がオレからミルクティーを受け取った。鼻の頭に汗が滲み、目元の化粧もよれている。しかしその姿が何故か綺麗に化粧をしている時よりも可愛く見えた。
ペットボトルを開けようとして、手間取っている彼女の手からそれを取り上げた。蓋を開けて再びそれを返す。美羽は少し恥ずかしそうに笑ってまた礼を言った。
『サソリとデイダラは流石だね。皆すごい綺麗になってた』
「どんなブスでも似合う色はあんだよ。オレたちはそれを教えてやっただけだ」
案外、自分の似合うものをわかっていない人間は多い。雑誌を見て好きな芸能人に合わせるのもいいが、あれは大体元が良い人間用である。庶民はやっても浮くことの方が圧倒的に多い。
ふぅん、と呟いて美羽がペットボトルに口をつけている。
「お前さ、化粧落とし持ってねぇの?」
『化粧落とし?』
持ってるけどなんで?と美羽。オレは美羽の目尻を擦りながら言った。
「かなりパンダだぞ」
『えっ!うそ!』
美羽は顔を赤らめる。ごめん、ちょっと落としてくるね、とそそくさと教室を後にした。
ドライヤーやコテをバックに詰め終えた皐月も席を立つ。
「私ももう部活行ってくるね」
「まじ?これから?」
太陽が既にかなり傾いている。皐月は首肯した。
「片付けくらいだと思うけど。顔出さないのは悪いから」
相変わらず真面目である。そのまま部活に行くのかと思いきや、皐月が目を右斜め下に置いて立ち尽くしている。何やら悩んでいるようだ。
「…あのさ、」
皐月がデイダラの袖をちょんと引いた。
「なに?」
「……」
なにやら言い淀んでいる様子である。オレはその様子ですぐ察したがデイダラは相変わらず頭に疑問符だ。鈍い、鈍すぎる。
この小学生のような恋愛を目の前で見せられるのは色々ときつい。オレはデイダラと皐月の背中を両方廊下に押し出した。
「えっ…なんだよ旦那」
「一緒に帰れ」
「は?」
「部活の片付けなんてすぐ終わるだろ。家まで送ってやれ」
デイダラは困惑した様子である。しかし、断る理由もないようだ。
「まあ…別にいいけど。一緒に帰る?」
「……」
皐月は無言のままこくんと首を縦に振った。いつも雑に振る舞っている皐月が今は完全に女子になっている。
先ほど彼女も変わりたいと言っていた。自分なりに、変わろうと努力しているのだろう。非常に分かりにくい変化ではあるが。
面倒なので早くくっついてほしいが、この様子だとまだまだ先は長そうだな、と内心溜息を吐いた。
二人を見送り、オレはスマホをいじりながら美羽の帰りを待つ。
しばらくすると、美羽が教室に戻ってきた。肩にかけたタオルで顔を拭いながら、一人でいるオレを見てきょとんとする。
『あれ?皐月とデイダラは?』
「部活行ってから帰るって。デイダラも付き添わせた」
ふぅん、と美羽は呟いた。久々に見る美羽の素の顔。前髪が微妙に水に濡れている。瞬時にムラッときた。美羽がオレの視線に気づき首を傾げている。
『なに?』
「いや。エロいなと思って」
美羽が低い声では?と言った。普通に引かれている。
「エロい目で見ていいって言ってただろ」
『…そりゃ言ったけど。すっぴんだよ』
「だからオレはその顔が一番好きなんだよ」
こっちに来い、と手招きをする。美羽は警戒した様子を見せながらも大人しくこちらに寄ってきた。と同時に抱き寄せる。
「お前は素の顔が一番色っぽいな」
頬についている水滴をぺろっと舐める。美羽の体が強張った。
『ちょ…ダメだよ、こんなとこで』
「誰もこねーよ」
首筋に顔を埋め、鎖骨を優しく噛む。美羽が必死にオレの胸を押し返そうとしている。
『ダメ!ダメです!家に帰ってからにしてよ』
「勃っちまったんだもん」
『はぁ?』
「なあ、したい。ちょっとだけ」
美羽が呆れた様子でオレを見上げている。
『興奮する要素どこにあったのよ』
「お前の顔」
『地味専なの?どこがいいのか全然わかんないよ』
「強いて言うなら全部」
強引に唇に己のそれを押し付け舌を滑り込ませる。ミルクティーの甘い味がした。
遠慮なく堪能していると、美羽の呼吸がわずかに荒くなっていることに気づいた。どうやら彼女もスイッチが入ったようである。彼女の耳元に唇を寄せた。
「なぁ。いい?」
『……』
美羽は何も答えない。理性と興奮で板挟みになっているようだ。
美羽は少し悩んだ後、観念したように大きな溜息をついた。
『…少しだけね』
お許しが出たので、さっそく制服に手を滑り込ませる。冷えている腹をなぞり、首筋に舌を這わせた。美羽の体が震える。
『…あんまり舐めないで』
「何故?」
『汗かいたからやなの』
美羽は毎回行為の前に絶対にシャワーを浴びる。いつもは石鹸の匂いだが、今日は確かに少しだけ汗ばんだ香りがする。が、オレはこっちの方が興奮するのである。
ペトペトと張り付く肌がいやらしくて最高だ。要望を無視して、胸の谷間に顔を埋める。今日は白だ。一番好きな色に更に欲情する。
『っ、だからダメだって…!』
「めちゃくちゃ色っぽいんだよ。お前が悪いんだろ」
シャツのボタンを外して、胸の膨らみに口付ける。美羽が足をもじもじさせて必死に快楽に耐えているのがわかった。
その様を見て笑う。
「興奮してんの?やらしいな」
『……』
無言でジロッと睨まれる。美羽は少し悩んだ仕草を見せた後、オレの肩を押し返した。
『やっぱり今日はダメ』
「なんで」
『この前したばっかりだから』
確かに2日前にしたばかりである。しかし、この前の美羽はひたすら痛みに耐えていただけである。
「今日は気持ちよくしてやるから」
『ダメです。勉強も遅れてるし。また今度ね』
美羽はそそくさと制服の胸元を隠してしまう。この様子は本気でこれ以上させてくれる気はなさそうだ。スイッチが入ってしまった手前、不満な気持ちが募る。美羽が怪しげに笑った。
『たまにはお預けの方が興奮するでしょ』
「…お前、なかなかいい性格してんな」
『でしょ?』
「褒めてねーよ」
美羽は適当に流しながら化粧ポーチを取り出している。一応化粧をして帰るつもりのようだ。その様を見て、オレは言った。
「オレがしてやろうか?」
『え』
美羽が困惑した様子でオレを見ている。オレは徐に美羽の前の席に腰掛けた。
「ミスコンでねーならもう万人受けさせる必要ないだろ。オレ好みにしていい?」
美羽は少し悩んだ後、別にいいけど…と呟いた。早速化粧品の中から彼女に似合う色を探す。先述した通り、美羽は暖色が非常に似合う顔である。が、派手顔はオレの好みではない。ラメは外して、出来る限り自然な顔を目指す。
『え…そんなに少なくていいの?』
美羽は用意されたメイク用品の少なさに疑問を覚えたようだ。オレは下地を塗ってやりながら答える。
「お前は素の顔がいいから厚塗りする必要なし」
『だからそう言ってくれるのはサソリだけだって…』
「別にいいだろ。お前はオレの女なんだから」
美羽がブスっと頬を膨らませる。怒っているのではなく照れているようだ。
「誰がなんと言おうとオレはお前の素の顔が好きなんだよ」
『ほんと変な趣味ね…』
「なんとでも言え」
ファンデーションを軽く塗り、アイシャドウを叩く。使うのはブラウンとピンクのみである。アイラインにもブラウンを使い、睫毛の間を埋めるようになるべく細い線を描く。ビューラーを使って睫毛を上げ、マスカラを塗った。特別なことをしなくとも彼女はこれだけで十分映える。
眉山を決め眉毛を整え、頬に僅かにオレンジを入れる。赤ベースのグロスを軽く塗って全体のバランスを見た。
「はい、終了」
『えっ!早!』
美羽が驚くのも無理はない。この間僅か10分である。クラスにいる誰よりも時間がかかっていない。美羽が鏡を見ながらうーん、と唸っている。
『…なんか、地味度増してない?今までとのギャップで更に』
「だから言ってんだろ。お前は色々誤魔化す必要ねーの。むしろもっと薄くていいくらいだ。できれば明日から髪もストレートに戻して」
オレは使った化粧品をティッシュで拭いながら一つずつポーチに戻していった。美羽はなんとなく納得いかなそうな表情である。
オレは小さくため息をついた。
「お前はそれ以上目立たなくていい」
『は?』
「オレが言い出したから言いづらいけど。お前がこれ以上モテるのは嫌だ。もう他の男と話さないでくれ」
美羽が目を瞬かせる。
『別にモテてないよ。つまんない話してるだけだし』
「それでも嫌なもんは嫌なんだよ。信用してないわけじゃねえけど。それとこれとは別の話だ」
美羽がじっとオレを見ている。しかし言及はしてこなかった。
『サソリが言うならそうする。別に好きでやってたわけじゃないから』
「…あっそ。ならいい」
帰るぞ、とオレは席を立った。美羽も大人しくついてくる。
「お前は頭良いのか悪いのかわかんねえな」
『はい?』
「皆を押し上げるって普通考えねえぞ。自分の立場を上げたいなら、普通相手は下げたいと思わないか?」
美羽が小さな声でああ、と呟いた。
『やってたよ。昔は私も。必死に下を探した。私より下の子を用意すれば私はいじめられないから』
「……」
『でもそんなの、誰も幸せにならないじゃない。自分が嫌われないために誰かをいじめて、いつ自分がターゲットになるかわからない恐怖に怯え続ける。結局私はそれに合わせられなくて失敗したし』
馬鹿馬鹿しい、と美羽は心底嫌そうに吐き捨てた。
『サソリが言ったんでしょ。過去の自分に勝てって』
「まあ、言ったけど」
『だから私は勝つよ。そのための方法を考えてるの。昔の自分と同じことを繰り返したって勝てるわけないでしょ』
ううん、と美羽は腕を組んだ。
『問題はリーダー格の6人ね…私の話はあまり聞いてくれそうにないから』
「別に良いんじゃねぇの?他の女子はお前のこと嫌ってないんだし」
『ダメ。このままだと逆にあの6人が浮いちゃうから。そういうことがしたいんじゃないの。何度も言ってるでしょ』
オレからしたら美羽を虐めている忌々しい6人である。痛い目に合わせたい気もするが、彼女自身がそれを望んでいないようだ。
『彼女たち、派手だからなあ。地味な私みたいな女が元々嫌いなの……あ』
美羽が足を止めた。オレも釣られて立ち止まる。
『……。彼女たち、女子受けする顔してる女子よね』
「あ?知らねーけど。まあ、言われてみればそうかもな」
何度も言うがオレは派手な女子が好きではない。が、春野たちも言っていたが女子は派手な女を可愛いと言う傾向にある。ということは、あの6人が女子受けすると言われたらそうかもしれない。
美羽が何か閃いたようにガシッとオレの腕を掴んだ。
『ごめん、サソリ。もう少し協力して』
「は?」
彼女はいつになく真剣な面持ちである。その顔を見れば、否定の言葉なんて出せるわけがなかった。