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クラスの女子は18人。私と皐月を除いたら16人。そして、集まってくれたのは10人だった。残りの6人はクラスで中心にいる現在カースト最上位の女子たちだ。一応声はかけたものの、断られてしまった。しかしそれは想定の範囲内である。
『どう?なんとかなりそう?』
「うーん…」
サソリが集まった女子の顔をじろじろ確認している。女子たちはかなりテンション高めだ。サソリとデイダラにメイクをしてもらえると聞いたら当然の反応だろう。
「…まあ、今よりマシにはできると思うが。美人になるかは知らねえぞ」
『そこをなんとか。サソリにならできるでしょ』
「無茶言うなよ…」
土台の問題があんだよ、とサソリは渋い顔である。かなり失礼な発言にヒヤヒヤしたけれど周りの女子はサソリの顔に夢中で気づいていない様子だ。
『デイダラは?』
「うーん…」
サソリと同じようなリアクションをするデイダラ。手に持っているマスカラをポンポン上に投げて考えている。
「多分いけると思う、うん」
『ほんと!?デイダラは本当に頼りになるね』
「……」
サソリがムスッと顔をしかめた。どうやら負けず嫌いに火がついたようである。
「絶対オレの方が美しくできる」
「いや、絶対オイラのが上手いわ。うん」
『はいはい、二人ともよろしくね』
二人の肩を叩いて、私は女子の群れに歩み寄った。
『集まってくれてありがとう。順番にメイクさせてね』
「ねぇ、ねぇねぇねぇ!美羽ちゃん。なんなのこのご褒美イベント。幸せすぎて怖いんだけど」
女子たちはかなり食い気味である。私を無視しなくてはいけないという暗黙の了解もすっかり忘れているようだ。
『私の野望のために皆に美しくなってもらおうと思って。メイク終わった後は私と皐月で髪の毛もセットするから』
「こっちも準備OKよ」
皐月がドライヤーを抱えながら片手でコームのチェックをしている。彼女は母親が美容師であるため、ヘアセットは得意なのである。私の提案を理由も聞かず快諾してくれた彼女には本当に感謝しかない。まだ一応喧嘩中だけれども。
「野望って?」
『んー…それはまあ、色々とね』
曖昧に答える私に、1人の女子が言った。
「あー、あの人たちのこと?ムカつくよね」
あの人たち。それがクラスのリーダー格の女子達を指しているのは明らかだ。
私が何も答えずとも、他の女子が同調する。
派手なだけで偉そう、馬鹿にしている、本当は可愛くないくせに、などなど。出るわ出るわ不満のオンパレードである。
どの世界だって大体そうだ。強者に従っているフリをして、皆心の中では真っ赤な舌を出している。私も中学の時はこちら側の人間だった。気持ちはわかるけれど、顔色を伺って同調する気にはもうなれなかった。
『そういうのはいいよ。別に悪者を決めたいわけじゃないから』
「でも美羽ちゃんと皐月ちゃんのことを無視するように指示したのあの人たちよ」
『自分より下の人を見つけないと不安なんだよ。皆も少なからずそういう気持ちわかるでしょ』
中学の時もそうだったし、と頭の中だけで呟いた。それに関しては慣れっこである。
それに、と私は続けた。
『不満な気持ちはわかるけど、自分たちの立場を上げるために他人を下げるのは辞めた方がいいよ』
「…え」
『そんなことをしても立場は上がらないから。あなた達は人を馬鹿にすることでむしろ自分の価値を自分で下げてるの』
「……」
『馬鹿にされて悔しいんだよね。だったら文句言って満足するのはもうやめよう。不満たっぷり抱えて一緒に見返す努力をしよう。私もそうだから。私も馬鹿にされたまま終わらせたくない』
しん、と場が静まり返る。かなり偉そうなことを言っている自覚がある。足が竦む。でもここで引きたくなかった。
中学の時の私にはもう戻りたくない。
『私は変わりたい』
「……」
『人を羨んで文句ばっかり言って、他人を馬鹿にして自分を守るカッコ悪い私からから変わりたい。皆で仲良くしようなんて都合のいいことは言わないけど、誰かを悪者にして攻撃しないと自分を守れない世界はうんざりなの』
「……」
『もしも今のこのクラスがおかしいと思っている人がいるなら、協力してくれないかな。できれば私は皆と一緒に変わりたい』
女子は綺麗なものが好きだ。彼女達だって本当はもっと綺麗になって自信を持ちたいと思っている。ただ、目立って誰かに陰口を叩かれるのが嫌なのだ。だから今まで息を潜めて目立たないよう努力してきた。そして時々悪口を言って発散して満足する。私にはその気持ちが痛いほどわかる。わかるからこそ、その壁を一緒に破りたかった。
ぷっ、と誰かが吹き出した。見れば、皐月が口を押さえて笑っている。
『…なによ』
「いや?アンタのそういうところ好きだなって思ってさ」
『は?一体どこ?』
「無鉄砲で計画性がないところ」
『褒められてる気がしないんだけど…』
「褒めてる褒めてる。最高に褒めてる」
皐月は長い髪を風に揺らしながら悪戯に笑った。
「私も変わりたい」
『……』
「色々思うところはあるけど、今回は美羽に全面的に協力するわ。私も今のこのクラスの状況は気持ち悪いと思ってるから」
皐月がチラッと女子の集団を見た。
「いつ自分がターゲットになるかって、皆怖かったんじゃないの?」
「……」
「それってこのまま放置しておけばいつか解消されることなの?ま、私はもう無視されてるから関係ないけどね」
皆が周りの顔色を伺っている気配がある。1番に声を上げるのが嫌なのだろう。その気持ちもなんとなくわかる。
私は無言でサソリとデイダラに目配せした。彼らは流石、察してくれたようである。
「じゃあ、出席番号順でやっていいか?」
「その方がいいな。公平だし、うん」
『うん。よろしくね』
メイク道具は私と皐月からの持ち寄りである。最近は気を使っているため種類も増え、宝石箱をひっくり返したような煌びやかさがある。
私は最後にもうひと押し、彼女らに声をかけた。
『やりたくない子ははやらなくても大丈夫だから。何度も言うけど悪者を決めたいわけじゃないの。嫌だって言われても絶対に責めない。約束する』
私の言葉に、誰からも返事はない。しかしこの場を立ち去る人も、誰一人としていなかった。