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『はやく文化祭終わらないかな…』
サスケくんがスマホから顔を上げる。現在1Cの教室。恒例行事となっている私の一方的な愚痴大会である。
『なんかさ、キャバクラ嬢にでもなった気分』
「は?」
『必死に着飾って男の機嫌とって人気取り。だんだん馬鹿らしくなってきた』
クラスの男子もその他の男子も、別に悪い人じゃない。しかし、喋っていて楽しいかは別の話である。興味のない話に相槌を撃ち続けるのは正直しんどい。
『サソリとかサスケくんはあんまり喋らないから私が喋ってることが多いけど。男の子も結構お喋りよね。そして話の8割が自慢話』
サスケくんがふん、と鼻を鳴らした。
「大した能力がねー奴ほど声がでかいんだよ」
『ほんとそんな感じね。でも興味ありませんとも言えないし』
「言えばいいじゃねぇか。友達だったらそれくらい言えるだろ」
『うーん…でも嫌われるのは嫌だしなあ』
じろ、とサスケくんが私を睨む。
「…お前さ、結局何がしたいんだ?」
『え』
「女子と仲良くしたいんだろ。だったらそんな回りくどいことしてねーで女子と話し合った方が良くないか」
言われて考える。というか、今回の目的ってなんだったのか忘れつつあったけど。
私と皐月がクラスの女子に省かれているのを解消する目的だったはずだ。サソリに言われた通りクラスの男子を味方につけたまではいいものの、結局まだ女子とはまともに話せずじまいである。お互いに避けているからだ。
『…言われてみればそうね。なんかミスコンで優勝するのが目的にすり替わってたかも』
「ミスコンねえ…」
言葉にはしなくても、くだらないと思っているのは明らかである。私も本来、ミスコンになんて興味がない。
「お前さ、ミスコンで優勝したら全て終わると思ってないか?」
サスケくんの言葉に、私は目を瞬かせる。サスケくんは呆れたように目を細めた。
「仮にもしミスコンで優勝したら、今よりちょっかいかけてくる男増えるぞ」
『え』
「当たり前だろ。ミスコンなんてある種売名行為なんだから。お前が売れるのはむしろこれからだ」
これから。その言葉に驚愕する。勝手に文化祭が終わればサソリとの生活に戻れると思い込んでいたけど。
『え。じゃあ文化祭終わってもサソリと喋れない生活が続くってこと?』
「だろうな。急に掌返しできるほど図太くないだろ、お前」
八方美人だから。とサスケくん。
確かにそうである。文化祭が終わったからはいじゃあさよなら!と他の男子との縁切りなんてできるわけがない。
急に気が重くなってきた。今でさえ放課後以外ほとんど喋れてないのに。
『無理。無理無理。これ以上いちゃいちゃできないの辛すぎる』
ただでさえ勉強ばかりであまり構ってもらえないのに。これが延長どころか終わりが見えないなんて。
「そもそもあいつ大丈夫なのか?」
『え?』
「かなり嫉妬深いんじゃねえの、あいつ。これ以上他の男とお前が一緒にいるの耐えられんのか」
言われて、先日のサソリを思い出す。サソリにしては珍しく余裕がない様子だった。
情緒不安定になっているサソリを愛しいと思う反面、これ以上不安にさせるのは確かに忍びない。
『…そうなのよねえ。でも、サソリにミスコンで優勝しろって言われたしなあ』
「……」
サスケくんがふう、とため息をつく。
「お前さ、少しは自分の意見を持てよ」
『?』
「流されやすすぎ。結局お前はどうしたいんだよ」
また悩む。私がどうしたいか。
『…一番は過去の自分に勝ちたい、かな』
「それは見た目綺麗にしてミスコンで優勝すれば達成されんのか?」
されないかもしれない、と思った。確かにミスコンで優勝すれば周りはちやほやしてくれ、クラスの女子も一目置いてくれるのかもしれない。しかしそれはあくまで見た目の話である。中身が伴っていなければ所詮ハリボテ。すぐにメッキは剥がされてしまうだろう。
「見た目は確かに大事だ。それは否定しない。だが、見た目が変わったところでお前自身が変わらなきゃ意味ないだろ。あの男の言いなりになるんじゃ無く、自分で考えろ。お前はこれからどうしたい?」
サソリも言っていた。オレは手伝いはできるが勝たせてやることはできないと。結局、見た目を綺麗にすること自体は地盤を固めただけ、ということなのだろう。そこから私がどう動くかは自分で考えなければいけない。
サソリに依存しすぎて、自分の考えを持つことをすっかり放棄していたことにサスケくんの言葉で気づかされた。こんな状態で、私が過去の自分に勝てるのか。答えは勿論、否である。
『…わかった。ちょっとよく考えてみる。ありがとうサスケくん』
サスケくんにお礼を言って席を立つ。サスケくんは軽く手をあげて私を見送ってくれた。
廊下を歩きながら、また考える。私が嫌いだった中学の時の私。閉じていた記憶を無理矢理こじ開けて向き合ってみることにした。
中学の時の私がどんな人間だったのか。
私は人と話す時、いつも相手の顔色を伺って自分の意見は言えないことが多かった。とにかく嫌われたくなかった。そのために必死に息を潜めて目立たない努力をした。馬鹿にされても、言い返すことができなかった。
そして現在。見た目は綺麗になったのかもしれないけれど言いたいことが言えない性格は変わっていない。嫌われることが怖くて、私は基本的に受け身である。
……。
教室に戻り、なんとなく周囲を見回してみる。騒がしい教室。いつも通りの風景。しかし冷静になって観察してみると、微妙な違和感に気づいた。
男子はクラス中に散り散りになって自由に遊んでいる。しかし女子は、目立つ女子が中心でだべっているだけで、比較的大人しい女子たちは教室の隅で息を潜めているような印象を受けた。
そして察した。ここにあるスクールカーストを。学校生活、特に女子においては目立つ、ということはカーストを上げるのに必要不可欠な条件だ。学生生活において皆の立場は平等なはずなのに、目に見えないカーストという壁は確かにここに存在していた。K女時代私を苦しめた理不尽なカーストが、ここにもまだあったのだ。
そして急激に腑に落ちた。私の嫌いな私は今もまだここにいると。
誰にも気づかれないように、なるべく目立たないように。何も悪いことはしていないのに、咎を背負っているかのような感覚。目立つ女子たちより決して大きな声を出してはいけない。何か行動するにも、全て彼女たちのお伺いを立てなければならない。中学の時の私。スクールカーストは最下層。
そんな私が、私は大嫌いだったのだ。そして、私と同じように息苦しい思いをしている女の子たちがまだこのクラスには沢山いる。その事を私は初めて知った。
『……』
私は確かに、見た目ではかなり目立つようになっただろう。しかしそれは、私の大嫌いなスクールカーストを自ら作り上げているようなものだ。目立つ。それだけで他の女子を押さえ込もうとしている。こんなの、私の望んでいた学生生活じゃない。
私は誰かを踏み台にして、上に立ちたいと思ったことは一度もなかったはずだ。そう考えたら私はどうしたいのか、自ずと答えが出た。
私は視線を動かした。教室の窓際、一番後ろの席。いつもと変わらない定位置に彼らはいる。私はそちらに歩み寄った。
『ごめん。ちょっといい?』
「あ?…どうした?」
サソリは教室で私に声をかけられたことに驚いた様子だ。最近の私たちは先述の通り放課後くらいしか一緒にいる時間がない。
私はサソリの目を真っ直ぐ見ながら言った。
『辞める』
「は?」
『ミスコンに出るのは辞める』
はぁ…?とサソリが声にならない声を出す。
『色々尽力してくれたのに申し訳ないんだけど。もう決めたから』
「…なんでまた」
「え?辞めちゃうの?なんで?」
デイダラも話に参加してきた。うん、と迷わず答える。
『私がミスコンに出たところで、このクラスのギスギス感は変わらないと思う。私は確かに上がいなくなって楽になるのかもしれないけど、それはボスが変わるだけで今度は皆私を怖がって話を合わせることになるだけ』
「……」
サソリが少し考えるような仕草を見せる。うーん、とデイダラも唇を尖らせて悩んでいる様子だ。
「別に美羽は怖くないだろ、うん」
『それはデイダラが男子だし、私と仲がいいからだよ。女子って目立つ方が偉いみたいな妙な価値観があるから』
「……でも、どうすんだよ。お前はこれからも無視されて過ごすのか?」
首を横に振る。サソリが目を瞬かせた。
「何か考えがあるのか」
『……うん。でも、上手くいくかはわかんない。あとそれにはサソリとデイダラの協力が必要で』
「旦那とオイラ?」
デイダラが眉を寄せている。私は首肯した。
『二人の無駄な美意識の高さと無駄な手先の器用さを見込んで頼みがあるの』
「褒められてんのかディスられてんのかよくわかんねーな…うん」
デイダラは少し不機嫌そうに頬杖をついている。サソリはいつも通りの無表情だ。しかし二人とも話は聞いてくれそうである。
私は一つ息を吐いて、言った。
『美しくしたいの』
「は?」
「美しくって…誰を?」
『全員』
「はい?」
『このクラスの女子全員。美しくしたい』
全員?と二人がたじろいでいる。自分でも突飛なことを言っているのは十分自覚していた。
『サソリ、言ったよね。女は美しい方が正義って』
「確かに言ったが…」
『だから皆美しくしよう。そうしたら皆正義。誰かを落とすんじゃなくて全員押し上げる』
サソリとデイダラが顔を見合わせている。私はお願い、と手を合わせた。
『このクラスのカースト社会をぶち壊したい。そのために協力してほしいんです』