28
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
休み時間になると、色々な男子が話しかけてくる。無視するわけにもいかずそれに答えていると、学校にいる最中はほとんどサソリと会話する時間がない。いつも口うるさいサソリも何も言ってこなかった。これも私がミスコンで勝つために必要な手順だからだろう。
今や放課後が唯一サソリとコミュニケーションを取れる時間である。授業終了のチャイムと共に、私はサソリの元に向かった。
『サソリ!一緒に帰ろ』
「おー…」
サソリはさっさと廊下に歩いて行く。いつも通りその背中を追った。
そして思う。やっぱりサソリの隣が一番落ち着く。
早くハグしたい。そう思いながら下駄箱に向かうと、サソリが思い出したように顔を上げた。
「そういえばお前。リンツショコラって店知ってるか?」
『リンツショコラ?うん。知ってるよ。行ったことないけど』
確か都内にあるチョコの有名な店である。サソリは鞄の中から茶色い袋を取り出して私に手渡した。
「やる」
『えっ…』
受け取って、そのリンツショコラのロゴに驚く。嬉しいけど、なんでサソリがこんなものを?私の心の疑問にサソリが答える。
「貰ったから」
『貰った?誰に?』
「知らねえ。廊下で声かけられた」
勿論私は困惑した。
『これ高いやつだよ。なんで?』
「さあ。お前が喜ぶかと思って受け取っただけだから」
他意はねえよ。とサソリは続けた。嘘だ。サソリにはなくたって女子のほうは他意アリアリに決まっている。
私が他の男子の対応に追われている間、サソリもしっかり女子に手を出されているようだった。眉間にシワが寄るのがわかる。しかしサソリは靴に履き替えさっさと歩き出してしまった。慌てて後を追う。
『…ねえ。サソリ』
「なに?」
『誰かとLINE交換した?』
「してねえよ。めんどくさいから」
その言葉には嘘はないようだった。ホッとする。
『他に何か貰った?』
「……」
サソリが少し悩むような仕草を見せる。えっ、と私は声にならない声を上げた。
『なに貰ったの?』
「…まあ、飲み物とか、食い物とか。大したもんじゃねぇよ」
サソリは今まで、女子からの差し入れを受け取っていなかった。それは私と付き合う前からである。女は面倒くさい、が彼の口癖だった。それなのに今は受け取っているらしい。
毎日男子と話して、LINE交換もしている私が文句を言えた義理じゃないけど。でも。
「美羽?」
足を止めた私を、サソリが怪訝な顔で見ている。私はツカツカとサソリに歩み寄った。
『行きたいところがあるんだけど』
「行きたいところ?」
どこ?とサソリ。それには答えず、私は歩みを進めた。サソリは大人しくそれに付いてくる。
「待てって」
『……』
腕を掴まれ、私は足を止める。サソリが眉尻を下げていた。私が不機嫌なことを察したようだ。
「ったく…どこ行くんだよ」
その言葉に素っ気なく答える。
『ラブホ』
「は?」
『高校生でも入れてくれるところ飛段に教えてもらったから。せっかくだから行ってみよう』
再び歩き出した私の腕をサソリは更に強く引いた。
「いやいや…行かねぇから。なんだよ、急に」
『…嫉妬に決まってるでしょ』
「は?」
『サソリが他の女の子と仲良くしてるのがやなの!わかるでしょ、それくらい!』
サソリがふぅ、とため息をついた。
「別に仲良くしてねぇから。お前と女子の間にトゲが立たねぇようにしてるだけだ」
『……』
サソリの言っていることはわかる。彼は別に女子と仲良くしたいわけじゃない。浮気願望だってないだろう。でも。
『でも、やだ』
「……。オレにどうしろっつうんだよ」
サソリが首筋を掻いている。私はぐいっとサソリの制服の袖を引いた。
『愛してください』
「はい?」
『愛情不足なんです!』
確かに、サソリの言われた通りに行動している現在、周りとの関係は円滑になりつつある。しかしそれと反比例しているサソリとの関係。悪いわけじゃないけれど、妙な距離感を感じた。
愛情不足って…とサソリが呟く。私は首肯した。
『寂しいもん。構って』
「……」
サソリがまた考えている。私はじっと彼の返答を待った。
暫くの沈黙の後、サソリは再び小さなため息。
「……。お前も大概だぞ」
『は?』
「お前が他の男にエロい目で見られてんのずっと我慢してんだから。褒められこそすれど責められる謂れはねーよ」
サソリはさっさと踵を返してしまう。エロい目って。友達にそんな目を向けられている覚えはない。
『何勘違いしてんの。そんなわけないから』
「お前にその気がなくとも、だ。男が考えてることは皆一緒」
『サソリを見ているととてもそうは思えないけど』
「はい?」
『じゃあ見てよ。私のことを。エロい目で』
私が気づかないとでも思っているのだろうか。サソリは現在私にそういう欲を失いつつある。
いくら他の男子に可愛い好きだと言われようと、サソリが言ってくれなきゃ全く意味がないのに。
サソリが呆れ顔で私を見ている。私は全力で抗議した。
『もっと不健全な目で私を見てください!』
「どんな要望だよ…」
サソリが完全に困っている。
しかし私は引かない。私にだってプライドがある。
サソリは首筋に手を当てながら何度目かのため息を吐く。
「心配しなくてもいつもエロい目で見てるから。ただ、今はそういうことする気はない」
『なんで?』
「…自分の気持ちをコントロールできる自信がねぇんだよ」
コントロール?と私。サソリは首肯する。
「嫉妬してんのが自分だけだと思ったら大きな間違いだ」
『…え。サソリも嫉妬してくれてるの?』
「当たり前だろうが。死ぬほど嫉妬してるに決まってんだろ」
サソリがチッと舌を打つ。久しぶりに見たサソリのイライラした顔。
「ほんっと、お前は期待を裏切らずバカだよな」
『どういう意味よ』
「いや。こうなるだろうと予想してたから別にいい」
意味がわからない。私はムッと顔を歪ませた。
『サソリが仲良くしろって言ったんじゃん!私だって本当は他の男子じゃなくてサソリと話したいよ』
「状況が状況なんだから仕方ないだろ」
『……』
「オレのことは気にしなくていい。お前は自分のことだけ考えろ」
一歩前を歩くサソリの背中を見ながら、自分のことだけを考える。そうすると、したいと思う行動は一つしかなかった。
後ろから、思い切りサソリに抱きつく。サソリの体が大きくよろけた。
「…っ、おい、なんだよ」
『自分のことだけ考えた結果』
「ああ?」
『イチャイチャしたいんだもん』
周りの人がジロジロ私たちのことを見ている。しかし私はサソリから離れる気は全くなかった。
サソリが口元を押さえている。動揺しているようだ。
「……せめて家帰ってからにしろよ」
『じゃあ家帰ったらイチャイチャしてくれるの?』
「さっきも言った。今はそういうことしたくねえんだよ」
『私はしたいの』
「……」
サソリが私の腕を取り、指を絡ませた。どうやら手を繋いで帰ってくれる気にはなったようである。
微妙に赤い顔をしながらサソリがチラッと私を見た。
「これで勘弁して」
『え?やだ』
「あのな。オレは色々考えてんだよ。あんまり心掻き乱さないでくれ」
『色々って何よ』
「……」
サソリは観念したように口を開いた。
「…絶対傷つけるから」
『はい?』
「オレは今嫉妬で頭おかしくなってんだよ。そういうことしてお前を傷つけない自信がない。縛り上げられて犯されたくなかったらそのうるせー口閉じろ」
かっこ悪いこと言わせんな、と思い切りデコピンされた。じんじん痛むおでこを押さえながら思う。
『なんだ。そんなことか』
「そんなことってなんだよ」
『いつも言ってるでしょ。サソリなら私に何してもいいって』
じろ、と睨まれる。私はサソリの耳元に唇を寄せた。
『帰ったら覚悟してね』
「…なんの話だよ」
『自分のことだけ考えていいって言ったじゃない』
だからサソリの都合は考えない。と私。サソリが引いた目で私を見ている。
「お前本当バカだな…」
『お互い様よ』
サソリと結んでいる手に力を込める。サソリの指が小さく震えていた。