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「2Aのミスコン出る子、可愛いよな」
その言葉に反応して顔を上げる。するとそこには3年と思しき男子の群れが談笑している姿があった。
「あんな子いたっけ?全然知らなかった」
「彼氏いんのかな」
「誰か声かけてこいよ」
オレの視線に気づかず、奴らは横を通り過ぎていく。隣にいるデイダラがふぅっと息を吐いた。
「人気だな、美羽」
「…まあな。予定通りだ」
素っ気なく答え、自販機に100円を押し込みいちごみるくのボタンを押す。その様をじっと見ているデイダラ。
「珍しいな。旦那が甘いの飲むなんて」
「別に。特に意味はねえよ」
デイダラも自販機に100円を入れ、コーラのボタンを押している。ガタン、と音を立ててコーラが転げ落ちた。
「ほんっと、素直じゃねえな」
「なにがだよ」
「旦那が甘いものを欲するとき。それはイライラしてるときです。うん」
手中のいちごみるくに視線を落とした。キツい甘みは、旨くはないが頭の栄養源になる。オレは小さく息を吐いた。
「そういうんじゃねーよ。ただ、面白くねえだけだ」
「だからそれをイライラしてるっていうんじゃん、うん」
その言葉には答えず、ストローを刺して口に咥えた。人工的な甘さが口いっぱいに広がる。少しだけ落ち着いた。
「そんなに嫌ならミスコンなんて出さなきゃいいのに、うん」
「仕方ねぇだろ。中途半端なことをしても意味がない」
オレの言いつけ通り、美羽は毎日化粧をして登校している。オレは素の彼女の顔の方が好きだが、世間は違うらしい。華やかになった彼女は瞬く間に学校全体の姫になりつつある。
このまま行けば十中八九美羽はミスコンで優勝できる。そうしたらクラスの女子も彼女を認めざるを得ないだろう。
全てオレが望んだ流れだ。その為には、他の男が美羽に見惚れていようが噂話をしていようがスルーしなければならない。わかってはいる。が、面白くないものは面白くない。
美羽は化粧なんてしなくとも出会った当初から最高に可愛かった。散々人の彼女を馬鹿にしていたくせに今更良さに気づくとは。お前らの目は節穴か、と嫌味のひとつも言いたくなる。
「お前はどっちの美羽の方が好きだ?」
「オイラ?うーん…」
デイダラが少し考えるような仕草を見せる。
「どっちも可愛いけど。どちらかというと素の顔の方が好きかな。そもそも地の顔がタイプだし、うん」
「…だよな。お前とは将来美味い酒が飲めそうだわ」
わかるやつはわかるよな、となんとなく安心した。
デイダラが視線を横にずらし、お、と声を上げる。
「噂をすれば。お姫様が来ましたよ、うん」
つられてそちらを向くと、美羽がこちらに歩いてきたところだった。
美羽はオレの顔を見て和かに笑った。赤いグロスの塗られた艶々の唇が映えている。
『偶然だね』
「おー…」
美羽がオレの手中を見た。元々大きな瞳が更に大きくなる。
『サソリ、甘いのも飲むのね』
「…ただの気分だ」
ふぅん、と美羽が呟いた。財布の中から100円を取り出して自販機に入れる。ガタン、と飲み物の落ちる音。
美羽の手にはブラックコーヒーの缶が握られていた。それを見て今度はオレが疑問に思う番である。
「お前、コーヒー飲むの?」
『ううん』
はい、と美羽がそれをそのままオレに手渡した。意味がわからないまま受け取ってしまう。
『予想』
「は?」
『半分くらい飲んだところで、やっぱりコーヒーにしとけばよかったって言うかなと』
無言のままのオレに、ふふ、と笑う美羽。オレは半分残っているいちごみるくを彼女に手渡した。わかっていたかのように自然にそれを受け取る美羽。
『じゃあ、また後でね』
美羽はそのまま踵を返した。黙って様子を見ていたデイダラがぷっと笑う。
「手懐けられてんな、うん」
「うるせー」
プシュ、と缶コーヒーの蓋を開ける。一口飲んで、やはりこっちの味の方が好きだな。と思った。
オレは普段通りが好きなのだ。コーヒーも、美羽も。