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5、6時間目のホームルームは、文化祭の準備に当てられることになった。
「めんどくさーい」
「もっと他のことやりたいよね」
案の定女子からは不満の声が上がる。しかしそれは想定の範囲内である。
私はサソリに言われた通り、早瀬くんに声をかけた。
『早瀬くん。サッカー部の皆に協力してもらいたいんだけど、いいかな?』
うちのクラスの男子はサッカー部が5人いる。皆比較的目立つタイプである。
早瀬くんは少し驚いたように、別に構わないけど、と言った。
「女子の方は?いいの?」
『…そっちは、サソリがやってくれるって』
サソリの提案はこうだ。お前と皐月と早瀬は男子の方をやれ。オレと他の奴らが女子の方をやるわ。シンプルイズザベストである。
彼は文化祭には全く関係がない。しかし手伝ってくれるらしい。
サソリは女子に確固たる人気がある。サソリの言うことを聞かない女子はいないだろう。上手くやってくれるんだろうな、ということは予想できた。サソリが女子と仲良くするのは面白くないけれど、今はそうも言ってられない。
そしてもう一つ言われた。がっちり男子を味方につけろと。オレの目も、女子の目も全く気にしなくていいからと。
それで上手くいくのかな、と疑問は残るものの他にいい手があるわけではない。今はサソリの指示に従うのが最善策である。
『女子には内装頼むから。男子は看板作りで。ごめんね、企画とか他の準備は早瀬くんがやってくれたのに』
「いや、いいよ。こっちは大体終わってるから」
早瀬くんがサッカー部に声をかけている。少しだけ緊張した。スポーツ系の男子とはほとんど関わりがない。
「看板?」
『そうなの。デザインは決まってるから、後は描いて塗るだけなんだけど』
予め決まっているデザインを差し出した。えー、めんどくさそう、と皆。
『そこをなんとか。お願いします』
必死に手を合わせる私。
「いいじゃん。お前ら暇だろ」
「うーん…じゃあさ、手伝うから月野さんライン教えて」
予想していなかった言葉である。私より先に早瀬くんが反応した。
「は?なんでそうなるんだよ」
「いいじゃん。月野さんが千秋のことどう思ってるかとか聞きたいし」
「馬鹿!口に出すんじゃねーよ!」
早瀬くんが男子を叩いている。私はポケットからスマホを取り出した。
『いいよ。交換しよ』
「え、まじ!?やった」
「オレもオレも」
「え…大丈夫?赤砂に怒られない?」
『うん。いいよ、ラインくらい』
仲良くなれ、というサソリからの指示である。ライン交換も想定の範囲内だろう。
皆にIDを教え、登録してもらう。いつでも連絡していいから、と伝えればなんだか皆喜んでいる。
共学の強みだ、と思った。いくら女子の間で揉めても、このクラスは半分男子である。男子は女子のいざこざにほとんど興味がない。故に私に悪印象を持っていないのだ。
『じゃあ、早速お願いしていい?まず下書きからで。皐月達がペンキの買い出し行って来てくれてるから』
了解、と男子達の野太い声。私は少しだけホッと胸を撫で下ろした。
****
男子は意外に協力的で、2時間でかなり作業が進んだ。看板はあと少しで完成しそうである。
『皐月。もう部活だよね。行っていいよ』
「もう少しだから。やるよ」
申し出てくれた皐月の言葉に、大丈夫だよ、と私。
『後は私と、残りの男子でやるから』
サッカー部以外の男子とも、それなりに仲良くなれた。私が勝手に苦手意識を持っていただけで、クラスの男子は皆優しい。それに気づけただけでも大きな収穫である。
皐月は少し考える仕草を見せる。
「…ううん。やる。部活は1日くらい休んでも問題ないから」
『…そう?じゃあ、お願いね』
それ以上は止める気もなかった。続いて早瀬くんとサッカー部の皆に声をかける。
『皆も、ありがとね。残りは私がやる』
「僕は最後までやるよ。文化祭実行委員だから」
いいのに、と私。
『本当に大丈夫だよ。私は時間あるから』
しかし、早瀬くんは他の部員にだけ切り上げるよう伝え自分は留まってくれるようだった。
『いいの?部活』
「部活より月野さんの方が大事だから」
サラッと言われ、は?と素の声が出る。
早瀬くんはそれ以上なにも言わなかった。私も言及することができず、とりあえず他の男子にも声をかけに向かう。
『皆もありがとう。部活とか用事ある人は帰っていいよ』
さて、と私は気合を入れ直した。まだ終わったわけじゃない。頑張らなくては。
****
信じてもらえないかもしれないが、オレは別に女好きではない。女が勝手にオレを好きになるだけで、オレはどちらかというと女が苦手である。
キャラに似合わず女に優しく接したため、ほとほと疲れてしまった。
美羽はうまくやっているだろうか、とふと不安になる。女子を捌くのに必死で彼女を気にする余裕がなかった。元々美羽は男子には人気があるため、大丈夫だと思うが。
「サソリくん」
声をかけられ、顔を上げる。するとそこには地味目な女子が三人。正直名前は覚えていない。なに?とオレ。彼女らは少し悩むような仕草を見せる。
「私たち、仕事終わったから。看板手伝ってきていいかな」
「…看板?」
看板は美羽と皐月、その他の男子がやっているはずである。
一人の女子が一層声を潜めて言った。
「無視するように言われてるんだけど。本当は嫌なの」
「……」
「皐月ちゃんと美羽ちゃんが盗むなんて思えないから」
どうやら、派手な女子に言われて従っているだけで彼女達は美羽と皐月を嫌っていないようだ。オレは迷わず首肯した。
「行ってやって。喜ぶだろうから」
「うん。行ってくるね」
心なしか彼女達は嬉しそうである。美羽も皐月も基本的に善人なのだ。人望があるんだな、と少し安心した。
ここはK女ではない。二人の良さを知っている人間なんて腐るほどいる。むしろ、二人が犯人ではないと思っているのが大半だろう。しかし避けなくてはならない。何故なら、自分が避けられる対象になりたくないから。
心底くだらないな、とは思うが女にとっては上手く生きるために必要不可欠な知恵なのだろう。そういう点に関しては、美羽と皐月は絶望的に下手である。
「旦那」
その時、デイダラに声をかけられた。奴もその他女子大勢と上手くやっている。
「美羽、早瀬達とかなり仲良くやってるみたいだけど。いいのか?うん」
どうやら看板作りの様子を見に行ったようだ。オレは頷く。
「仲良くしろってオレが言ったからな」
「……。あれ、多分男子に好かれちゃうと思うけど。ヤバくね?」
デイダラの危惧していることはわかる。しかしオレはあえてそうなるように仕向けているのだ。
「なあ、お前一番女子に嫌われやすい対象って知ってるか?」
「え…美羽みたいにモテる女じゃねえの?」
「違う」
オレは手に持っているハサミをくるっと持ち直した。
「勝てそうで勝てない女、だ」
「……」
デイダラが疑問の表情を浮かべる。
「女が嫌いなのは、微妙に自分より可愛くて、微妙に自分よりモテる女だ」
美羽と皐月は、ちょうどその位置にいる。
逆に芸能人のように突き抜けてしまえば、女子は途端に崇めて褒めちぎる。そういうものなのだ。現に、元からライバル対象ではない地味目な女子達は今も美羽と皐月に好意的である。
「女子どもの美羽への認識を、微妙に可愛いだけなのに何故かサソリくんと付き合っている女、からすごく可愛くて男子にモテモテの女に昇華させる。その為にはクラスの男子全員アイツに惚れるくらいで丁度いい」
デイダラは低い声でなるほど、と呟いた。
美羽は男子との関わりが薄い。彼女が男子が苦手なため避けていたというのもあるが、クラスの男達もオレが怖くて彼女に話しかけていなかったのだろう。
美羽は基本的に誰にでも優しい。この子オレのことが好きなのか?と男を勘違いさせるタイプである。いつもはその危うさにイライラするが、今はその思わせぶりな態度が強みだ。存分に勘違いさせてこい、というオレの作戦である。
「それは…まあ、わかったけど。本当にいいのか?」
デイダラの言葉に答える。
「信頼してるから」
「……」
「美羽は大丈夫だ。オレ以外の男を好きになることはない。他の男がどれだけアイツのことを好きになっても全く問題ない」
美羽からのオレへの好意は自信があった。
他の男から好かれたとして、彼女のオレへの気持ちが揺らぐことはあり得ない。
デイダラはじっとオレを見ている。
「オイラ、看板の方行ってくるわ」
「は?」
「こっちは人手足りてるだろ。うん」
別にいいけど、とオレ。デイダラはニヤッと笑った。
「信頼してても心配は心配だろ。様子見ててやるよ、うん」
「……。別に心配してねーよ」
「はいはい。おい、飛段。お前暇だろ。看板の方行こうぜ、うん」
「はー?まだやんなきゃいけねーことあんのかよ」
文句を垂れている飛段を引きずり、デイダラは教室を出て行く。
オレはその後ろ背に声をかけた。
「看板以外にも頼みたいことあんだよ」
「は?」
「行けばわかるから。そっちも頼んだぞ」
オレの言葉に、デイダラは頭に疑問符を浮かべた。