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今年の夏休みは忙しい。マダラ先生の家に修学旅行の準備に行き、サソリの家で勉強会をし、学校で行われている夏季講習にも積極的に参加した。
今日はサソリとその夏季講習に参加している。参加は自由だけれど無料なのでそれなりに教室は賑わっていた。違うクラスの人たちが同じクラスに集まっているのはなんだか新鮮である。
「サソリくんだ」
「かっこいいねー」
周りの女子がヒソヒソしているのがわかる。他のクラスの女子からしたら、サソリが身近にいるのは滅多にない最良の機会なのだろう。
「あの子が彼女?」
「えー、思ったより地味」
「あんまり可愛くなくない?」
ジロジロ見られているのがわかる。地味。最近よく言われる見た目の評価である。否定できないのが悲しいところだけど。
ジロッとサソリが女の子たちを睨みつけた。彼女たちが慌てて私たちから目を逸らす。
私はノートにペンを走らせながら言った。
『別に気にしてないから。大丈夫だよ』
「……」
サソリがはぁ、とため息をついた。
「お前は可愛いよ」
『…ありがと』
サソリがそう言ってくれるなら他人からの評価には特に興味がない。ただ、私は少し前から考えていたことがあった。
『…私も髪の毛染めようかなぁ』
胸元まで伸びている髪を軽くいじる。私の髪は地毛で暗い茶色である。黒髪の子から比べたら明るいけれど、それでもサソリや他のメンバーと比べるとかなり地味だ。髪?とサソリは眉を寄せている。
『もうちょっと目立つ色に』
「例えば?」
『うーん…金とか、ピンクとか』
「却下」
サソリに秒で否定され、私はむくれる。
『どうして?』
「どう考えても似合わねぇ」
『……やっぱり私が地味だから?』
サソリは首を横に振る。
「お前は今の色が一番似合うよ。だから変えなくていい」
『……』
「ていうかオレ、お前の髪めちゃくちゃ好きだから。染めたら傷むだろ」
だからダメ、とサソリは参考書に目を落としている。どうやら褒めてくれているらしい。
「サソリくん」
その時。一人の女子がサソリに声をかけてきた。サソリが顔を上げてその子を見る。
「隣座っていいかな?」
「……。自由席なんだから勝手に座れよ」
「ありがとう」
にこやかに笑うその子は、女の私から見ても華やかで可愛かった。
「私、B組の南桃香。よろしくね」
「……」
サソリはあからさまに面倒臭そうな顔をしている。私はなんとなく、二人から目を逸らした。南さんがサソリに好意を持っていることを察したからだ。
サソリはモテる。しかし、積極的に話しかけてくる女子はあまりいない。私が彼女だからというのは勿論だけど、サソリは女子と会話をすることを故意に避けているからだ。色々と揉めるからだろう。
「サソリくんも夏季講習参加してるなんてラッキー」
「……」
南さんはサソリに机を寄せた。
「勉強教えて」
「教師に聞けよ」
「サソリくんに教えてもらいたいの」
苦手なタイプだろうな、と密かに思った。案の定サソリは南さんがくっつけた机を私の机に無理矢理寄せた。
「オレ、コイツの面倒見るので忙しいから」
初めて南さんが私を見る。にこやかな笑顔が一瞬だけ真顔になったのを見逃さなかった。自慢じゃないけど他人の悪意には敏感なのである。だてに9年間もいじめにあっていない。本当に自慢にならない。
「…えーと、こんにちは」
『…どうも』
「貴方、サソリくんのお友達?」
私が答えるより先にサソリが口を開いた。
「彼女」
「え。うそ」
「そんなの嘘ついてどうすんだよ」
知られていなかったことに少し驚いた。でもよく考えたら全学年の人が私とサソリの交際を知っているわけではないだろう。興味のない人だっているはずである。
南さんは納得いかない表情で私を眺めている。
「だって貴方、デイダラくんの彼女でしょ?」
『…は?』
デイダラ?突然出てきた名前に驚く。サソリが眉間にシワを寄せた。
「…それ、誰情報だよ」
「情報っていうか。見てたらわかるもん。お似合いだし。仲がいいし」
「……」
サソリが顔をしかめている。心外なのだろう。私は不愉快というより困惑の気持ちが強かった。
私とデイダラが付き合っているなんてんなことあるはずがない。第一、デイダラには好きな子がいるはずだ。それが誰なのかは知らないけれど。
南さんは軽蔑の混じった目で私を見ていた。
「じゃあ、二股かけてるんだ。大人しそうな顔してビッチなのね」
ビッチ。中学時代もよく言われた悪口である。女子の悪口には大したレパートリーがないな、と冷静に考える。
『…そんなことしてません』
「だってデイダラくんはどう考えても貴方のこと」
「やめろ」
サソリが鋭い声を出した。そのままガタッと席を立つ。
「帰るぞ」
『…え』
「ここにいても勉強にならない。家に帰ってやったほうがマシだ」
サソリは鞄を拾い上げ、さっさと踵を返してしまった。私も慌ててその後を追った。
****
『サソリ!ちょっと待って』
いつもより足早なサソリを必死に追いかける。腕を掴むと、サソリは振り返った。その顔が氷のように冷たくてドキッとする。怒っている、のとはまた違う気がした。
『……。ごめんね』
「何故お前が謝るんだ」
お前は悪くないだろ、とサソリは続けた。
「オレこそごめんな。カッとなって」
『…ううん。サソリが怒るのも当然だよ。友達侮辱されたようなもんだもんね』
侮辱?とサソリ。私は首肯する。
『デイダラと私が付き合うなんてあるわけないもんね』
「……」
『第一、デイダラには好きな子がいるらしいし』
サソリが顔を強張らせたのがわかった。
「…知ってるのか?」
サソリの瞳が動揺している。いつも冷静な彼には珍しいリアクションである。たかだか友人の好きな人の話なのに。
『相手は知らないよ。ただ、好きな子がいるっていうのは聞いた。その子は彼氏いるけど、って』
「……」
サソリは無言である。その様子を見て察した。サソリはデイダラの好きな子を知っているようである。
気にはなったけれど、サソリから聞くのは違うと思った。デイダラが私に話さないのは、私に話したくないからだ。それを第三者を通して聞いていいわけがない。
サソリは無言のまま動かない。私はじっとサソリを見つめている。何故彼がこの件に関してこんなに意味深な態度を取るのかがよくわからなかった。
「…一つ聞いていいか」
『なに?』
「お前、皐月のこと好き?」
皐月?また急な話の転換である。
『え…、そりゃ、好きだけど。なんで?』
「……」
サソリは少し黙って考えた仕草を見せた後、言った。
「これから先なにがあっても、オレはお前の味方だから」
『……』
意図が読めなかった。しかしサソリはそれだけ言うと、再び歩き出してしまう。
私は黙ってその背中を追った。
これ以降、私たち二人の間でこの話題が出ることはなかった。