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夏休み初日。
オレと美羽とデイダラはマダラの自宅に向かった。最寄駅に到着し、改札を潜る。
『楽しみだねー』
「どんな家だろうな、うん」
「お前ら…仕事しに行くんだぞ」
オレの言葉に、それはそうだけど、と美羽。
『先生の家に行くなんて滅多にないじゃない。下手な外出よりワクワクする』
ねー、と美羽とデイダラは顔を見合わせる。オレは呆れた様子でそれを見ていた。
「星海って来たことあるか?うん」
『ないない。あるもの全部高級だもん。庶民は近づけないよね』
「さすがうちはなだけあるよな。先生も金持ちなのかな?うん」
『そうかもね』
和気藹々な二人。オレと美羽がカップルなのに、何故かオレが会話に入れない雰囲気である。
美羽とデイダラは仲が良い。頭のレベルが同じなので話が合うようだ。
『わっ、』
美羽が躓き、咄嗟にデイダラの腕を掴む。さり気無く美羽の体を支えるデイダラ。
「大丈夫か?」
『うん、ごめんね。ありがとう』
二人の様子にムッと顔を顰める。
「なんでオレに掴まらねぇんだよ」
『え…深い意味はないけど。デイダラが捕まりやすい位置にいたから』
「旦那は歩くのはえーんだよ。美羽はヒールなんだから。気遣ってやれよ、うん」
デイダラに揶揄され、さらに不快指数が上がる。
「この暑い中タラタラ歩きたくねえんだよ」
『ごめんね、私歩くの遅くて』
しゅんとする美羽。ムキになって無駄に傷つけてしまい、オレは小さく息を吐いた。
「別に責めたいわけじゃない。暑いのは苦手ってだけ。そのヒールはめちゃくちゃ似合うし可愛い。ついでに今日のスカート最高」
『…えっ』
不意に褒められて、美羽がアワを食っている。今日の美羽は黒のブラウスに白のサマースカート、足元は赤のヒールである。いつぞやに聞いた甘くて辛い、の意味がなんとなく分かった気がした。子供過ぎず大人過ぎず、彼女によく似合う。
美羽は夏の暑さに桃色に染まっている頬を更に紅潮させ、小さな声でどうも、と呟いた。
微妙に気まずい時間が流れる。
おっ、とデイダラが声を上げた。
続けて美羽も視線の先に気づいたようだ。
『先生!』
マダラが軽く手を上げる。カツカツと美羽のヒールが鳴る。
『こんにちは』
「遅いぞ」
「遅いって予定時刻の5分前だぞ」
遅刻嫌いなオレが遅れるわけがない。オレの指摘に、マダラは涼しい顔である。
「10分前に着いたオレに合わせろ」
「無理いうなよ…」
『まあまあ。いいじゃないですか』
美羽がマダラをじっと見つめた。それに気づき、なんだ?とマダラ。
『マダラ先生の私服、新鮮ですね』
「…男の私服なんてそんな代わり映えせんだろう」
『変わりますよ!私服とても素敵です』
マダラがチラッとオレを見た。
そして勝ち誇ったように怪しく笑う。イラッときた。
「そういうお前も。なかなか似合うじゃないか」
『ありがとうございます』
美羽はいつも通りお世辞だと捉えているようで軽く流している。
それにしても、とマダラは言った。
「貴様ら3人か」
「何か問題あるんスか?うん」
「いや…」
ジロッとオレたち3人を眺めるマダラは心なしか口角が上がっている。
「見事な三角関係だな」
ピシッ、とオレとデイダラが凍った。美羽だけが首を傾げている。
『なんのことですか?』
「いや。わからないならいい」
行くぞ、とマダラは踵を返した。その背中を追う美羽。
「……」
「……」
オレとデイダラは何も会話をしないまま、二人の後を大人しくついて行った。
****
マダラ先生の家は、立派なお屋敷だった。イタチの家と比較してしまうと小さいけれど、それでも十分すぎる広さである。
ここで一人暮らしをしているのかという疑問が湧く。いや、同居人がいると言っていたはずだ。やはり家族で暮らしているのだろうか。他人と暮らすマダラ先生と言うのがイマイチ想像できない。
『マダラ先生って結婚してるんですか?』
居間に向かう途中に私は思い切って聞いてみた。マダラ先生が振り返る。
「結婚しているように見えるか?」
『……。見えないですけど』
私の返答に、マダラ先生は笑う。
「残念ながら結婚には向いていなくてな」
やはり結婚はしていないらしい。
私はうーん、と首を捻った。
『でも、同居人はいるんですよね?』
「ああ」
『男性ですか?女性ですか?』
マダラ先生は少しの沈黙の後、女性だ。と答えた。サソリとデイダラもえっ!と声を漏らす。
「彼女っスか?うん」
「まあ、そんなようなものだな」
彼女。マダラ先生には彼女がいるんだ。私は密かに胸を撫で下ろした。
先日、母への好意は現在進行形と言っていたから。実は少し不安だったのである。しかし現在彼女がいるなら、あれは私がからかわれただけなのだろう。
まあ、そうよね。20年近く前の話だし。まだ好きだなんてそんなことあるわけないか。そもそも父大好きな母のことだ。まさか不倫もないだろう。心配しすぎてしまっていた。
襖の前でマダラ先生は足を止めた。どうやら今日はこの部屋を使わせて貰えるらしい。
マダラ先生がチラッと私を見た。
「先に言っておくが、かなり人見知りをするから。気をつけろよ」
えっ、と私。
『彼女、ここにいるんですか!?』
「言ったろう。同居していると」
「わざわざ彼女のいる部屋に通すなよ…」
サソリが面倒くさそうな顔をしている。知らない女性と関わるのが煩わしいのだろう。
しかしマダラ先生は素知らぬ顔。
「プリンターが好きなんだ。仕方なかろう」
プリンターが好きな彼女。一体どんな彼女だ。
考えるより先にマダラ先生が襖を開けた。心の準備が!と内心叫ぶ。
すると。
チリン、と鈴の音。
私は気分が高揚するのを感じた。
『かっ!わいいいい…』
そこにいたのは、ネコ。
私たちを見て、警戒したように尻尾をピンと立てて左右に振っている。確かにプリンター好きの彼女だ。それにちょん、と腰掛けている。
「は…猫?」
「三毛猫だー、可愛い。うん」
サソリは困惑顔、デイダラは嬉しそうである。
私はマダラ先生の腕を軽く叩いた。
『とんでもなく美人な彼女じゃないですか!なんで教えてくれなかったんですか!?』
「教えるも何も。特段喋る必要もないだろう」
マダラ先生はツカツカと猫ちゃんに歩み寄り、グリグリ頭を撫でている。よく慣れているらしく、猫ちゃんは目をつぶって気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
いいなぁ、いいなぁ。
わくわくしている私に、デイダラが問う。
「お前猫好きなの?」
『もー大好き。飼いたいんだけどお母さんが猫アレルギーで飼えなくて』
「犬顔なのに猫派なのか」
『どっちも好きよ。でも猫の方がちょっと勝つかなあ』
マダラ先生が猫ちゃんを抱えながらフッと笑う。
「お前はもう猫を飼い慣らしてるようなもんだろう」
『…は?』
「そこの男。猫っぽいじゃないか」
言われていることを秒で理解する。ああー、と妙に納得してしまった。
『確かにサソリは猫っぽいなぁ…』
「は?どこがだよ」
サソリは納得いかない表情だ。しかしデイダラも同意する。
「確かに旦那は猫だな。気分屋でインドアで個人主義な感じが」
「…馬鹿にしてるだろ、お前」
サソリがジロッとデイダラを睨む。デイダラは涼しい顔だ。
『なんて名前ですか?』
「小太郎」
「えー、雌なのに?うん」
「家に上がり込んできた当初、エサだけやっていたから性別がわからなかったんだ。男だと思い込んでいたのに、抱き上げてみたら女で」
私は小太郎をまじまじと見つめる。まだ警戒している様子だ。あまり見つめちゃ可哀想か、と目を逸らす。
すると、にゃーん、と小太郎が小さく鳴いた。また見ると、小太郎がこちらを見ている。怖いけれど興味はある模様だ。
マダラ先生が私を見る。
「触ってみるか?」
『えっ、いいんですか?』
「お前は好かれているような感じがする。大丈夫だろう」
マダラ先生が小太郎を床に置いた。先生の周りを擦りつくように歩いている。
私はゆっくりと小太郎に近づいた。腰を下ろして、静かに手の甲を差し出す。
小太郎はじっとその様を見つめていた。
程なくして私に寄ってくる。触りたい気持ちを抑え、その場で待機した。
クンクン、と小太郎が私の甲の匂いを嗅いでいる。鼻を擦り付けて、ペロリ。
その様を見て、触っていい?と聞いた。彼女はじっとこちらを見ている。怖がらせないように慎重に顎を撫でる。すると小太郎はゴロゴロと喉を鳴らした。叫びたいのを必死に堪える。
『かわいいいいい…』
「見事なものだな。コイツに触れたのはオレ以外初だ」
小太郎は既に私の体に擦り付いている。へー、と感心したようにデイダラ。
「そんなに触れないんスか?うん」
「まあ、あまり人が来ないと言うのもあるが。野良の期間が長かっただけあって警戒心が強くてな」
「ふぅん…」
サソリがジロッと小太郎を睨むと、小太郎が怯えたように私の後ろに隠れた。私が代わりにサソリを睨む。
『ちょっと!怖がらせないでよ』
「別に何もしてねーよ。見ただけだ」
『サソリは素の顔が怖いの』
は?と思い切り睨まれるも無視である。私は小太郎をそっと抱き上げた。
『怖いお兄さんですねー。大丈夫よ、私が小太郎を守ってあげるから』
「人聞きの悪いことを言うなよ…」
「まあまあ。で?先生。オイラたち何やればいーんスか?うん」
小太郎にメロメロな私を他所に、デイダラは本来の要件をきちんと覚えていたようだ。
マダラ先生はさっさとパソコンを立ち上げている。
「早急にやらねばならんのはしおり作りだな。全く手つけてないから」
「全く…?」
サソリが眉を寄せている。マダラ先生は相変わらず顔の筋肉を動かさない。
「他のクラスにも配る必要があるから。なるべく早く作れよ」
「だから本来それは教師の仕事だろうが…」
「家を貸してやってるんだ。文句ないだろう」
ここに必要なデータがある、とマダラ先生はサソリにパソコン画面を見せている。どれどれ、と覗き込もうとしたところで先生に遮られた。
「お前は見なくていい」
『えっ、なんでですか?』
「お前はどう見てもエクセルが得意そうには見えん」
ぶっ、とサソリが吹く。
「まあ確かに。お前は無理だろうな」
『えー…じゃあ私どうしたらいいの?』
「デイダラ。お前は沖縄の観光名所調べてくれ。距離的に無理のないところでな」
「りょーかーい。うん」
『…じゃあ、私は電話したらいいですか?』
マダラ先生は首を横に振る。
「それは間違えるとさすがに不味いのでな。お前がやるくらいならオレがやる」
『私やることないじゃないですか…』
「お前は小太郎とでも遊んでろ」
小太郎と!?それは嬉しいけど、仕事じゃないじゃないか。
しかしサソリとデイダラはすでに各々パソコンに向かっている。マダラ先生も書類に目を落とし連絡先を確認している模様である。
私はふぅっとため息をついて腕の中の小太郎を見つめた。小太郎は大きな瞳をクリクリさせて私を見つめ返している。