02
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「サソリくんだー、カッコいいね」
「いいなあ、付き合いたい」
窓の外を見ながら女子達がキャッキャしている。つられて私も窓の外を見た。
今日は珍しく、昼休みにサソリくんはデイダラくん達とドッチボールをして遊んでいるようだった。目立つ彼らには、それぞれ固定のファンがいるらしい。
わからなくはない。皆カッコいいし、優しい。
「美羽ちゃんは誰が一番カッコいいと思う?」
話を振られ、私はいつも通り答える。
『皆カッコいいよね』
「だから誰派?って話よ」
「サソリくんじゃないの?」
言われて、私は続けて答える。
『サソリくんはカッコいいけど。ほんとにそういうんじゃないの。良くしてもらってる友達』
私の言葉に、毎回女子は納得いかなそうな表情を浮かべている。彼女達はサソリくんが好きなんじゃないんだろうか。仮にもし私とサソリくんが何かあったら嫌なのではないんだろうか。この答えになんの不満があるのだろう。
「でもさあ、美羽ちゃん毎日サソリくんと一緒に帰ってるでしょ」
一人にそう聞かれた。私は答える。
『たまたま帰る方向が同じだから。それで』
「お弁当も作ってるんだよね?」
『まあ…それも、色々事情があって』
今日は妙に詰められるな、と思った。しかしそれ以上の理由を私は持っていない。
「やめなさいよ」
傍観していた皐月が初めて口を開いた。
「不満があるならサソリに直接言ったら?美羽をいじめたところでサソリはあなた達のこと好きにならないわよ」
言うことが相変わらずキツイ。でも正論である。
「付き合ってないなら、もっと節度もってって話よ」
「節度?なにが?それこそサソリと美羽の勝手じゃん。なんであんた達に忖度しなきゃいけないのよ」
『皐月…いいから、気にしてないから』
皐月を制止する。しかし周りの女子は納得いっていない様子である。
「八方美人なんだよ。美羽ちゃんは」
八方美人。サソリくんにも言われた言葉である。
「誰もこれもキープして、付き合ってないって。そんなの納得できない」
『キープって、そんなつもりは…』
「じゃあやめなよ。サソリくんにお弁当作るのも、一緒に帰るのも。好きじゃないならやめて。やりたい子いっぱいいるの」
『……』
なんでこんな事言われなきゃいけないんだろう。でも、口答えする気にはならなかった。
そうかもしれない、と思った。やっぱり出過ぎた真似をしているのかも、と。
「ただいまーっと、アレ?なんの騒ぎ?」
その時だった。外で遊んでいた彼らが帰ってきたようだ。不穏な空気の私たちを見て、首を傾げている。
皐月が席を立った。
「いいとこに来た。助けて。美羽いじめられてるの」
「はー?いじめ?なんで?どしたん?うん」
デイダラくんがじろっと女子を見た。中には彼のファンもいる。女子達はなにも言わなくなってしまった。
『いや…別に、たいしたことでは』
「なに?どうしたって?」
サソリくんがこっちに歩み寄ってきた。私は必死に首を横に振る。
『ないです。なんでもないです』
「ああ?」
「サソリくんと美羽ちゃんってどういう関係なの?」
その時、女子の一人がそう言った。サソリくんが無言でその女子を見る。
「付き合ってないってほんとなの?」
「なんだ急に…付き合ってねーけど」
な?と聞かれて首肯する。
お互いの認識に差異はない。
「じゃあなんでいつも一緒にいるの?」
「…そんなに一緒にいるか?」
『さぁ…?』
「周りからはそう見えるの!」
なぜか責められる。角都くんが呆れ顔で言った。
「そういうのは外野が騒ぐ話じゃないだろう。当人達が納得してればいいわけで」
「そういう問題じゃないの!サソリくんはみんなのサソリくんなの!」
「オレがいつ皆のものになったんだよ…」
サソリくんが心底面倒臭そうに言った。彼はどう考えてもこういう揉め事が嫌いである。早く終わらせたい、と心から思った。
『じゃあ、私どうしたらいいの?』
私は聞いた。無言でサソリくんが私を見る。
「だから抜けがけはやめて。お弁当作ったりとかずるいから」
「別にずるくねーだろ…うん。じゃあお前らやってみたら?美羽よりうまい弁当作れるの?」
女子は押し黙る。こういう子達は言うだけで、実際にやろうとする子はいないものなのだ。
「まぁまぁ。喧嘩すんなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「飛段くんは黙ってて」
あしらわれている。可哀想、飛段くん。
「じゃあ、せめて一緒に帰るのやめてよ」
また違う女子が言った。
「それこそずるいじゃん。方向が一緒なだけなんでしょ。それだったら他の子でもいいじゃん」
チラッとサソリくんを見る。サソリくんは何も言わない。
ずるい、か。私のやってることはずるいことなのだろうか。
こう責められてしまうと、どんどん自信がなくなる。相手が正論で、私が何か悪いことをしているような気になる。
この空気が辛かった。早く終わらせたかった。
『…わ』
「やめない」
私の言葉を打ち消すように、サソリくんは言った。皆の視線がサソリくんに集まる。
サソリくんは私の顔を見ずに言った。
「オレが勝手に、美羽に片思いしてるだけだから。くだらねーこと言ってコイツを困らせるのはやめろ」
静まる教室。その中で最初に声を上げたのは飛段くんだった。
「っかー!サソリ!よく言ったな!やるじゃん!」
「やだ超カッコよかったんですけど!惚れちゃいそう、うん!」
男性陣は大いに盛り上がっている。どうやら前々から知っていたようだ。
それに反して女性陣。
「ほらやっぱりね!そうだと思った!やだー美羽!やるじゃん!」
皐月だけが嬉しそうに私の肩を叩く。他の女子は完全にお通夜モードである。
ていうか、片思いって?誰が誰に?
サソリくんが、私に…?
『……ッ!?』
顔が熱くなる。リアクション遅いわねー、という皐月の声。
動けないでいる私に、飛段くんがニヤニヤしながら近寄ってきた。
「ねー美羽ちゃん。うちのサソリちゃんどう?いい奴でオススメなんだけどよぉ」
「そそ。顔もいいしよくね?一回付き合ってみない?うん。損はさせねーぜ?」
「お前ら悪徳商法みたいな手口はやめろ」
サソリくんは飛段くんとデイダラくんを私から引き剥がした。心なしか頬は赤みを帯びている。
「オレは美羽がそういう目でオレをみてないことを承知でやってきてんだよ」
「えー、だからこれから見て貰えばいいじゃん」
「それはお前らじゃなくてコイツが決めることなの」
サソリくんはチラッと私をみた。思わず目を逸らしてしまう。
「気にしなくていい。お前はいつも通りで」
いつも通りって言われても!
その時、チャイムの音が鳴り響く。混乱したまま、午後の授業が始まり、私は席についた。