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なんとなく落ち着かず、私は自室に戻ってからぼーっとしていた。
親の昔の恋愛を聞いただけで動揺してしまうなんて、私もまだ子供だということなんだろうか。実際子供だけども。
サソリと話がしたかった。電話しても大丈夫かな、と悩む。もう学校は終わっている時間である。しかし、私がいないことで羽を伸ばしてデイダラ達と遊んでいる可能性があった。もしそうだとすると、邪魔するのは忍びない。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。はぁい、とそれに答える母の声。母はあれからは完全にいつも通りだ。私が深く考えすぎなのかな、と頭の中を切り替えようと努める。
トントン、とドアがノックされた。布団に寝転がったまま、はぁい、と適当に答える。どうせ壁の向こうにいるのは母だ。
扉が開く音がする。つかつかと私の元に寄ってくる母。なにか用?と私は顔を上げた。そして固まる。
そこにいたのは母ではなくサソリだった。私の顔を見て、少し安心したような顔をする。
「顔色いいな。よかった」
『サソリ…どうして?』
「プリン買ってきたから。玄関で渡して帰ろうと思ったんだけど、真白さんに捕まった」
どうやら母が上げたらしい。サソリは白い箱を私に手渡した。学校近くのカフェのロゴが入っている。デイダラと皐月とクリスマスに入ったカフェだ。
わぁい、と私。
『ここのプリン食べてみたかったの。ありがとう』
サソリにクッションを渡し座るように促した。箱を開けると、プリンが三つ入っている。
「真広さんと真白さんの分」
『さすがサソリ。気が効くね』
一つだけ取り出して、同封されているスプーンを取り出した。一口食べると、とろとろの甘みが口の中で広がる。
『美味しい~』
「そうか?よかった」
『どうやって作るのかな…』
「だから作ろうとするな」
また買ってやるよ、とサソリは笑った。もう一口プリンを口に運びながら、私は少し考える。
『ねえ、サソリ。ちょっと聞いていい?』
「うん?」
『サソリはさ、もし今目の前に私より可愛くてなんでもできて、超絶グラマラスでセクシーな女の人が現れたらどうする?』
サソリは渋い顔をした。
「…なんだ?急に」
『例え話よ』
「例え話ね…」
うーん、と少し悩む仕草を見せる。
「…お前より可愛いってのがイマイチピンとこねぇんだよな」
『いくらでもいるでしょそんなの』
「世間一般ではそうかもしれないが。少なくともオレの中ではお前が世界一可愛く見えるから」
だから一体どういう目をしているんだ。
眉を潜めている私に、サソリは続ける。
「好みの問題だろ。オレお前みたいな犬顔好きなんだよな」
『犬…?初めて言われた』
「お前は顔も中身も犬だな」
『いぬ…』
なんとなく外に繋がれている雑種のイメージである。
そんなに逞しそうに見えるんだろうか。
「第一、オレは別に絶世の美女がタイプなわけじゃねぇから。お前もそうだろ。イケメン好きじゃねぇじゃん」
『そう言われればそうね…』
「見た目もそうだけど、付き合っていくには中身が重要だろ。全部総合してオレはお前が一番好き」
サラッと好きと言われてなんとなく照れてしまう。
母とマダラ先生のこと、話したかったけれど辞めておいた。プライバシーの問題もある。私がベラベラ喋っていい内容ではないだろう。
急になんでそんな話を?と訝しんでいるサソリの口に、プリンを乗せたスプーンを突っ込んだ。
『なんとなくね。ちょっと気になって』
「ふぅん…」
サソリは口の中をモゴモゴし、それ以上何も聞いてこなかった。
全てのプリンを食べ終え、私は布団から抜けサソリの隣に腰掛ける。
『丁度いいからここで勉強会してこうよ』
「今日くらいは休んだ方がいいんじゃねえの?」
私はサソリの腕に己のそれを絡ませる。
『勉強とイチャイチャ、どっちがいい?』
「……」
サソリは小さく息を吐いた。
「その二択なら勉強」
『えー、なんでよ』
私はサソリの耳にそっとキスをした。サソリがビクッと体を震わせる。
じゃあ、と耳元で囁く。
『イチャイチャしてから勉強ね』
「……」
サソリはそっぽを向きながら、「せめて順番を逆にしてくれ」と言った。
****
次の日。
マダラ先生のおかげもあり、電車では何事もなく無事学校に到着することができた。
朝のホームルームを終え、教室を去っていくマダラ先生の背中を追いかける。
『あのっ』
マダラ先生はすぐ振り向いた。私は先生に深々と頭を下げる。
『昨日はありがとうございました』
「昨日も言った。特殊なことをしたわけではない」
相変わらずの先生に、小袋を手渡す。
『お口に合うかわかりませんが。お礼です』
マダラ先生がピクッと頬を引きつらせた。
「…手作りか?」
『はい』
「春島の手作りは酷かった記憶があるが」
納得した。母のイメージがあるのだろう。マダラ先生も母の料理の被害者だったらしい。
私はふふっと笑った。
『母があれなので反面教師にしてます。料理には自信ありますよ』
マダラ先生はまだ不安そうな顔をしながら、小袋を受け取ってくれた。
「…あとで挑んでみる」
『ははっ、お手柔らかに』
私は笑った。その様をじっと見るマダラ先生。
「不思議なものだな」
『なにがですか?』
「顔も声もそっくりなのに、お前は春島とは全然違う」
『そりゃそうですよ。私と母は別の人間です。マダラ先生の好きだった母と私は全くの別物ですから』
言ってから、マズいと思った。慌ててすみません、と謝る。
怒られるかと思ったのに、マダラ先生は口角を上げて怪しく笑った。
「ほう。聞いたのか」
『…少しだけです。詳しくは聞いてません』
ふぅん、とマダラ先生。心なしか楽しそうである。
「少し語弊があるな。別に好きだったわけではない」
『え…そうなんですか?』
プロポーズまでしたというから、てっきり好きだったのかと思ったのだけれど。
マダラ先生はくるっと背を向けて歩き出した。
「現在進行形だ」
『は?』
「好き”だった”わけではない」
言葉を理解するのに、少し時間がかかった。マダラ先生はそのまま歩いて行ってしまう。
私は呆然とその場に立ち尽くした。
現在進行形?好きだったわけじゃない?
『…っ!?』
私は声にならない叫びを上げ、その場に蹲み込んでしまった。