21
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝8時。私は電車に揺られていた。
通勤ラッシュのこの時間帯、電車はギチギチである。人に挟まれながらただただじっと堪える作業。しかし今日は様子が違った。
触られているな、と気づいたのは電車が駅を出てから5分ほど経ってからのこと。最初は気のせいかと思い、人の出入りがある度に体勢を変えて距離を取ろうとした。しかしその手はしつこく私の体を追ってくる。
現在完全にお尻を揉まれている状況である。
スカートの上からだから大丈夫、次はもう降りる駅だから大丈夫、と自分に言い聞かせて心を無にする。
最寄駅につき、多くの人と共に押し出される。振り返らず、私はいつもより早足で学校へ向かった。
恐ろしいことに、これが”初日”である。
****
「だいぶスムーズに解けるようになってきたな」
サソリは私の数学のノートを見ながら言った。今はサソリの部屋で恒例の勉強会である。中間前は皆も来ていたけれど、テスト前以外は基本二人だ。
私はサソリのおかげよ、と言った。
『説明がわかりやすいから。本当に助かってるの』
「お前が頑張ってるからだよ」
サソリはいつも通り私を褒めてくれる。
基本サソリはいつでも私のことを認めてくれようとする。その扱いにもだいぶ慣れてきた。
私はじっとサソリを見る。サソリは真剣な面持ちでノートと教科書を照会している。
ふぅ、とため息をついた。
やっぱり言えないな、と。
あの日から私は痴漢のターゲットにされてしまったようだ。電車に乗る前に既に誰かがぴったりと私にくっついている気配がする。そして乗り込んで逃げ場がなくなった途端、好き放題に触られる。学校に着くまでのおおよそ20分間。私はただただ耐えていた。実は今日でもう5日目になる。
毎日学校へ行くのが憂鬱だ。サソリに相談するのは真っ先に考えた。けれども言えないのは、毎日毎日サソリが自分の時間を削って私の面倒を見てくれているからである。
その上痴漢なんて。とんでもない心労をかけるに違いなかった。これ以上に彼の時間を奪うことは私にはできない。
「どうした?」
サソリがぼーっとしている私に気づき、訝しげな顔をしている。なんでもないよ、と私。
「疲れたか?今日はもうやめとく?」
『ううん、大丈夫』
「……」
再びノートに目を落とす私。サソリにじっと見られているのがわかる。やばい。怪しまれたかな。
「…そういえば、お前映画行きたいって言ってたよな。次の土日あたりどうだ?」
顔を上げた。サソリは何事もないように話す。
「丁度天気も良さそうだし」
『それは…嬉しいけど。いいの?』
「いつも真面目にやってるからな。思ったより進みも速い。それくらい行ってもバチは当たらないだろ」
みるみるうちに心が明るくなっていく。
じゃあ、と私は言った。
『映画と一緒に水族館も行っていい?』
「……」
『……だめ?』
サソリはふぅっと息を吐いた。しかしそこにマイナスの感情はないようである。
「一日だけだからな」
『やった!』
私は素直に喜んだ。映画館も水族館もかなり久しぶりである。そしてそれ以前に、サソリとのデートが久しぶりなのだ。
『お洒落していくね!』
胸を弾ませている私に、サソリは呆れた視線を向けながらも頬を緩めて笑っていた。