01
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
寝室の窓を開ける。サソリくんはほとんど換気をしていないようだった。布団を外に干して、掃除機をかけた。
一通り掃除機をかけた後で、棚に僅かな埃が溜まっていたことに気づく。掃除機かけるまえに気づけばよかったな、と手を伸ばしたところで、カタン、と小さな箱が落ちた。拾い上げて、固まる。
コンドームだった。しかも開封されて何個か使った気配がある。
慌てて元の場所に戻す。ドッドッドッ、と心臓が暴れた。
そうよね。男の子だし。あんなにカッコいいんだし。女の子とそういうことくらい、してるよね。
布団のなくなったベッドをチラッと見る。ここで、女の子のこと抱いているんだろうか。裸のサソリくんが、優しく女の子を抱く姿。妄想してしまい、頭をプルプルと振る。
はしたない。こんなこと考えるなんて。
胸の奥がシクシクと痛む。その痛みがなんなのかわからなかった。
私たちはただのお友達だ。こんなこと考えるなんて間違ってる。
「美羽?」
その時、サソリくんが寝室の扉を開けて入ってきた。思わずビクッとしてしまう。
サソリくんは訝しげに私のことを見た。
「大丈夫か?呼んでも返事なかったから」
『…うん、大丈夫。少し休もうかなと思ってたところ』
サソリくんはちょうどよかった、と続ける。
「奴らが腹減ったって。一緒に何か食うか?」
『……』
「お前の好きなものでいい。ここまでやってもらってんだ。奢る」
私はパタパタと手を横に振った。
『そんなのいいよ。それに、迷惑じゃなかったら作ろうか?』
「ああ?」
サソリくんの言葉に私は答えた。
『男子4人でしょ。作りがいがある。よかったらやらせて』
「……」
サソリくんは特段驚いた様子はなかった。大体想像のついた答えだったのかもしれない。
サソリくんはポケットからスマホを取り出し、何やらポチポチいじっている。
「あと2人増えるけどいいか?」
『うん?』
「角都と鬼鮫。買い出し行ってきてもらうわ。アイツら荷物持ち得意だから」
荷物持ち得意って。私は笑いながら、勿論、と答えた。
****
『え、水に入れちゃうの?』
表面を炙った豚バラ肉の塊を、鬼鮫くんは躊躇なく水の入ったお鍋に浮かべている。
「水から入れたほうが肉が柔らかくなるんですよ」
『へー…確かに、角煮つくるとちょっと硬いなと思ってたのよね。次回から私もそうしようかな』
メモメモ、と私は用意していたメモ帳にペンを走らせた。その様を見て鬼鮫くんはニコッと笑う。
「美羽さんはさすが女子ですよね。盛り付け方が芸術的です。それは私には真似できませんねえ」
『これこそ見よう見まねだよ。同じ物でも、盛り付け方で高級っぽく見えるしね』
サラダを乗せたお皿に、トンカツを盛り付ける。メニューがお肉ばっかりだ。というかリクエストが全部お肉。男の子はやっぱり、お肉が好きなのね。
『できたよー。まだ第一陣だけど』
リビングに持っていくと、いち早く反応してくれたのは飛段くんである。
「あー!トンカツ!うまそ!食っていい?」
『どうぞ。リクエストのスペアリブも今作ってるからね』
飛段くんは箸を使わず直にトンカツを掴んでいる。熱くないんだろうか。
「うっま!まじでうま!」
「飛段。座れ。そして箸を使え」
角都くんに引きずられ、飛段くんは席に座らせられている。親子みたいで面白い。
「美羽まじで料理上手いな。どっかで勉強してんの?うん」
『んーん。全部独学。だから多少粗いところもあるけどそこはご了承ください』
私の言葉にデイダラくんは笑う。謙遜しなくても、と言われたものの謙遜しているわけではない。
サソリくんは普段通り無言で黙々と箸を進めていた。しかしそれが彼なりの美味しいというサインである。ホッとした。
『あとチキンのトマト煮と豚の角煮とスペアリブとおでんとからあげとステーキとおにぎりも出ますよ。ジャンジャン食べてください』
「まかせとけ!」
ガッついている男子陣を見て笑った。こんなに食べてくれると本当にやりがいがある。
『鬼鮫くんも食べてて。あと私がやるから』
キッチンにいる鬼鮫くんに声を掛け、私は再びお鍋に向き合った。
****
「美羽ってさー、すげーいい子だな」
オレをからかっていたのはなんだったのか、直様名前呼びに切り替えている飛段がそう言った。
周りの皆も同意する。
「可愛いし、料理上手いし、優しいし」
「おっぱいでかいしなー」
「…そういうこというんじゃねーよ、うん」
デイダラがチラッとキッチンを確認する。美羽は料理に夢中でこちらの会話は聞こえていない様子である。
「そりゃあサソリも惚れるよなあ」
「……なんの話だよ」
「またまたあ。好きなんだろ」
皆に生暖かい目で見られる。オレは茶を飲み下し、言った。
「さあな。少なくとも嫌いじゃないが。一緒にいて不快じゃない。危なっかしくて放っておけない。それだけ」
「世間ではそれを好きだって言うんスよ、旦那」
デイダラの言葉に舌を打つ。それを認めたくねーんだろうが。
「うっせーな。関係ねーだろお前たちには」
「関係あるある。サソリちゃんの初恋だし」
「初恋?そうなのか?」
イタチに問われ、オレはまた黙った。つーかオレが美羽のこと好きだって確定させてんじゃねーよ。
『なーに?なんの話?』
その時、美羽が鍋を持ってこちらにやってきた。皆の視線が美羽に向かう。
「お、角煮!?食う食う」
『どうぞ。で、なんの話?』
美羽が自然にオレの隣に座り、言った。オレは無言で角煮に手を伸ばす。
「別に。なんでもねーよ」
『あー、わかった。好きな子の話でしょ。それで照れてたんだ』
周りの皆がブフッと吹き出した。無言で睨む。
「美羽は好きな奴いねーの?」
飛段の言葉に、美羽は首を横に振る。
『いないって。ほんとに』
「じゃあオレと付き合わない?」
ぶん殴るぞテメェ。
美羽は口元を抑えて笑った。
『ちょっとなぁ。飛段くんは浮気しそうだから』
「しないって。美羽が彼女なら一途になる」
『じゃあほんとに一途になってから言ってね』
軽くあしらう美羽。飛段はニヤッと笑った。
「じゃあー、サソリちゃんは?」
「ぶっ」
吹き出した。オレは飛段を思い切り睨みつける。
「余計なこと言ってんじゃねーよ」
「えー、いいじゃん。聞くだけ聞くだけ。なー美羽?」
美羽は数回目を瞬かせたあと、答えた。
『サソリくんは私とは住む世界が違うから。付き合うとか、そういうのは考えられないな』
彼女は冷静だった。デイダラは気遣わしげにオレを見ている。
なんでだ。なんでそんな可哀想な目で見られなきゃいけねえんだ。
オレは無言で席を立ち上がった。
かけてあった制服を回収する。
「行くぞ」
『えっ』
「もう気は済んだだろ。家帰れ。送るから」
オレは既に玄関に向かう。美羽は戸惑いながらもオレの後を素直についてくる。残された奴らには適当にやっとけ、と声かけた。
『ごめん。…また何か、怒らせちゃったかな』
美羽の言葉に、オレはなにも答えなかった。