二人のヒーロー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
勝敗は戦う前に決まっている、という言葉がある。
月下の女は強い。恐らく里や、本人が認識しているよりも格段に。
しかしオレが奴に負けるのかと問われれば答えは勿論、否である。
この2日、お互いの手の内はこれでもかという程晒しあった。オレの傀儡をここまでバラした人間は未だかつて存在しない。自己評価が低いが故に決して己の力を過信せず
、冷静に分析して対策を練った結果だろう。
しかし、だからといってオレが奴に倒されるイメージは微塵も湧かない。
2日連続寝ずの修行。睡眠時間をとらなかったのはオレに傀儡のメンテナンスをさせる時間を与えない、チャクラの回復をさせないという意図もあったのだろう。
しかしそんなものは単なる痛み分けにすぎない。生身の人間であれば間違いなく精魂を使い果たしている。反してオレは疲れを知らない傀儡の身体。いくら主力の傀儡のメンテナンスが不足していると言えど、こちらに分がある事実は変わらない。
星を宿したように澄んだ瞳でオレを見据える少女を眺めながら考える。この女に似合う死に様はどんなものだろう。
刺殺、絞殺、撲殺、焼殺、溺殺、銃殺、爆殺。
考え得る方法は五万とあるが、どれも駄目だ。微塵も美しくない。
とすればやはりーーー
「この世で一番美しく死ねる方法とはなんだか知っているか?」
長いまつ毛が二度、三度伏せられる。
繊細な動きに似合わない不躾な声色で、『なんですか、それ』と月下。
オレは懐から小瓶を取り出した。半透明の翠色は、暗闇の中妖美に輝いている。
「毒殺だ」
『……』
「痛みは一瞬、気づいた時にはあの世行き。一番合理的で、かつ死体を傷めずに回収することができる画期的な殺害方法だ」
馬鹿にも分かるように丁寧に説明してやったのに、月下は素知らぬ顔である。
『サソリさんが悪趣味だということだけはよくわかりました』
「随分な言われようだな。わざわざ死に様を事前に教えてやったのに」
月下は無表情で印を結んだ。丑の印?と疑問に思った次の瞬間には、桜色の唇が歌うように音を奏でる。
『水遁 大瀑布の術』
刹那、泉の水が叩き上がり一気に地面に流れ落ちる。咄嗟に避けようと足にチャクラを溜めると、おざなりになった手先から薬瓶がするりと滑り落ちた。
木に体を落ち着け目を見張っているオレに、月下は悪戯が見つかった子供の様に無邪気な顔で笑って見せる。
『得意ではないとは言いましたが、使えないとは言ってません』
オレの無言の圧も意に返さずさらりと答える月下。先程とは打って変わり艶かしい女の顔。
チッと舌を打つ。水遁使いという情報は皆無だった。同郷のイタチが知らぬわけがないだろう。ということは、意図的に隠したに違いない。あいつも大概面倒な男だ。
本来オレの磁遁は水遁に強い。しかし、今この場で使うあの女の水遁に限ってはオレにとって都合が悪すぎる。
『この泉には解毒効果がありますよね』
やはりそこまで計算尽くか。聡い女はモテねぇぞ、と嫌味の一つも言いたくなる。本気でキレられそうだから言わねぇけど。
新たに与えられた情報を処理しながら見下げた視線の先には、絹のように長い髪が柔らかく夜風に揺れている。月の光に照らされた幻想的な少女の姿はまるでこの世に舞い降りた純粋無垢な女神の様だ。
その夢に浮かされた光景を目の当たりにした時。雷が落ちたかのように、唐突に身体に甘い痺れが駆け巡った。
この美しい女を裏切り者として惨たらしく殺すのはあまりにも惜しい。それならばオレは、この女を自分の手中に収めてしまいたい。
胸が躍るようなこの高揚は3代目風影と対峙した時以来だ。奴もオレにとって唯一無二の最高の素材だった。
まさかこんな小娘に同じ情を抱く日が来ようとは。真水があっという間に沸騰し、爆発するようなこの感覚。
オレは舌舐めずりをしながら懐に指を潜ませた。巻物に触れる。相対させる傀儡を選ぶのにこんなに高鳴るのも久方ぶりだ。
毒が使えないのは不便だが、だからといって負ける気は勿論ない。もう既に、コイツの倒し方を100通りは思案した。少々手間はかかるが、目的遂行になんら支障はない。
「折角美しく殺してやろうと思ったのに、残念だ」
月下はふ、とわずかに口角を上げて笑った。絶望的な状況下でも、彼女はいつだって花が咲いたように笑う。
『己の死に様には興味ありませんから。忍びは生き様で魅せる生き物です』
オレは、この女が欲しい。
その劣情はこの僅かな時間の間にも膨らみ続ける邪悪な化け物のようだ。
暁という組織も、その目的も、ノルマも。もうどうでもいい。
オレの目には最早目の前の女以外映らなかった。
.