満月の夜
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「今日は楽しかった?」
『はい』
「そう、よかったね」
家に帰ると、彼がいつも通りの優しい笑みで出迎えてくれた。直ぐにご飯を作ります、とキッチンに向かおうとした私に、手伝うよ、と彼。
二人肩を並べて長い廊下を歩いた。
私は彼のことが別に嫌いなわけではない。どちらかというと好きな部類に入る。ただ、それが恋愛感情かと言われると、よくわからない。
というか、彼に違わず私はまだ人を好きになったことがない。好きになる、という感情を知らないという方が正しいのかもしれない。
「ごめんね。本当はもっと木ノ葉に行かせてあげたいんだけど。上がうるさくて」
上、というのは雷影様のことだろう。雷影様は用心深い性格だ。恐らく、木の葉から来た私のことをまだ信用していない。大丈夫ですよ、と私は答えた。
『とても良くしてもらってますから。これ以上望んだら罰があたります』
彼に対して、何ら不満はなかった。いつでも優しく、私を優先してくれる。伴侶としては申し分ない人だ。
彼は少しだけ、困ったように笑った。
「それならいいんだけど。退屈させてるかなと思ってさ。ほら、僕はあまり君の側にいられないから」
彼は雷影様の近親者とあって、それなりの任務を任されているようだった。忍びではない私は、内容までは教えてもらえないけれど。
毎日危険な任務をこなしている彼に、無用な心配をさせたくはない。彼を支えるのが妻である私の役目だ。
私はそっと彼の手を握った。彼が目を見張っている。
『それなら、今日は沢山お話ししてください』
「うん?」
『私は貴方のことをまだ良く知りません。だから、貴方のことを沢山教えて下さい』
彼の顔が朱に染まっていく。そんなに動揺させるような物言いをしたのかな、とこちらが少し焦ってしまった。
『すみません、何か失礼なこと言ってしまったでしょうか』
「いや…違うんだ」
片手で顔を覆いながら、嬉しくて、と彼は言った。
「君が僕に興味を持ってくれたのが初めてだったから。嬉しくて」
『……』
「ごめんね。僕のわがままで勝手にこちらに連れてきてしまって。本当は嫌だったんだろう?」
少しの沈黙の後、いえ、と答えた。
彼は足を止め、私の真正面に向き直る。
「僕と結婚してくれてありがとう」
『……』
「これから何があっても、僕が一生君を守るよ」
『……』
「だから僕にできることがあったら何でも言って。君に不自由はさせたくない」
甘い言葉を聞きながら、つい相手が言って欲しそうな言葉を探している自分に気付いてしまった。ここに嫁いでから、自分の本心がどこにあるのかわからなくなってしまった気がする。彼の妻である私に、自分の意思はもう必要ないのかもしれない。
少しだけ考えて、私は口を開いた。
『ありがとうございます。…千秋さん』
初めて私に名前を呼ばれた彼は、予想通りとても幸せそうに笑った。
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