生きるために
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側から見たら万能そうに見えても、時送りの能力は意外と複雑で厄介である。
時を動かしたい物質が生物か無生物か。無生物であればそれが何でできているのか。それを把握していないと上手く力が働かない。
デイダラとの戦闘で私が彼の爆発を防げたのは、あれが起爆粘土だと知っていたからだ。
無機物の動きを止めるのはそれほど難しいことではない。だからこそ、私はデイダラの能力を簡単に殺せた。
サソリさんは傀儡使いだと聞いている。しかし傀儡に詳しくない私はそれが何でできているかを知らない。目ぼしい材質で言えば木、鉄、土…それくらいしか思い浮かばないのに、どれに対応した力を使っても上手く傀儡の動きを殺せないでいた。
しかも、言葉通りサソリさんは本気で私を殺すつもりで攻撃を仕掛けてくる。本当に私が死んだらあの人リーダーに怒られるんじゃないだろうか。しかし理性的な話が通じる人でもない。サソリさんもデイダラも、私たちのような一般人と違って単純に人を殺すのが好きなのだろう。
サソリさんは傀儡を構えながら、しかしすっかり警戒を解いた顔で私を眺めている。
「…お前、」
『はい?』
「思った以上に弱いな」
思わず手に持っていたクナイを投げつけてしまった。しかし当然簡単に跳ね返される。
サソリさんは冷静にそういうところだぞ、と言った。
「感情が前に出過ぎてんだよ。もっと理性的に状況を判断しろ」
『サソリさんだって殺したい欲求が出過ぎて全然理性ないじゃないですか…』
「オレはいいんだよ。それをカバーできるだけの強さがあるからな」
『……』
無言の私に、サソリさんは余裕の笑みである。
「オレを殺したいってのはよく伝わるんだけどな。残念ながら力不足だ」
『…しょうがないじゃないですか。私の能力って、フォローアップがないと弱いんです』
どうしても集中すればするほど隙が出るし、相手が強ければ強いほどそう簡単に時間を動かさせてはもらえない。そもそも木の葉ではスリーマンセルを組むのが基本で、一人で任務はしたことがなかった。こんなところに投げ出されて、一人で戦わなければいけないことは想定の範囲外である。
そしてやはりチャクラがどうしても噛み合わない。今の私は上忍と名乗っていいのかすら怪しいレベルだった。
印をほどき、じんわりと汗ばんだ両手を眺める。
『うーん…やはり違和感が消えないんです。体が鈍ってるんでしょうか』
「それにしても限度があるだろ。今のお前じゃ下忍にさえ負けるぞ」
サソリさんは完全に戦意を喪失している。どうやら弱い人間には興味がないようだ。というか、サソリさんは出会った当初から今の今まで私に全く関心が無い。悔しいけれど、私と彼ではレベルが違いすぎる。
汗やら泥やらでぐちゃぐちゃの私に反して、サソリさんは汗一つかいていない。いくら私が弱くともサソリさんだってかなり動いていたのに。どうなっているんだろう。イケメンは汗をかかない能力でも持ち合わせているんだろうか。
気がつけば太陽はかなり傾き、辺りはオレンジに包まれている。サソリさんは使っていた傀儡を巻物にしまった。これを持って手合わせは終了である。
「オレは戻るぞ」
『戻るって…そういえば皆さん、どこで休んでるんですか?』
「各々適当だ。別に決まってねーよ」
やはり野宿らしい。ゲンナリしながら、そうですか、と答える。
ここは虫も野生動物も多そうだ。寝るにしても熟睡は困難だろう。一人は正直怖いけれど、それをサソリさんに伝えたところでどうにもならない。
仕方ない。もう人として尊厳をもって生活できることはないのだから。暁に拉致されたということはそういうことだ。
『私はもう少し修行してから戻ります。付き合ってくれてありがとうございました』
サソリさんは何も言わず、そのまま踵を返してしまった。その背中に改めて頭を下げて、私は再び修行に没頭する。
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