逢いたかった人
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朝起きた時、感じた。
そんなはずはないのに。確かに、感じた気がした。
最近千秋さんは6時には家を出ていき、帰りも遅い。買い物に外に出向くと、上忍が人々に紛れているのがわかる。屋敷の周りも、常に誰かが見張っている気配がした。
この国には確実に何かが起きている。しかし、忍びを辞めた私にできることは何もない。
あの日からも、千秋さんはいつも通りだった。朝起きればおはよう、と優しく笑い、キスをしてから任務に向かい、帰ってくればただいま、と私を抱きしめる。そして夜には必ず私を抱いた。
私はもう、避妊をしていなかった。でも行為を拒否することもない。
後ろめたかったのだ。千秋さんは私が薬を飲んでいることも、狐さんと会っていることも全て知っていた。それなのに、私のことを全く責めない。もし私があの日物盗りに遭わなかったらずっと言うつもりもなかったのだろう。
その事実がとんでもなく痛かった。彼はこんなにも私を一途に愛してくれているのに、私は彼を裏切ってばかりだ。どうしたら彼の気持ちに応えられるんだろう。いくら考えても答えは出なかった。ただ、彼を拒否することだけはしない。それだけは守ろうと心に決めた。私が持てる精一杯の誠意だった。
夜ご飯を終え、お風呂に入り、いつも通りの行為をする。
今日は殺した日だな、と思った。私の首元にかぶり付く歯が微かに震えている。
彼は優秀な忍びだ。でも、人を殺すことを好んではいない。こういう日、私はひたすら千秋さんの頭を撫でた。少しでも気持ちが楽になればと、彼の要求に全て従順に答える。
「…会いにいくのか」
繋がりながら、千秋さんは静かに言った。驚かなかった。やっぱり、彼には嘘は通用しないのだ。
はい、と答えた。千秋さんがじっと私を見下ろしている。
「行かないでほしい」
『……』
「言ったろ。相手は暁だ。何をされるかわからない」
私は彼の背中を抱きしめた。こんなに近くにいるのに、一番遠いところにいるような私の唯一の伴侶。
彼の温もりを、私は噛み締めた。
『必ず帰ってきます』
「……」
『絶対に帰ってくると約束します。これが最後なんです』
『行かせてください』
千秋さんは、何も言わなかった。
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