逢いたかった人
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「チッ、どこにいるんだよ時送りは!!」
デイダラが先ほどから粘土を次々に爆発させている。オレはヒルコの尾をゆっくりと揺らした。
「だからリーダーの指示待ちだっつってんだろ」
「そりゃーわかってるけど。見つからねぇもん探してんのイライラすんだよ、うん」
完全に同意である。しかし、指示が来ないものは致し方ない。
雷の国から火の国に登る道中。たまに襲ってくる忍びを拘束し拷問を与え、情報を得、そして殺す。その繰り返しである。組織にとってはそれなりに有力な情報もあったが、時送りに関しての情報は未だ皆無。
おかしな話だ。そんなに優秀な忍びであれば、どこかしこに情報が散らばっていてもおかしくないはずなのに。
デイダラはつまらなそうに舌を打ちながらまた一つ粘土を放り投げた。追って爆発する。奴ほど潜入任務に向いていない忍びもそうそういないだろう。
「本当にいんのかねぇ。時を操れる忍びなんて、うん」
「さぁな」
信じがたい話ではある。時はいつも目に見えず、一定の速さで過ぎ去ってしまう不可逆なもの。
例えどんなにあの日に戻りたいと願っても、決して戻れることはない。それが時の流れというものだ。
それを動かせる忍び、か。存在自体が禁術のようなものである。里でも大層嫌われているに違いない。
「そういえばさー」
デイダラが思い出したように呟いた。
「月下ちゃんってどんな子?」
またその話か。オレはヒルコの中で舌を打った。
「何が聞きてェんだよ」
「いや、ただの興味だよ。オイラ顔見られなかったし、うん」
デイダラはあの女を月下ちゃん、と呼んで勝手に親しみを覚えているらしい。
「別に普通だ。何の特徴もない女」
「年齢は?」
「19って言ってたか」
「オイラと同じ歳じゃん」
見たかったなー、とデイダラ。オレは鼻を鳴らした。
「見てどうすんだよ。既婚だぞ」
「可愛かったらアジトに連れてくのもありじゃん?娼婦してもらおうぜ」
「全然なしだ。女なんていたら鬱陶しいだけだろ」
小南に怒られるぞ、とデイダラ。別にそういう意味を含んで言ったわけではない。
その時である。頭にピンと糸の張るような感覚。デイダラと顔を見合わせる。奴もまた感じたようだった。
「聞こえるか、サソリ、デイダラ」
「おっせーよリーダー。待ちくたびれたぞ、うん」
デイダラが早速文句を言っている。リーダーからの伝令は、いつもこうして突然始まる。
「遅くなってすまなかった。イタチとやっと連絡が取れてな」
イタチは木ノ葉出身である。時送りに関して知っているのはイタチだったが、生憎長期任務中でなかなか連絡が取れなかったらしい。
「聞こえますか。サソリさん」
「…ああ、イタチか」
お久しぶりです、とイタチ。相変わらず若いのに礼儀正しい奴である。誰かさんと違って。
「雲に木ノ葉出身の男はいなかった。何か間違ってるんじゃないか?」
「それなんですが…」
イタチは一息ついてから、静かな声で言った。
「時送りは、女性です」
「…あ?」
「すみません。情報がうまく伝わっていなかったようで。時送りは間違いなく女性です」
女?とデイダラが呟く。イタチははい、と言った。
「木ノ葉にいた時、何度か任務を共にしたことがあります。時送りは、穏やかな性格をした女性でした」
「……」
デイダラがオレの顔を見る。奴が言わんとしていることはわかっていた。
「なにかの間違いじゃないか」
「いいえ、間違いありません。時送りは非常に緻密なチャクラコントロールをする優秀な女性の忍びです」
「……」
頭にあの女の顔が浮かぶ。狐さん、と嬉しそうにオレを呼ぶ声。
あの女が、オレたちが探している時送りだというのか。オレとしたことが、奴が忍びだとは全く気づかなかった。というか、優秀な忍びに全く見えなかったアイツ自身に絶対に問題がある。
「月下ちゃんか…」
デイダラが静かに呟いた。オレはこめかみを抑えて感覚を集中させる。
「他にいないのか」
「はい?」
「時送りの能力を持つ忍びは他にいねぇのかと聞いている」
「彼女の親類は全て、ダンゾウ派の根の者が極秘に始末しています」
「……」
「時送りは本来、穏やかな一族で誰かに好んで危害を加えることはありません。しかし能力が里の脅威と判断され、そして消されました」
「……」
「彼女は3代目火影が唯一守れた時送りだと言われています。故に、この世に時送りの能力を持つのは彼女しかいません」
デイダラが何故か気遣わし気にオレを見ていた。それを無視して承知した、と答える。
「それなら目星はついている。ひっ捕まえてアジトに連れて行きゃいいんだろ」
「いいか、貴重な能力を持った忍びだ。決して殺すなよ。お前らは気が短いのが玉に瑕だからな」
リーダーである。だったらオレたちをこんなに待たせるなよと文句の一つも言ってやりたいところだが、オレは上に対してそんなに失礼な物言いはしない。
挨拶することなく通信は途切れた。さて、とオレは方向を変える。
「そうと決まったら行くぞ」
「うん…」
何故かデイダラは浮かない表情である。なんだよ、とオレ。
「いや…なんかなぁ。まさか月下ちゃんだったとは」
「オレも全然気付かなかった。ボケボケした女だったぞ。とても忍びには思えん」
しかし、ほぼ間違いなくアイツが時送りだ。もしやあの鈍い感じは演技なのだろうか。だとしたら逆に物凄いやつなのかもしれない。
「いいのか?」
デイダラは言った。なにが?と答える。
「月下ちゃんアジトに連れてったら何されるかわかんねぇぞ、うん」
「そうだな」
「そうだなって…」
薄情だな、旦那は。そう言ったデイダラの言葉は、聞こえないふりをした。
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