番外編
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ジョンさん本日はお集まり頂きありがとうございます」
「ヌンヌヌ」
ドラルク城の一室で一人と1匹、向かい合って座っていた。初め花子は正座をして畏まった風に姿勢を正していたが、『やっぱ足痺れるから崩していい?』と早々に普通に座り直していた。
「今日は相談があってね、ジョンだけに聞いてほしくて来てもらったんだけど」
「ヌヌ」
「ドラルクの誕生日に何をあげたらいいのか相談したくて」
まだドラルクが眠っている時刻にわざわざジョンのみに声をかけたのはこういう訳であった。
「学生の内はお金も無かったし絵を描いたりバースデーカード送ったりしたけど、もう社会人だしね。何かプレゼントしたいなと思ったんだけど、何を贈れば良いのかさっぱり分かんなくて」
「ヌー」
花子は今まで誰かにプレゼントを贈ったことが一度もなかった。家族はあれだし、友人関係も希薄で、初めてきちんと友人と呼べる相手がやっとできたのだ。学生の頃はまだ迷いなく絵を描き、手作りの凝ったカードを添えて贈ることができた。実際ドラルクは喜んでくれた。でも今や花子もしっかり働き、お給金も頂いている。なれば、何かお祝いの品を用意したいと思うのは自然だった。
「いつもお世話になってるし、こっちが貰うばっかりだからお返ししたいんだけどね」
おいしい温かい食事も、遊んでくれることも、いつもこちらを気遣ってくれることにもとても感謝している。それをどうにか形にしたいのだが、花子には検討もつかなかった。
「私にもう少しセンスとかがあればスマートにプレゼントくらい用意できるんだけど……」
ついうつむきがちになってしまえば、ジョンが花子の足に手を置き『ヌンヌン』と首を振った。そんなことない、気にするなと言っているようだった。花子もそれを見て笑うとジョンを優しく抱き上げた。
「ありがとうジョン。でも一体何にしたらいいと思う?」
問題はそこである。
ジョンも真剣にヌンヌンと考えてくれている。花子もいろいろと検索してみたりしたが、調べれば調べるほど分からなくなってしまったのでこうして相談にのってもらっている次第である。
一人と一匹はうんうん頭を悩ませていたが、ジョンがぽんぽんと花子の腕を叩いた。
「どうしたのジョン」
「ヌンヌ!ヌヌッヌ、ヌンヌヌ」
ジョンが自分の胸を叩いてジェスチャーを交えて一生懸命伝えている。じっと見つめて意味を汲み取ろうとする。
「ええっと、つまり、気持ちが大事ってこと……?」
「ヌー!」
そうだとジョンが頷く。
「気持ち……気持ちかぁ。確かにそうかもしれないけど……」
ドラルクに感謝を伝えたい、お祝いしたい、というのがメインだ。でもあげるならちゃんとしたものを、というのも捨てきれない。
再び思考の渦に巻き込まれてしまった花子に、ジョンがあることに気づいた。そろそろ主人の起床時間が近づいているのではないかと。花子に伝えようと声を上げようとした所で扉の開く音がした。
「あれ、花子にジョン。こんなところで二人で何してるの?」
「わぁーっ!しょーい!」
「わっしょい?」
突然のドラルクの登場に花子は盛大に奇声を上げて驚いた。ついでにその声にジョンも驚いて飛び上がった。その様子にドラルクは怪訝な表情を浮かべた。
「ど、ドラルク!おはようございます……。え?早いね?」
「いつも通りの時間だけど。何、なんか変じゃない?」
「何にも!全っ然これっぽっちも変じゃないよ!」
「いや、その慌て方がすでに変だろう」
「もー、そんなことないよ。ドラルクは疑り深いんだから。二人で女子トークしてただけだよね?ジョン」
「ヌッ!?ヌ、ヌンヌン!」
「ジョンは女子じゃないぞ」
花子の下手くそすぎる隠し方にジョンは面食らいながらも必死に頷いた。心なしか女の子のようにしなをつくってみせている。ありがとうジョン。誤魔化すの下手すぎてごめんね。花子は内心涙しながらジョンに謝った。
「ほらほらー。そんなことより今日は梨鉄の99年縛りの続きやる約束でしょ」
「うん、まあそうだけど。なんか納得いかないな……」
「いいから!気にしないで!」
ぐいぐいとドラルクの背中を押して部屋から退出する。結局プレゼントを何にするか決まらず、その日は梨鉄を存分にやりこんで終わった。
*****
誕生日前日。
当日はドラルクが家族でお祝いをするというので前日に花子は城に訪れていた。あれから花子はジョンと相談する間もなく、花子は自分で選んできた。
ドラルクと顔を合わせるなり、花子は彼に小さな紙袋を手渡した。
「ドラルクお誕生日おめでとう!これ日頃の感謝の気持ちです!」
勢い良く付きだされた花子の両手には小ぶりな上品なデザインの紙袋が下がっている。眼前に付きだされたそれにドラルクは面食らっていた。今まで彼女からお祝いされたことはあった。だが、いつもと違ってどこか緊張感を漂わせていたので驚いてしまった。
「あ、ああ……ありがとう」
花子から紙袋を受け取れば、そわそわと目線をあちらこちらにやりながら、空になった手を遊ばせている。一体全体どうしたというのか。
「家族とお祝いするだろうから前日になっちゃうけど。ええと、その、私いつもドラルクには貰ってばかりだし、私からも何かプレゼントしたくて……」
私何言っているんだ?と花子は半ば混乱していた。
そんな花子の様子を注視していたドラルクはもらった袋の中を覗く。
「開けて見てもいいかい?」
「う、うん。もちろん。どうぞ……」
そっと中に入っていた小さな箱を取り出す。リボンのついた包装紙を丁寧に開封し、現れた箱の蓋を取る。中にはカフスボタンが入っていた。黒い光沢のある艶やかな石が嵌め込まれたカフスだ。
「いろいろ見て、何にしようか迷ったんだけどたまたまお店で見かけたこれがすごくいいなって気に入ったの。きっとドラルクに似合うだろうと思って」
「……私のために選んでくれたのか」
「そうだよ」
所在なさげにしていた花子の眼がドラルクを捕らえる。彼女なりに調べて、何を贈れば良いのかあれこれと探して悩んでくれたのだろう。他の誰でもない、自分の事を想って。それだけでこのカフスボタンが何よりも特別な物のように感じた。
彼女はいつも自分ばかり貰ってばかりと言っていたが、そんなことはない。物や行為だけではない。こちらも花子からたくさん貰っている。お互い様なのだ。
「その石、魔除けの効果があるらしいよ」
「吸血鬼である私に魔除けの石を贈るのか」
「ほら、デカイ蚊とか蛾とかから守ってくれるよ」
「虫除けか!」
カフスを手にしてみると艶々とした深い黒が光に反射して輝いた。
「ありがとう花子。嬉しいよ」
気持ちを乗せて言葉にすれば花子はぱっと表情を綻ばせた。思わず手が伸びてその頭を撫でてしまう。それすらも嬉しいというのを隠さずに受け入れるのだからたまらない。
花子が徐にドラルクの撫でていた手を取り、両手で包み込まれた。
「また明日言うだろうけど……誕生日おめでとうドラルク。これからもよろしくね」
「うん。ありがとう花子。こちらこそよろしく」
日向のようなやわらかくあたたかい空気が部屋に満たされている。そんな二人の様子をジョンはヌヒヒと笑って見守っていた。
Happy Birthday!Draluc!
2021.11.28
1/2ページ