原作中
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新たにロウさんとマルティナさんという頼もしい仲間が増え、旅の目的も虹色の枝探しからオーブ探しへと変わった。
しかし、闇雲に探していても見つからないからと一先ず情報収集をするために外海へと出ることに。
外海への水門はソルティコという町にあるそうで、なんとロウさんはそこの領主ジエーゴさんと知り合いらしい。
トントン拍子で次の目的地が決まり、船を停泊させている場所まで戻ることになったのだが。
どうにもシルビアさんの様子がおかしい。
いつもは明るく賑やかに話に参加してくるのだが、恐らくソルティコという名前が出てきてからぱたりと輪に加わらなくなった。
イレブンさんのルーラで船着き場の近くまで移動して、
船までの道中それとなく彼の様子を窺っていたのだが、やはり顔が曇っているように見える。
「シルビアさん。」
隣へと歩いていき声をかければ、はっとしてこちらへと顔を向ける。
私が隣に来たのも気づいていないようだった。
「大丈夫ですか?具合でも悪いんじゃ……。」
「あら!どうして?アタシなら全然平気よ!どこも悪くななんかないわ。」
「でも何だか元気がないように見えたんですけど。」
「そんなことないわよ!んも~花子ちゃんったら心配性ね。」
つん、とからかうように人差し指でほっぺたを押されてはぐらかされてしまった。
本人が大丈夫だと言っているし、あんまりしつこくしても悪いからこれ以上は何も触れないほうが良さそうだ。
「シルビアさんが大丈夫なら良いんです。ちょっと遅れちゃいましたね、急ぎましょう。」
「ええ……。」
みんなが歩いている列から少し離れてしまったので早めに歩いていく。
ちらっと確認してみたが今は普段と変わらないように見えた。
シルビアさんの事だからうまく隠しているだけかもしれないけれど。
*****
海路を行くこと数日、ソルティコの町に繋がるソルティアナ海岸に着いた。
きれいな砂浜に青い海。所々に魔物は見受けられるが非常に美しい光景である。
「私、海のない所で育ちましたのでやはりこういった景色はめずらしくて、なんだか嬉しくなります。」
「私もこんなきれいな海と砂浜なんて滅多にお目にかかれないので、テンション上がりますねー。」
うきうきとした様子のセーニャさんに相槌をうつ。
確かダーハルーネでも同じような事を姉妹で言っていたな。
その時ベロニカさんが本に書いてあった海の解説がデタラメだったと怒っていたっけ。
そんな懐かしさも感じつつ、ソルティコまでの道を知っているロウさんを先頭に歩いている。
白と黄色の花が丘一面に咲いており、海といい砂浜といい、ここ一体はきれいなもので囲まれているようだ。
道中、緑色の大きなスライムと鎧を着た騎士のような魔物が隣り合って仲良く散歩していた。
あれも魔物らしくスライムナイトというそうな。そのまんまな名前だ。
しかし、お互いに歩幅を合わせて歩いていたり、スライムに跨がってぽよぽよと飛んでいるのは見ていてなんとも微笑ましい。
魔物だから油断はできないけれど、特に襲ってくる気配もないのでこちらも武器を取ることなく進んでいく。
「花子はああいう手合の魔物に弱いよな。」
スライムナイトがちょこちょこと歩いているのをガン見しているのがバレたのかカミュさんにつっこまれた。
頬が緩んでるぞと指摘されてしまった。
思わず両頬に手を当ててぐにぐにと揉んでしまうが恐らく効果はないだろう。
「さっきのだいおうキッズのこともニヤニヤしながら見てたしな。」
「うっ、ニヤニヤってそんな怪しい感じでは……。
だって、仕方ないじゃないですか!かわいらしい見た目の魔物には弱いんですよ。」
「確かに見た目がかわいくて戦いづらい魔物もいるわね。」
マルティナさんも同意してくれる。
魔物といっても千差万別でそれはもう見た目からして恐ろしいものやら
やたらと大きな奴とか、はたまた小さくてふわふわしてるかわいらしいものまでたくさんいる。
だからつい現代でいう犬や猫の動画を見て、かわいい!と思うような感覚で見てしまうことがあるのだ。
―とはいえ、相手は時に生死を争う魔物である。
決して気を緩ませてはいけないと常々肝に命じている。
「あと花子はよ、そういうかわいい系の魔物倒した時に残念そうというか痛ましいような顔するのやめろよな。すげぇやりづらい。」
「いやあ、分かっていてもつい顔に出ちゃってるんですよね……。すみません、以後気をつけます。」
「花子は案外分かりやすいものね。私も同じだから気持ちは分かるわ。」
ここ数日の間にすっかり打ち解けたマルティナさんが、何かを思い出したのかクスクスと笑っている。
初めはデルカダールのお姫さまだと聞いて、どういう風に接したらいいのかとか失礼がないようにしないといけないと思っていたのだが、マルティナさんは気さくでとても優しかった。
今まで友人関係が希薄だったからこれからは同じく旅を共にすることだし、仲良くしてほしいとも言われた。
こちらとしては恐縮してしまいそうなことだが仲良くできるというのは大歓迎だ。
その後、どの辺の魔物がかわいいと思うのかそうでないかのラインをカミュさんとマルティナさんと議論しながら、歩いているとすぐにソルティコの町に着いた。
入り口には大きな門がどっしりと構えていて、その先にはこれまた立派な橋が掛かっていた。
いざ、その橋を渡ろうとしていたその時の事だ。
「あ!アタシちょっと花摘みしてくるわ。
あっちにキレイな花畑があったのよ~。町の外で待ってるから終わったら呼んでね!」
突然シルビアさんが謎のお花を摘んでくる宣言をしたかと思えば、町に背を向けてスキップをしながら去っていってしまった。
あまりにも急な方向転換だったので口を挟む間もなく、私たちは呆気にとられてシルビアさんを見送った。
「いったいどうしたのかしら。シルビアさんったら急に……。」
ベロニカさんが不思議そうに言う。本当にどうしてしまったのだろうか。
深く考える前にロウさんが他のみんなでジエーゴさんに話をしに行こうと促したので、私も一先ず置いておき町に入ることにした。
中に入ってからイレブンさんとロウさんがジエーゴさんのお屋敷に、残された私たちは各自情報収集をすることになった。
ざっと見ただけだがソルティコはとてもきれいな所だった。
建物は白で統一されており、町の奥はビーチになっていて砂浜とエメラルドに輝く海が広がっている。
所々に桃色や白い貝殻が落ちており、さらさらの白い砂の地面を引き立てていた。
観光地というだけあり沢山の観光客がのんびりと過ごしていて、なんとデルカダールの兵士だという人も休みに訪れていた。
ロウさんからソルティコは騎士を育成している町だと聞いていたが、なるほど至るところに青い騎士の制服を着た人たちが警備をしたり、稽古をしたりしていた。
マルティナさんもデルカダールの兵の訓練地でもあると言っていた。
リゾート地でもあり、修行の場でもあったりといろんな面で栄えている町だ。
一通り見て回ったところで同じく聞き込みをしていたカミュさんと出会した。
お互い似たような情報を手に入れており、話は雑談に変わり、それから途中で別れたシルビアさんの話になった。
「シルビアのおっさん、花摘みに行くって言ったきり戻ってこねえな。
いつもならこんなステキな町に住んでみたーいなんて言いそうなのによ。なんか怪しいぜ。」
「そうですね……。ここに来る前から心ここにあらずといった感じでしたし。
気にはなっていたんですが、それとなく聞いてもはぐらかされちゃって。」
「まあ誰にでも言いたくないことや秘密の一つや二つあるだろうからな。」
「―もしかしたらこの町に何かしら特別な思いがあるのかもしれませんね。」
「花子は長くシルビアのおっさんと旅してるんだろ?ソルティコには初めて来たのか?」
「はい、初めて来ました。この辺り自体来たことなかったので……。」
「そうか……。」
世界を渡り歩く旅を長らく続けているが、この地に来るのは初めてだった。
もちろんまだまだ行ったことのない場所はたくさんある。
しかし、なんとなくだけれどこれまでのシルビアさんの態度を見ていたら敢えて避けていたのではと思ってしまう。
憶測ではあるがシルビアさんはソルティコの町を知っているのであろう。
そして、この地に何か縁があるのではないか……。
ここまで予想はするが確かめようとかそういうことは考えてはいない。
きっとシルビアさんが話したくなったら私たちはその時に聞けばいいのだ。
それはそうとして、一人きりでいるシルビアさんのことも気にかかっていた。
もう町は見たし、話も聞けたし、今度はシルビアさんの所へ行こうかと考える。
「カミュさん、すみません。私、シルビアさんの所へ行ってきますね。」
「一人で大丈夫か。」
迷ったがやっぱり心配であるので様子を見に行くことにした。
私が気にしていることを見透かしているのか、カミュさんは短く尋ねた。
「大丈夫ですよ。そんなに離れた所へは行っていないと思いますので。ありがとうございます。」
「分かった、みんなにはオレから言っておく。気をつけて行ってこいよ。」
「はい。ありがとうございます。」
ふらりと手を振るカミュさんと別れて、再び大きな町の門を潜り橋を渡る。
入り口に着いて辺りを見渡して、さてどこにいるのかと歩き出す。
魔物に襲われないように充分に気をつけながら周囲を捜索していると、ほどなくしてその姿は見つかった。
丘の端っこのほうで、何をするでもなくぼうっと景色を眺めていた。
近くまで来て分かったが、ちょうどここからはソルティコの町がよく見える。
「シルビアさん。」
声をかければ驚いたように彼は振り返った。
「えっ!ヤダ、花子ちゃんったらどうしたの!?」
「シルビアさんのことが気になって来てしまいました。
あ、でもみなさんにはちゃんと伝えてから来ましたので。」
「そういうことじゃなくて!一人で町の外に出てきたことを言ってるの!危ないじゃないの!!」
「カミュさんにも一人で大丈夫かって言われましたけど、本当に平気ですよ。
この辺りの魔物は自ら襲ってくるやつはいなさそうでしたし。
それにこれまでいっぱい経験値積んでますので、結構逃げるのとか得意ですから!」
自信満々に言うことではないが、逃げることもまた大事な生存競争に勝つための作戦である。
シルビアさんは軽くため息をつくと「それでも心配だから一人で外はうろつかないでね」と真面目な顔で言った。
もちろん前に約束した通り滅多な事では魔物のいる場所を一人でうろつくなんてことはしていない。今回は特別である。
「でも、そうね。花子ちゃんはアタシのことが心配で出てきちゃったのよね。ごめんなさい。」
「シルビアさんが謝ることでは……!えっと、その……。」
心配だからと飛び出してきたはいいものの、一体どんな話をすれば良いのだろう。
大丈夫か、なんてこの前も聞いたし、きっとシルビアさんは大丈夫だと答えるに違いない。
こんな時彼のように気のきいたこと一つ言えないのが悔やまれる。
なにか、何か話さないと……。
内心焦りまくっている中で、憂いげに町を見ていたシルビアさんの横顔が思い出される。
辛い?いや、これはどちらかと言えば切ない、の方が強い気がする。
「シルビアさん!」
「きゃっ!花子ちゃんどうしたの?」
迷いに迷ったあげく、いきなりシルビアさんの手を掴めば、私よりおとめな反応をされて少々複雑な気持ちになる。
私の女子力とは。
脳裏にそんなことが一瞬過ったが、いやいや、今はそんなことを考えてる場合ではない。
「お花摘みしましょう!」
「ええ?いきなりどうしちゃったの?」
「元々シルビアさんお花摘みに来たんですよね。それならいっしょにやりましょうよ!」
「確かにそう言ったけど……。」
お花を摘みに行くなんて嘘だってことは重々承知している。
でも何となくだがこのままではいけないと、ほとんど衝動的に誘っていた。
少なくともここでじっと立っているよりは幾何かはマシだろうと。
「いいじゃないですか。たまには童心に返ってみるのも悪くないですよ。」
シルビアさんの手を引くと、抵抗もなくすんなりと着いてきてくれた。
そのまま丘を歩いて、花の咲いている場所を目指して行く。
「……そうね。悪くないかもね。」
ぽつりと静かに呟くように少し後ろの方から聞こえてきた声に少し安堵する。
すぐ傍で一面に咲き誇っている花畑に座り込む。
これだけあれば花冠とかいろいろ作れそうだと思い立ち、シルビアさんと二人で時折会話を挟みながら黙々と作っていく。
「ねぇ、花子ちゃん。」
「なんですかシルビアさん。」
「アタシの様子がおかしいこと。何も聞かないのね。」
くるりと黄色の花を指で弄ばせて言う。
その目線はこちらを向いていなかった。
その横顔を見てから私は冠を作る手を休ませずにその問いかけに答えた。
「そうですね。シルビアさんがいつか話してもいいかなって思う時が来たら、私はいつでも聞きますよ。
ただ、私が今言いつけを守らずここに来たのは、そんな悲しい顔をしたシルビアさんを一人にしたくなかったからです。」
黄色と白の花を鮮やかな緑色の葉と茎に編み込んでいく。
ソルティコの風景に似合うかわいらしくきれいな花だ。
「私が悲しい時や寂しい時にシルビアさんが笑わせてくれて傍にいてくれたように、私も少しでも力になれたらって思ったんです。
シルビアさんには明るく元気に笑っていてほしいから。」
繰り返し繰り返し編んでいき、最後に端と端を繋げて花冠が完成した。
それを前に座るシルビアさんの頭へと被せてあげる。
思った通り黒みがかった髪色に白と黄色の花冠はよく映えた。
「どうか一人きりで思い悩まないで下さい。
私にできることは少ないですが、隣にいることはできますから。」
努めて明るく、それでいて真面目に言えばシルビアさんの瞳が丸く見開かれた。
「そう……そうね……。ありがとう花子ちゃん。」
先程とは違ってやわらかい表情になって、それを見て私も胸の内がぽっとあたたかくなるのが分かった。
安心にも似た気持ちが心を満たしていく。やっぱりシルビアさんには笑顔がよく似合う。
「それにしても花子ちゃん、とっても器用なのね。すごいわ!」
「そうですか?そんなに難しいものではないですけど。」
一度被せていた花冠を降ろして手に取ってシルビアさんはしげしげと感心したように眺めている。
そしてまた頭に被ってみせてくれた。
「似合う?」
「はい、とても。素敵ですよ。」
「ふふ、ありがとう。そうだわ!花子ちゃんにもお返しに何か作ってあげる!」
嬉しそうに笑ってから、意気揚々と花を手折り始めた。
ようやく元のシルビアさんの雰囲気に戻ったことに改めてほっとして、それなら私もといっしょに花飾りを作った。
イレブンさん達が私達の所へ探しに来るまで花摘は続けられ、お互いの頭に冠、両腕には見事なブレスレットまで完成させた。
思いの外熱中してしまい、久しぶりに童心にかえったようで楽しかったのもある。
「マジで花摘してたのかよ……。」
とカミュさんには呆れられてしまったのだが、シルビアさんはいつも通りになってくれたので良かったのである。
20.2.8