ふたりの箱庭
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「おばあちゃん。私、変なのかな」
昔ながらの日本家屋、そこの縁側に腰掛けて足をぶらつかせている少女が問いかけた。年の頃は小学校低学年といったところだろうか。まだまだその行動には幼さが目立っている。つづきになっている室内では少女の祖母が縫い物をしていた。その手を止めることなく視線を孫へちらりと寄越してから言葉を紡ぐ。
「また、お友達にからかわれたのかい?」
「友達じゃないよ、あんなやつ。私のこと幽霊女だって気持ち悪いって意地悪してくるんだもの」
「おやまあ。それはひどいねぇ」
「ま!私もやり返してやったけどね」
少女はそう言って得意気に拳を握る。何をしたのかなんて聞かなくても祖母は理解できたようだ。やれやれどちらも仕方ない子だと頭を振る。
「花子の目と耳は人より視えすぎるし、よく聴こえすぎてしまうからね。みんなにはそれが分からないから恐いんだよ」
「……そんなこと、私だってわかってるよ」
彼女には普通の人には見えない、この世の者でない姿が見えていた。幼さ故にその事をぽろりと口外してしまうことがあり、よくそれで同じ年の子どもたちにからかわれていた。
「花子。その目と耳は特別なんだよ。誰にだってもてるものじゃない」
「こんなの特別でもなんでもないよ。私も普通が良かった……」
言ったきり花子はうつむき、すっかり気を落としてしまったようだ。祖母はそんな彼女の背中を見て、少しだけ哀れに思ってしまった。あの子が望まなくとも目玉も耳も取り替えられないし、この先周囲から拒絶されたり、見たくないおぞましいものもとらえてしまうだろう。それでも生きていくしかないのだ。
「よし、できた」
ぱちんと糸切鋏が断つ音がして花子は顔を上げる。おいで、と祖母に手招きされて傍に寄った。手渡されたのは彼女が今日来ていたシャツだ。先程例のからかってきた子どもとケンカして袖を破いてしまったのだ。綺麗に繕われたそれは破れたとは思えない程の仕上がりだ。
「ありがとう。おばあちゃん」
顔を明るくさせて礼を言う花子の頭を撫でた。
「いいかい。花子。いつかその目と耳が役に立つ時がくるよ。花子の事も大事に思ってくれる人が必ず現れる」
「……本当?」
「ああ、本当だとも」
「わかった」
するすると頭を撫でて、気持ち良さそうに受け入れている花子を見て、願わずにはいられなかった。どうか。どうかこの子が不幸せになりませんように、と。
*****
ばしん。
小気味よい音が響いて、花子は突然後頭部に走った衝撃に頭が覚醒する。
「昼間から惰眠を貪るとは、貴様も良い身分になったものだな」
重い瞼を開けた先にいたのは不機嫌さを丸出しにさせた男だった。名は真下悟。花子の友人であり、此処、真下探偵事務所に勤める同僚でもある。一応この事務所では彼が所長なので、花子の上司であるが元々は友人関係なのでいまいちそうは見られない。なので、ついうたた寝もしてしまうというものだ。いや、決してなめているわけではない、と花子は口に出さずに弁明する。
「いやあ、ごめんごめん。今日はあんまりにも平和だからその幸せに浸っていたら、ついね」
平日のうららかな午後。普通の勤め人なら食後の眠気と怠さと戦いながらあくせくと働いているのだろうが、真下と花子は探偵という些か特殊な職種であった。依頼があれば途端に忙しくなるのだが今は丁度手が空いている。なので言ってしまえば暇なのであった。フンと鼻をならした真下は花子の向かいのソファに腰掛けて足を組む。その手には新聞紙が広げられている。人の頭を景気よくどついた凶器はそれか。花子はかわいそうな後頭部をさすりながら恨めしい視線を送った。悲しいかな、この男にはしょっちゅうこんな扱いをされているので花子はとうに慣れきっている。
「飯のタネが無けりゃどうもならんというのに。暢気なもんだ」
「そりゃあそうだけども……。だってこの前の依頼だってロクなもんじゃなかったじゃん」
真下と花子の探偵事務所にはかなり特殊な案件が転がり込んでくる。もちろん普通の探偵の仕事もある。浮気やいじめなどの素行調査に人あるいはペットの捜索などがそうだ。しかし、それらより多いのが心霊が関わった案件である。
真下と花子は数ヶ月前にとある怪異による事件に巻き込まれた。それがきっかけで真下はこの探偵事務所を起こしたのである。その怪異事件の折に知り合った仲間から心霊絡みの依頼を請け負うことが多々あり、いくつか解決していく内にひっそりと何処からか、あの事務所は他じゃ引き受けてくれない霊的な仕事もやってくれる、と噂が広まってしまったのだ。
別にそれは構わないのだが、こういう仕事は高確率で後味の悪い事が多い。あまり気分が良い内容ではないので花子は少し嫌だなと思っていた。あくまで仕事なので『少し』だけだが嫌な気持ちになるのは事実である。
「ああ、あの馬鹿共の墓荒らしの件か」
ぺらりと新聞紙を捲り、さして興味もなさそうに真下が言う。
そうだよと花子も相槌を打ちつつ先日片付けた案件を思い返す。
*****
某市にある墓地は地元では有名な心霊スポットとなっている。
ある日管理していた所が潰れて、そこにあった墓はそれぞれ故人の親族などが他の所へと移動させて、残った跡地はただの廃墟となっていた。しかし、中には墓を世話する者が居なくなってしまい、そのまま放置された墓もいくつか残ってしまった。それもやむ無しと土地の所有者が墓ごと更地にしようと試みたがその度に怪奇現象が起こってしまい手をつけられず、長らく放置される事となってしまう。
そんな話がいつしかあれやこれやと尾ひれがついて、あの墓地には霊が出るらしいとすっかり心霊スポットへと変わった。噂を話すだけでなく実際に訪れてしまう者もいて、実際に霊を見た!という本当か嘘か分からない話に踊らされ、やれ肝試しだと足を運ぶ若者が多々見られたのだ。
そこで登場するのが此度の依頼人のグループだ。男友達3人と連れ立って遊び半分で墓地に足を踏み入れた。灯りは持参した懐中電灯だけ。手入れされずに朽ち果てた暗い墓地は雰囲気たっぷりで初めははしゃいでいた若者たちもこれには完全に気圧されていた。もう帰ろうと1人が言うと、ビビってんのか、ともう1人が自身の恐怖心を隠そうと声を荒らげる。一通り見てまわったが幽霊なんて何処にもいなかった。何だ大したことないじゃないか、そう勢いづいた若者の1人が傍にあった墓石から供えてあった万年筆を取った。故人の持ち物であっただろうそれは薄汚れてはいたが、まだ使えそうな見目をしていた。肝試しにきた記念品だと何も考えずにその男は持ち帰った。それが最悪の始まりだとは知らずに。
その時は何事も無かったが、墓地より帰ってから不可解な現象が始まった。万年筆を盗った男の枕元に毎晩見知らぬ男が立って『カエセ、カエセ』とぶつぶつ呟き続けるのだそうだ。他の2人にはそんな現象は起こらないそうなのだが、常に誰かに見られているような気配がし、奇妙な物音がするという。心身共に疲弊し、擦りきれそうな日々を過ごしていく中で真下探偵事務所の噂を聞きつけて藁にも縋る思いで扉を叩いたのだった。
*****
事務所に訪れたその件の遺品を持ち帰った不届き者…田中から一通り事情を聞いて、花子は思わず隣に座る真下の顔色を窺った。絶対酷い顔をしているんだろうなと思ったら案の定、2度と戻らないんじゃないかと思うくらいに眉間に深いシワが刻まれていた。視線だけで人を殺せそうな勢いに花子は、あちゃあと心の中で嘆息する。
「自業自得だろ。帰れ」
「分かってたけど容赦がない」
真下が吐き捨てるように言うと田中の顔色が更に悪くなった。
「そんな……!頼むよ!他に頼れるところもないんだって!」
「知るか。そもそも不法侵入に窃盗といくつ重ねてると思ってやがる。怪異絡みじゃなくとも充分にやらかしているだろう。俺が警察を辞めてて命拾いしたな」
田中はぐうの音も出ないようだった。当たり前である。花子もこんな不謹慎な大馬鹿野郎放っておきたいのはやまやまだが、彼はあくまで依頼人である。少し、いやかなり面倒だがお金になるのだから仕方がない。これも此処のー『探偵事務所』の仕事なのだ。
「真下くん。非常に気持ちは分かるけどね、これも仕事だから」
花子がどうどうと宥めると彼女に鋭い視線を送ってから盛大に舌打ちをする。なんかこっちまで責められてる気がする。花子はとても理不尽な気持ちになった。真下では厳しい態度でしか接してくれないと、田中は花子の方へと縋るような目で見る。そんな目で見られてもなぁ。ふっと抑えきれないため息がこぼれた。
「あの、私も決してあなたのことを許容してるわけじゃないですからね」
「はい……すみません」
「まあ、それは置いといて。続けますけど、その霊が返せと願うのであれば遺品を返せば済むのではないですか?」
そう、おかしいと2人は思っていた。
霊は遺品の返還を求めているのは明白だから、それを大人しく戻して謝罪すればいいのだ。許されるかどうかは別にして、やらない理由はない。すると、田中が言いにくそうにもぞもぞと小さな声で言うので、真下がそれにまた苛立って「ハッキリ言え」と声を尖らせた。
「その、万年筆……気味が悪くなって捨て、ちゃいました………」
ようやく聞き取れた言葉に2人は愕然とした。真下はもう呆れて口を開くのも面倒そうで、花子は思わず頭を抱えた。
「あほ……アホの極みじゃん」
「貴様、自殺志願者か?他所でやれ、俺たちを巻き込むな」
「ごめんなさい!ごめんなさい!まさかこんなことになるなんて思わなかったんだよ!!」
2人は怪異の恐ろしさは身をもって体験している。それを蔑ろにするということは死に近づくということだ。さすがの花子も投げ出したくなってきたが寸前の所で堪える。
「どこに捨てたんですか?一応聞きますけども」
「近所のB山で……あ、あの!写真!万年筆の写真あります!」
突然思い出したように田中が鞄を探り出す。いわく、肝試しをした際に記念として撮影したらしい。もしかしたら何か写るかもと期待したのもあったそうだ。写るどころかがっつり怪奇現象が起こっているのだから全く世話がない。もはや突っ込む気力も無くした2人は田中が差し出した1枚の写真を見る。
「俺のまわりがぼやけてて、その時は本物の心霊写真が撮れたって喜んだだけで……。何とも思わなかったんだ」
そこには彼と友人たちが墓をバックに撮影したものが写っていた。田中が片手に万年筆を掲げて笑顔で写っている。TPOをわきまえろ大馬鹿野郎共と2人は同じことを思ったが、逐一言ってたら進まないので無視する。真下からは確かに田中の周辺が滲んだように変化しているように見える。しかし、花子は違うらしい。写真を見た瞬間「おっ」と小さな声がもれた。真下にはわからず、彼女にだけ見えるということは今まで多々あった。今回もそのパターンだろう。
「おい、山田。何が見える」
「田中さんに件の霊が鬼の形相で巻きついているね……」
田中の背中から男の霊が恐ろしく顔を歪ませて腕をまわして張り付いていた。大切な物を盗られたのだ。怒りは当然と言える。ひぃ、と向かいから情けない声がする。しかし、そこで花子はあることに気づく。
「もしかしたら、万年筆の場所分かるかも」
「マジですか!?」
「どういうことだ」
花子は前のめりに食いつく田中を抑えつつ、理由を話した。写真に僅かだが霊の気配を感じた。田中からも同じ気配が纏わりついているので、この霊のものだと確信することができたのだ。あとはB山の捨てた付近まで行ってみて、万年筆に残った気配を手繰っていけば分かるかもしれないと花子は説明した。
「貴様、相変わらず警察犬みたいだな」
「わんちゃんは好きだけど真下くんに言われると失礼に感じる」
「俺なりに褒めてるんだよ」
1つ、か細いが希望が見えた。
早速山での捜索を開始することになり、残りの友人たちも一緒に遺品探しに来てもらう。元々田中が代表で此処へやって来たらしい。必要なものをまとめて真下が車のキーを手にしたところで、田中に釘を刺す。
「分かってはいるが、報酬はかなり高額になるぞ。お友達ときちんと話し合って折半することだな」
命が助かるなら安いもんだろ。と付け加えられた言葉に只でさえ悪い顔色がまた青くなる。自分で引き起こした災難だ。こればっかりは仕方がない。花子もフォローしない。何せこっちにも火の粉がかかることになるのだ。田中は反論することはせず、必死に首を縦に振った。
*****
その後、残りの2人の友人と合流してB山に到着する。
万年筆の捜索は困難を極めた。田中が捨てたとおぼしき場所まで移動したものの、B山は某樹海のように自殺のスポットとはなってはいないが、そこかしこに生き物だったもの達の残滓が残っていて、花子の感覚を鈍らせた。それでも懸命に辿っていき、おおよそ此処辺りだというところを全員で捜索した。日も傾き、もうじき夜になろうとする頃にやっと万年筆が見つかった。
「おい、喜んでる場合じゃないぞ。これからが本番だ」
喜ぶ依頼者たちに真下が釘を刺す。確かに見つけたからといって助かる保証はない。出来ることは真摯に対応することだけである。
そうだったとばかりに肩を落とす彼らを車に乗せて、墓地に移動した。
件の墓地は確かにひどい荒れようだった。人に手入れされなくなった場所というのは決まって霊の類いが溜まりやすくなる。それにここは元々墓地ということもあり、尚のことである。
「はいはい!それじゃあ早速供養を始めますよ!」
改めて来訪し、怖じ気づく依頼者たちに気分を変えるように花子が手を叩いて促した。びくりと揃って肩を揺らして、それからおずおずと真下と花子の後を追いかける。やれることはやらないと仕方がないので、まずは墓の周辺をきれいに掃除することから始まった。ぼうぼうに生える草を抜き、ゴミを片し、墓石に清潔な水をかけて磨く。黙々と作業をする一方で、あちらこちらから視線を感じていた。
「花子。何かいるか?」
「うん。そりゃあね。場所が場所だし」
依頼者たちに聞こえないように小声で会話する。無駄に恐がらせて離脱されても困るからだ。彼らには見えないだろうが、花子にはばっちりそれらが見えていた。墓の隙間から、木々の間から、ぽつりぽつりと人の姿がこちらの様子を観察している。さりげなく全体を見回したが、写真に写っていた霊の姿は見当たらなかった。
「……ハァ、さっさと終わらせるぞ」
「了解」
真下は花子の話を聞いてうんざりしたようにこぼす。気持ちは分かる。あまり気分の良いものではないだろう。どことなく漂う異様な気配に怯える依頼者たちを花子が鼓舞し、真下が激を飛ばしながら、なんとか清掃を終えることが出来た。最後に遺品を盗った墓の前に万年筆を供えて、膝をつき手を合わせて謝罪する。『申し訳ありませんでした。どうか許してください』と。どれくらい経っただろうか。ふと気づけばうるさいくらいに刺さってきた視線が居なくなっていた。生ぬるい風がひゅるりと体を舐めるように吹き抜けていき、田中たちは思わず身震いをした。
ぺたぺた。
ふいに前の墓から湿ったような音がして顔を上げると、あの男の霊が墓に手を付きこちらを覗き込んでいた。ひゅ、と田中からか細く息を飲む音がした。霊は墓地の周りを見渡しているようだった。やがて自身の墓に目をやり、遺品である万年筆を見つけると素早い動作でそれを手にした。あり得ない角度に曲がった腕が万年筆を丹念に点検しているように見える。その姿を見ながら、3人は各々祈るように謝罪の言葉を繰り返していた。花子と真下も固唾を飲んで見守っていた。
『うう、ああぁ……』
永遠とも感じるような時間の後、霊が何事か呻くと万年筆を元に戻して、すうっと白く光を散らして消えていった。辺りの重苦しい空気が消えて、途端に呼吸がしやすくなる。
「た、助かったのか……?」
田中がぽつりとこぼして、答えを求めるように真下と花子の事を見る。2人も顔を見合わせてから前に向き直ると、花子は頷いた。
「多分ですけど、もう大丈夫だと思います」
依頼者たちはへなへなと脱力し、それから互いの肩を抱いて『良かった』『恐かった』と涙ながらに繰り返した。
「おつかれ真下くん」
「ああ……貴様もな」
やれやれと2人も緊張感から解放されて、大きく息を吐く。とんだ事に巻き込まれた。と口には出さずに互いに思う。一頻り喜びを分かち合い、満足したのか今度は2人の元に依頼者たちがやって来て口々に礼を述べた。
「本当にありがとうございました!あなたたちは命の恩人です!!」
「いえいえ、仕事ですから」
その内、田中が感極まったようで花子の両手を取って、ぎゅうと包み込むように握った。あくまで仕事だからと謙遜する花子に田中もいやいやと熱が籠り、花子へと詰め寄った。花子が近いし、手を離してくれないだろうかと困っていたら隣にいた真下が田中の手を叩き落とした。ばちんと音がするくらい容赦のない力の入れようだった。
「これに懲りたら2度とこんな馬鹿な真似はするなよ。次は助かるか分からんからな」
真下は花子の前に立って、背後に隠すと厳しく依頼者たちに忠告した。怒気をはらんだ声と表情に依頼者たちは頻りに頷いて『もうしません』と声を揃えた。
後日、田中たちの元に届いた真下探偵事務所からの請求書を見て再び顔を青くすることはまだ先の話である。
*****
「いやあ、本当にどうしようもない人たちだったよねえ」
その時の事を思い出していた花子がのんびりとした口調で言う。
「あれから、しばらくして何もないって連絡もあったけど。心を入れ替えて慎ましやかに生きてほしいもんだよ」
「こちらに面倒をかけなければ、どうでもいい」
真下は読み終えた新聞紙をテーブルに雑に放って、至極興味なさげに言うので、花子は内心でぶれない人だと感心した。かくいう花子も真下とは似たような事を考えているのだが、そこは口には出さない。
「ま、平和であることは良いことだよ」
今にもまた寝落ちてしまいそうな雰囲気を花子が醸し出していたので、真下は暇なら書類整理でもしろと言おうとしたが叶わなかった。電話の着信音が事務所内の静かな空気を裂いたからだ。
「良かったな。貴様が言葉にしたおかげで暇で無くなりそうだ」
「……まだ依頼かどうか分からないじゃん。それに今度こそ普通のお仕事かも!」
「貴様の発言はわざとなのか?」
未だ鳴り続ける電話を花子が急いで受話器を取り上げる。真下は気だるげにソファに預けていた身を起こして、テーブルに置いてあったタバコのケースから1本取り出した。どうも嫌な予感がする。そしてそういうものに限って当たるのだ。応対に出た花子の背中を見やりながら煙を吐き出した。
「お待たせいたしました。真下探偵事務所です」
2023.3.23
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