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高銀/現パロ
20210810(火)18:13汗を拭おうと胸元をたくし上げる。湿ったシャツに鼻先から顔全体をうずめると、微かに潮の匂いがした。あー、あっちィ……。ジリジリと灼けつくアスファルトが近い。銀時は片手に持ったアイスの袋を破って、すでに溶け始めているそれを舐めしゃぶった。一齧り。アイスバーに歯形が残る。あとからあとから溶け出てくる。じゅるっと啜っても追いつかず、銀時の右手をしとどに濡らした。あっ、あ。べしゃべしゃになりつつあるアイスバーとひたすらに奮闘する銀時を、高杉が横目で見る。テメェの一挙一動が暑苦しさに輪をかけてんだよ。返事はない。銀時の口元から甘い雫が伝う。ずるずるになって棒からすっぽ抜けそうになっているアイスに手を添えて、ふいに銀時があっ、と声を上げた。飛び出たアイスの棒に焼印された『あた』の文字がむき出しになっている。オイ、これ、当たりじゃね? 高杉コンビニ寄んぞ、いちばん近いとこ、忘れねェうちにとっかえときてェし。棒についたソーダ味の残滓を舌でこそいで、銀時は汗で張りついた前髪をかき上げた。高杉の視線が当たり棒に向く。……当たってねェぞ、よく見ろ。はあ? と灼熱の暑さでバテている銀時のだるそうな表情。『あたらよ』……? ンだよこれ、ひっかけ? 嫌がらせかよ……そうして太陽を仰ぎ見る。銀時の頬を汗が伝っていく。……ころもでかれて。ふと、そう呟いた銀時の微かに震えるくちびるを、高杉のくちびるが塞ぐ。舌が絡みあう、暑さのせいか呼吸が荒くなる。顔を離すとツウ、と二人のあいだに糸が伝った。……泣くなよ。銀時、泣くな。汗でしおれた銀髪が肩まで引き寄せられる。ばか、違ェよ。暑苦しいって、お前……。肺いっぱいに空気をとりこむ。潮の匂い、高杉の匂いがする。もうずっと、暑くて、寝苦しいんだよ。肩口に顔をうずめて、銀時は小さく鼻を鳴らした。おまえ、が、俺を置いていくから。ぐずぐずと音をたてるのを、高杉は黙って聞いていた。手に握られたアイスの棒は、すでに跡形もなくなっていた。何年越しかの、猛暑の日のことだった。夏〈140字〉
20210804(水)23:49紫外線に焼かれる。かぶき町の通りを、僕らを乗せたスクーターが加速していく。銀さん、法定速度守ってください! 目の前の運転手にしがみつく。びしょびしょの着流し。新八ィ〜、風を感じろー。やけに楽しそうな声色。風に煽られて銀髪から汗が飛び散った。煌めく。今、僕らは夏を駆け抜けていく。高銀/兵士パロ
20210506(木)22:12死角から半狂乱になった敵兵が躍り出てくる。「──高杉さんッ!」仲間の声で振り返り、目視したときには遅かった。手にした剣で相手の脇腹を突き刺す、と同時に自らの左胸に深く沈んだ刃。せめて死ぬるときはテメェらも道連れに──。ふいに脳裏をよぎったのは、戦地に赴く前日の記憶だった。とある男と約束をした。今世で必ずまた逢おうと。走馬灯なんざ信じちゃいなかったが、そうか、これが。今にも息絶えそうな敵兵が、憎悪に満ちた表情でこちらを見ていた。残念だったなァ、テメェには地獄のお供は荷が重いみたいだ。手に力をこめる。喉奥から逆流する熱、視界が白く濁っていく。あの日のことがまるで昨日のことのように思い出せた。『今までだってこの腐れ縁切れなかったんだ。だから、心配するなよ』口付けを交わした。『離れてたって、きっとまた逢えるさ』昔から見慣れたツラだった、おどけて笑うお前の顔が好きだった。約束破っちまうことになるが、それでも俺ァ存外悪い気分じゃねェ。また逢えるとお前が言ったんだ、嘘になんかならねェだろうさ。俺にはもう、それだけで充分だ。土銀/死ネタ
20210506(木)22:11いいよ、いいよ。もうめんどくさいからさ。銀時の目がゆらゆらと揺れる。焦点が合わない。ここらで、やめにしようや。微かに笑う。伸ばされた手が隊服を掴む。その腕を力強く握りしめた。顎から首筋を伝う血。銀時の唇が弱々しく震える。ずっと、おまえのこと、きらい、だった──。力の抜けた腕を、もう二度と動かないのだろう銀時の腕を、落とすまいと俺はそこから動けないでいた。冬/銀時
20210204(木)20:40吹きすさぶ北風をもろに受けて、ぱちぱちと目を瞬かせた。しみる。鼻水が止まらない。首元が寂しい。通りがかったコンビニの光すら目にしみる気がする。そのまま半ば避難するように駆け込んだ。テレレン、テレレーン。よく聞く入店音。無意識に手を擦り合わせた。あ〜、あったけェ、と思うのと同時に、電気代もったいねえな、とも思う。けれどもこのもったいなさはこういうときに役に立つ。いらっしゃいませえー。店員のやる気がない。それとなく向けた目線の先の、中華まん10%OFFの立て看板。うまそう。肉まん、いや、やっぱりあんまんかなァ。肉まんが二つと、あと……あれ待て俺、金持ってねえや。パのつくチンコにすべて吸い取られてしまった。出掛けに巻いていたマフラーがないのもそのせい。さすがに服はダメだった。外は寒いし懐も寒い、家に帰れば二人の目が寒い。ならなおさら機嫌取りに肉まんを、あ、俺金ないんだった。自動ドアが開いた瞬間、刺されるような感覚に震え上がる。ありがとうございましたあー。店員の目すら寒く感じる。ああもう、散々だ、早く帰って定春モフモフしてぇなこんちくしょう。沖田と銀時(沖銀)〈140字〉
20210109(土)22:24あちこちに跳ねた銀髪に顔をうずめる。腹に手を回して抱きしめる。んー、と寝惚けたままの声。普段なら抵抗するけれど、このときだけはチャンスなのを俺は知っている。添い寝をするだけの関係。言葉通りの関係。いつから俺はこんなに甘えるようになった。旦那の体温。ぬくい、蕩けた甘味のような寝顔。神楽と万事屋〈400字〉
20201222(火)19:04ひらがなだけじゃなくて漢字も書けるようになった。できることが増えたらできないことも増えた。──お元気ですか。書き出しに迷う。書き損じた便箋はくしゃくしゃに丸まりそこらに散らばっている。私は元気です。銀ちゃんは、寂しくないですか? 宇宙を旅するようになってから、私は──。書く手が止まる。なんだかしっくりこない。手紙を書くのがこんなに難しかったなんて知らなかった。万事屋に思いを募らせる。定春、新八、そして銀ちゃん。ジャンプに顔をうずめて仕事がないと嘆く銀ちゃんを、ぐーたらしないでくださいと叱りつける新八の、隣で大きくあくびをする定春。そんな万事屋の日常が、ひどく遠い過去のように思えた。できることとできないこと。万事屋を再結成することは、いったいどっちなんだろう。素直になりたい。あのころみたいに、万事屋だったときのように。便箋の空白をさらりと撫でる。
──私は、万事屋に会えなくて寂しいです。白夜叉/独白
20201209(水)22:20悲しい。辛い。
わからない。気がつけば身体中が熱くなっていた。目頭が熱を持つ。内側から何かがせり上がってくるのを感じた。悲しい、辛い、そんなもの忘れてしまった。感情などとうに落としてきてしまった。あの人を、失ったときには。何もかもを置いてきてしまった。仲間たちの死んでゆく姿を見ていることしかできなかった、あのときに。
苦しい。苦しい。
会いたい。誰に。わからない。
帰りたい。どこに。
自分が自分ではなくなるようだった。四肢がばらばらになるように、自分の意思では抑えられない。霞んだ視界に映った震える自らの手。歪む。眼球を覆う膜。
謝りたい。唐突にそう思った。誰に。わからないけれど、今まで自分がしてきたことを詫びて、どうしようもなく叱ってほしいと思った。
白夜叉は、死んだよ。
そう笑った天人の言葉に、ひどく救われた気がしたのだ。
ああ、俺は。ずっと何がしたかったのか思い出せないでいた。
今はただ、帰りたい。失うことを知らなかった、あのころに。モブ視点の白夜叉〈140字〉
20201207(月)20:28あの人は白い夜叉だ、白夜叉だ。ぽつりと口にした言葉は、まことしやかな伝説となった。戦場で白装束を翻しながら戦う姿に魅入られた。自分の言い出した異名は枷となって、あの人をよりいっそう戦地へと駆り立てた。銀時さん。ごめんなさい、なんて、あまりにも言い訳がましい。後悔の念が、絶えない。居酒屋〈140字〉
20201202(水)23:20早く帰んな、旦那。飲み屋の親父はそう言って俺を追い出そうとする。ンだよ、飲み足んねーよォ。お猪口を片手で揺らす。夜が更ける。親父が言う。──ガキ共が待ってんだろ。諭すように、言う。前はそんなこと言わなかったくせに。鼻水をすする。席を立つ。酔いが回ると感傷的になって、しょうがない。