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千弥町物語



霧の河中…






日も次第に傾き掛け、曇り空も更に濃くなり…。
夕立が来てもおかしくない時分になっていた。

「なぁんか…雨降りそう…。
そろそろ帰ろうか…。」

ライラも同じに感じた様子で、そう言っていた。

「うん…。」

頷きながらも私は、多少周りの様子が気になっていた。
先程に比べ、対岸の霧が明らかに濃くなり…吹き始めた風でこちらの方にまで立ち込めて来ていたからだ…。
このままだと霧に包まれてしまい、迷ってしまいそうである。
…しかし、足を岸の方に向けようとしていたその時…何かを霧の中に発見した。

「あれ?」

…何か、対岸側の方で動いていた?
まるで生き物の様な黒い影が一瞬ゆらいで映った。

「どうしたの?」

こちらの様子を見て…心配そうな顔をして、ライラは私に尋ねた。

「あっちで何か動いてた。
…ちょっと見て来て良い?」

「…でも、この霧の広がり方じゃ危ないよ!」

ライラの言う事はもっともだったが、その影はどうしても放っておけない気がした。

「…何か、生き物みたいに見えたの!
河の中に取り残された人とか動物だったら大変だよ!」

理由をライラに必死に説明すると…。

「…そうなの?わかった。
だけど危ないから、ライラも一緒に行くからね!」

そう言って、ライラは私の手をしっかりと握り締めた。

「…あっちだったよ。」

ライラの手を引いて、恐る恐る川の中を進んだ…。
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