千弥町物語
…河…
それは、川と呼ぶには余りにも広大過ぎた…。
対岸と思われるものは影すら全く確認出来ず、遥か遠方には濃い霧が立ち込めてた。
こちらの陸の方に向かい、波が穏やかに押し寄せたり…引いたりしている。
「これって…海だよね?」
茫然とそれを見つめている私に…
「海?…海は本でなら見た事あるけど…
海ってしょっぱいんでしょ?…河はしょっぱく無いよ」
とライラは答えた。
「あの対岸には何があるの?…霧で全く見えないけど…」
…こんな巨大過ぎる川の中だと言うのなら…中州と言うより、もはや孤島である。
「わかんない。渡って帰って来た人の話…聞いた事無いもの!」
何故かライラは少し怒った様にそう言って…彼方の濃霧を静かに見つめていた。
その姿は何処か寂しげだった。