君に管理されたい その後

 木々が騒めき、小鳥が囀る。
 降谷は、車から降り立ち、暫し立ち尽くした。
 湖水地方にあるグレートラングデールは、実に風光明媚なところだった。
 草原と樹木、その向こうの湖と山々。物語りのような風景だ。あんまりにも美しくて、息を呑むほどだった。
「あれが、祖父の家だ」
 同行者の赤井は、一軒の大きなお屋敷を指差した。
「立派ですね」
「あぁ。だが、管理が難しいのでな、売りに出そうということになった」
「なるほど」
 そこで、英国でアンティーク商を営む降谷に連絡がきたのだ。屋敷を売る前に、コレクションの買取を頼みたいと。
 赤井とは頻繁に連絡を取り合う仲だが、仕事の話になったのは初めてだった。
「こんな時、君は頼りになる」
 なんて煽てられては、店を閉めてでも、こちらへの同行は断れなかった。
「この家を売るんですか。もったいないですね」
「だが、もう誰もイギリスに住まないからな」
 赤井はドライに言った。
 確かに、その通りだ。誰も住まない家は傷むだけ。売ってしまう方が、よほど良い。
「君の顧客層は、この家を欲しがりそうか?」
「えぇ、都会から移住を望む人は多いですから」
「では、家ごと、君に任せよう」
「本当ですか?」
 思いがけない話だ。降谷の声もついつい上擦った。
 知り合いの不動産を扱える業者を数人、頭に思い浮かべてみたが、みな乗り気になるだろう。
 それならば、美術品込みで買い取りたいと言うはずだ。何を残し、何を店に出すか、降谷の腕の見せ所である。
「さて、では、埃だらけの屋敷にようこそ」
 ガチャ
 赤井は、重々しいドアを古めかしい鍵で開けたのだった。
「懐かしいな」
 足を踏み入れる。その瞬間から別世界だ。
 赤井がカーテンを開けながらあちこちするのについて、床から天井、壁紙や建具を見て回った。
 中の調度品は布をかけられ、長い時間、主人の訪れ待っていた。日差しに、埃がキラキラと輝いて、まるで赤井を歓迎しているようだ。
「…素敵です。まるで、映画に出てくるお屋敷みたい」
 熱い物が込み上げて来て、降谷は胸を押さえた。
 素晴らしい仕事の機会を与えられた。
 埃除けの布を取り払い、そこから現れた家具たちに、涙が出そうになった。降谷よりうんと年上の芸術的な家具たちに敬意を払い、そっと触れる。乾いた木の感触が暖かい。
「いくつか、売らずに店に飾らせてください」  
 降谷の大事な店の真ん中に、この屋敷の空気を残したい。特別な物は買わせてもらおう。
 降谷はそう決めたのだった。
 

 電気は通ってないので、作業は昼間の明るいうちに終わらせて、残りはまた明日となった。
 今日は、近くのホテルに泊まり、明日の朝から再開だ。
「あれ、同室で取ったんですか?」
 ホテルの手配を赤井に任せたら、ツインルームだったのだ。
「あぁ、積もる話もあると思ってな」
「しょっちゅう電話してるのに」
 降谷は、そう言いつつも、この特別な友人との夜を楽しみに思った。
 降谷は、元々警官だった男だ。捜査官として、とある組織に潜入し、そこで他組織に属する同業の赤井と出会った。つまり、あまり良い出会いではなかった。
 それからの数年は、降谷も赤井も怒涛の人生だった。憎んだこともあった。だが、降谷は心の底で、赤井だけは死なせたく無いと願っていたように思う。その辺りの複雑な心境は、自分でも突き詰めずに放ったらかしのままだ。
 結局、降谷は警官を辞め、単身でイギリスに渡ることになった。英国では執事として数年働き、最後は赤井に仕えたのだ。
 数奇な巡り合わせの相手だ。赤井には、友人…というには複雑な情を抱いている。
「可愛いホテル」
 部屋は広くない。だが、淡いベージュと柔らかな照明が暖かな部屋だ。
「ねぇ、散歩にでも」
 部屋に入って数歩、降谷が赤井を振り返ったところで抱きしめられた。
「会いたかった」
 再会してから数時間、ただの友達の顔をしていた男が、居ても立っても居られないと降谷の頬や首に唇を寄せて来た。
「え?え?」
 怒涛の展開だ。
 確かに、赤井のことは憎からず思っている。赤井も、そうだろう。知っていたが、それでも、こんな接触は…いや、一度、いや二度?三度くらいはキスしたことがあったが、それだけで。
「恋人と離れて暮らすのが、こんなに寂しいとは」
 恋人っ⁉︎
「君が毎日、金持ちに口説かれてると思うと、気が気じゃない」
「いや、金持ちとは値段交渉くらいしかしてないです」
 しかも、いつでも降谷の思惑通りに事が進むのだ。金持ちたちは、降谷を憎たらしいとこそ思えど、口説きたいとは思ってないだろう。
「君の魂は日本男児だからな、浮気はしないと信じているが」
「はぁ」
「もちろん、俺もしてない。実に清らかな生活を送ってる」
「本当に?貴方、酒も煙草もギャンブルも好きでしょう?ちゃんと節制してますか?」
 特に煙草だ。降谷が執事だった間に、厳しく管理して本数を減らしたのだ。せっかく、健康的な生活を身につけさせたのに、元に戻しては勿体無い。
「ベガスになんて行ってない」
「煙草!」
「…日に一箱」
「増えてる!」
 なんという事だ。
 本数を減らすのに、時間と手間をかけたというのに、元に戻るのは一瞬だ。実に口惜しい。
「貴方の身体のために言ってるんです。最後には禁煙するのが目標ですからねって、あれほど」
「君が側に居ないと、ついな」
「もお」
 申し訳なさそうに眉を下げられては、それ以上のお小言は言えなかった。
「貴方のことが心配なんです」
「すまんな」
 目と目が合う。
 離れていた時間の分、どこかよそよそしかった空気が和らいだ。
 一緒に暮らした時間は、長くはなかった。降谷は赤井を禁煙させることに尽力し、赤井は、仕事をセーブして健康的で人間的な生活を心掛けた。
 人生の夏休みみたいな時間だった。
 当然、終わりがある。
 赤井は仕事に復帰し、降谷は、念願だった古美術の世界へと飛び込んだ。
 別れる時、泣かなかった。握手して、また会おうと、清々しく別れた。
 恋人には、なれなかった。当然、赤井だってそれを知ってる筈だ。
 あの時のように手を取ってみた。
 赤井の大きな手は、少しカサついていて暖かい。
 あの時みたいに清々しい気持ちにはならなかった。
「散歩に行かないんですか?」 
 後戻りをしませんか? 
 そう問いかけた。
「いかない」
 赤井は、もう決めてしまっていた。
「セックス、するんですか?」
「嫌なら断ってくれて良い」
 もう、友人ではいられなくなるのだ。
 ならば、この先の関係は何か?
「…貴方に抱かれたら、僕はきっと理解してしまう」
 降谷は気丈に振る舞おうとして、上手くいかずに、声を震わせてしまった。
「貴方のことを愛してるって」
「なら」
 抱き寄せられるのは拒んだ。
「明後日には、また、貴方と離れ離れなのに、そんなの、耐えられない」
「耐えれる」
「嘘です」
 遠く離れていても、自分のものでないならと心は穏やかでいられる。だが、恋人となったなら、きっと降谷は他の誰かへの嫉妬心で苦しむだろう。
 こんな女々しい部分が自分にあることすら認めたくない。
 赤井は降谷の顎を掴んだ。俯くことは許されなかった。
「このまま、お互いの肌に触れないで、惜しくないのか?お互いに惚れ合っているのに、君の全てを知らずに終わるのか?」
「ずっと、そうでした。貴方は、僕にとっては手の届かない人だった」
「君の雇い主なんかになるんじゃなかったな」
 赤井は、自分から降谷を雇ったくせに、そんな馬鹿を言った。
「あんなに側に居たのに、手放すとこんなに寂しい。それに、君は主人と寝ないと決めてる」
「執事としては当然です」
「君はもう執事ではない」
 目の前で、赤井の美しい瞳が揺れていた。
 縋るような視線は、男の手練手管なのか?
「貴方、寂しいんですか?」
 いいや、赤井は恋愛に器用な男ではない。
「寂しいさ」
 駆け引きなんかじゃない。これは男の本音なのだ。
 赤井が漸く見せた弱さは、降谷の胸を閃光のように貫いた。
「触れてしまった方が、別れが辛いですよ」
「本当に?触れてしまったら、これ以上に辛くなるのか?」
 あぁ、その苦悩の表情。赤井も戸惑っている。
「この時代は、離れていても顔を見て話せる。いつも、君は画面の向こうで、まるで絵画のように笑ってくれる。たまにイライラしているだろう?でも、疲れた顔は見せない。よそ行きの顔ばかりだ」
 遠慮がちな手が降谷の頬に伸ばされた。今度は拒まなかった。
 代わりに、降谷も赤井の石膏像のような頬に触れてみた。
 ひんやりと、カサついた肌をしていた。
 栄養が足りてない?寝不足?まさか、恋に思い悩んで?
「側に居た頃の君は、思いのままに喜んで怒って生き生きとしていたのに」
「そんなに怒ってましたっけ」
「怒られなくなって、初めて距離を寂しいと思った」
 降谷の手の平に、赤井が唇を触れさせた。それがくすぐったく、可愛らしかった。
「貴方には、上手くやってると思わせたくて。すみません」
 降谷も素直にそう言えた。
「どうも、貴方相手には格好つけてしまうクセが抜けなくて」
「それは、大問題だ」
 赤井は大袈裟に嘆いた。
「俺では、君が、何でも言える相手になれないか?」
 それから、甘えるような目でじっと見つめてきた。
「君のことなら、なんでも受け入れられる度量はあるつもりだが」
「…僕、気を抜くと、甘えるかもしれませんよ」
「いいね」
 赤井が笑うから、降谷もつられて笑ってしまった。
「離れ難くなってしまいます」
「思い立ったらすぐに会える距離だ」
「いや、国を超えることになります」
「七時間?八時間?寝てる間に飛行機は着いてる。ベッドで寝るかシートで寝るかの差だ。休みの度に会いに来れる、俺ならな」
「でも…」
 お金が、とはこの男には野暮だ。収入も財産も、とんでもない額だと知ってる。
「職場にヘリがあるんでね、飛行場までもすぐだ。何も心配しないでくれ」
 とんでもないハンサムが、降谷の手に頬擦りしながら甘えた事を言うのだ。身悶えするほどに可愛らしい。
 感情が濁流のように荒れ狂う。もう、降谷の鉄の砦は崩されてしまった。
 無理だ。辛い恋になる。そう思うのに。
 降谷は心と裏腹に、赤井の首に抱きついて、抗いきれずにキスしてしまった。
 あぁ、駄目なのに。
 長いキスの後、気まずく目を伏せた。睫毛同士が触れて、くすぐったかった。
「頭の中では、もう何度も君を抱いてる」
 赤井は降谷の腰を抱き寄せた。
「頭の中の僕は従順なんでしょ?」
「まさか、散々ごねる。俺がキスしても」
 赤井からのは、降谷とは比べ物にならないくらいに官能的な口付けだ。
「戸惑うんだ」
 その通り、降谷は濡れた自分の口元に困惑しきりである。
 その間に、抱き上げられた。
「え、うそっ」
 降谷だとて成人男子だ。抱き上げられるなんて、初めての経験だった。
「こ、腰、腰を痛めますよ」
「…君、痩せたな」
 赤井は軽々と降谷を寝台へと放った。
 素敵なスプリングが体を跳ねさせる。降谷の目には天井、その次に覆い被さる赤井が映った。
「ほら、ベッドの上だ」
 ほつれた髪を直してくれて、現れた額にキスされた。
「俺の頭の中の君は、こうなっても抵抗するが」
「本当は、僕も寂しかった」
 実物の降谷は、抗いきれずに赤井を抱き寄せたのだった。
「素直にそう言う君は想像してなかった」
 性急な手がズボンをずり下ろす。降谷は自分でベルトを外して、脱がされるままに受け入れた。
 しまった、と思ったのは、下着が新品でなかった事だ。だが、赤井は降谷の下着なんて見る事もなくズボンごと脱がして放ってしまった。
 ほっとしたような寂しいような。いやいや…。
 葛藤の間にも、赤井が自分の前立てを寛げようとしたので、降谷は止めた。
「待って待って、全部脱いでください」
 上半身から服を剥ぎ取った。憎らしいほどに理想的な身体が現れた。
 赤井の体は、筋肉の塊ではない。体脂肪の少ない、筋肉に角が立つような体をしている。往々として、こういう体付きは着痩せするタイプが多い。脱いだ時のギャップが凄まじいのだ。
「僕、貴方の体、好き」
「…初耳だが」
 ずっと、自分より一回りは大きい体に妬ましい思いをしてきた。
 でも、触らせてもらったことはなかった。
 赤井の顔を伺いながら、手を伸ばす。いいよと、微笑まれたので、大胆に触れてみた。
 緻密でありながら、滑らかな筋肉に血が流れているのを感じた。
「ちょっと、乾燥気味ですね」
「なんだ、診察か?」
「ふふ」
 離れていた間の生活が肌に現れていた。
 食事は、まぁまぁ。トレーニングは欠かさず。煙草は増えてる。女っ気は無し。
 本当に、降谷を恋しがってくれてた?
「どこに触りたい?」 
 赤井はストリッパーよろしくズボンを脱ぎながらセクシーな質問を寄越した。
 どこ?どこだろうか。
「貴方は僕のどこに?」
「全部さ。まず、そのほっそりした首。君は下半身より上半身を鍛えてる。胸の筋肉から綺麗な腹筋がセクシーだ」
 赤井の手は羽のような軽さで降谷を撫でた。
「臍が可愛い」
 臍を褒めたくせに、赤井は性急にその下の性器を握り込んだ。
「っ!」
「もう、勃ってる」
 揶揄うような言葉だが、赤井の声には明らかな興奮が混じっていた。
 男同士だとはっきりと確認しても、冷めたりはしなかった。
 優しく握られただけ。性的な素振りはない。
「君のここも見たことがあった。おっと、いつどこでかは聞くなよ、怒らせたくない」
「いつ?そんな記憶ない」
 執事として使えていた頃?それとも、お互いを出し抜こうと見張りあっていた頃?
 あの頃は、裸になるのに恥じらう暇は無かった。
「綺麗な身体だと思ってた」
「うそ。貧弱でしたよ」
「削ぎ澄ました凄みがあった。君がボクサーだと知って、納得したよ」
「今は?」
「君はいつでも綺麗だ」
 赤井の目は降谷を見つめて離れなかった。
 降谷は愛には不慣れだ。それ知ってしまったら、愛されなくなった時に、どれほどの痛手を負うかと尻込みしてきた臆病者だ。
 それでも…。
「貴方の愛を知ってみたい」
 降谷は、とうとう愛という不確かな現象に足を踏み入れた。
 赤井の目は確かに愛に満ちていたからだ。
 この男は僕を愛してる。
 赤井の手の上から手を重ねた。そして、緩やかな律動を促す。
「気持ちよくして」
 二人きりなのに、降谷は赤井の耳元にそっと囁いたのだった。
 


 翌日、二人は朝から赤井の祖父の屋敷へ戻った。
 玄関のシャンデリア、書斎のビューロー、ダイニングのテーブルと椅子、どれも手元に置きたいくらいだが、屋敷に残すことにした。
 ただ、一つだけ。
 降谷はダイニングのカップボードの前に足を止めた。
「このマホガニーのカップボード、僕が買い取ろうと思います」
「ん?」
 二人の距離は、昨日までと比べて明らかに近い。
 赤井は降谷の腰をずっと抱いているし、事あるごとに頸や頬にキスをした。
「このキャビネットの事か?ガラスが割れてる」
「ガラスは、入れ直します。当時のものは無理でしょうけど、アクリルガラスで修理を」
 そして、綺麗に磨いて、降谷の店の真ん中に置くのだ。
「何を飾っても映えますよ。見て、このサーペンタイン。この曲線の優美さは、格別です」
 初めて見た時から、心惹かれていた。しかし自分の店には、少し贅沢すぎると諦めていたのだ。
「ちょっと背伸びしてでも、このカップボードは店に置きたくて。僕が良いアンティーク商だという名刺代わりです」
 逸品を見極める目を持っている、その証明だ。
 降谷のキャリアでは、なかなか扱えない品だろう。だからこそ、店に置きたい。
 事実、商売の売上だけでは、これは買えない。金額を付けるのも降谷だが、日本円で四百万は付けるつもりだからだ。
 赤井は飽きもせず降谷の頸にキスして、それから耳元に囁いた。
「なら、これは、俺から君に贈ろう」
「え?」
「勿論、ガラスも入れる」
「いやいや、買い取ります」
 易々と貰えるようなものではない。降谷は断った。
「これは売り物にせず、君の店に飾るんだろう?なら、遅ればせながらの開店祝いだ」
 赤井は、そう言った。
「当時は、君が俺を捨ててまで選ぶ道かと恨んだがな」
「…反対しなかった」
「格好つけた」
 君が選んだ道なら、と応援してくれたのだ。
 あの時、引き留められていたら、降谷はどうしただろう。赤井の側に残ったかもしれない。だが、それももう今更だ。
「俺の仕事も、長くは続けられない。もう、そろそろ引退も考えてる」
「まだ、腕は落ちてないでしょ」
「衰えるのはメンタルの方だ。寂しがりやになってしまったものでな」
 赤井は降谷より余程素直だった。
「引退したら、君に雇ってもらうつもりだ」
 悪戯っぽいウィンク。それが、可愛くて、なんでも許したくなってしまうのだ。
「いいですよ」
「本当に?」
「店を大きくして、店番を雇って、僕らは買い付けの旅に出るんです。貴方がトラックを運転して、僕はスリリングな値段交渉を」
 運転手だと言われても、赤井は楽しそうに笑っていた。それから、意地悪を言った降谷を抱き上げて乱暴に揺らしたのだ。
「明らかに君の方が楽しそうだが、まぁいいだろう」
「貴方は車とか玩具なんかに詳しいから、そういう買い付けは任せてもいいかな」
「俺に交渉をさせてくれる?」
「ううん、まぁ、いいでしょう。でも、貴方、そんなことは下手そう」
「こいつめ」
 くすぐられて、笑いながら身を捩った。
 暴れると、埃が舞って、くしゃみが出そうだ。 
 ひとしきり笑って、それから、見つめ合って、またキスした。
「…楽しみだ」
 赤井は、もう明日から二人で旅に出るみたいに、浮かれていた。
「まだ、貴方には任務が山積みでしょ?」
「すぐに片付けて、君の所に戻ってくるよ」
 そう言うが、赤井ほどの捜査官になると引き留められる。この男にしかできない任務もある。それらを片付けてからとなると、数年先?いや、赤井は、そんなに気が長くない。
「僕も、楽しみです」
 耐えられなんて嘆く筈だったのに。そんな暇がない。赤井が来るまでに、商売を大きくして、従業員を雇えるくらいに儲けを出さないといけない。
 とても、大変だ。でも、とてもやり甲斐を感じている。
 それに、とても楽しみなのだ。
「貴方と、一緒に生きていけること」
 抱き合って見つめ合って、こんなふうに生きていくのだ。
「ずっと、一緒に」
 降谷の未来は、実に明るく愛に満ちていたのだった。
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