お花見爆弾魔
卯月末。
世間では新年度を迎え、気持ち新たに変わる季節である。
そして、春を焦れた桜の下で宴と花に酔いしれる。
ある者はそれを大いに待ち望み、またある者はそれを心の底から妬んでいた。
世間の浮かれた空気を嫌った後者は、とある事件を引き起こす──
お馴染み、夢の森警察署内。
窓の外の景色を眺め、御影は何度目かの溜息を吐いた。
「はぁぁ…。お花見したいわ」
彼女にとって、ここ『装備開発室』は署内で一番お気に入りの場所だ。
建物の屋根がズラリと並ぶ先、遠くにチラリと見えるのは河川敷の桜色。
今年は遅咲きとなっていて、八重桜の開花と重なっているとの事。
木の下は、さぞかし賑わっているだろう。
今日だけは外の景色だけが恨めしく、憂鬱さを増す。
「それは、オレだって同じなの!」
声を荒げたのは、カレンダーを眺めて同じく感傷に浸っていた勇磨。
彼の場合は、最初に予定していた開発スケジュールが全く進んでいないという事もある。
冷凍庫にビッシリどころか、そろそろ溢れてきそうな数の密閉容器とその中身にもゲンナリしていた。
「蔵間。その台詞、今ので何度目だよ?」
「だって。今度の非番に『皆でお花見しよう』って言ってたのに」
「それも先刻聞いた」
「よりによって、非番ごと無くなるんだもん。あたしの楽しみがぁ…」
「仕方ないだろう。本庁から直々に、特別警戒命令が下りたんだから」
そうなのだ。
この一週間、彼らは非番返上でずっと待機と警備強化巡回の日々を送っている。
彼らも警察官である以上、覚悟すべき身だが。
「その分、特別手当が貰えるって言うんだから。それで良しとしろよ」
「お金で暇は買えないわよ!!」
二人が荒む前に、金属製の扉がノックされる。
雛が入ってきたが、残念ながら助け舟ではない。
「──二人共、隊長が呼んでるよ。内線鳴らなかった?」
「あ…?そういや、そんな物も鳴ってたっけ」
「あのねぇ」
余りにもやる気の無い相棒の返答に、雛は怒る気も失せる。
しかも内線電話は、開きっぱなしの本が何冊も覆い被さっているではないか。
故意犯なのか、それとも特別警戒の所為か。
そんな部屋のヌシ其の一は、無駄な行為と承知の上で片付けを始めた親友にすがり付き、泣き言を漏らす。
「雛ぁ、お花見ぃ」
「私に言ってもなぁ。一応、お爺ちゃんにお願いしてみるよ」
「お爺ちゃん?」
最初の返事は想定内だったが、後の一言とは。
御影に続いて、勇磨も首を傾げている。
「あれ?まだ言ってなかったっけ?」
「何を」
「ウチの課長は、私のお爺ちゃんだって」
「うそぉっ!?」
「本当だよ」
「そういや、そんな話もしてたわね」
正之助との間柄を知らない者は、大抵「苗字が同じだけど親戚か」と聞いてくるものだ。
それが無かった為、既に周知されていると思っていた。
雛自身も、自己紹介時に説明したかは忘れている。
毎日が新しく覚える事で一杯な為か忙し過ぎて、記憶はすっかり忘却の彼方。
「な、なんだって…」
ショックで石化した者が、約一名。
一番派手に驚いた、ここのヌシ其の二。
ここは冷静に雛の顔をまじまじと見つめてみる。
(そう言えば、課長の苗字も『友江』だったっけ?いつも『課長』ってしか呼んでないし)
懸命に課長の顔を思い出してみると、確かにどことなく似ているような気もする。
口調も、たまに同じだったりそうでもなかったり。
更に思い出す。
(あぁ、二人とも甘い物が好きだ)
…そうではない。
以前雛が見せてくれた家族の写真、そう言えばそれらしき人物が隣に居た。
雛の家は警察官一家だって話も、何となく聞いていたような。
「あの。二人共、大丈夫?」
「…」
「そんなにショックだった…かな」
雛は自分の発言後に、二人の空気が止まったのを感じ取る。
事実とはいえ、とんでもない告白をしてしまったみたいだ。
てへへ、と苦笑いなどしてみる。
「私、顔は母さん似らしいから。お爺ちゃんとは似てなかったかな?」
「あぁ、ごめんね雛。気にしなくても良いのよ、約一名が勝手にビックリしただけだから」
そう言って、我に返った御影が勇磨を肘で小突いた。
「そうよね、志原巡査?」
「誰がバカだ!」
「今回は言ってないわよ」
「あの。話はしておくけど、特別警戒の態勢が解かれない限りは無理だよ」
「やっぱり。そうだよな」
「それが問題なのよね。早くしないと、桜が全部散っちゃうわ」
「八重桜以外は、もう散り始めてるって」
「勿体無いよね。あんなに綺麗なのに」
溜息は、とうとう三人分になってしまった。
「おいおい。呼びに行かせた者まで帰ってこないとは、想定外だぞ」
雛が開け放したドアから、顔を覗かせたのは野原だ。
三人が開発室から全く戻ってこないので、他のメンバーまでもが来てしまったではないか。
「『ミイラ盗りがミイラ』か。署内を魔窟にするな」
「野原隊長。本当にこっちでやるんですか?」
「ん。多少散らかってる以外は、問題なさそうだ」
「あら、高井さんも来ちゃったの!?」
頷いたのは、御影の相棒である高井。
「お前達が全然帰ってこないから、開発室(こっち)でミーティングする事になったんだ」
「そういう事」
実は、隊員室の管制システムの定期メンテナンスが始まり、「人の往来が多い中では、お互い気が散るだろう」と場所を変える事にしたのだ。
長が不在で大丈夫か聞かれたが、エンジニアも特警隊所属の職員である上に、正之助が立ち会っている。
機密事項の漏洩は心配ない。
「すみません隊長。すぐ戻る筈だったのに」
「雛は悪くないッス。ちょっと…いや、色々ありまして」
雛と勇磨が、同時に頭を下げた。
モバイル機器と資料のファイルを片手に、室内へ足を踏み入れた隊長と副隊長。
《例の物(ブツ)》で修羅場化していない事に、一先ず安心した。
最後に、地図やら定規やら両腕に抱え込んでヨタヨタと入ってきたのは葉月。
第五隊突入班、やっと全員揃う。
「…あのぉ」
「すまん葉月。資料室寄るからって、お前さんに荷物預けっぱなしだった」
「だ、大丈夫です。御影さん、机の上空けてください」
「はいはーい、ちょっと待ってね」
「志原、ホワイトボード借りるぞ。友江はこれを手伝ってくれ」
「はい!」
賑やかになった開発室内、急拵えで会議の場がセッティングされていく。
御影は、あれもこれもと隣に手渡して作業台の上を空けた。
「有難う友江。それで全部だ」
「これ、何の資料なんですか?」
「お待たせー。哲君、どうぞ」
「有難うございます。御影さん」
「おい!蔵間、お前なぁっ!」
今度は、勇磨がよろける番だった。
入ってきた時の葉月より、手渡された物が増量されている。
見かねた相棒が、今度は彼に手を借す。
物を片付け終え、ようやく本日最初のミーティングは開かれた。
本庁からの申し送りと追加事項は、昨日より増えている。
資料と地図を確認し、巡回の路線と割振りを決めていく。
特別警戒の原因となった事件は、未解決のままであった。
今夜も泊り込みになりそうだ。
御影と勇磨にしてみれば、何と忌々しい事か。
「──そうだ。野原隊長、第五特警隊宛で郵便が届いてるんですが」
「郵便?」
一通りの打ち合わせが終わった頃、葉月が手を上げた。
野原が封筒を見る。
「何班宛だ?」
「…書いてないですね」
「そういうのは、総務とか受付に──」
「そこから回ってきたんです。『怪しいので隊長に確認してもらってくれ』と」
「誰から?」
「それが、差出人の宛名が一切書いてないんです」
「えぇっ!?」
葉月の不安げな一言に、他の者は仰け反った。
「で、ですよね!?どうしましょうコレ!」
「野原隊長っ!」
周りの反応に、当の葉月自身も一気に血の気が失せる。
野原だけは、いつもより少しだけ目を見開いたものの冷静に座っていた。
不審物に耳を近づけて、中身に音があるか確かめたりしている。
「志原。磁石あるか?」
勇磨から受け取ると、固まったまま泣きそうな葉月が持っている封筒に近づけてみた。
が、磁石は何の反応も見せない。
冷汗止まらぬ沈黙の間が終わり、安堵の溜息が広がる。
「爆弾とか刃物類じゃなかったのね」
「良かったぁ」
「脅かせやがって」
「うぅっ…」
御影と雛が顔を見合わせ、勇磨は座り直した。
葉月は泣き出しそうになっている。
「と言っても、不審な物には変わりないな」
「そうですね」
野原と高井は、今だ警戒を解いていない。
こういった不審物への対応は、何度も経験がある。
「犯行声明文でしょうか」
「それか、只の悪戯。何れにせよ愉快犯の仕業だな」
「酷いですよ、僕は寿命が縮まる程だったのに!」
「まだ決まった訳じゃないぞ?とにかく開けてみよう」
「え…」
「ここで開けるんですか!?」
再び、全員の顔が緊張する。
ここには火薬等の危険物が多数保管されている。
火気厳禁のボンベもある。
爆発なんて起これば、惨劇の程度が計り知れない。
誰ともなく立ち上がり、広くない室内の端っこで団子を作った。
その中で御影が何処からか持ち出した盾を、無言で高井が受け取る。
不審物の方へ構えると、皆は後ろに隠れた。
「ん。俺が開けるから、皆は一応下がっていなさい」
「た、隊長。防刃手袋とゴーグル、使って下さいッス」
「ハサミとカッターは、そこに。飛散物対策の白衣は、後ろに掛かってますから」
「おう」
野原が受け取ると装備し、一同を離れさせる。
長は一人で封筒を開けた。
世間では新年度を迎え、気持ち新たに変わる季節である。
そして、春を焦れた桜の下で宴と花に酔いしれる。
ある者はそれを大いに待ち望み、またある者はそれを心の底から妬んでいた。
世間の浮かれた空気を嫌った後者は、とある事件を引き起こす──
お馴染み、夢の森警察署内。
窓の外の景色を眺め、御影は何度目かの溜息を吐いた。
「はぁぁ…。お花見したいわ」
彼女にとって、ここ『装備開発室』は署内で一番お気に入りの場所だ。
建物の屋根がズラリと並ぶ先、遠くにチラリと見えるのは河川敷の桜色。
今年は遅咲きとなっていて、八重桜の開花と重なっているとの事。
木の下は、さぞかし賑わっているだろう。
今日だけは外の景色だけが恨めしく、憂鬱さを増す。
「それは、オレだって同じなの!」
声を荒げたのは、カレンダーを眺めて同じく感傷に浸っていた勇磨。
彼の場合は、最初に予定していた開発スケジュールが全く進んでいないという事もある。
冷凍庫にビッシリどころか、そろそろ溢れてきそうな数の密閉容器とその中身にもゲンナリしていた。
「蔵間。その台詞、今ので何度目だよ?」
「だって。今度の非番に『皆でお花見しよう』って言ってたのに」
「それも先刻聞いた」
「よりによって、非番ごと無くなるんだもん。あたしの楽しみがぁ…」
「仕方ないだろう。本庁から直々に、特別警戒命令が下りたんだから」
そうなのだ。
この一週間、彼らは非番返上でずっと待機と警備強化巡回の日々を送っている。
彼らも警察官である以上、覚悟すべき身だが。
「その分、特別手当が貰えるって言うんだから。それで良しとしろよ」
「お金で暇は買えないわよ!!」
二人が荒む前に、金属製の扉がノックされる。
雛が入ってきたが、残念ながら助け舟ではない。
「──二人共、隊長が呼んでるよ。内線鳴らなかった?」
「あ…?そういや、そんな物も鳴ってたっけ」
「あのねぇ」
余りにもやる気の無い相棒の返答に、雛は怒る気も失せる。
しかも内線電話は、開きっぱなしの本が何冊も覆い被さっているではないか。
故意犯なのか、それとも特別警戒の所為か。
そんな部屋のヌシ其の一は、無駄な行為と承知の上で片付けを始めた親友にすがり付き、泣き言を漏らす。
「雛ぁ、お花見ぃ」
「私に言ってもなぁ。一応、お爺ちゃんにお願いしてみるよ」
「お爺ちゃん?」
最初の返事は想定内だったが、後の一言とは。
御影に続いて、勇磨も首を傾げている。
「あれ?まだ言ってなかったっけ?」
「何を」
「ウチの課長は、私のお爺ちゃんだって」
「うそぉっ!?」
「本当だよ」
「そういや、そんな話もしてたわね」
正之助との間柄を知らない者は、大抵「苗字が同じだけど親戚か」と聞いてくるものだ。
それが無かった為、既に周知されていると思っていた。
雛自身も、自己紹介時に説明したかは忘れている。
毎日が新しく覚える事で一杯な為か忙し過ぎて、記憶はすっかり忘却の彼方。
「な、なんだって…」
ショックで石化した者が、約一名。
一番派手に驚いた、ここのヌシ其の二。
ここは冷静に雛の顔をまじまじと見つめてみる。
(そう言えば、課長の苗字も『友江』だったっけ?いつも『課長』ってしか呼んでないし)
懸命に課長の顔を思い出してみると、確かにどことなく似ているような気もする。
口調も、たまに同じだったりそうでもなかったり。
更に思い出す。
(あぁ、二人とも甘い物が好きだ)
…そうではない。
以前雛が見せてくれた家族の写真、そう言えばそれらしき人物が隣に居た。
雛の家は警察官一家だって話も、何となく聞いていたような。
「あの。二人共、大丈夫?」
「…」
「そんなにショックだった…かな」
雛は自分の発言後に、二人の空気が止まったのを感じ取る。
事実とはいえ、とんでもない告白をしてしまったみたいだ。
てへへ、と苦笑いなどしてみる。
「私、顔は母さん似らしいから。お爺ちゃんとは似てなかったかな?」
「あぁ、ごめんね雛。気にしなくても良いのよ、約一名が勝手にビックリしただけだから」
そう言って、我に返った御影が勇磨を肘で小突いた。
「そうよね、志原巡査?」
「誰がバカだ!」
「今回は言ってないわよ」
「あの。話はしておくけど、特別警戒の態勢が解かれない限りは無理だよ」
「やっぱり。そうだよな」
「それが問題なのよね。早くしないと、桜が全部散っちゃうわ」
「八重桜以外は、もう散り始めてるって」
「勿体無いよね。あんなに綺麗なのに」
溜息は、とうとう三人分になってしまった。
「おいおい。呼びに行かせた者まで帰ってこないとは、想定外だぞ」
雛が開け放したドアから、顔を覗かせたのは野原だ。
三人が開発室から全く戻ってこないので、他のメンバーまでもが来てしまったではないか。
「『ミイラ盗りがミイラ』か。署内を魔窟にするな」
「野原隊長。本当にこっちでやるんですか?」
「ん。多少散らかってる以外は、問題なさそうだ」
「あら、高井さんも来ちゃったの!?」
頷いたのは、御影の相棒である高井。
「お前達が全然帰ってこないから、開発室(こっち)でミーティングする事になったんだ」
「そういう事」
実は、隊員室の管制システムの定期メンテナンスが始まり、「人の往来が多い中では、お互い気が散るだろう」と場所を変える事にしたのだ。
長が不在で大丈夫か聞かれたが、エンジニアも特警隊所属の職員である上に、正之助が立ち会っている。
機密事項の漏洩は心配ない。
「すみません隊長。すぐ戻る筈だったのに」
「雛は悪くないッス。ちょっと…いや、色々ありまして」
雛と勇磨が、同時に頭を下げた。
モバイル機器と資料のファイルを片手に、室内へ足を踏み入れた隊長と副隊長。
《例の物(ブツ)》で修羅場化していない事に、一先ず安心した。
最後に、地図やら定規やら両腕に抱え込んでヨタヨタと入ってきたのは葉月。
第五隊突入班、やっと全員揃う。
「…あのぉ」
「すまん葉月。資料室寄るからって、お前さんに荷物預けっぱなしだった」
「だ、大丈夫です。御影さん、机の上空けてください」
「はいはーい、ちょっと待ってね」
「志原、ホワイトボード借りるぞ。友江はこれを手伝ってくれ」
「はい!」
賑やかになった開発室内、急拵えで会議の場がセッティングされていく。
御影は、あれもこれもと隣に手渡して作業台の上を空けた。
「有難う友江。それで全部だ」
「これ、何の資料なんですか?」
「お待たせー。哲君、どうぞ」
「有難うございます。御影さん」
「おい!蔵間、お前なぁっ!」
今度は、勇磨がよろける番だった。
入ってきた時の葉月より、手渡された物が増量されている。
見かねた相棒が、今度は彼に手を借す。
物を片付け終え、ようやく本日最初のミーティングは開かれた。
本庁からの申し送りと追加事項は、昨日より増えている。
資料と地図を確認し、巡回の路線と割振りを決めていく。
特別警戒の原因となった事件は、未解決のままであった。
今夜も泊り込みになりそうだ。
御影と勇磨にしてみれば、何と忌々しい事か。
「──そうだ。野原隊長、第五特警隊宛で郵便が届いてるんですが」
「郵便?」
一通りの打ち合わせが終わった頃、葉月が手を上げた。
野原が封筒を見る。
「何班宛だ?」
「…書いてないですね」
「そういうのは、総務とか受付に──」
「そこから回ってきたんです。『怪しいので隊長に確認してもらってくれ』と」
「誰から?」
「それが、差出人の宛名が一切書いてないんです」
「えぇっ!?」
葉月の不安げな一言に、他の者は仰け反った。
「で、ですよね!?どうしましょうコレ!」
「野原隊長っ!」
周りの反応に、当の葉月自身も一気に血の気が失せる。
野原だけは、いつもより少しだけ目を見開いたものの冷静に座っていた。
不審物に耳を近づけて、中身に音があるか確かめたりしている。
「志原。磁石あるか?」
勇磨から受け取ると、固まったまま泣きそうな葉月が持っている封筒に近づけてみた。
が、磁石は何の反応も見せない。
冷汗止まらぬ沈黙の間が終わり、安堵の溜息が広がる。
「爆弾とか刃物類じゃなかったのね」
「良かったぁ」
「脅かせやがって」
「うぅっ…」
御影と雛が顔を見合わせ、勇磨は座り直した。
葉月は泣き出しそうになっている。
「と言っても、不審な物には変わりないな」
「そうですね」
野原と高井は、今だ警戒を解いていない。
こういった不審物への対応は、何度も経験がある。
「犯行声明文でしょうか」
「それか、只の悪戯。何れにせよ愉快犯の仕業だな」
「酷いですよ、僕は寿命が縮まる程だったのに!」
「まだ決まった訳じゃないぞ?とにかく開けてみよう」
「え…」
「ここで開けるんですか!?」
再び、全員の顔が緊張する。
ここには火薬等の危険物が多数保管されている。
火気厳禁のボンベもある。
爆発なんて起これば、惨劇の程度が計り知れない。
誰ともなく立ち上がり、広くない室内の端っこで団子を作った。
その中で御影が何処からか持ち出した盾を、無言で高井が受け取る。
不審物の方へ構えると、皆は後ろに隠れた。
「ん。俺が開けるから、皆は一応下がっていなさい」
「た、隊長。防刃手袋とゴーグル、使って下さいッス」
「ハサミとカッターは、そこに。飛散物対策の白衣は、後ろに掛かってますから」
「おう」
野原が受け取ると装備し、一同を離れさせる。
長は一人で封筒を開けた。
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