今夜はメリクリ!

 (大体。何で、いつドコで蔵間は気付いたんだ!?)

実のところ、気付いていないのは隊内で雛だけだったりする。
彼女の家族である、正之助ですら気付いているというのに。
警察官は洞察力が鋭く養われているものだが、これだけはお約束のように知る由もない。

(単に、蔵間がそう言う事に敏感なだけか?…その割には高井さんの事、放ったらかしだよな)

そんな事を思っていたところへ、ドアがノックされて誰か来た。
宿直当番の片割れ、雛が顔を覗かせる。

「たい焼き買ってきたの。一緒に食べよ?」

よく見れば、彼女が抱える腕の袋から幾つかはみ出ている。
これは、日常と化した甘党一族の一コマ。

「これと一緒に食おうぜ」

勇磨は棚から新たな湯呑みを取り出し、向かいの席と赤ワインを勧めた。
職場でアルコールなんて、と言わずとも顔に書いてある雛を宥める。

「あーっ、不良!」
「少し位大丈夫だって。それに今日は、特別な日だろ?」

彼女の湯飲みへ、なみなみに注いで手渡す。
そう言えば、相棒とも堂々と呑み交わした記憶はない。
せいぜい食後のデザートで、微量の酒類が使われている程度だった。

「宿直当番は、隊長が二人分代わってくれたけど。…もう」
「これで、雛も共犯者な。隊長が代わってくれたんなら、勤務中じゃないし」

呆れながらも、彼女は湯飲みに口を付けた。
勇磨は揄い、たい焼きにありつく。

「蔵間と高井さんは?まだ残ってるのか?」
「ううん。レストラン予約してるから、って帰ったよ」
「ふーん…」

御影が嬉々としていたのは、ワインのせいだけではなかったらしい。

「何かあった?…そう言えば、御影もお酒臭かったなぁ」
「ここで吞んでったからな」
「えぇっ!⁉」
(じゃあ、今夜は雛と二人きりか…)

久々だな、と思うと同時に先程の台詞が脳裏を掠めた。

『雛の事好きなんでしょ?』
『告白すれば良いじゃん』

脳内で繰り返すそれを追い出せないまま、飲酒を咎める相棒に呼びかける。
背中を押されたのか、挑発に乗ってしまったのか。
自分でも分かっていない勇磨。

「あ、あのな。雛」
「ん?」

相棒に聞こえているんじゃないかと思う位、鼓動が早くなる。
ドラマのワンシーンを地で往くかのようだ。

「あの、オレ…」
「うん?」
(…オレ、しっかりしろっ!)

優しく返答してくれる雛の声が余計に焦らせる。
心の中で自分を叱責してみるが状況は変わらず、一向に煮え切らない。

「オレ」
「…うん」
「オレ……!!」

赤ワインに歪んだ湯呑みの中の自身の視線から顔を上げて、ようやく男の決心を付けた。

「雛の事がっ!」
「…」

犯人を確保する時よりも真面目な顔で、ついに正面を見た時。
──そこには右手に湯呑み、左手にたい焼きを持ったまま伏して寝息を立てている雛が居た。

「寝てるし」

《君の寝顔が、僕のクリスマス・プレゼント》
いつ何処で読んだかは忘れたが、勇磨は本の一説にあった台詞を思い出した。

「要は、寂しいクリスマスじゃねーか」

溜息一つ吐いた後、制服の上着を脱ぐと転寝する相棒の肩へにそっとかけた。
そして、自分の湯呑みに残っていたワインを一気に飲み干した…


 翌日。
開発室でその話を聞いた御影が、隊員室まで聞えそうな程、大爆笑した事は言うまでもない。
二日酔いと告白失敗のショックで、勇磨は一日中頭を抱えた。
当然知る由もない雛がキョトンと首を傾げ、親友に更なる笑いを提供する一日となった。


■『今夜はメリクリ!』終■
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