今夜はメリクリ!

 ──今、目の前にあるのは三本の赤ワイン。
1981年とラベルに記されている、ちょっとした年代物だ。

「…蔵間」
「志原…」

ゴクンと唾を飲み込んで、二人は作業台の上にある赤ワインを約50cm間を空けて見つめていた。
今、開発室に居るのは御影と勇磨だけ。

「飲みたくない?」

今日は宿直という事も頭の隅に押し込んで、勇磨は隣で同じくお預けモードになっている御影へ、そっと囁く。
すると、御影は返答も無くその場から立ち上がり、棚から湯呑み二つを取り出してきた。
振り向いてみるなり視線が重なった勇磨と、ニヤリと笑う。

どうして。
宿直中の二人の目前に、赤ワインなんかがあるのか。
…先日作った『腐ったトマト弾』が、非致死性装備品として「一応」大好評だった。
その為、

「今回は『赤色フェア』と題して、次は赤ワインに挑戦だっ!」

と意気投合し、毎月のお小遣い、もとい装備開発費を使って贅沢に取り寄せた。
しかし、実物を目前にして二人は勿体無いと思ったのだろう。
『いつも頑張っているから、そのご褒美』と称して飲んでしまおうと言う結果になったのだ。
後で問題になろうものでも、ここには二人しか居ない。
研究開発か試作段階で失敗した等と、幾らでも供述を合わせ、言い逃れが出来る。


 滅多に飲めない、しかも『警察官という職業で勤務中の職場』なんて境遇で。
二人で赤ワインをチビチビやりながら、一瓶空けた頃。

「よーしっ!余った二本の内、一本はあたしにちょうだいね」

いつもの元気に良いが乗っかって、御影はかなり上機嫌。
赤ワインを手にして、ニンマリと勇磨に微笑む。

「え?…って蔵間、お前誰とそれ飲むんだよ?」
「勿論、マイラバーに決まってんでしょ」
「ま、まいらばぁ?」

それが彼女の相棒、高井だと言う事が解かるのに数秒かかった。

(忘れてた。本当に付き合ってたんだ、コイツら)
「何よ。わざわざ言わせないでよね」
「蔵間が勝手に言ったんだろが」

いつもそんな素振りを見せない上、仕事場でもプライベートでも親友の雛と居る事の方が多い御影。
恋人が居た、なんて事が頭からっすっぽり抜けていた。

(高井さんも大変だよな)
「高井さん、『今日は終わるまで待ってる』って言ってたし。雛がそろそろ夜食持って来る頃だから、言っちゃえば?」
「ハ?」
「志原、雛の事好きなんでしょ?」
「へ?」
「告白すれば良いじゃん。だって今日は…あ!そろそろ行かなくちゃ、じゃね♪」
「え…いや、ちょっと待──」

言い終わる前に、既にドアの向こうへ消えてしまった御影。
あれこれ反論したい事があったのだが、勇磨の気持ちがそれに追い着けなかった。
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