噂とモヤモヤ
真夜中の装備開発室。
例の三人組が、眠い目を擦りながら作業に勤しんでいた。
「良し。データの打ち込み完了だ」
「はいはーい。お疲れさん」
「こっちも資料の整理、終わったよ」
「あらあら。雛は仕事早いわねー」
雛は開発班ではないのに、毎日ここに入り浸っている。
その所為で、何処に何があるのか把握しつつあった。
しかしそれは全て、彼女にとっては謎な物ばかりだ。
何に使う為の道具なのか、どんな効果があるか分からない材料だったりするし、説明されても理解の域を超えてしまう。
自信を以って「判る」と言えるのは、自分が使っている武器や装備品を回収する為にある、メンテナンス用の鍵付きコンテナボックスだけ。
後は……
存在から全て忘れ去りたい、例のブツが収められた密閉容器と並ぶ棚。
壁で仕切られた隣の一角。
「次は、何手伝えばいい?」
「そうねぇ…、雛はコーヒーでも飲んで一服してて。ミルクも砂糖も、好きなだけ入れて良いわよ」
「オレは?」
「志原(アンタ)は、そっちの段ボール片して」
御影の一言に、勇磨は椅子ごとクルリと振り返った。
ちなみに、今現在で半分どころか未だ三分の一も片付いてはいない。
コーヒーブレイクなど入れる余地も、全くない。
「蔵間お前、雛とオレとじゃ態度違い過ぎだっつーの!」
「当たり前じゃないの。雛は、あたしの大事なダイジな親友なんだから」
「あのなぁ、だったら巻き込むなよ!いつもこうじゃねーか」
「良いんだよ勇磨。手伝う人がいれば、早く終わるじゃない」
「いや、雛は早く休め。いつ出動かかるか分からないんだし」
本来は御影と、隊員室に居る高井コンビが当直だ。
開発室の荒れ具合にとうとう雷が落ちた為、ユニット1の二人は止むを得ず片付けに駆り出されてしまう。
そして「手伝う」と自ら申し出た葉月が、御影の代わりで当直をする羽目になった。
「お前の所為で、葉月さん帰れなくなったんだぞ。自覚あるのかよ?」
「煩いわね。ありがたい事に、哲君は自分から代わるって言ってくれたのよ。あたしが強制させたんじゃないわ」
毎度お馴染み、開発室コンビの口喧嘩が勢いを増した。
「お前が開発室(こっち)片付ける事になったから、当直が一人じゃマズイと思ったんだろ。葉月さんも優し過ぎだよ」
「何言ってんのよ!?あんたも日頃片付けやらないから、こんなに溜まったんじゃない」
「あぁ?最近はお前が占拠してただろ!!オレは雛と、警邏行ったり自主トレしてたんだからな」
先攻の勇磨が御影を指差し、鋭く突っ込みを入れる。
それに対し、御影は鼻で笑った。
「自主トレ、アンタが⁉…笑っちゃうわね」
「失礼にも程があるぞ、蔵間!」
「何よ。あたしの体力無さ過ぎさに笑ってるのよ!」
「『自虐する程じゃなねー』って慰めたいんだよ!」
「面倒なパトロールの後なのに、あんなキツイ自主トレやれる位体力があって、羨ましいのよ!」
「蔵間こそ、オレより危険物取扱免許の保有歴長いの、カッコイイから羨ましいんだぞ⁉」
「自主トレやってないの、あたしだけなのよ⁉」
「雛達の為の装備開発に時間割いてるんだから、誰も怒らねーよ!!」
「──二人とも」
雛は段ボールの解体作業を手伝いながら、二人の対立を黙って聞いていた。
…ここまでは。
「え…?」
「ほら見ろ。雛だって呆れちまったじゃねーかよ…」
ユニット1の内、開発室の『主の片割れ』である勇磨は置いとくとしても。
雛は葉月同様、巻き添えを食らって帰れなくなった身である。
彼女からは、静かに怒りのオーラが放たれていた。
「いつからそんなに仲良くなったの⁉私おいてけぼりで寂しいよ!」
「雛がカワイイからだよ!」
「雛を守る為の、戦友同盟を結んだのよ!」
怒る言葉の順序を間違えた挙句、可愛いだの守るだのと言われて雛は赤面した。
それも一瞬だけで、「そうじゃないの!」と再びお説教モードになる。
「御影は早くそっちを片付けて、葉月さんと代わる事!」
「は、はい」
「そういや。葉月さん、元々明日が当番だったんだから二連チャンになるのか」
「勇磨は、もっと手を動かして。これじゃいつまで経っても終らないでしょ」
「…ゴメン」
「あー!コレ、ここにあったのね」
「御影、ウットリ眺めてないで」
「解ってるわよ。…雛に買ってもらった物なのに」
「また買ってあげるから。今度は勇磨にもね」
「え、オレ!?」
「良いから、勇磨は手を動かす」
「お、おぅ…」
ガサガサゴソゴソと、片付けと掃除と書類整理の同時進行が始まった。
三人のコンビネーションは、第五隊でも一位を争う程の良さ!
……の筈だが。
「哲君へ渡すお礼、欲しがってた『PC修理用キット』にしようと思うんだけど。どう思う?」
「オレのオススメは、コレとコレ。機能は同じなんだけど見た目がゴツいか、シックでカッコイイかって感じでー…」
「どっちも良いわね。志原、センスあるじゃないの」
「葉月さん、ゴツいギア系のアイテムに憧れてるんだってね」
「へぇ、指細いのにな。繊細なモノ扱えるのに勿体ない」
「羨ましいわよねー」
「同感」
「…って、また片付け止まってる!」
「雛も話にノッてたじゃないの」
「オレは手を動かしてるぞ?」
「勇磨、そっちはもう片付いてる方だよ」
「あれ??…ゴメン、余計な事した」
御影と勇磨は肩をすくめて雛に謝る。
作業に戻りながら、それぞれがお詫びに奢るスイーツを考え始めた。
例の三人組が、眠い目を擦りながら作業に勤しんでいた。
「良し。データの打ち込み完了だ」
「はいはーい。お疲れさん」
「こっちも資料の整理、終わったよ」
「あらあら。雛は仕事早いわねー」
雛は開発班ではないのに、毎日ここに入り浸っている。
その所為で、何処に何があるのか把握しつつあった。
しかしそれは全て、彼女にとっては謎な物ばかりだ。
何に使う為の道具なのか、どんな効果があるか分からない材料だったりするし、説明されても理解の域を超えてしまう。
自信を以って「判る」と言えるのは、自分が使っている武器や装備品を回収する為にある、メンテナンス用の鍵付きコンテナボックスだけ。
後は……
存在から全て忘れ去りたい、例のブツが収められた密閉容器と並ぶ棚。
壁で仕切られた隣の一角。
「次は、何手伝えばいい?」
「そうねぇ…、雛はコーヒーでも飲んで一服してて。ミルクも砂糖も、好きなだけ入れて良いわよ」
「オレは?」
「志原(アンタ)は、そっちの段ボール片して」
御影の一言に、勇磨は椅子ごとクルリと振り返った。
ちなみに、今現在で半分どころか未だ三分の一も片付いてはいない。
コーヒーブレイクなど入れる余地も、全くない。
「蔵間お前、雛とオレとじゃ態度違い過ぎだっつーの!」
「当たり前じゃないの。雛は、あたしの大事なダイジな親友なんだから」
「あのなぁ、だったら巻き込むなよ!いつもこうじゃねーか」
「良いんだよ勇磨。手伝う人がいれば、早く終わるじゃない」
「いや、雛は早く休め。いつ出動かかるか分からないんだし」
本来は御影と、隊員室に居る高井コンビが当直だ。
開発室の荒れ具合にとうとう雷が落ちた為、ユニット1の二人は止むを得ず片付けに駆り出されてしまう。
そして「手伝う」と自ら申し出た葉月が、御影の代わりで当直をする羽目になった。
「お前の所為で、葉月さん帰れなくなったんだぞ。自覚あるのかよ?」
「煩いわね。ありがたい事に、哲君は自分から代わるって言ってくれたのよ。あたしが強制させたんじゃないわ」
毎度お馴染み、開発室コンビの口喧嘩が勢いを増した。
「お前が開発室(こっち)片付ける事になったから、当直が一人じゃマズイと思ったんだろ。葉月さんも優し過ぎだよ」
「何言ってんのよ!?あんたも日頃片付けやらないから、こんなに溜まったんじゃない」
「あぁ?最近はお前が占拠してただろ!!オレは雛と、警邏行ったり自主トレしてたんだからな」
先攻の勇磨が御影を指差し、鋭く突っ込みを入れる。
それに対し、御影は鼻で笑った。
「自主トレ、アンタが⁉…笑っちゃうわね」
「失礼にも程があるぞ、蔵間!」
「何よ。あたしの体力無さ過ぎさに笑ってるのよ!」
「『自虐する程じゃなねー』って慰めたいんだよ!」
「面倒なパトロールの後なのに、あんなキツイ自主トレやれる位体力があって、羨ましいのよ!」
「蔵間こそ、オレより危険物取扱免許の保有歴長いの、カッコイイから羨ましいんだぞ⁉」
「自主トレやってないの、あたしだけなのよ⁉」
「雛達の為の装備開発に時間割いてるんだから、誰も怒らねーよ!!」
「──二人とも」
雛は段ボールの解体作業を手伝いながら、二人の対立を黙って聞いていた。
…ここまでは。
「え…?」
「ほら見ろ。雛だって呆れちまったじゃねーかよ…」
ユニット1の内、開発室の『主の片割れ』である勇磨は置いとくとしても。
雛は葉月同様、巻き添えを食らって帰れなくなった身である。
彼女からは、静かに怒りのオーラが放たれていた。
「いつからそんなに仲良くなったの⁉私おいてけぼりで寂しいよ!」
「雛がカワイイからだよ!」
「雛を守る為の、戦友同盟を結んだのよ!」
怒る言葉の順序を間違えた挙句、可愛いだの守るだのと言われて雛は赤面した。
それも一瞬だけで、「そうじゃないの!」と再びお説教モードになる。
「御影は早くそっちを片付けて、葉月さんと代わる事!」
「は、はい」
「そういや。葉月さん、元々明日が当番だったんだから二連チャンになるのか」
「勇磨は、もっと手を動かして。これじゃいつまで経っても終らないでしょ」
「…ゴメン」
「あー!コレ、ここにあったのね」
「御影、ウットリ眺めてないで」
「解ってるわよ。…雛に買ってもらった物なのに」
「また買ってあげるから。今度は勇磨にもね」
「え、オレ!?」
「良いから、勇磨は手を動かす」
「お、おぅ…」
ガサガサゴソゴソと、片付けと掃除と書類整理の同時進行が始まった。
三人のコンビネーションは、第五隊でも一位を争う程の良さ!
……の筈だが。
「哲君へ渡すお礼、欲しがってた『PC修理用キット』にしようと思うんだけど。どう思う?」
「オレのオススメは、コレとコレ。機能は同じなんだけど見た目がゴツいか、シックでカッコイイかって感じでー…」
「どっちも良いわね。志原、センスあるじゃないの」
「葉月さん、ゴツいギア系のアイテムに憧れてるんだってね」
「へぇ、指細いのにな。繊細なモノ扱えるのに勿体ない」
「羨ましいわよねー」
「同感」
「…って、また片付け止まってる!」
「雛も話にノッてたじゃないの」
「オレは手を動かしてるぞ?」
「勇磨、そっちはもう片付いてる方だよ」
「あれ??…ゴメン、余計な事した」
御影と勇磨は肩をすくめて雛に謝る。
作業に戻りながら、それぞれがお詫びに奢るスイーツを考え始めた。
2/3ページ