Starting Moon
時は西暦2000年を越え、また一つ新しい世界を迎えている。
第二次世界大戦から驚異の高度経済成長した日本では、『便利』が増え、『自由』が束縛されないようになった。
今や仕事は、ほとんど機械が人間の代わりにやってくれるからだ。
無論、動かすのは人間だが。
手に余る位の自由は、『犯罪』へと姿を変える。
それに立ち向かっていくのが、いつの世も同じ“別名・正義の味方”である警察なのだ。
が、刻々と複雑、凶悪化していく犯罪に一般警察官達は悲鳴を上げた。
──「我々では対処しきれない」と。
これを見兼ねた警視庁では、本庁を始めとして試験的にとある組織を結成した。
それが通称《特別警察隊》なのだが、要は「警察の何でも屋」である。
基本的な仕事は他の課と変わらない。
他の課からの依頼や管轄内の警備・事件をこなさなければならぬのは勿論として、だ。
ただ一つだけ違うと言えば、“TOKYO”という範囲で起きた犯罪が他の組織ではどうにもならない時に彼らが動き出す事である。
その事に対して、誰も「NO」とは言えないのだ。
…かといって、彼らとて“完全”ではない。
そこで警視庁は、この課だけの特例(メリット)を作ったが、それは後で示す事になるだろう。
そして数年後。
試験的に作られた隊は今やただの実験材料(モルモット)でなく、ちゃんとした部署として活躍している。
「おはようございまーす」
ここ、江東区夢の森埋立地にある『警視庁夢の森警察署』は、開校される筈だった都立学校を改造した建物。
二階の隊員室にはたった今、友江雛(ともえひいな)が入ってきたところだ。
「おはようございます。雛さん」
「おはよう葉月さん」
隊員室入口の向かい側にあるデスクの葉月哲哉(はづきてつや)が、彼女の声にモニター越しから顔を覗かせる。
雛はそれにニッコリ笑って返すと、自分のデスクに鞄を置いた。
そこから紙袋を取り出し、そこに居る人達へ呼びかける。
「シュークリーム食べませんか?」
「どうしたんだ、それ?」
「沢山ありますね」
「お、抹茶クリームがある。一個いただくよ」
「はい隊長、どうぞ♪」
野原竜太(のはらりゅうた)は茶を啜りながら、袋から甘さ控えめな物を一個取り出していった。
葉月は「朝イチで甘い物はどうだろう」なんて考えた後、たまには良いだろうと袋を見せてもらっている。
「ちょっと買い過ぎちゃって」
「故意犯じゃないのか?」
「美味しそうなのに大安売りだったので…、つい。葉月さんはどれにします?」
「大きいですね…カスタードにしようかな。ご馳走様です雛さん」
「それ、一番人気の味ですよ♪高井さんは?」
「俺はいいや。蔵間(くらま)に持ってってくれ」
「え?じゃあ、もしかして…」
本来は此処にはもう二人居る筈なのだが、どうやら《いつものところ》に居るらしい。
高井士郎(たかいしろう)はアッサリ言ってのけた。
「あぁ。あそこに居るよ、志原(しはら)と」
(やっぱり…)
葉月にシュークリームを手渡した雛が固まる。
「例の場所に居るんだ」と思うと、自然に顔が強張った。
──あそこには、あまり行きたくない。
何故なら、雛は何度も入っているのだが…
一度目は二日間完徹した二人のギョロンとした目が、朝食を持ってきた彼女へさわやかに降り注いだところから始まる。
それが怖くてそそくさと退散しようとしたが、耳元で蔵間御影(みかげ)に
「…ねぇ。手伝って」
と言われ、約半日雛は小休止もなくこき使われ続けたのである。
二度目は確か宿直の日、いつも通り御影一人で篭っていた。
雛は一人きりで夜食にするのが寂しくて、親友へ声をかけた時の事。
「夜食、一緒に食べようよ」
ドアを開けた瞬間、丁度御影が新開発した《腐ったトマト弾》が何故か顔面へ直撃し、翌日の昼まで医務室のベッドから出てくる事はなかった。
マトモな時もあった筈だが、置いてある素材達が聞けば聞く程不気味過ぎて居心地が悪く、思い出せない。
「後で二人が戻ってきた時に、あげれば良いか」と考え直したところだったのに…
「あー。二人のところへ行くなら、お使い頼むわ」
野原から伝言を受け賜ってしまった。
シュークリームを持って行かなくても、用事を持って行かなければならない。
──いざ、謎の開発室へ。
果たして装備開発室、いや《カイハツ城》への道は開け放たれた。
そこに行く着くまでに残ったのは、冷やされて今が食べ頃のシュークリームの残りと、隊員(なかま)達に見放された勇者だけ。
「おはよー…」
最初で最後の防波堤である、ドアの前で身構えた。
そっと隙間から開発室内に居るであろう、二人へ呼びかけてみる。
「うーっす、雛」
「おはよ、雛」
中から声が聞こえてきたが、修羅場ではないらしい。
声に曇りがない。
しかし、何かをいじくっている音も一緒に聞こえてきた。
(どうしよう)
一度目は下僕の如くこき使われ、二度目は新兵器の的に、そして三度目は…
動きたくても足が竦んで、前には行けそうもない。
このドアの隙間を使って用事を済ませれば良いかなと思ったが、そんな事をあれこれ考えている内に、今度は怖い物見たさという感情が湧き出てきた。
(えぇい。行ってしまえ!)
どうやら雛は、心の窮地に立たされると一応どちらが良いか考えるものの、最後は自分が興味を持った方へ突っ走る傾向があるらしい。
幾ら、悪い結果が待ち受けているとしても。
この時、頭の中には『デビルヒイナ』と『エンジェルヒイナ』が居る事は、言うまでもないだろう。
シュークリーム20個が良い例、である。
よし、とドアノブを握る。
と同時に、いきなり中から引き出され転がるように開発室へ入った雛。
二ッコリ笑う御影を見て、ここまで散々苦悩してきた自分に同情したくなった。
「……ドア引いたの御影?」
セミロングのちょっと短めの活発そうな髪に、大きめな眼鏡。
そしてその奥に潜む勝気な目が印象的な御影は、「うん」と頷いた。
「だって。いつまで経っても、中入ってこないんだもん」
左手に持っていた試験管を、わざと雛の視界に入るようにチャポンと音を立てて揺らしている。
先刻よりも華やかに、最上級の笑みを浮かべた。
「新製品なの!」
彼女と裏腹に雛の顔は青褪めている。
その液体は、とっても思い出深い。
そう、腐ったトマト弾だったのだ。
「──腐ったトマト弾…」
あの日から暫くトマトが食べられなかった雛だが、それから目を逸らす事は出来なかった。
怖い物見たさではない。
開発室へ入る前と同様、動けなかったのだ。
「甘いわよ雛。聞いて驚け、『腐ったトマト弾+α』だ!」
御影は試験管を天高く突き出す。
パンパカパーンと、今にも曲が聞こえてきそうな映像(ビジョン)で。
「この+αってのはね、腐ったトマトを母体としてるんだけど」
「…」
こちらが聞いてもいないのに、勝手に説明を始めた。
「ネットで注文した、インドから取り寄せたって言う香辛料セットなのよ」
「…」
「えっと胡椒でしょ、豆板醤…あれ?これは中国か。あとねぇ」
指を折りながら、調合した分を楽しそうに数えていく。
「そして、これがとっておき」
「…?」
「封を切らないまま戸棚に仕舞い忘れたと言う、食堂のおばちゃんから貰ったタバスコ。しかも六年も経った、ビンテージ品なのよっ!」
…暫くスパゲッティーには、タバスコを並べない。
雛は思った。
特に食堂で出てくる『赤い物』は避けよう、と。
元々辛い物は苦手だが、今は片隅にすら置きたくない。
「あぁ~。早く事件起こると良いなぁ」
試験管を握り、御影は幸せそうな溜息と、警察官らしからぬ台詞を吐いた。
あらぬ方向に視線を馳せている。
そんな彼女に背後から、これも実験器具の一つなのだろう『お玉』で鉄拳が加えられた。
若干情けない音が響く。
「あいたっっ!」
「お前な。実験するのは結構だけど、後片付けサボるなよ」
悲鳴を無視して、志原勇磨(ゆうま)は今回の実験を終了する合図のような溜息を吐く。
そして、シュークリームの入っている袋を指差した。
「雛、それ何?」
「これ?シュークリームなんだけど」
「食べる?」と勇磨に聞く前に、横で頭を抱えていた御影がパッと目を輝かせた。
「あたしも食べる!」
子犬のように雛へ擦り寄ってきた。
雛は苦笑しながら、御影に聞く。
「何個?」
「幾つあるの?」
「六個あるよ」
「じゃ、三つ」
「お前、朝っぱらから三つも食うのかよ」
「だって、美味しいんだもん」
勇磨は顔を顰めた。
御影は突っ張って、親友へ同意を求める。
「疲れてる時は甘い物って言うじゃない。ね?」
「徹夜するから、朝から疲れるんだ!なぁ?」
雛は昨夜、一気に六個も食べて気分が悪くなり夕食が食べられなかった自分を思い出した。
笑うしかない。
「そう言えば、何で開発室(あそこ)にわざわざ来たんだ?シュークリームは二の次なんじゃないか、雛?」
「…あっ」
廊下を歩きながら親指についたクリームを舐めて、勇磨は御影と一緒になって頬張っている雛に聞いた。
「野原隊長から、『早く帰ってきなさい』って伝言頼まれてたんだ」
「ふーん」
若干長めの前髪をかき上げて、「眠てぇな」と呟く。
そんな相棒の様子を、隣で見上げた雛。
──そう言えば。
昨日の宿直にも当たっていない、二人が何故…
まぁ御影は兎も角としても、遅刻魔の勇磨が今日に限って、自分よりも早く来ているのか。
「ねぇ。勇磨」
「ん?」
「今日、何時に来たの?」
「何時…」
勇磨は質問の真意が解らず、数秒考えた。
「あぁ、蔵間に『手伝え』って言われて…ったく。夜明けのコーヒーまで付き合せるな位なら、アシストの休憩時間(アフターケア)も計算に入れとけよってな」
「徹夜したの?」
返事の代わりに、大きな欠伸が聞こえてきた。
「…そうなんだ」
「ちょっと。今のは聞き捨てならないわね」
それまで黙っていた御影は低い声で、しかし勇磨の青筋を立たせるには十分な口調で、反発を始める。
「何だよ。事実だろ」
「そうよ。でもねぇ、志原だってほとんどあたしのアシストほっぽいといて自分の実験に没頭してたじゃない!」
「う゛っ!…それは」
「それに私はちゃーんとコーヒーまで入れて、いつの間にか寝ちゃったアンタを優しく起こしてあげたじゃない。お礼の一つも欲しいもんだわ」
「そー…だよなぁ。確かにその新製品を使って記念すべき第一号にすべく、優しく起こしてくれたよなぁ!?」
「はぅっ!何でそれを゛」
「だから、被害に遭う前に起きただろ」
その言葉と一緒に、勇磨は隊員室のドアを思い切り開けた。
中にあったのは、いつもの巡回警邏前タイムではない。
誰ものんびりしていなかった。
「おぅ。返ってきたか」
入口から一番遠い場所に居た筈の野原が、何故か一番に声を掛けた。
その横では葉月が忙しそうに無線機を傍受している。
三人が『事件発生だ』と思った時、まるでそれを見計らうかのように葉月が動いた。
ヘッドフォンを外し、音量を全員へ聞こえるように上げて告げる。
雑音の中、途切れ途切れに聞こえる声。
「──入りました!」
『…こ…ちらA、Bへ…どうぞ…』
「この周波数は、警察関係の無線ではないです」
「何で混線してるんだ?」
「現段階では不明ですが、第二埋立地の工事現場用でも無さそうです」
「じゃあ、何処のだ?」
緊張が走ったその時、突然電話がけたたましく鳴り出した。
咄嗟に近くに居た雛が、受話器を取る。
液晶画面の発信元を見ると、内線ではない。
初めてかかってくる部署名だったが、情報が記載されているので業務提携のある所のようだ。
「はい。第五特警隊」
『あ、あの!…桜田署の泉野と申しますが、今テレビ観てます?』
泉野と名乗った女性警察官は、慌てている様子だ。
彼女の背後より聞こえる騒音から、向こうも何か焦っているらしい事はすぐ判った。
雛は送話口を手で押さえて、傍に居る勇磨に頼む。
「テレビつけて!」
勇磨はすぐさまリモコンを取って、テレビ画面に向かってボタンを押した。
途端に映し出されるニュースと、アナウンサーの切迫した声。
『これが三十分前、星の宮銀行の正面玄関へ突っ込み強盗に押し入った、犯人の車です!犯人はテロ集団『悪魂討伐軍(あこんとうばつぐん)』を名乗り、人質を取って立てこもっています──』
雛は、受話器の向こうに問いかける。
電話の液晶画面には『桜田署・組対課臨対係、泉野ひかり巡査』と書かれているが、顔写真が載っていない。
桜田署側の電話には、雛の所属情報が顔写真付きで表示されている筈だ。
「銀行強盗の事ですか?」
『えぇ。現場の星の宮地区は桜田署の管轄なんですが、犯人の仲間が夢の森埋立地の方へ逃走してしまって』
「えっ?星の宮って中央区ですよね、距離ありませんか?」
泉野の話によると、犯人は複数で下水道をルートとして夢の森へ向かってきているとの事。
詳細は特警隊本部へ送信済という事で、そこから纏まって届くらしい。
正式な出動要請も、本部から下るのだろう。
『管轄外だから手伝いは出来ない、と言う訳ではないのですが…』
別の事件を抱えており、忙しく手が回りきらないのだと言う。
桜田署は正式には水上署で、中央区の新減災エリアを中心に河川航路系の事案処理を担っている。
周辺で攪乱犯が沢山大暴れしていて、水陸双方で大変だ。
説明は大まかだが、新任の雛ですら解かり易く纏められていた。
泉野はきっと、自分より経験を積んで現場慣れした人なのだ。
聞きながら雛は考える。
『すみません。こちらの資料は、全てお送りしますので』
本当にすまなそうに謝る先方の声で、雛は「何処も同じなんだ」と思う。
自分のデスクで通話を聞いていた野原が、了承のサインを送ってきた。
声に聞き覚えがあるのか、訝しげな顔をしている。
気付いていない雛は、頷いて答えた。
「了解しました、こちらで引き受けます。詳細、お待ちしてますね」
どうやら先程の無線は、この逃走犯のものらしい。
隊員達は、野原の一声で打ち合わせの準備を始めた。
「と言う事で、地下行動メンバーは友江・志原・蔵間の三人」
「やったわ♪」
「頑張るッス!」
「うぅ…」
「残った我々で、情報収集等のバックアップ。質問はないな?」
ホワイトボードにあれこれと書かれた隣で、野原はペンの蓋を閉めて言った。
支援要請を正式に受理した矢先に次々と送られてきた資料も、皆に行き届いている。
「それでは、これより直ちに準備しろ。余り時間は無いぞ」
「了解!」
早速、三人は準備に取り掛かった。
雛はいつもの接近戦用の武器、対人用電磁警棒《零式》と専用グローブを装備。
勇磨は、隊の特殊装備である改造エアガンを予備用と併せ二丁と、逃走犯捕獲用のエアバズーカーを背負った。
御影も同様に、エアガン二丁とエアバズーカーを…
「ちょっと待て蔵間。それ《2001》じゃねーだろ」
「は?」
よっこらせ、と年寄り臭い掛け声で背負おうとした御影の動きが一瞬止まった。
引き攣った笑みを浮かべる。
「ホホホ。…2001よ?」
「甘いな蔵間。他の目は誤魔化せても、このオレの目は誤魔化せねぇぞ」
勇磨は自信たっぷりに、仁王立ちで指摘する。
バズーカーへ、ビシッと指をさした。
「それ、この前に2001を改造して出来た《2017》だろ」
彼らが決めたこの型番は、その製品のレベルを表している。
数字が大きいほど威力は大きく、性能もよりアップしているのだ。
「いいじゃない。こんな時位」
「高井さんに言うぞ」
恋する女は、その相手に恥ずかしいと思う部分が一つや二つ、必ずあるものだという。
御影も「恋人である高井の前では、か弱い女を演じていたいだろう」と勇磨は推察した。
まぁ、仕事の相棒でもある高井本人には既にバレバレなのだが。
「フン、隊長にバレなきゃ良いもん」
「…チッ。少し前までは効いてたのに」
勇磨の意地悪は跳ね返されてしまった。
作戦失敗か、と小言で呟く。
すると、噂をすれば何とやらで高井がこちらへやってきた。
それから何と彼は、いきなりガシッと御影の両手を握り締めたのである。
「な…っ!?」
驚きの声と紅潮してくる顔で、御影は相棒を見た。
高井はそんな事には構わず、『お守り』を手渡す。
「これ、持ってて欲しいんだ」
「⁉」
これには外野も驚いた。
―念の為に述べておくが、これまで二人が同僚の目前でこんな事をするなど、一度たりともなかった。
勤務中にイチャつく事も無いし、親友との日常会話にすらノロケ話は出てこない。
周囲が、本当に付き合っているのかも怪しむ程なのである。
「い…。要らないわよ、こんなの」
「あたしこう言うの苦手なのよ」と、御影は高井へ返そうとした。
が、何故か強引に押し付けられる。
「こう云う事もあろうかと、昨日用意したんだ」
「靖国神社って書いてあるわね」
「知り合いがそこに居るんだ」
「安産祈願って書いてあるけど?」
「家族がこの前送ってきたんだ」
「高井さん、男なのに?」
「それは…。まぁ、実家の方も色々あるんだ」
「あ、ひょっとしてアレ?『早く結婚して子供産め』って事?」
「俺は強要したくないが」
意味深に頬を染める。
「とにかく…だ。何処でも良いから、身に着けておいてくれ」
「だから、嫌だって──」
「頼む!」
高井の瞳は真剣であった。
御影が惚れてしまった、格好良い眼差しである。
「…解った」
こうして御影は仕方なく、お守りを受け取って制服の雨合羽の胸ポケットへ入れた。
その時、管制ブースに座っている葉月と高井が目を合わせ、ニヤリとした事も知らずに。
「インカムの方は一応防水加工となってはいるが、水の中へ落としたら使い物にならない。それにも気を付けてくれ」
「了解っ」
夢の森署裏手にある、地下水道へ繋がる大型マンホール前。
装備の最終点検も終え、いよいよ突入である。
課長を除いた全員が見守る中、勇磨と高井がおもむろに蓋をゆっくりと開けた。
「深いな」
「暗いねぇ」
「…楽しみね」
穴の中の闇を覗き込んでの第一声は、三者三様。
かくして三人パーティーは、下水道に続く梯子をゆっくりと降りていった。
第二次世界大戦から驚異の高度経済成長した日本では、『便利』が増え、『自由』が束縛されないようになった。
今や仕事は、ほとんど機械が人間の代わりにやってくれるからだ。
無論、動かすのは人間だが。
手に余る位の自由は、『犯罪』へと姿を変える。
それに立ち向かっていくのが、いつの世も同じ“別名・正義の味方”である警察なのだ。
が、刻々と複雑、凶悪化していく犯罪に一般警察官達は悲鳴を上げた。
──「我々では対処しきれない」と。
これを見兼ねた警視庁では、本庁を始めとして試験的にとある組織を結成した。
それが通称《特別警察隊》なのだが、要は「警察の何でも屋」である。
基本的な仕事は他の課と変わらない。
他の課からの依頼や管轄内の警備・事件をこなさなければならぬのは勿論として、だ。
ただ一つだけ違うと言えば、“TOKYO”という範囲で起きた犯罪が他の組織ではどうにもならない時に彼らが動き出す事である。
その事に対して、誰も「NO」とは言えないのだ。
…かといって、彼らとて“完全”ではない。
そこで警視庁は、この課だけの特例(メリット)を作ったが、それは後で示す事になるだろう。
そして数年後。
試験的に作られた隊は今やただの実験材料(モルモット)でなく、ちゃんとした部署として活躍している。
「おはようございまーす」
ここ、江東区夢の森埋立地にある『警視庁夢の森警察署』は、開校される筈だった都立学校を改造した建物。
二階の隊員室にはたった今、友江雛(ともえひいな)が入ってきたところだ。
「おはようございます。雛さん」
「おはよう葉月さん」
隊員室入口の向かい側にあるデスクの葉月哲哉(はづきてつや)が、彼女の声にモニター越しから顔を覗かせる。
雛はそれにニッコリ笑って返すと、自分のデスクに鞄を置いた。
そこから紙袋を取り出し、そこに居る人達へ呼びかける。
「シュークリーム食べませんか?」
「どうしたんだ、それ?」
「沢山ありますね」
「お、抹茶クリームがある。一個いただくよ」
「はい隊長、どうぞ♪」
野原竜太(のはらりゅうた)は茶を啜りながら、袋から甘さ控えめな物を一個取り出していった。
葉月は「朝イチで甘い物はどうだろう」なんて考えた後、たまには良いだろうと袋を見せてもらっている。
「ちょっと買い過ぎちゃって」
「故意犯じゃないのか?」
「美味しそうなのに大安売りだったので…、つい。葉月さんはどれにします?」
「大きいですね…カスタードにしようかな。ご馳走様です雛さん」
「それ、一番人気の味ですよ♪高井さんは?」
「俺はいいや。蔵間(くらま)に持ってってくれ」
「え?じゃあ、もしかして…」
本来は此処にはもう二人居る筈なのだが、どうやら《いつものところ》に居るらしい。
高井士郎(たかいしろう)はアッサリ言ってのけた。
「あぁ。あそこに居るよ、志原(しはら)と」
(やっぱり…)
葉月にシュークリームを手渡した雛が固まる。
「例の場所に居るんだ」と思うと、自然に顔が強張った。
──あそこには、あまり行きたくない。
何故なら、雛は何度も入っているのだが…
一度目は二日間完徹した二人のギョロンとした目が、朝食を持ってきた彼女へさわやかに降り注いだところから始まる。
それが怖くてそそくさと退散しようとしたが、耳元で蔵間御影(みかげ)に
「…ねぇ。手伝って」
と言われ、約半日雛は小休止もなくこき使われ続けたのである。
二度目は確か宿直の日、いつも通り御影一人で篭っていた。
雛は一人きりで夜食にするのが寂しくて、親友へ声をかけた時の事。
「夜食、一緒に食べようよ」
ドアを開けた瞬間、丁度御影が新開発した《腐ったトマト弾》が何故か顔面へ直撃し、翌日の昼まで医務室のベッドから出てくる事はなかった。
マトモな時もあった筈だが、置いてある素材達が聞けば聞く程不気味過ぎて居心地が悪く、思い出せない。
「後で二人が戻ってきた時に、あげれば良いか」と考え直したところだったのに…
「あー。二人のところへ行くなら、お使い頼むわ」
野原から伝言を受け賜ってしまった。
シュークリームを持って行かなくても、用事を持って行かなければならない。
──いざ、謎の開発室へ。
果たして装備開発室、いや《カイハツ城》への道は開け放たれた。
そこに行く着くまでに残ったのは、冷やされて今が食べ頃のシュークリームの残りと、隊員(なかま)達に見放された勇者だけ。
「おはよー…」
最初で最後の防波堤である、ドアの前で身構えた。
そっと隙間から開発室内に居るであろう、二人へ呼びかけてみる。
「うーっす、雛」
「おはよ、雛」
中から声が聞こえてきたが、修羅場ではないらしい。
声に曇りがない。
しかし、何かをいじくっている音も一緒に聞こえてきた。
(どうしよう)
一度目は下僕の如くこき使われ、二度目は新兵器の的に、そして三度目は…
動きたくても足が竦んで、前には行けそうもない。
このドアの隙間を使って用事を済ませれば良いかなと思ったが、そんな事をあれこれ考えている内に、今度は怖い物見たさという感情が湧き出てきた。
(えぇい。行ってしまえ!)
どうやら雛は、心の窮地に立たされると一応どちらが良いか考えるものの、最後は自分が興味を持った方へ突っ走る傾向があるらしい。
幾ら、悪い結果が待ち受けているとしても。
この時、頭の中には『デビルヒイナ』と『エンジェルヒイナ』が居る事は、言うまでもないだろう。
シュークリーム20個が良い例、である。
よし、とドアノブを握る。
と同時に、いきなり中から引き出され転がるように開発室へ入った雛。
二ッコリ笑う御影を見て、ここまで散々苦悩してきた自分に同情したくなった。
「……ドア引いたの御影?」
セミロングのちょっと短めの活発そうな髪に、大きめな眼鏡。
そしてその奥に潜む勝気な目が印象的な御影は、「うん」と頷いた。
「だって。いつまで経っても、中入ってこないんだもん」
左手に持っていた試験管を、わざと雛の視界に入るようにチャポンと音を立てて揺らしている。
先刻よりも華やかに、最上級の笑みを浮かべた。
「新製品なの!」
彼女と裏腹に雛の顔は青褪めている。
その液体は、とっても思い出深い。
そう、腐ったトマト弾だったのだ。
「──腐ったトマト弾…」
あの日から暫くトマトが食べられなかった雛だが、それから目を逸らす事は出来なかった。
怖い物見たさではない。
開発室へ入る前と同様、動けなかったのだ。
「甘いわよ雛。聞いて驚け、『腐ったトマト弾+α』だ!」
御影は試験管を天高く突き出す。
パンパカパーンと、今にも曲が聞こえてきそうな映像(ビジョン)で。
「この+αってのはね、腐ったトマトを母体としてるんだけど」
「…」
こちらが聞いてもいないのに、勝手に説明を始めた。
「ネットで注文した、インドから取り寄せたって言う香辛料セットなのよ」
「…」
「えっと胡椒でしょ、豆板醤…あれ?これは中国か。あとねぇ」
指を折りながら、調合した分を楽しそうに数えていく。
「そして、これがとっておき」
「…?」
「封を切らないまま戸棚に仕舞い忘れたと言う、食堂のおばちゃんから貰ったタバスコ。しかも六年も経った、ビンテージ品なのよっ!」
…暫くスパゲッティーには、タバスコを並べない。
雛は思った。
特に食堂で出てくる『赤い物』は避けよう、と。
元々辛い物は苦手だが、今は片隅にすら置きたくない。
「あぁ~。早く事件起こると良いなぁ」
試験管を握り、御影は幸せそうな溜息と、警察官らしからぬ台詞を吐いた。
あらぬ方向に視線を馳せている。
そんな彼女に背後から、これも実験器具の一つなのだろう『お玉』で鉄拳が加えられた。
若干情けない音が響く。
「あいたっっ!」
「お前な。実験するのは結構だけど、後片付けサボるなよ」
悲鳴を無視して、志原勇磨(ゆうま)は今回の実験を終了する合図のような溜息を吐く。
そして、シュークリームの入っている袋を指差した。
「雛、それ何?」
「これ?シュークリームなんだけど」
「食べる?」と勇磨に聞く前に、横で頭を抱えていた御影がパッと目を輝かせた。
「あたしも食べる!」
子犬のように雛へ擦り寄ってきた。
雛は苦笑しながら、御影に聞く。
「何個?」
「幾つあるの?」
「六個あるよ」
「じゃ、三つ」
「お前、朝っぱらから三つも食うのかよ」
「だって、美味しいんだもん」
勇磨は顔を顰めた。
御影は突っ張って、親友へ同意を求める。
「疲れてる時は甘い物って言うじゃない。ね?」
「徹夜するから、朝から疲れるんだ!なぁ?」
雛は昨夜、一気に六個も食べて気分が悪くなり夕食が食べられなかった自分を思い出した。
笑うしかない。
「そう言えば、何で開発室(あそこ)にわざわざ来たんだ?シュークリームは二の次なんじゃないか、雛?」
「…あっ」
廊下を歩きながら親指についたクリームを舐めて、勇磨は御影と一緒になって頬張っている雛に聞いた。
「野原隊長から、『早く帰ってきなさい』って伝言頼まれてたんだ」
「ふーん」
若干長めの前髪をかき上げて、「眠てぇな」と呟く。
そんな相棒の様子を、隣で見上げた雛。
──そう言えば。
昨日の宿直にも当たっていない、二人が何故…
まぁ御影は兎も角としても、遅刻魔の勇磨が今日に限って、自分よりも早く来ているのか。
「ねぇ。勇磨」
「ん?」
「今日、何時に来たの?」
「何時…」
勇磨は質問の真意が解らず、数秒考えた。
「あぁ、蔵間に『手伝え』って言われて…ったく。夜明けのコーヒーまで付き合せるな位なら、アシストの休憩時間(アフターケア)も計算に入れとけよってな」
「徹夜したの?」
返事の代わりに、大きな欠伸が聞こえてきた。
「…そうなんだ」
「ちょっと。今のは聞き捨てならないわね」
それまで黙っていた御影は低い声で、しかし勇磨の青筋を立たせるには十分な口調で、反発を始める。
「何だよ。事実だろ」
「そうよ。でもねぇ、志原だってほとんどあたしのアシストほっぽいといて自分の実験に没頭してたじゃない!」
「う゛っ!…それは」
「それに私はちゃーんとコーヒーまで入れて、いつの間にか寝ちゃったアンタを優しく起こしてあげたじゃない。お礼の一つも欲しいもんだわ」
「そー…だよなぁ。確かにその新製品を使って記念すべき第一号にすべく、優しく起こしてくれたよなぁ!?」
「はぅっ!何でそれを゛」
「だから、被害に遭う前に起きただろ」
その言葉と一緒に、勇磨は隊員室のドアを思い切り開けた。
中にあったのは、いつもの巡回警邏前タイムではない。
誰ものんびりしていなかった。
「おぅ。返ってきたか」
入口から一番遠い場所に居た筈の野原が、何故か一番に声を掛けた。
その横では葉月が忙しそうに無線機を傍受している。
三人が『事件発生だ』と思った時、まるでそれを見計らうかのように葉月が動いた。
ヘッドフォンを外し、音量を全員へ聞こえるように上げて告げる。
雑音の中、途切れ途切れに聞こえる声。
「──入りました!」
『…こ…ちらA、Bへ…どうぞ…』
「この周波数は、警察関係の無線ではないです」
「何で混線してるんだ?」
「現段階では不明ですが、第二埋立地の工事現場用でも無さそうです」
「じゃあ、何処のだ?」
緊張が走ったその時、突然電話がけたたましく鳴り出した。
咄嗟に近くに居た雛が、受話器を取る。
液晶画面の発信元を見ると、内線ではない。
初めてかかってくる部署名だったが、情報が記載されているので業務提携のある所のようだ。
「はい。第五特警隊」
『あ、あの!…桜田署の泉野と申しますが、今テレビ観てます?』
泉野と名乗った女性警察官は、慌てている様子だ。
彼女の背後より聞こえる騒音から、向こうも何か焦っているらしい事はすぐ判った。
雛は送話口を手で押さえて、傍に居る勇磨に頼む。
「テレビつけて!」
勇磨はすぐさまリモコンを取って、テレビ画面に向かってボタンを押した。
途端に映し出されるニュースと、アナウンサーの切迫した声。
『これが三十分前、星の宮銀行の正面玄関へ突っ込み強盗に押し入った、犯人の車です!犯人はテロ集団『悪魂討伐軍(あこんとうばつぐん)』を名乗り、人質を取って立てこもっています──』
雛は、受話器の向こうに問いかける。
電話の液晶画面には『桜田署・組対課臨対係、泉野ひかり巡査』と書かれているが、顔写真が載っていない。
桜田署側の電話には、雛の所属情報が顔写真付きで表示されている筈だ。
「銀行強盗の事ですか?」
『えぇ。現場の星の宮地区は桜田署の管轄なんですが、犯人の仲間が夢の森埋立地の方へ逃走してしまって』
「えっ?星の宮って中央区ですよね、距離ありませんか?」
泉野の話によると、犯人は複数で下水道をルートとして夢の森へ向かってきているとの事。
詳細は特警隊本部へ送信済という事で、そこから纏まって届くらしい。
正式な出動要請も、本部から下るのだろう。
『管轄外だから手伝いは出来ない、と言う訳ではないのですが…』
別の事件を抱えており、忙しく手が回りきらないのだと言う。
桜田署は正式には水上署で、中央区の新減災エリアを中心に河川航路系の事案処理を担っている。
周辺で攪乱犯が沢山大暴れしていて、水陸双方で大変だ。
説明は大まかだが、新任の雛ですら解かり易く纏められていた。
泉野はきっと、自分より経験を積んで現場慣れした人なのだ。
聞きながら雛は考える。
『すみません。こちらの資料は、全てお送りしますので』
本当にすまなそうに謝る先方の声で、雛は「何処も同じなんだ」と思う。
自分のデスクで通話を聞いていた野原が、了承のサインを送ってきた。
声に聞き覚えがあるのか、訝しげな顔をしている。
気付いていない雛は、頷いて答えた。
「了解しました、こちらで引き受けます。詳細、お待ちしてますね」
どうやら先程の無線は、この逃走犯のものらしい。
隊員達は、野原の一声で打ち合わせの準備を始めた。
「と言う事で、地下行動メンバーは友江・志原・蔵間の三人」
「やったわ♪」
「頑張るッス!」
「うぅ…」
「残った我々で、情報収集等のバックアップ。質問はないな?」
ホワイトボードにあれこれと書かれた隣で、野原はペンの蓋を閉めて言った。
支援要請を正式に受理した矢先に次々と送られてきた資料も、皆に行き届いている。
「それでは、これより直ちに準備しろ。余り時間は無いぞ」
「了解!」
早速、三人は準備に取り掛かった。
雛はいつもの接近戦用の武器、対人用電磁警棒《零式》と専用グローブを装備。
勇磨は、隊の特殊装備である改造エアガンを予備用と併せ二丁と、逃走犯捕獲用のエアバズーカーを背負った。
御影も同様に、エアガン二丁とエアバズーカーを…
「ちょっと待て蔵間。それ《2001》じゃねーだろ」
「は?」
よっこらせ、と年寄り臭い掛け声で背負おうとした御影の動きが一瞬止まった。
引き攣った笑みを浮かべる。
「ホホホ。…2001よ?」
「甘いな蔵間。他の目は誤魔化せても、このオレの目は誤魔化せねぇぞ」
勇磨は自信たっぷりに、仁王立ちで指摘する。
バズーカーへ、ビシッと指をさした。
「それ、この前に2001を改造して出来た《2017》だろ」
彼らが決めたこの型番は、その製品のレベルを表している。
数字が大きいほど威力は大きく、性能もよりアップしているのだ。
「いいじゃない。こんな時位」
「高井さんに言うぞ」
恋する女は、その相手に恥ずかしいと思う部分が一つや二つ、必ずあるものだという。
御影も「恋人である高井の前では、か弱い女を演じていたいだろう」と勇磨は推察した。
まぁ、仕事の相棒でもある高井本人には既にバレバレなのだが。
「フン、隊長にバレなきゃ良いもん」
「…チッ。少し前までは効いてたのに」
勇磨の意地悪は跳ね返されてしまった。
作戦失敗か、と小言で呟く。
すると、噂をすれば何とやらで高井がこちらへやってきた。
それから何と彼は、いきなりガシッと御影の両手を握り締めたのである。
「な…っ!?」
驚きの声と紅潮してくる顔で、御影は相棒を見た。
高井はそんな事には構わず、『お守り』を手渡す。
「これ、持ってて欲しいんだ」
「⁉」
これには外野も驚いた。
―念の為に述べておくが、これまで二人が同僚の目前でこんな事をするなど、一度たりともなかった。
勤務中にイチャつく事も無いし、親友との日常会話にすらノロケ話は出てこない。
周囲が、本当に付き合っているのかも怪しむ程なのである。
「い…。要らないわよ、こんなの」
「あたしこう言うの苦手なのよ」と、御影は高井へ返そうとした。
が、何故か強引に押し付けられる。
「こう云う事もあろうかと、昨日用意したんだ」
「靖国神社って書いてあるわね」
「知り合いがそこに居るんだ」
「安産祈願って書いてあるけど?」
「家族がこの前送ってきたんだ」
「高井さん、男なのに?」
「それは…。まぁ、実家の方も色々あるんだ」
「あ、ひょっとしてアレ?『早く結婚して子供産め』って事?」
「俺は強要したくないが」
意味深に頬を染める。
「とにかく…だ。何処でも良いから、身に着けておいてくれ」
「だから、嫌だって──」
「頼む!」
高井の瞳は真剣であった。
御影が惚れてしまった、格好良い眼差しである。
「…解った」
こうして御影は仕方なく、お守りを受け取って制服の雨合羽の胸ポケットへ入れた。
その時、管制ブースに座っている葉月と高井が目を合わせ、ニヤリとした事も知らずに。
「インカムの方は一応防水加工となってはいるが、水の中へ落としたら使い物にならない。それにも気を付けてくれ」
「了解っ」
夢の森署裏手にある、地下水道へ繋がる大型マンホール前。
装備の最終点検も終え、いよいよ突入である。
課長を除いた全員が見守る中、勇磨と高井がおもむろに蓋をゆっくりと開けた。
「深いな」
「暗いねぇ」
「…楽しみね」
穴の中の闇を覗き込んでの第一声は、三者三様。
かくして三人パーティーは、下水道に続く梯子をゆっくりと降りていった。
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