交差
早朝に捕り物を片付けた、第五隊の面々。
無事解決し、二台の車両に分かれて夢の森署へ帰還の途中。
「特車のお下がりと聞いていたから、もっとボロいのを想像してたんだが。乗り心地は悪くない」
「美品当たって良かったですね。特殊装甲の追加と一緒に、改修してもらえたみたいですし」
「でも、ハンドル重いだろう?」
警察部隊の指揮車は、オフロード車をベースに警察用の特殊改造が施されている。
特警隊用のは、更に最新の特殊装甲化が成されたので車重が増した。
ハンドルが重いのはその所為。
「現場でも分析でこき使ったのに、帰りの運転までさせて悪いな」
「こういう支援も僕の役目です。ハンドルが重くなったのは、頑丈になった証拠ですから。安心して乗れるじゃないですか」
「警備車の方が頑丈なんだけどな。……って、連中は道を間違えたのか?」
「『食堂開くまで待てない』って、コンビニで朝食買って帰るそうです」
「成程。遠回りはその為か」
その片割れ、指揮車が走る前方。
道路は数台のパトカーによって封鎖されていた。
特警隊の出動事案で手配した非常線は、既に安全が確認されている。
とっくに解除された筈なのだが、ここは今封鎖したばかりのようだ。
運転役の葉月が車を停める。
「停まってるのは自邏隊の車ですね。何があったんでしょう?」
「事故や職質じゃないな。妙に殺気立ってる」
所轄の自動車警邏隊が、車を降りて足早に商店街の方へ向かっている。
騒がしさに気付いた通行人が、次第に野次馬の群れと化していく。
応援に駆けつける複数の車両のサイレンも、徐々に近づいてくる。
「まさか、先刻の事件の連鎖反応じゃないだろうな」
「そうなると…。かなり面倒です」
「ちょっと覗いてくる。葉月は待機」
「了解。僕は受理台に問い合わせてみます」
たまに、発生した事件に触発された輩が同じような事案を引き起こす。
これを『事件の連鎖反応』と呼ぶ。
先程同様、悪魂討伐軍が関与する事案となれば……
特警隊へ出動要請が下り、雛達が大変になる。
指揮車から降り、野原は辺りの様子を窺った。
ドアを閉める前に、葉月が照会の結果を知らせる。
「強行犯による事案発生中と出ました。一応、配備状況を調べましょうか?」
「ん…」
葉月が無線で状況確認を取ろうと、インカムを繋いだ時である。
一人の男が追呼(ついこ)されながら、こちらへ走ってくるではないか。
単独の引ったくり犯らしい。
「隊長、あれって!」
「管轄内だけど、もう所轄が出張ってる以上は守備範囲外だよな。受理台から支援要請は?」
「入電無しです」
所轄はずっと後方で、間に合いそうな者は一人として居ない。
この状況で対峙出来るのは、野原と葉月だけだ。
肩を慣らして、野原は車の前に進み出る。
「こりゃあ、見ぬ振りは出来んな。後ろから《戦竜》取ってくれ」
「はい!」
葉月はトランクから取り出し、手渡した。
野原は雛達が使う警棒とは違う、長警杖を得意武器としていた。
隊長専用の携行銃もあるが、人が多い事から使用は出来ない。
勿論警棒も扱えるが、戦竜を好んで使っているようだ。
ロック解除を確認し、一人ロータリーへと歩いていく。
手にしているのは筒状内部のワイヤーで繋がっている、二つ折り状態の得物。
片方を握り横で大きく振ると、くっ付いて一本の長警杖が出来上がった。
接合部分を捻ってロックすると、左手から持ち替える。
「葉月も付き合ってもらうぞ」
「勿論です。FB(フルバック)はお任せください」
「良し。システムスタンバイ解除(リリース)、データ記録開始」
「スターシーカー、状況拾いました。本部へ発報、転送します」
「念の為、お前さんも準備して後方待機。一般市民が多いから、飛び道具は使用禁止」
「了解。叉護杖(さごじょう)、用意します」
犯人は奪ったハンドバッグを投げ捨て、更に逃走を図る。
退路には、パトカーが更に集まりだす。
その中には、特警隊の警備車も紛れていた。
「あれ、雛さん達です」
「無線で呼びかけろ。『手伝え』って」
「特警05指揮より、特警05特型。応答願います」
葉月は応援要請を、次いで本部管制へ一報を順に送っている。
程なくして、雛が電磁警棒片手に走ってきた。
捕縛縄を持った、相棒の勇磨も一緒だ。
「──野原隊長!」
「おう。アシスト頼む」
「了解!」
野原は右手の長警杖を振りかざし、迎撃態勢を取る。
犯人は人並みを掻き分け、彼が待つ場所へ出てきた。
二人は対峙する。
「特警隊だ。両手を頭の上で組んで、地面に伏せろ」
『現場の各員へ。こちらは第五特警隊突入班、支援臨場中です。現時刻を以って、特警05C(キャップ)が対象とエンカウント』
「止まれ!罪が重くなるだけだぞ!!」
退路からの、自邏隊による警告。
追いついた雛と、その後方で勇磨がそれぞれ構えている。
ロータリーの出口は特警隊の指揮車で封鎖され、葉月が組み立て終えた刺股を構えて立っていた。
次いで、現着したパトカーが次々に塞いでいく。
所轄警官達も集合して、野次馬を遠ざけた。
非常線は配備完了し、包囲がここ一帯に絞られる。
「抵抗するなら、こちらも容赦しない。おとなしく投降しろ」
「特警隊…」
「これ以上、罪を重ねるな。次の警告は無いぞ」
野原による最後の警告。
想定外の『特警隊』という一言に、犯人は驚いていた。
とうとう立ち止まり、慄く。
凍りついたような一瞬が、この場へ訪れた。
犯人からは投降の意思も、言葉の一つもなかった。
だが目が泳ぎ出したので、逃走を図るつもりらしい。
ロータリーを囲む植え込みから外に出ようと、犯人は正面へ走るフリをして、横へ走り出す。
野原は、既に見切っていた。
スッと対象の左側面から後ろを目掛けて、大きな一歩を取って踏み出す。
同時に腰を落し、すれ違う。
当てる切っ先を長く取り、対象の足元へ長警杖を突き出す。
そのまま素早く退(すさ)り、利き足を引っ掛けた。
ガツンと手応えのある音。
対象は足がもつれバランスを崩し、前方へ倒れる。
走ってきた雛は、二人を追い抜いて振り返り、進路を塞ぐ。
野原が自分の上体を起こしながら対象の背後へ回り込み、空を切った右腕を取った。
雛はそのまま真正面へ、右手に握る警棒を振りかざして威嚇する。
尚起き上がろうとしても、既に野原が後ろ腕をガッチリと取り押さえていて動けない。
背筋には野原の長警杖、正面には雛の電磁警棒がそれぞれ抵抗を封じている。
対象の体は、完全に地面へ組み伏せられた。
ほんの数分で、特警隊の捕り物は終わる。
雛は一番後ろに居ても、その瞬発力と俊敏な動きで一気に前へ出られる。
野原も把握済みだ。
その形も、就いたGW(ガードウィング)というポジションも、かつてコンビを組んだ彼女の父と同じ。
前方を先攻役のGWに委ね、安全かつ確実に突破出来るようにすぐ後ろでフォローするのはFA(フロントアタッカー)の役目となる。
野原は、特警隊準備室時代からこのポジションで慣れていた。
二人とも息も上げず、汗一つ掻いてもいない。
端くれでヒヨっ子でも、一応は特殊部隊である。
事件に格付けなど不要であるが、彼らにしてみれば日頃の訓練より楽であった。
瞬殺と言わんばかりの、鮮やかな手際の良さ。
交番から走ってきた通常制服の者達は、一般市民同様、唖然として捕り物を見つめていた。
やっと自邏隊も駆けつけて、現場を取り囲む。
犯人を緊急逮捕し、その身柄を引き継いだ。
すっかり気圧されたひったくり犯は、両腕を掴まれながら力なくパトカーに連行されていった。
「隊長、お疲れ様です」
「ん。悪かったな、手間取らせて」
「これ位、何でもないですよ」
「俺達も撤収しよう」
「はい!」
二人は立ち上がり、見得を切るようにそれぞれの武器を振り下ろし収めた。
捕り物の終了を宣言する、儀式のようにも見える。
まるで演舞のような勇ましい姿に、周囲の野次馬から続々と拍手が沸き起こった。
「葉月にも手間取らせたな。今度こそ帰ろう」
「僕も大丈夫です。車、出しますね」
葉月が持っていた叉護杖を仕舞い、指揮車の運転席へ乗り込む。
雛と勇磨も、警備車へ戻っていった。
野原がトランクを開けて使った武器を片付けていると、背後から声をかけられた。
振り向くと、自邏隊の長らしき人物が立っているではないか。
「──失礼します。特警隊さん、ですよね?」
「はい」
「先程は、協力有難うございました」
「わざわざどうも。第五特警隊、隊長の野原です」
「ああ…!」
所属名は略称だが、これで大体は通じている。
かけてきた第一声が「おい」ではなかったので、第一印象は悪くない。
しかし、所属を告げた途端に態度が一変する場合もある。
油断は出来ない。
…挨拶一つでこんな事を考えてしまうのは、身構えさせられるのは。
これまでに幾度となく対立させられている、特警隊設立反対派の所為であった。
「夢の森署(ウチ)のでしたか。所轄支援班兼自動車警邏係長の豊島です」
「お世話になってます。…少し出過ぎた真似をしました」
「とんでもない。流石ですなぁ、実に鮮やかだ」
豊島は否定したが、これには社交辞令が混ざっている事だろう。
苦労して追い掛けていたのを、偶然そこに居合わせた外野が涼しげにとっ捕まえていた。
自邏隊の面目、丸潰れも良いところの筈。
「先程、警邏中に緊急手配を受けた奴だったんです。バイクを乗り捨てて、歩行者専用道路に逃げ込まれまして」
「こんな早朝から、大変でしたね」
「いやぁ…。歩行者の安全も確保しなくちゃいけなくて、手を焼いておったところでした。助かりましたよ」
「そうでしたか。お役に立てたなら、何よりです」
気さくな彼に、野原は頭を掻いて「考え過ぎだったか」と警戒を解く。
反対派の人間ではないようだ。
これを機に交流を重ねていけば、特警隊が大切にしている《組織内の絆》をまた一つ増やす事に繋がる。
「今後も宜しく頼みます。仲良くやっていきましょう」
「はい。宜しくお願いします」
「事後処理と報告に必要な書類は、自邏隊(こちら)で用意しときます。聴取の際にお渡ししますね」
「分かりました。では、我々は撤収します」
挨拶と敬礼を交わし、豊島の後ろ姿を見送る。
野原は、再び助手席に乗り込んだ。
無事解決し、二台の車両に分かれて夢の森署へ帰還の途中。
「特車のお下がりと聞いていたから、もっとボロいのを想像してたんだが。乗り心地は悪くない」
「美品当たって良かったですね。特殊装甲の追加と一緒に、改修してもらえたみたいですし」
「でも、ハンドル重いだろう?」
警察部隊の指揮車は、オフロード車をベースに警察用の特殊改造が施されている。
特警隊用のは、更に最新の特殊装甲化が成されたので車重が増した。
ハンドルが重いのはその所為。
「現場でも分析でこき使ったのに、帰りの運転までさせて悪いな」
「こういう支援も僕の役目です。ハンドルが重くなったのは、頑丈になった証拠ですから。安心して乗れるじゃないですか」
「警備車の方が頑丈なんだけどな。……って、連中は道を間違えたのか?」
「『食堂開くまで待てない』って、コンビニで朝食買って帰るそうです」
「成程。遠回りはその為か」
その片割れ、指揮車が走る前方。
道路は数台のパトカーによって封鎖されていた。
特警隊の出動事案で手配した非常線は、既に安全が確認されている。
とっくに解除された筈なのだが、ここは今封鎖したばかりのようだ。
運転役の葉月が車を停める。
「停まってるのは自邏隊の車ですね。何があったんでしょう?」
「事故や職質じゃないな。妙に殺気立ってる」
所轄の自動車警邏隊が、車を降りて足早に商店街の方へ向かっている。
騒がしさに気付いた通行人が、次第に野次馬の群れと化していく。
応援に駆けつける複数の車両のサイレンも、徐々に近づいてくる。
「まさか、先刻の事件の連鎖反応じゃないだろうな」
「そうなると…。かなり面倒です」
「ちょっと覗いてくる。葉月は待機」
「了解。僕は受理台に問い合わせてみます」
たまに、発生した事件に触発された輩が同じような事案を引き起こす。
これを『事件の連鎖反応』と呼ぶ。
先程同様、悪魂討伐軍が関与する事案となれば……
特警隊へ出動要請が下り、雛達が大変になる。
指揮車から降り、野原は辺りの様子を窺った。
ドアを閉める前に、葉月が照会の結果を知らせる。
「強行犯による事案発生中と出ました。一応、配備状況を調べましょうか?」
「ん…」
葉月が無線で状況確認を取ろうと、インカムを繋いだ時である。
一人の男が追呼(ついこ)されながら、こちらへ走ってくるではないか。
単独の引ったくり犯らしい。
「隊長、あれって!」
「管轄内だけど、もう所轄が出張ってる以上は守備範囲外だよな。受理台から支援要請は?」
「入電無しです」
所轄はずっと後方で、間に合いそうな者は一人として居ない。
この状況で対峙出来るのは、野原と葉月だけだ。
肩を慣らして、野原は車の前に進み出る。
「こりゃあ、見ぬ振りは出来んな。後ろから《戦竜》取ってくれ」
「はい!」
葉月はトランクから取り出し、手渡した。
野原は雛達が使う警棒とは違う、長警杖を得意武器としていた。
隊長専用の携行銃もあるが、人が多い事から使用は出来ない。
勿論警棒も扱えるが、戦竜を好んで使っているようだ。
ロック解除を確認し、一人ロータリーへと歩いていく。
手にしているのは筒状内部のワイヤーで繋がっている、二つ折り状態の得物。
片方を握り横で大きく振ると、くっ付いて一本の長警杖が出来上がった。
接合部分を捻ってロックすると、左手から持ち替える。
「葉月も付き合ってもらうぞ」
「勿論です。FB(フルバック)はお任せください」
「良し。システムスタンバイ解除(リリース)、データ記録開始」
「スターシーカー、状況拾いました。本部へ発報、転送します」
「念の為、お前さんも準備して後方待機。一般市民が多いから、飛び道具は使用禁止」
「了解。叉護杖(さごじょう)、用意します」
犯人は奪ったハンドバッグを投げ捨て、更に逃走を図る。
退路には、パトカーが更に集まりだす。
その中には、特警隊の警備車も紛れていた。
「あれ、雛さん達です」
「無線で呼びかけろ。『手伝え』って」
「特警05指揮より、特警05特型。応答願います」
葉月は応援要請を、次いで本部管制へ一報を順に送っている。
程なくして、雛が電磁警棒片手に走ってきた。
捕縛縄を持った、相棒の勇磨も一緒だ。
「──野原隊長!」
「おう。アシスト頼む」
「了解!」
野原は右手の長警杖を振りかざし、迎撃態勢を取る。
犯人は人並みを掻き分け、彼が待つ場所へ出てきた。
二人は対峙する。
「特警隊だ。両手を頭の上で組んで、地面に伏せろ」
『現場の各員へ。こちらは第五特警隊突入班、支援臨場中です。現時刻を以って、特警05C(キャップ)が対象とエンカウント』
「止まれ!罪が重くなるだけだぞ!!」
退路からの、自邏隊による警告。
追いついた雛と、その後方で勇磨がそれぞれ構えている。
ロータリーの出口は特警隊の指揮車で封鎖され、葉月が組み立て終えた刺股を構えて立っていた。
次いで、現着したパトカーが次々に塞いでいく。
所轄警官達も集合して、野次馬を遠ざけた。
非常線は配備完了し、包囲がここ一帯に絞られる。
「抵抗するなら、こちらも容赦しない。おとなしく投降しろ」
「特警隊…」
「これ以上、罪を重ねるな。次の警告は無いぞ」
野原による最後の警告。
想定外の『特警隊』という一言に、犯人は驚いていた。
とうとう立ち止まり、慄く。
凍りついたような一瞬が、この場へ訪れた。
犯人からは投降の意思も、言葉の一つもなかった。
だが目が泳ぎ出したので、逃走を図るつもりらしい。
ロータリーを囲む植え込みから外に出ようと、犯人は正面へ走るフリをして、横へ走り出す。
野原は、既に見切っていた。
スッと対象の左側面から後ろを目掛けて、大きな一歩を取って踏み出す。
同時に腰を落し、すれ違う。
当てる切っ先を長く取り、対象の足元へ長警杖を突き出す。
そのまま素早く退(すさ)り、利き足を引っ掛けた。
ガツンと手応えのある音。
対象は足がもつれバランスを崩し、前方へ倒れる。
走ってきた雛は、二人を追い抜いて振り返り、進路を塞ぐ。
野原が自分の上体を起こしながら対象の背後へ回り込み、空を切った右腕を取った。
雛はそのまま真正面へ、右手に握る警棒を振りかざして威嚇する。
尚起き上がろうとしても、既に野原が後ろ腕をガッチリと取り押さえていて動けない。
背筋には野原の長警杖、正面には雛の電磁警棒がそれぞれ抵抗を封じている。
対象の体は、完全に地面へ組み伏せられた。
ほんの数分で、特警隊の捕り物は終わる。
雛は一番後ろに居ても、その瞬発力と俊敏な動きで一気に前へ出られる。
野原も把握済みだ。
その形も、就いたGW(ガードウィング)というポジションも、かつてコンビを組んだ彼女の父と同じ。
前方を先攻役のGWに委ね、安全かつ確実に突破出来るようにすぐ後ろでフォローするのはFA(フロントアタッカー)の役目となる。
野原は、特警隊準備室時代からこのポジションで慣れていた。
二人とも息も上げず、汗一つ掻いてもいない。
端くれでヒヨっ子でも、一応は特殊部隊である。
事件に格付けなど不要であるが、彼らにしてみれば日頃の訓練より楽であった。
瞬殺と言わんばかりの、鮮やかな手際の良さ。
交番から走ってきた通常制服の者達は、一般市民同様、唖然として捕り物を見つめていた。
やっと自邏隊も駆けつけて、現場を取り囲む。
犯人を緊急逮捕し、その身柄を引き継いだ。
すっかり気圧されたひったくり犯は、両腕を掴まれながら力なくパトカーに連行されていった。
「隊長、お疲れ様です」
「ん。悪かったな、手間取らせて」
「これ位、何でもないですよ」
「俺達も撤収しよう」
「はい!」
二人は立ち上がり、見得を切るようにそれぞれの武器を振り下ろし収めた。
捕り物の終了を宣言する、儀式のようにも見える。
まるで演舞のような勇ましい姿に、周囲の野次馬から続々と拍手が沸き起こった。
「葉月にも手間取らせたな。今度こそ帰ろう」
「僕も大丈夫です。車、出しますね」
葉月が持っていた叉護杖を仕舞い、指揮車の運転席へ乗り込む。
雛と勇磨も、警備車へ戻っていった。
野原がトランクを開けて使った武器を片付けていると、背後から声をかけられた。
振り向くと、自邏隊の長らしき人物が立っているではないか。
「──失礼します。特警隊さん、ですよね?」
「はい」
「先程は、協力有難うございました」
「わざわざどうも。第五特警隊、隊長の野原です」
「ああ…!」
所属名は略称だが、これで大体は通じている。
かけてきた第一声が「おい」ではなかったので、第一印象は悪くない。
しかし、所属を告げた途端に態度が一変する場合もある。
油断は出来ない。
…挨拶一つでこんな事を考えてしまうのは、身構えさせられるのは。
これまでに幾度となく対立させられている、特警隊設立反対派の所為であった。
「夢の森署(ウチ)のでしたか。所轄支援班兼自動車警邏係長の豊島です」
「お世話になってます。…少し出過ぎた真似をしました」
「とんでもない。流石ですなぁ、実に鮮やかだ」
豊島は否定したが、これには社交辞令が混ざっている事だろう。
苦労して追い掛けていたのを、偶然そこに居合わせた外野が涼しげにとっ捕まえていた。
自邏隊の面目、丸潰れも良いところの筈。
「先程、警邏中に緊急手配を受けた奴だったんです。バイクを乗り捨てて、歩行者専用道路に逃げ込まれまして」
「こんな早朝から、大変でしたね」
「いやぁ…。歩行者の安全も確保しなくちゃいけなくて、手を焼いておったところでした。助かりましたよ」
「そうでしたか。お役に立てたなら、何よりです」
気さくな彼に、野原は頭を掻いて「考え過ぎだったか」と警戒を解く。
反対派の人間ではないようだ。
これを機に交流を重ねていけば、特警隊が大切にしている《組織内の絆》をまた一つ増やす事に繋がる。
「今後も宜しく頼みます。仲良くやっていきましょう」
「はい。宜しくお願いします」
「事後処理と報告に必要な書類は、自邏隊(こちら)で用意しときます。聴取の際にお渡ししますね」
「分かりました。では、我々は撤収します」
挨拶と敬礼を交わし、豊島の後ろ姿を見送る。
野原は、再び助手席に乗り込んだ。
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