Occasion
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『Occasion』
戸の開く音が店の奥にいる名無しさんに届いた。
名無しさんの家は鍛冶を生業としている。
剣戟や槍、斧などを鍛えるのは父。
娘の名無しさんは武器防具に装飾を施すという役割で父の仕事を支えている。
今はその父が留守なので、名無しさんは奥の土間での作業と店番の二つを並行していた。
来客の気配がして玄関のほうを覗いた。
「あ!こんにちは」
その客はこの店にとってのお得意様。
そして名無しさんにとっても特別な人。
思わぬ来訪に名無しさんは声にも表情にも喜びを隠せない。それほどでもない距離なのに急ぎ駆け出していた。
「名無しさん、相も変わらず、今日も元気だな」
名無しさんの様子を見て、精悍な顔つきを崩さずに笑みを返してくれた。
「呂蒙様も益々ご健勝なことで」
「名無しさんの元気な姿を見たからかな」
名無しさんは冗談だと分かっていても、彼の発言で気持ちが舞い上がっていた。
「そういえば呂蒙様、今日はどうなさいましたか。お預かりしている武器はありませんが」
「今日は特に用はないんだがな。近くを通ったし、良い品が入っているかもと思ってな」
「そうでしたか。あ、そういえば丁度、昨日に完成したものがあります」
名無しさんはいそいそと奥間に行き、また戻って来た。
「実に見事なものだな。名無しさんが一人で造ったのか」
「はい。装身具くらいなら父の手を借りなくてもなんとか出来るんです」
呂蒙は名無しさんの手の上にある額当てを感心した面持ちで眺めていた。
「うむ、気にいった。これを貰えるだろうか」
「ありがとうございます」
「とても気に入ったから今すぐ身に付けたい。名無しさん、手を借りてもいいか」
「あ、私がお付けしてもよろしいんですか」
「名無しさんの手で付けて欲しいんだ」
「はい。では失礼します」
予想外な頼みに慌てつつも名無しさんは呂蒙の正面から額当てのよい位置を探し出して布地を結んでいく。
思っていたよりもかなり近づかなければいけないことに心臓は高鳴っていた。
すぐそばに彼の顔があることを意識せずにはいられず、指先だけではなく身体も触れ合うことで柔らかさと温かさを感じていた。
「きつかったり、緩かったりはしませんか」
「大丈夫だ。名無しさん、ありがとう」
額当てに触れながら呂蒙は言った。
「これがあれば、どんな戦であろうと負けぬな。名無しさんの思いが込められた額当てなのだからな、必ずや護ってくれるだろう」
「そんなに期待されては、私は効き目が切れぬように念を送り続けねばなりませんね」
「是非そうしてくれ」
『Occasion』
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