Pass
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「関平、久しぶり」
「あぁ……」
次の言葉に詰まってしまうのは互いの成長した姿に対する驚きと緊張の所為。
離れ離れになっていた間に幼友達は大人になっていた。
【Pass】
「相変わらずいい場所だよね」
名無しさんは関平より少し先に進んだ所から声を弾ませた。
裏門を抜けて少し歩いていった所は小さな川のほとり。桃の樹が幾本か生えており、青々とした芝が一面に広がっている。
久しぶりに来た城を見て回りたいという名無しさんの希望もあって二人はこの場所を訪れていた。
元々あった自然な景観をそのまま残した、敷地内で最も美しいと思うこの場所に。
「懐かしいなぁ。小さい頃、よくここで遊んでたよね」
関平と名無しさんはこの城で幼少から共に過ごした間柄だった。
だが名無しさんは両親を戦で亡くしてから城を出て行った。
名無しさんは身内という頼りを無くした城内での今後の待遇や身の振り方に不安を感じた。
女である自分は将として貢献出来るわけでもない。かといって特別な計らいを受けられるほどの高貴な身分でもない。
いつか何か面倒事が降りかかることを恐れた。
自らの身を守るため、名無しさんは城を去ることを決めたのだった。
名無しさんとの再会を望んだのは関平だった。
名無しさんのことがずっと気懸かりだったから。
あのとき、子供だった自分には名無しさんを守れる力が無かった。
そんな子供の自分に反して、名無しさんの決断は大人のものだった。
悲しみも苦しみも一つも見せることなく笑顔で居続けた名無しさん。
去り際の名無しさんの笑顔は頭に焼き付いてずっと離れなかった。
大人になった今の自分ならば名無しさんを守ることが出来る。
そう感じたから名無しさんを城へと呼び寄せた。
名無しさんは城下で奉公先を見つけるとだけ言って詳しい行き先を告げることをしなかった。
あのときから今日まで名無しさんはどのように生きてきたのだろうか。
楽なものでなかったことは間違いない。
何故もっと名無しさんを気遣えなかったのかという後悔は成長するにつれて増していった。
子供のときには思いもつかなかった名無しさんの苦労が大人になった今になって次々と分かってくる。そのたびに心が痛んだ。
だが当の名無しさんはそれ以上の辛さをたった一人で背負って生きてきたのだ。
「今更だって思うかもしれないけど」
「ん?」
それなのに今の彼女の微笑みも決して影をつくってはいない。大人びた外見も相まって輝きを増したようにさえ見える。
美しい……そう思う。
「ずっと、ずっと会いたかった」
名無しさんはいきなりの言葉に目を丸めていた。
「あのときはまだ、拙者が弱かったから…名無しさんを引き止めることも出来なかった」
昔だって今だって名無しさんは自分よりもずっと強い人間なのだとも思う。
――だけど……
「今の拙者なら名無しさんを守ってやれる。否、名無しさんを守りたいんだ。だから……」
気づくと自分を見つめる名無しさんの目から一筋の涙がこぼれていた。
「あ……、ごめんね。関平が真剣に話してるのに、わたし」
名無しさんが泣いているのを初めて見た。
幼い頃の記憶を全て辿っても彼女はいつだって笑っていたのに。
「名無しさん、ごめん。拙者は何か傷つけるようなことを」
焦って謝る自分に名無しさんは涙を拭いながら首を大きく横に振った。
「違うの。私、うれしくて。
関平が私のことを憶えててくれて、今日会ってくれたことだけで十分うれしかったのに。そんな優しいこと言ってくれるから」
名無しさんの大きな心に包まれ、守られているのは自分のほうなのだけど…それ以上に強くなると誓うから……
「結婚しよう」
『Pass』
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