Stealthy
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豊臣軍は圧倒的な物量差で北条の居城、小田原城を攻め落とした。
関東を掌握し、天下は遂に豊臣秀吉により統一された。
今夜は小田原攻略軍の西軍・東軍の合同で祝いの宴が催されることとなった。
「東西の勇将達よ、みなよくやってくれた。
長い前置きは無しじゃ!
みなが笑って暮らせる世のはじまりに……」
「乾杯!!」
【Stealthy】
秀吉の音頭によって宴は始まった。
『今日は無礼講じゃ~(いつもそう言う)』という秀吉の言葉や天下が統一されたということも手伝って、皆いつもの倍以上に盛り上がっていた。
名無しさんも豊臣の武将として戦に参じ、この宴の会場にいた。
――みんな楽しそうだな
ほぼ酒の飲めない名無しさんは、隅のほうの卓で茶をすすり、ひたすら御馳走を食べていた。
名無しさんは飲めないからつまらないという風には全然思っていなかった。
楽しそうにしてる人たちを見ているだけで幸せを感じられるし、賑やかな雰囲気を共有できるから名無しさんは宴会が好きだった。
「名無しさん殿」
幸村が微笑みながらやって来た。
幸村は宴会のときはよく名無しさんの元に来てくれる。
「幸村、話しかけに来てくれてありがとう。
でも、せっかく特別な日の宴なんだし……あたしに気を遣わないで楽しんできていいんだよ」
「いえ、き、気遣いなどではなく……私は名無しさん殿と、お話ししたく……」
幸村は照れ臭そうにぼそぼそと言う。
「んっ?幸村?」
最後のほうがよく聞き取れなかった名無しさんは聞き返した。
「名無しさん殿、平和が訪れたら伝えようと思っていました。私は以前からずっと名無しさん殿をお慕い……」
「名無しさんっ!!」
「名無しさん……」
やたら盛大に声を張り上げた主は兼続だった。
むっつり顔の三成も一緒だった。
「兼続、三成」
「もう兼続殿……いいところで横槍入れるなんて不義です」
「幸村よ、不義と鋏も使いよう、と言うだろう」
「絶対言わんが、よくやったぞ、兼続。
幸村は優しい顔をして抜け駆け癖があるみたいだからな」
名無しさんを余所に三人は言い争っていた。
名無しさんが幸村、兼続、三成の三人のうち誰か一人と話していると必ず他の二人もやって来る。
そして三人で火花を散らし睨み合いを始める。
しかし、そんな光景を見て名無しさんは、
――三人ともあんなに見つめ合って。
さすが義の志で結ばれただけあって仲良しだなぁ――と前向きな解釈をしていた。
三人とも名無しさんに気があるのだが、当の名無しさん本人は全く気づいていない。
今のように一人が抜け駆けしたら二人が阻止するという傾向上、良くも悪くも三人の気持ちの間には均衡が保たれ名無しさんには伝わっていないのだ。
「幸村、お前が抜け駆けした分、私も名無しさんに愛を囁くぞ」
「幸村、勿論俺もそうさせて貰う」
「くっ、わかりましたよ! けど私と同じく未遂でお願いしますよ」
三人は了解という印に頷き合った。
まず兼続が名無しさんの隣に座った。
「すまなかったな、名無しさんを放って置いて話をしていて」
「あ、いいのに。三人がとっても仲良しで、うらやましいくらいだよ」
ふふっと名無しさんがはにかむ。
「(むう、なんと愛らしい……)
名無しさん!!それよりも私は名無しさんとの仲を深めたいのだ。
そうだ!今夜……これからこの私と愛の営み……をぉっ!ぐぁっ!!」
「兼続(殿)っ!」
三成は愛用の鉄扇を振りかざし兼続の言葉を遮った。
「まったく、貴様の発言は急に飛躍しすぎだ」
「私よりも過激なことを言うとは油断も隙もないですね」
「ぐっ……あと少しだったのだが……」
悔しそうに零す兼続を、名無しさんから雑に引き放したのは幸村だった。
今度は三成が名無しさんの隣に座った。
「名無しさん、兼続が無礼な発言をしてさぞかし不快だったろう」
「あ、実は兼続が早口で途中からよく聞き取れなくて」
「そうか(いい気味だ兼続め)
ところで単刀直入に聞こう。名無しさん……想う相手はいるのか?」
「えっ!?あたし? 想う人なんて……」
酒を飲んでもいない名無しさんの顔が急に赤くなった。
(三成殿っ、なんと大胆な!でも照れる名無しさん殿、なんと可愛らしいんだ……じゃなくて、名無しさん殿に、もし好きな人がいるのなら気になる)
(名無しさんは想う男がいるのか。そこは確かに一番知りたい所だが……三成め!言葉責めで名無しさんをあんなに艶めいた表情にさせるとはずるいぞ!)
「どうなんだ名無しさん?いや、どっちだろうと構わん。どうだ名無しさん……俺と一夜城を築いてみぬか。無論、性的な意味で………っぐあぁっ!!」
「三成(殿)っ!!」
幸村の十文字槍が三成の言葉を遮った。
「くそっ……俺と名無しさんの一夜城が……」
「三成殿っ、もう一度そんな卑猥な発言したら、柄じゃなくて本当に刺しますよ!」
「三成!お前、私のことが言えるか!何なんだ、最後の『性的な意味で』という念押しは!」
兼続は護符を展開させると、三成を結界の中に閉じ込めた。
名無しさんは、想い人がいるのか聞かれて動揺し、三人のやりとりが早口やどつき合いのてんやわんやな状況だったため、幸いにも変態発言は耳に届かなかった。
そして名無しさんは混乱していた。
(ああ驚いた。いきなり三成があんなこと聞いてくるなんて思ってなくて、びっくりしたなぁ……。
でも、恋愛ごとなんて宴会での定番の話題なんだし笑って流せばよかった。
お酒が入ってないからやけに真面目に答えようとしちゃって)
……一方変態義士三人はというと、
「私と同じ程度の発言じゃなきゃダメって言ったのに兼続殿も三成殿も汚いですよ!」
「何を言うか!そもそも先走って名無しさんに告白しようという不義をはたらいた幸村が諸悪の根源だ!」
「先走る……それは性的な意味でか?」
「お前(三成殿)が一番汚い!!」
(はぁ……それにあたし嘘つけない性格だし、思っていることがすぐ顔に出ちゃうからな。
あー、飲んでもいないのに顔が熱いよ)
横で幸村と兼続と三成が三つ巴になっているのに名無しさんは目もくれず悶々としていた。
(あたしも想う人というか、その……気になる人は………)
「名無しさん姫。
おやおや随分と賑やかじゃないですか」
名無しさんがハッと顔をあげると左近がいた。
「ああ左近。もう、姫なんて呼ばないでって前から言っ……」
――突然、名無しさんの言葉が止まった。
口も半分開いたまま目も点になり、固まったままみるみるうちに顔色が変わっていく。
「姫?名無しさん?? か、顔が真っ赤ですよ?おーい、大丈夫ですかい?」
左近は名無しさんの目の前でひらひらと片手を振りながら呼びかけていた。
横でだんごになって取っ組み合いをしていた三人はその様子を観るとピタリと止まった。
「!?……名無しさん殿が、ほ、頬を染めながら微動だにせず、左近殿を見つめています」
……と、落胆しながら幸村。
「まさか、名無しさんの想い人とは!」
……と、驚愕しながら兼続。
「左近、貴様ぁっ! 家臣の分際で俺の名無しさんを!」
……と、憤怒しながら三成。
「殿、取り込み中すみませんが、名無しさん姫が酔ってるみた……」
「左近(殿)っ!!」
「うぉっ、 一体何をっ!」
「左近、俺と同石だからといって図に乗るなよ。俺の名無しさんを横取りしたらどうなるか教えてやる」
「左近!直江山城、名無しさんの愛を賭けて、義の名の下決闘を申し込む!」
「左近殿!私を倒さねば名無しさん殿は渡せませんよ。真田幸村、いざ参る!」
「ちょっ、訳がわかりませっ……」
「表に出ろっ!」
「ぎゃあぁぁー………」
三成、兼続、幸村により左近は宴会場から強引に拉致されていった。
「なんじゃ、あの芸人集団は」
薄ら笑いを浮かべながら隻眼の将はその様を見送っていた。
――そう……
名無しさんが見つめていたのは、左近のすぐ後ろにいた……
「政宗様……」
「名無しさん姫、隣よいか?」
「は、はい。私の隣で宜しければ」
政宗は名無しさんの隣に腰を下ろした。
(政宗さまが、あたしのとなりにいる。どうしよう、何を話そう。緊張して頭が回らない……)
元々、独眼竜の異名をとる奥州の覇者の存在に名無しさんは興味があった。
そこで、名無しさんは伊達政宗に会いたいがため、手っ取り早くいうと珍しいもの見たいがため本来西側の攻撃軍に属していたのを、秀吉に頼んで東側の攻撃軍に加えてもらった。
その際、秀吉にはまさか伊達政宗に会いたいから東軍に加えて下さいと言えるはずもなかったので、『稲の部隊と連携するに一番いいのは普段鍛錬を共にしている私ですので』と立候補していた。
北条との戦力差も歴然だったので東西の戦力配分が変わることに特段問題はなく、秀吉は名無しさんの頼みをすんなり聞き入れてくれた。
念願叶って東軍に属した名無しさん。
しかし政宗と話をすることはできなかった。
最初、興味本位だけで会いたいと願った相手は、名無しさんの想像にはないほど容姿端麗であった。
その姿の眩しさは名無しさんの心のすべてを覆い尽くし、近づいて話すことなどとても出来なかった。
だから今、政宗に話しかけられているこの現実に、名無しさんは驚きと戸惑いと特別な緊張感を抱いていた。
「名無しさん姫、先の戦では言葉を交わすことが出来なかった。
だから今、このような機会に恵まれ、わしは嬉しい」
「わたしも政宗様とお話できて、とても嬉しいんです」
(緊張に負けて、せっかく政宗さまと喋れる時間を棒に振りたくはない。がんばらなきゃ)
全身に自然と力が入る。
名無しさんは政宗との会話を繋ごうと懸命になった。
「姫?酔っておるのか?顔が真っ赤じゃが」
「あっ、いいえ、これはお酒のせいではなく」
政宗の指摘が恥ずかしく、名無しさんは頭を垂れる。
(うぅ……、がんばろうとすると力が入って顔に出ちゃった。逆効果だよ。空回りもいいとこだ)
名無しさんの心を知ってか知らぬか、政宗は「名無しさん姫は変わった反応をする。面白いのう」と笑いかけてくる。
「お、おもしろくないですよ……。
それに私のこと姫なんて呼ばないで下さい。左近くらいです、そう呼んでるのは。
何より姫なんて、私にはちっとも相応しくないです」
(あぁ最低だ。仮にも誉めてくれた政宗さまになんって生意気な口を聞いてるんだろう)
「わしは、おぬしが姫と呼ばれるに相応しいと思っておる」
「へ? なぜですか?」
「先程左近と喋っていてな。三成、幸村、兼続の芸人集団も、そして左近本人もおぬしのことをとても好いておると……」
(え!?)
「名無しさんは皆に想われ、大切にされておるのだ。あやつらはひとえにおぬしを守りたいという気持ちを込めて姫と呼んでおるのだ」
「私、てっきり左近がふざけて呼んでるだけだと。でも皆が、あたしのこと大事に思ってくれてたなんて」
「わしに好きな女の話をしてる時点で左近は多少ふざけてるがな。
因みにな、あとの三人も裏では姫と呼んでおるらしいぞ。
おぬしが嫌がると聞いてから表向きは呼んでないみたいじゃが」
「……うん。政宗様が今日話してくれなきゃ、いろいろと気づかなかったな」
はぁっと息を吐き、のんびりとした口調で名無しさんは呟いた。
「おぬしのそのどこか抜けたような感じ。皆、好いておるのだ」
微笑む政宗は名無しさんの頭の上に優しく手を置いた。
「……政宗様」
「わしも名無しさんを愛らしいと思うぞ。
もっと名無しさんのことを知りたい」
「……わたしも、政宗様のことが………。
もっとお話しましょう」
二人は、見つめ合い微笑み合った。
(やっと政宗さまの目をまともに見れた。
政宗さま本当格好いい……っていうか綺麗な顔だよ。
けど、絶対あたしの顔は赤くなってるな。なんだかまた熱くなってきたし)
――まあ、いいや
――ひそかに幸せ
【Stealthy】
○●おまけ○●
左:「お、俺が……何をしたっていうんですかい……」
三:「左近、俺の力を思い知ったか。これに懲りたら俺の名無しさんに手を出すなどと二度と考えるな」
兼:「義の勝利だ!名無しさんの愛を我が手に!!」
幸:「燃えよ!名無しさん殿への愛!!」
慶:「おっ、派手に仕合ったみたいだねえ」
兼:「慶次!今名無しさんの愛を賭け、義の決闘に勝利したところだ!」
左:「……三対一の袋叩きだろ」
慶:「名無しさんの愛?……あぁ、名無しさんなら政宗といい感じだったねぇ。名無しさんのあの顔、ありゃあ恋してるな」
義士一同:「ぬぁぁあにぃいいぃっ!?!?!?」
――完――
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