幻影
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「こんにちは」
「こんにちは、御機嫌よう」
十兵衛はいつも大体決まった席に座っている。
カウンター席の奥から数えて二つ目三つ目くらいに座っていることもあるし、今日のように二人用の卓に一人で掛けていることもある。
彼のほうが先に店内にいて迎えてくれて、彼が自分より後から来ることはほぼなかった。
「十兵衛殿は、もう注文済んでいますか?」
ご一緒していいですか、と断りもいれずに自然と彼の目の前の席に座りながら聞いていた。
「はい、日替わりを二人分。今日も名無しさん殿はいらっしゃると思っていたので早々に頼んでしまいました」
「ありがとうございます!助かります。ここの日替わり定食は数量限定だからすぐ無くなっちゃいますよね」
「ですよね、私もお気に入りなんです。品数が多いのに高くなくてお得ですからね」
目を細めながら十兵衛は明るい調子で言ってくれた。
声の調子とは比例せず、顔は決してくしゃっと崩れもせず、鼻筋も唇も造形物のように整ったままの笑顔だ。
馴染みの店で再会し互いに会釈をするところから始まり、声に出して挨拶を交わすようになれば席の空き状況によっては相席するまでになったのだ。
初めこそ物静かで控えめな印象の十兵衛だったが徐々に打ち解けることができ、互いに口数も増え、笑い合うことが多くなっていた。
一貫して彼はとても優しい。
今このときのように先に注文をしておいてくれたり水やお茶を注いでくれたりと、とにかく親切だ。
「もし、わたしが今日来なくって、日替わり定食二人分がでてきたら十兵衛殿はどうするつもりだったんですか?」
万が一彼の気遣いが不発に終わってしまった場合どうしていたのか、気になって質問をしていた。
十兵衛は少しだけ首を傾げて、薄く口元をほころばせた。
「そうですね……美味しいものに手をつけずみすみす残してしまうなんて勿体無いことはしたくありませんので、二人前食べていたと思います。私、決して小食ではないですし、結構いけると思うんですよね」
淀み無く答える彼が、意外に大食いだよ宣言をしてくれたのが可笑しくて声を出して笑ってしまった。
「十兵衛殿が二人分も食べるなんて……。二人分の定食をテーブルに広げて奮闘する姿を想像するとなんだか面白いです」
毎日ではないが頻繁に彼に会う日々が続いて、昼休みの時間が楽しみになっていた。
以前よりも外で昼食をとることが増えた自分に対して、三成は怪訝そうな態度だった。
「お前、外食増えたよな」と言われたときは「そうだね」なんて必要以上に話を広げないような返答をした。
城の外で頻繁に異性と食事をしているなんて三成に知られたら何を言われるのか。
想像するだけで恐い。
そして、たまに三成だけでなく半兵衛などからも昼飯に誘われるときが必ずやってきた。
しかも場所がこの店になってしまうこともあって、もし十兵衛と鉢合わせたら気まずい……なんて心配していると、そういうときに限って不思議と十兵衛はいないのだ。
まるでタイミングを図ってくれているようだった。
何度か会っているうちに十兵衛に対しての関心はますます強くなっていた。
昼食が美味しいとか、天気の話とか、差し障りない話題の雑談ばかりを重ねていたが、彼自身についてはほぼ何も知らないことが気になっていった。
いつも優しく、見目麗しい彼がどんな人物なのだろうか。
家族は? 出身は? 職業は?
恋人は……いるのだろうか?
単に人としてではなく、異性としても意識をしてしまっているのだ。
「あの、十兵衛殿はこの土地の方ですか?」
「いいえ、住居を構えているわけではなく、職務上滞在しているのです」
「あ、そうなんですか。では時期が来たらここを離れるんですか?」
「ええ、そうなんです」
「そうですか……」
思いきって聞いてみたはいいが、やっぱりこれ以上は突っ込まないほうがいいかな、と思い、つい煮え切らない言い方で会話を止めてしまった。
「名無しさん殿は気を遣われる方ですね」
あえて詳しく聞かないでいることに十兵衛も気がついているようだ。
眉を下げ気味にして困ったように微笑む姿は優しく、美しい。
「え、いえ、お仕事のこととかって、あまり深くお聞きするのも図々しいかなと思って。こんな風に十兵衛殿とお話できるようになって嬉しいけど……」
店内は他の客たちの話し声や調理場から聴こえてくる雑音でまあまあ騒がしいが、自分と十兵衛の間には沈黙が訪れていた。
「私も、名無しさん殿とお会いする時間はとても楽しいのです。こんな日常がずっと続けばいいと思っています。
けれど心の中では常に付き纏っている思いがあります」
「それは、どのようなことですか?」
「自分のことを詳しく話さずにいることを申し訳なく感じています。私がどういう人間なのか、何者なのかを貴女に話したい。
でも、それを話すということは貴女と過ごす時間が終わるということを意味するのです」
過ごす時間が終わる――そう唐突に言われても、あまり驚きはしなかった。
自分も密かに同じようなことを考えていたからだ。
十兵衛と会話を重ねるたびに彼のことをもっと知りたいけど、深く聞きすぎてはいけない気がしていた。
もっと知りたいと欲張って何かを聞いてしまえば、もう会えなくなるだろうという漠然とした予感は常に心の中にあった。
「そうですか、十兵衛殿と会えなくなったら寂しいです。
でも、十兵衛殿がご自身について話したかったり、話すことで気持ちが楽になったりするのなら話して欲しいです。
わたし……十兵衛殿のことが気になるし、もっと知りたいと思っているんです」
「そういってくださる貴女の優しさに甘えて、少しだけお話をしてよろしいですか」
穏やかだった彼の口調が強さを増していて、「はい」と応えて頷いた。
「かつて私は自らの理想を重ね、とある方にお仕え申しました。主として、唯一無二の存在として、命を賭し一生付いて行きたい、そう思うほどでした。でも私は……失敗したのです。己が弱さにより主をはじめ多くを失いました。
そこで私は一度死んだと言っても過言ではありません」
十兵衛は例の優しそうな眼差しで見つめてくれるのだが、云いようもない憂いを含んでいるのだ。
「それから私は生きながらも気力のない亡霊同然でした。けれど死に場所を求めつつも楽に死することは許されないと思いながらふらふらと彷徨っていました。
彷徨い続けて、色々ありましたが、そんな私のような者でも遣ってくださる方がいらっしゃいまして……つまり現在は別の仕え先がある、ということです。
先ほども言ったとおりこの地にいる理由は仕事のためです。
私は、名だたる方々をずっと視ていました。
たとえば三成殿や半兵衛殿、他にも色々な方……否、婉曲な表現は馴染みませんのではっきりというと要人の監視、調査をしているのです。下世話な職務です」
彼は只者ではない。
三成や半兵衛の名前を出してきた彼に対して驚きだけでなくそう確信を持った。
「あなたは一体……誰なのですか」
辿々しく呟いても、早く続きを教えて欲しいと顔に出してしまっているのだろう。
十兵衛を見ていると、彼も決心したように見つめ返してきているのだ。
その眼には覚悟が宿っていた。
「私は、光秀。明智光秀」
彼の告白に頭の中が真っ白になった。
「まるで貴女を騙すような近づき方をして本当に申し訳ございませんでした」
そう言い終えて彼は席から立ち上がった。
「貴女とお話出来て本当に楽しかったです。勝手に身の上を話した挙げ句立ち去る振る舞い、最後の無礼とし、どうぞお許しください」
光秀は真摯に一礼すると、一つに結われた美しい黒髪も揺り落ちた。
彼はこの場を去るため背を向けようとしていた。
待ってください。
引き留める声が思いのほか大きくなってしまい自分自身で驚いてしまった。
それは光秀も同じだったようで去ろうとする足を止めてくれた。
「もう少しお話出来ませんか」
そう願ってもやはり光秀は首を横に振った。
「名無しさん殿にご迷惑をかけたくないです」
「どうしてもいけませんか?」
「貴女に私の素性を明かしてしまった以上、この地に留まり続ける訳にはいきませんし、貴女に近づくことも許されません。
私の存在はそれくらい宜しくないのですから」
光秀の云わんとしていることは理解ができる。
明智光秀が生存している事実が城内の、三成をはじめとする面々に知られたら非常に不味いだろう。
ましてや自分が光秀と接触したなんて知れたら大問題だ。
明智光秀という人物に関して概要程度の知識しかなかった自分だが、彼の名前を口にすることすら御法度なのだろうと今ならわかるのだ。
「けれど今日が最後なら、まだ日にちが変わるまでお時間はありますよね」
光秀がはっとした顔を見せたが、困ったように目を伏せた。
「屁理屈を言ってごめんなさい。でももう少しだけお話できませんか」
「本当にいいのですか?」
「楽しい話でも悲しい話でも構いません、貴方のお話がもっと聴きたいです」
じっと視線を送ると眉を下げたまま光秀が儚げな笑みに変わった。
「名無しさん殿にそう仰られては、もう私はお断り出来ません……場所を変えましょうか」
店を出て慣れた様子で歩く光秀は、この界隈をすっかりと熟知しているようだった。
監視・調査が任務だという話が架空ではなく現実のものだと納得させてくれた。
「名無しさん殿、お昼休みの時間は間もなく終わってしまうでしょうけど、戻らなくて本当に……いいのですね?」
気遣うように問いかけてくる彼は、こちらの答えなどわかりきっているような表情で、微笑しているようにすら見えた。
「いいんです。わたしがここで去ったら、本当に貴方も消えてしまって会えなくなるだろうから、まだ帰らないです」
「わかりました。しつこくてすみません、ありがとうございます」
そう言って少し歩いたのち、彼がぴたりと足を止めた。
そこは、とある建物の前だった。
大きい店構えで、単に飲食店かと思いきやよくよく見ると宿場も兼ねているようで三階か四階くらいまでありそうだ。
「ここに入りましょう。正面からではなくこっちの扉から」
よくわからないけれど、おそらく正面ではない別の出入口のほうが秘密裏に行動するには丁度よいのだろうと憶測を立て頷いた。
彼が指し示したほうへ黙ってついていき、建物内へと入った。
店内に入ると、射し込む陽の光が半分くらい遮られていて、まだ昼間だというのにどこか夜分を連想させるような不思議な空気が漂っていた。
やや狭くくねった通路を右に左に躊躇なく進んでいく彼の後ろにただついていった。
これでは帰り一人では確実に迷ってしまうなと思っていると、光秀が立ち止まった。
「ここです」と目的の個室の前まで来たことを知らせてくれて、戸を開けて先に入るよう促してくれた。
紳士的な所作だった。
部屋の中に入り、卓を挟んで腰かけた。
簾のついた窓があり個室なのに閉鎖的な感じはなかった。
「こんなところがあったなんて全然知らなかった」
「そうですね、表向きは少々お高い飲食店といったところですが、角度を変えてみれば全然別もの。隠れ蓑になる場所なんです。
秘密のお話をするにはうってつけの場所なんですよ」
さっきまでの深刻な空気を引き摺りすぎず冗談めかして微笑んでくれる光秀に内心ほっとした。
「あの、ここにいる今だけ光秀様とお呼びしていいですか」
「勿論ですよ、貴女にそう呼んでいただけるのは嬉しいです」
光秀は、自身の現状を話してくれた。
本名を名乗るとか素性を明かすことは出来ないし、特に面識ある人物の前に出られないもののそれ以外は不自由なく生活出来ていることを教えてくれた。
現在の主については詳しく話さなかったが、歴史の表舞台から姿を消した彼を匿い、雇うほどの力を持つ人物はかなり絞られてくるだろう。
「そうすると今の光秀様は……忍、みたいな感じですかね」
そう聞くと光秀は声を出して上品に笑ってくれた。
「忍ほど身のこなしは軽くはないですが、こんな暮らしを続けていて隠密行動は得意になりましたよ。身に迫る危険を察知したり、急な問題を回避したり切り抜けたりとか、そういう勘は物凄く研ぎ澄まされるようになりました。だから白昼堂々と顔見知りの方が来る恐れのある場所で昼御飯を食べる余裕も出てきました」
彼の現在の職務にふれるにあたり、三成や半兵衛のことも話してくれた。
「かつての三成殿は誰をも寄せ付けない方でした。今よりももっと冷めていて、刺々しくて、とても他者に心を許したりする様を見せてはくれませんでした。
半兵衛殿も然り。彼は飄々としていますが、才能溢れるゆえの孤高な気性の御方。本心はいつも何処か違うところにあって、心の底から笑っている彼を見たことがありませんでした」
思い出すように昔を語り始める光秀の様子はそれほど辛そうではなく、むしろ昔の思い出や三成や半兵衛のことを懐かしむようだった。
「それが今では変わりました。お二人とも他者が自らの領域に入ることを許すような表情をしています。
彼らが変わった理由のひとつは間違いなく貴女の存在です」
「そうでしょうか」
「ええ、間違いありません。私はずっと見ていたからわかります」
微笑を浮かべる光秀が説得するように目を合わせてきた。
「私は間違った方向に変わってしまったから失敗したのでしょうね。あの方の理想のために働いていたつもりが、いつの間にか己が理想だけを追い求めていて、しかもそれは身の丈に合っていないほど高すぎたのでしょう」
光秀の目には後悔の色が滲んでいた。
「理想が高いのはいけないことではないと思います。わたしなんて、そういうものが何もないですし。……なんかなにも知らないくせに偉そうなことを言ってすみません」
「いいえ。そういってくださる貴女はとても優しい方ですね」
「光秀様に優しいって言って貰えて凄く嬉しいです。けど……わたし、誰にでも合わせようとして結局のところ自分の信念なんてなくって流されているだけなんです」
「そんなことはないと思います。名無しさん殿のように誰かのためを想い寄り添ってくれるかけがえのない存在を必要としている方は沢山いますよ。
今更遅いのですが、私ももっと早く貴女のような人に出逢えていれば、何か変わったのかもしれませんね」
言いながら光秀はこちらの手の上にそっと手を重ねてくれた。
優しく包むような指先の感触に無骨さはなく繊細さを感じた。
意識的に触れられたのは初めてだ。
偶然でも体の一部分がふれ合うことだって一回あるかどうか、そんな程度だった。
一定保たれていた距離感が急に無くなって驚いてはいるが、内心では彼がこうしてくれることを待ち望んでいた。
「名無しさん殿のことは離れて見ていても素敵な方だと思っていました。
けれど実際こうして面と向かって近くでお話をさせていただいたら、もっとずっと……素敵な女性でした。
貴女は愛しい人はいませんか?」
「わたしには誰もいませんよ。光秀様はご存知なのでしょう?」
緊張を隠すようにほのかに笑ってみせると光秀はいつもの困ったような優しい笑みを見せてくれた。
「無神経な質問ですみません。
男女の色恋沙汰となると、てんで勘が働かず自信はありませんで。
私の一方的な気持ちで貴女を煩わせたくなくて、つい聞いてしまいました」
あくまで謙遜する光秀に『貴方のほうこそ……』と返したくなるが、今は自分だけを見つめて欲しくてその言葉を飲み込んだ。
「わたしも光秀様のことを見ていました。
すごく綺麗な美しい男性だなって思って、ずっと見とれていました……」
緊張しながらぼそぼそと応えると、光秀はもう片方の手で大事そうに抱き寄せてくれた。
此方を気遣いながら触れてくれる彼の人柄こそ、思っていたよりもずっと紳士的で素敵なものだ。
抱き締める腕を緩めてくれたと思うと整った光秀の顔が近づいてきて、そっと唇を重ねてくれた。
もう何も言わずに。
無言で与えられたその口づけは思っていたよりも熱が込められて深くて、その意外性に戸惑ってしまった。
光秀の顔がゆっくりと離れると、長めの前髪がはらりと流れて真剣な表情に少しだけ陰を落とした。
ただそれだけなのに一瞬で目の前の光秀は充分な色気を纏っていた。
ずっと封じ込めていた一面を一気に解き放ったようにさえ思えた。
「貴女に見られていたのは何となく気がついていました。
少々照れてしまいますが、そのようなお気持ちも、まっすぐなお言葉もとても嬉しいのです。
だから貴女が誰のものでもないのなら、今日だけでもお近づきになりたいです」
真昼なのに夜だと錯覚する雰囲気に呑まれ、艶のある光秀の一言一言に心は奪い尽くされた。
黙って小さく頷いて彼の腕の中に身を預けたままにした。
***
閉じられた襖の向こうから聞こえた使用人の一声でふと我に返った。
昼飯膳が運ばれてきたのだ。
そこでやっと時刻が正午を回っていることに気がつき、仕事をする手を一旦止めた。
今日、昼食を共にする相手は三成だ。
彼は同じ室内で職務をしているのだが、その流れでこのまま部屋で一緒に食べるのだ。
午前中の業務が中途半端な状態になって、外に出る時間が惜しいと思うときはこうして三成と昼食を摂ることがよくある。
実に合理的な時間の使い方だと思う。
お金も時間も費やして外食する必要なんてないと思ってしまう。
「なあ、お前には関係ないかもしれんが一応言っておく。最近明智光秀に似た男が城下で目撃されたらしい」
「そうなの?」
「まあ、お前は光秀の顔も知らんだろうからいまいちピンと来ない話だと思うがな。
俺としては、奴が生きているのなら目の前に引きずり出して聞いてみたい。
事の真相をな。
奴は歴史的事件の生き証人になるんだからな。
だが俺はこの噂をほぼ信用していない。
幸村に頼んで色々と調べて貰ったが、光秀の痕跡の一片も発見出来なかったからな」
「あぁ、だから最近、幸村が三成の部屋に来ることが多かったんだ」
「そういうことだ。
それにな、こういう風に噂が広まる頃には対象の人物なんて既に領内から出ていっているもんだ。
そうなればもう尻尾が掴めん、金も時間も費やすだけ無駄だ」
「そうなんだ」
三成に不自然な態度を見せないよう、努めて平静を装っていた。
「ところでお前、最近外食しなくなったな」
「うん、だって城内で食べるご飯だって美味しいし経済的だし。暫くは外で食べないかも」
「そうか、まあ好きにしろ。けど、ちゃんと食えよ。お前、なんだか最近覇気がないぞ」
「うん、ありがとう三成」
珍しく気遣うような言葉をかけてくれた三成は話すべきことを全て終えたのか、視線を逸らし食事を再開した。
最近の自分はぼうっと考え事をする時間が多くなった。
考え事というか、あの人と過ごした短い時間のうち、良いところだけを切り取って美化した思い出に浸ってばかりいる。
この癖を治すにはきっとまだ時間が必要だと思う。
けれど、あまりに覇気がないと察しのいい三成に何かを感づかれてしまうから、ほどほどにしないといけないだろう。
箸を持ち、整然と盛り付けられた御膳を前にしてそんなことを考えていた。
【幻影】―End―
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