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______その不気味な湿度を纏った男の後ろには、いつも綺麗な瞳をした子が着いていたのを俺は覚えている。
男の名は『蛇穴健栄』。後ろの子は『苗字名無』と言った。
男に彼女の事を聞いてみると、淡々と答えた。
「・・・・後ろの?・・・ああ、こいつは・・・・・
______モルモットであり、助手だよ。」
俺達がネズミを見てネズミと呼称するように。さも当たり前のように、どう見ても人間である彼女の事をそう言った。
慣れない他人に怯え、蛇穴の後ろに隠れる彼女は確かにモルモットのような愛らしさはあるかも知れない。
だがこの男はそんな理由で言ったようには到底思えなかった。……俺はその時確信した。
俺達とはあまりに見える世界が違うのだろうと。
この二人はイカれた研究の果てに、一体どんな世界を描いているのだろうか______?
「ほら名無。今日からこの人が俺のボスだ。挨拶。」
「苗字名無です・・・よ、よろしくお願いします。ボス・・・。」
「警戒しなくても良いよ。よろしくね、苗字ちゃん。」
「・・・・・。」
苗字名無。彼女は蛇穴のモルモット兼助手らしい。
命に関わらない程度の軽度な実験は彼女自身で行っていて、その傍らで蛇穴の口にするのも憚られる人体実験に協力しているそうだ。
だが極端な人嫌いとかで蛇穴にしか懐いていない。これから仲良くなろうって時もこれだ。時間がかかるな。
「気にしないでください。こういう奴なので。」
「別に気にしている訳じゃない・・・。それより蛇穴。勢力の拡大だが手筈は整っているな?」
「勿論です。力による制圧はやはり多くの荒くれ者を引き寄せます。
これにより我々の傘下は確実に広まっています。」
「くくく・・・その調子だ。では引き続き頼むぞ。俺は俺で新地域の開拓があるんでな・・・。」
「行ってらっしゃいませボス。お帰りをお待ちしております。
____行くぞ、名無。ボスが帰ってくるまでに実験を終わらせる。」
「はい健栄様っ!早くラボに帰りたいです・・・。」
「______・・・・・。」
この挨拶の時もそうだが、表向きの顔で苗字名無と接しているが変化は見られない。
俺自身彼女をどうこう思う気持ちはないがああも態度が違うと蛇穴に洗脳でもされているんだろうかと疑う。
実際蛇穴はヒプノシスマイクの研究チームに所属していたらしいしその気になれば出来なくはないだろう。どんな手段かなんて考えたくはないが。
・・・何故彼女を助手にしたんだろうか?ふと俺の中でそんな疑問が浮かんだ。
ただの興味本位だが、今後何かの役に立つかも知れない。いつか聞いてみるか・・・なんて思いながら俺はアジトを後にした。
蛇穴を仲間に引き入れてから暫く。ラボと呼ばれる研究室に何度か出入りすることも増えた。
まあまあの広さがあるはずなのに書類や謎の器具。試験管があちらこちらに配置されていて狭く感じる。
その度に白衣を来た蛇穴と、俺を見た瞬間素早く後ろに隠れてしまう苗字の姿をよく見る。
どうやら俺は未だに警戒されているらしい。
「こ、こんにちは・・・ボス・・・・。」
「そんなに畏まらないで、苗字ちゃん。俺の事…まだ怖いかな?」
「そういう訳では・・・・・。」
出来るだけ優しく話しかけようにもこれだ。目が合ったかと思えば視線を外して隠れてしまう。
社会人モードにして優しくしているつもりなんだが、上手くいかないものだ。
「ボス。モルモットは人に慣れるまで時間がかかりますから。」
「そうか・・・。ならこれからますます慣れなくなるかもな。人が増える。」
「・・・・やりましたか。Northbastardの奴ですね。」
「ああ。俺達の傘下になる。・・・あとで苗字ちゃんにも紹介しないとね?」
DarkLibertyの活動範囲及び人員確保が出来た。率いれたい即戦力も既に手の中だ。
この喜ばしい自体にも苗字の表情は曇ったままだ。
「・・・ラボの外は野蛮な人達が多いので怖いです・・・。健栄様がモルモットに事欠かないのは良いですが・・・・。」
「安心しろ名無。主要な人物しか会わないし軽い挨拶だけだ。お前はいつも通りにしていればいい。」
「はぁい、健栄様・・・。」
慣れた様子で表情一つ変えず彼女の頭をぽんぽん、と撫でる蛇穴。
苗字は安心したように笑う。その姿はまるで名前を呼んだら主人の元に駆け寄る賢い小動物のようだ。
こうして眺めている分には可愛らしいんだが・・・。とことん蛇穴にしか懐かないんだな・・・。
「そうだね。苗字ちゃんは女の子だから表に出たら危ないし、ラボにいれば安全か。」
「・・・・はい。ボスに言われなくともラボから一歩も出る気はありません。」
「何故か蛇穴の助手もおっかないみたいな噂がたってるし・・・誰もここには近寄らないだろうね。」
「人にどう思われようが関係ありません。私は健栄様のモルモットですので。」
無表情で淡々と言うところは主人にそっくりだな。ペットは飼い主に似るとはこのことか。
ペットじゃなくてモルモット兼助手だが。俺まで人間とモルモットの境目が分からなくなりそうだ。
「まあいいか・・・。とにかく例の奴から情報を引き出したり色々やることが多い。蛇穴も手伝え。」
「かしこまりました。今後は慌ただしくなりそうですね。」
そう言いながらもニヤリと口角を上げる男。
男を見上げた彼女は、自分の事のように微笑んでいた。
__________それから数日後。
すっかりアジトに慣れ始めている狐久里と共に蛇穴のラボを訪れた。
他人に慣れない彼女の事を思うとあまり良い予感がしないが・・・。
「へえ~。蛇穴の旦那の助手って血も涙もねえロボットとか想像してたけど可愛い子じゃねえの!!」
「・・・!け、健栄様・・・・あの人・・・。」
「ああ。あいつが狐久里梁山。最近入ったチームメンバーだ。」
「ううぅ・・・苗字名無です・・・・。よろしくお願いしますっ・・・・。」
「ケケケケwwなんか俺怖がられてんのか?安心してくれよ嬢ちゃん、俺こう見えても優しいからさ?」
狐久里の一言目から既に警戒心MAXな苗字は秒で蛇穴の後ろに隠れた。明らかの俺の時よりも早かった。
怖がっているというよりは威嚇しているのだろうか。狐久里は早速敵認定されているな・・・。
「・・・・健栄様。この人から人工的な香水の匂いと危ない薬の匂いがします!!
薬の方は絶対持ってるか使ってるかそのどちらか・・・。後者よりは前者寄りです!!」
「流石だな名無。分析が早い。」
いきなり叫んだかと思えば狐久里の正体を見破った。こいつはヤクの売人でターゲットは女中心だったと聞く。
交渉技術もあるから仲間に引き入れたんだが苗字とは相性が悪いらしい。
・・・もしかすると、彼女が俺に対して警戒を解かないのは俺の上っ面の演技を見破ってるからなのかも知れないな・・・。
ちなみにこいつらが使ってるのが危ない薬じゃないのか、とかそういう事は今は忘れるとしよう・・・。
「・・・確か名無ちゃんって旦那のモルモットなんだって?
そんな食えねえところも可愛いなー・・・。ほらほら?撫でてやろうか?」
「狐久里。名無は警戒心が強いんだ。これ以上脅すな。」
「脅したつもりはねえんだけど・・・まあいっか。これからよろしくな、モルモットちゃん♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
今まで見た事ない顔で苗字はいつまでも狐久里を睨みつけていた。これは慣れるとか以前に相当嫌っているのかも知れない。
形だけでもチームメンバーなのだから多少の交流は必要かと思ったが逆効果だったか・・・?
・・・まあ仲間なんてあってないようなものか。とりあえずの挨拶はこれで済んだな。
それから俺達は新生Northbastardとして水面下で勢力を拡大し始めた。
アカバネのならず者の中でも俺達はトップに君臨している。
この世界を支配するのも時間の問題だな・・・。
ディビジョンラップバトルへの参加も決定したところで、確実に高みへ昇っている感覚がそこにはあった。
・・・だが配下が増える程、統率が出来なくなる危険性があるのも否めない。
蛇穴も狐久里もたまに単独行動することがあるので俺の知らない間に何か仕掛けている事もある。
勢力拡大と銘打って蛇穴が自分の実験体を増やしていたのでたまにメンバーの何人かが突如姿を消す・・・なんて報告を聞いて多少驚いた。
「申し訳ありません。」
「蛇穴・・・勝手な真似をしてくれたな。」
「ですが結果的には領土の拡大、人件の確保、備蓄などの素材も入手出来たので一石二鳥かと。」
「・・・確かにな。だが今後は控えろ。それか俺に報告してから動け。分かったな?」
「かしこまりました。」
蛇穴は表情が読めないのでいまいち反省しているのかどうか疑わしい。
というより、苗字もそうだがあの二人は何を考えているやら俺には分からない・・・。
他人の考えなんざ読めなくともいいが住む世界が違うと価値観や倫理まであいつらには及ばないからな・・・。
「・・・そういや蛇穴。お前が実験体にした中には屈強な奴もいたんだろ?」
「はい・・・それが何か。」
「お前や苗字じゃ手に余るんじゃないのか?ヒプノシスマイクがあるとはいえ、この裏の世界じゃまだ暴力が幅を利かせてる。
・・・いつもどうしてるんだ?」
すると、表情を変えなかった蛇穴が少し笑って楽しそうに喋りだした。
饒舌とはまさにこの事だな。まるで蛇が舌を出して周りを把握しているような感覚か。
「制圧は名無にはやらせていません。俺は元軍人ですので奴らは素人に等しい・・・。
薬の投与や実験の記録処理などの補佐を名無にさせています。」
「ほう・・・。マイクは使わないのか?」
「捉える際にマイクを使用している場合もありますが、どうしても必要な時以外は基本使いません。
・・・今度見学に来られますか?ボス?」
「・・・・・いいや。遠慮しておこう。元々お前の実力は知っている。
聞いた俺が馬鹿だったよ・・・。」
「そうですか。残念です。」
首を傾げる蛇穴に小さく溜め息を溢す。俺も力でなら負けない自信はあるがそれでも敵に回したくない男だ。
いくら俺が頂点にいるとはいえ、油断をすれば転覆されかねないな・・・。
「そんな実験に付き合う苗字も物好きだな・・・。なんで苗字を助手にしたんだ、蛇穴?
初めて会った時も一緒に居たよな。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・聞かれたくなかったら、別に言わなくても構わないが・・・。」
珍しく蛇穴が真剣な顔でだんまりを決め込むので聞かれたくない事情でもあるのかと不安になった。
元から気になっていたとはいえセンシティブな質問だったか?
そう思っていると_____
「・・・・はははっ。」
「・・・?」
「俺の助手を志願してきたのは名無の方ですよ、ボス。俺が指名した訳ではありません。」
「何っ・・・そうなのか!?」
「・・・苗字名無は俺の最初のモルモットであり今は兼任して助手です。
名無は自らの意思で俺の元にいるんですよ。」
驚いた。彼女自身が望んで蛇穴の元についている事。蛇穴が選んだ女ではないという事。
なにより最初のモルモット?蛇穴のイカれた実験で死なずに今も生きてるってのはどういう事だ・・・?
「・・・言っちゃあ悪いが、正直お前が洗脳したもんかと思ってた。
ヒプノシスマイクを使って女を選んだのかと思ってたが・・・全然違ったんだな。」
「ボスの考えもなかなかユニークですね。ですが真正ヒプノシスマイクでもない限りそのような芸当は出来ません。
それに、俺と名無の関係性はマイクの開発以前からです。・・・他に何か質問はありますか?ボス?」
「もう一つだけ聞かせてくれ。お前の実験の内容はなんとなくだが知っている・・・。
その最初のモルモットとやらが苗字なら、なんで今も苗字は生きてる?解剖とかするんじゃないのかお前は?」
「ああ・・・そのように考えてましたか。俺が解剖するのは必要性がある時だけですよ。例外もありますが。
名無は一度死にかけています。ですが助手に死なれるのも面倒だと判断した為、それ以来軽度な身体実験しかさせてません。」
・・・成程。話を聞く限り、モルモットにはしているようだが苗字には利用価値があると判断してあえて傍に置いているという訳か。
苗字が何をそんなに蛇穴に心酔しているのかは分からないが・・・。いずれにしろ蛇穴にとっては都合が良いのか。
歪な関係で成り立っているんだな。この研究者と助手は。
「・・・・そうか。蛇穴にとって苗字は都合が良いんだな。
・・・そうなると苗字が蛇穴を慕う理由ってのが分からねえが・・・。」
「さあ。俺にも分かりません。」
「・・・・・・え?」
「名無は俺に身を粉にして全てを捧げるつもりらしい。
何故だ?と一度聞いた事があったんですが・・・_______」
『・・・名無。俺のモルモットでいるのは楽しいか?』
『楽しいというか・・・好きでこうしていますのでなんとも・・・。』
『何故だ?他のモルモットと違ってお前は逃げる事も恐怖する事もない。
その理由を聞かせてくれ。』
『・・・・健栄様と一緒に居たいからですよ。貴方の築く新世界を、この目で見てみたいからです。
その為なら、いくらでもお力になりますから。』
新世界・・・か。蛇穴や苗字も俺と同じく、この腐りきった世界に嫌気がさしているんだろうか・・・。
やり方や目標が違えど、見えてる景色が異なろうとも、俺達は今同じ場所に立っている。
・・・面白えもんだな。
「・・・・随分と長話しちまったな。今日は良い話が聞けたよ、蛇穴。
苗字ちゃんにもよろしく言っておいてくれ。」
「・・・・・分かりました。昔話に花を咲かせた、とでも言っておきましょう。」
「・・・いつか俺の昔話もどっかで聞かせてやるよ。そん時には狐久里も一緒にな。」
「・・・?そうですか。それでは失礼します。」
言い残すと蛇穴はまたラボへと帰っていった。蛇穴を注意するはずがとんだ話を聞いてしまった。
けれど疑問が解けたからか、どこか胸をなで下ろしている俺がいた。
個々の事情になんざ興味ないはずだったのに、不思議と気になっちまったのはなんでか・・・。
俺達は妙な縁で集まった輩だ。ただのならず者の集まりだと思っていたが、実際はそうじゃねえのかも知れねえ。
____俺はなんとしても負ける訳にはいかない。
その為にも、気取った連中をぶち壊しに行くしかねえ。俺達・・・North Bastardで必ずだ。
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