短編夢
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キッカケは、とても些細な事だった。
コンコン
「失礼します。・・・天国先生、お疲れ様です。裁判の資料こちらに置いておきますね。」
「おう。助かる。
・・・・?苗字、その指どうした?」
「え?ああ・・・さっき紙の端で切っちゃいまして・・・。すぐ治りますよ。」
指の腹を少し怪我した。キッカケは本当にこれだけ。
「ちょっと見せてみろ。」
「へ?」
最初は天国先生が私の事を心配して手を見たのかと思った。
天国先生のゴツゴツした指先に、少しばかりドキドキしていた。
・・・・でも、今になって思えば。秘書だからってこんなに心配するだろうか?
まじまじと絆創膏を見つめる視線にもっと疑問を持つべきだったのでは?
・・・・・と。冷静になるのはもっと先の私である。
「・・・まあ、薬も塗ってあるようだからすぐ治るか。気ぃつけろよ。」
「は、はいっ。お気遣い有難うございます!それでは失礼しました!」
ガチャン...
「______ようやく見つけたぞ。俺に似合う血の持ち主・・・・。」
天国先生が、私の知らない顔で笑っていたのを。私は知る由もなかった・・・・。
(う~ん・・・今日も疲れたあ・・・。明日もあるしもう寝よう・・・。)
軽い欠伸をして眠い目をこすりながら寝室へ向かう。
やり忘れた事はない。あとは一日を終えるだけだった。
___寝室に辿り着いて窓から空を見る。あんまり星が出てないのに月だけはぽっかりと浮かんだ夜だった。
パチンッ
部屋の明かりを消す。すると、ベッドの方に何やら怪しい影が伸びている。
その影はどう見ても人の姿で。それは部屋の"内側に存在していた"。
「・・・・!?きゃああああーーー!!!???」
「____騒ぐな人間。耳障りだ・・・。」
「だ、誰っ!?誰なのっ!!?」
家具の影から出たその"人物"は、いかにもそれらしいマントを付けて月夜の中から姿を現す。
・・・・ん?ていうか・・・今の低い声・・・どこかで聞いたような・・・?
「・・・!!?う、嘘・・・・天国先生っ!?」
「よう苗字・・・。昼の名前じゃそう呼ばれてるな。
最も夜の俺も同じ名前だが・・・くくっ、この姿に驚いたか?」
「____・・・・。何かのコスプレ大会ですか?ていうかこんな夜中に不法侵入では・・・?」
「誰がコスプレだ!!俺は"吸血鬼"だ!!別名じゃあ"ヴァンパイア"とも言うがな。」
そう言って笑う天国先生の口元にはちらりと輝く牙が見える。昼間はこんなのなかったはず・・・。
え・・・。という事は、私の家に入ってきたのも吸血鬼だから・・・?嘘じゃないの・・・!?
「吸血鬼って・・・。あの外国の伝説に出てくるやつですか・・・?ああいうのって日本の鬼とかと一緒で架空のものじゃ・・・。」
「お前ら人間が知らないだけで、吸血鬼っていう種族は存在する。意外とこの世にまだ生き残ってるぜ?
俺とチーム組んでる空却は転生先を間違えた悪魔だし、十四は見習いの魔法使いだ。」
「え・・・えぇえー!!?」
「だがまあそんな事はどうでもいい・・・。」
「どうでも良くないですよ!?聞きたい事だらけですよ!?」
色々ツッコミどころはあるんだけど完全にこの人のペースに巻き込まれている。
このままではいけない・・・。だって勝手に入ってきたのあっちだし・・・。もっと強気に出ても良いんじゃないのかな、私?
「・・・・そういえば、何故私の部屋に居るんですか?住居侵入罪とかになりますよ、これ・・・。」
「吸血鬼が他人の住居に入っちゃいけねえなんて法律はねえ。夜の俺は法の外の存在なんでな。」
「屁理屈ですね・・・。流石無敗の弁護士・・・。」
「・・・・・さて、ここから本題だが。俺がここに入った理由は一つ。
______お前の血をよこせ。条件はそれだけだ。」
背筋がゾワッと震え上がり、肌が粟立つのを感じる。
ま、間違いない。本当にこの人は吸血鬼だ。そうでなきゃこんな事言わない・・・。
けど私だって死にたくない!!なんとしてでも抵抗しなくちゃ・・・!!
「い、嫌ですっ!!私もう成人してますし・・・その辺の女の子の方がきっと美味しいですよ!?」
「そう怯えんな・・・。お前の血じゃねえと意味がねえ。俺は高貴な吸血鬼だからな?質の良い血しか吸わねえって決めてるんだ。」
「質の良い血・・・?・・・・まさかっ、昼間私の傷を見てたのはそういう理由ですかっ・・・!?」
「理解が早えじゃねえか。久々に俺に合う血の香りがしたんでな・・・・我慢ならんから今夜頂きに来たって訳だ。」
「こ、来ないで下さいっ!!私まだ人生楽しみたいし、まだやりたい事いっぱいあるのにぃ!!」
武器らしい武器がないので目覚まし時計片手に対抗しようとする。
後ろには壁。どう考えても追い詰められてるけど殴ればきっといけるはず・・・!!
上品な仕草で迫ってくる吸血鬼は、困った顔をして私に言い放った。
「・・・・なんか勘違いしてねえか?別に俺はお前を取って食おうって訳じゃねえ・・・。
ちいとばかし血を吸わせてくれりゃあそれで良いんだ。」
「へ?・・・だ、だって血を吸うって事は絶対倒れるじゃないですかっ!!
血を取られるって、女性にとってはけっこう問題なんですからねっ!?」
「・・・・・・はあ。・・・・あのなあ、誰が血を奪い尽くすって言ったよ?
俺が吸うのはほんの少し。ワインのテイスティングにも満たない、献血の量かそれ以下ぐらいだぜ?」
呆れた顔をして立ち止まった彼は、親指と人差し指で少しの隙間を示す。
た・・・確かに思ってたよりだいぶ少ない。
一応殺意はないみたいだし・・・これで死んじゃうなんて事はないのかな・・・?
「・・・・。・・・でも、私を騙してないって証拠はありますか?嘘ついてないって言えるなら・・・か、考えますけど・・・。」
「・・・そうだな・・・。もし俺がここでお前を殺したとする。そしたら秘書が死んで明日から事務所はパニック状態だ。
それで今俺が立ってる場所から足跡の痕跡やら出てきて・・・流石に無敗の弁護士といえど言い逃れ出来ねえだろう・・・。
歯型も付く訳だから俺が捕まるのは時間の問題。自分で自分の弁護は出来ねえ・・・そしたら俺は築き上げてきたもん全部パアだな。」
「・・・・・・。」
「・・・・・どうだ?俺がお前を殺すメリットがまるでねえ。嘘をついて騙す理由もない。
少しはこの無敗の弁護士兼吸血鬼様が信用出来たか?」
クク、と喉奥で笑い雄弁に語りかける姿には妙な説得力が宿る。
元から人を言いくるめるのが得意な職業とはいえ、確かに嘘をつく理由にはならない・・・。
・・・それにしても自分から血を吸わせろなんて。なかなか傲慢だと思うんだけど・・・。
・・・痛くないのかな?少しくらいなら良いのかな?と私の思考回路はどんどん血を分ける方向へと分岐していく。
「・・・・質問です。天国先生。血を吸われるって痛いですか・・・?多分頸動脈の辺りガブッといくんですよね・・・?」
「そんなに深く刺さねえし、痛みはあんまねえはずだ。お前が想像してる通りうなじ付近ではあるが。」
「・・・・副作用とかありますか?後遺症とか・・・アレルギーとか・・・?」
「たあけ!その辺の薄汚えコウモリと一緒にすんなっ!!吸血鬼で副作用が云々って聞いた事ねえよっ!!」
「______・・・・・・・・・・。」
「質問は終わったか?」
いつものように自慢のリーゼントを整えて、まるで裁判で相手を問いただすように堂々と立っている。
・・・ああ。本当に天国先生、血を分けてほしいだけなんだな。
職場で言ってもなんの事やらで不審者扱いだし、あの場で血を吸うのもセクハラ扱いになるから。こうして家に出向いて来たと。
それで吸血鬼だって証明は部屋に現れるのが一番インパクトあるし分かりやすい・・・ってとこかな。
成程なあ・・・。って一人で頭の中を整理して勝手に納得している。もう血をあげない訳にはいかない流れになっていた。
「・・・・分かりましたよ・・・。お手柔らかにお願いします・・・。」
「それで良いんだ。・・・衣服は念の為少し横にずらすだけで良い。下着はそのままでも構わねえ。」
「・・・変な事したら、また叫びますからね。」
「一応お前は俺の秘書であり、血の提供者だからな・・・。手荒な真似はしねえよ。」
寝間着のボタンを何個か外して肩が出るよう露出する。ブラジャーは紐だけ見えてるけど仕方がない・・・。
自分の身体と服を抱きしめるようにして俯く私に、そっと紳士的に天国先生が近寄ってくる。
・・・うう。首筋に吐息が当たってぞくぞくするっ・・・。片手は私の肩に添えられて、その生温かさでまた緊張してきた。
「______あのっ・・・一つだけ、条件があります・・・・。」
「・・・・なんだ?」
「これからっ・・・・貴方の知ってる世界の事、教えて下さいっ・・・。吸血鬼の貴方に、この世界はどう見えてるのか・・・知りたいですっ・・・。」
「・・・・そうだな。明日から弁護士と秘書ってだけじゃねえもんな・・・・。
・・・・・・たっぷり教えてやるよ。」
「・・・・っ!」
チクッと注射針のような痛みがうなじに走る。そしてなんだか少し冷たくてっ・・・・これが、血を吸われてるって感覚なのかなっ・・・?
数秒ほどあった感覚が、数十秒になろうとした時。冷たいものが離れていって、同時に温もりも感じられなくなる。
満足げに笑ってみせて天国先生は一言。
「・・・・・ごちそうさん。」
と職場で聞くよりも低い声で私に囁いた。
「・・・・意外と・・・い、痛くなかったです・・・・。もう終わったんですか・・・?」
「ああ。噛んだ場所は大した事ねえが、気になるようなら止血用の軟膏でも塗りゃあいい。
あと・・・そうだな。・・・・あった、これ飲んどけ。」
胸元からゴソゴソと謎の小瓶を取り出してきた。・・・中に錠剤が入ってる。
私の知ってる胃薬の瓶に似てるけどちょっと違う・・・?
「な・・・なんですかこれ・・・。まさかっ、吸血鬼になる薬とかですかっ!?」
「んな訳あるか。鉄剤だ。」
「鉄剤・・・?・・・鉄分ってことですか?」
「血の持ち主が不健康だと、今後味にも影響してくるからな。ちと栄養足りてねえみたいだから、明日から飲んどけ。」
「はあ・・・。・・・・美味しくなかったですか?血・・・。」
「香りや風味は悪くねえ。なかなか美味かったが100点ではねえから、もう少しだな。」
なんか勝手に血を吸いにきて評価されるのもなかなか身勝手だな・・・。
美味しい血になろうと言う気はないけれど、健康になるのは悪い事じゃないし・・・。やっぱり良いように言いくるめられてるな・・・。
「んじゃあ、夜も遅いから失礼するぜ。また明日な。」
「あ、ちょっ・・・天国先生!窓から帰るんですかっ!?」
「当たり前だろ。・・・・てか、いい加減その呼び方やめろ。二人でいる時ぐらいなんかあんだろ、他に。」
窓に足をかけて帰ろうとするからビックリして引き止めてしまった。ど、どうやって帰るの?この人?
あと呼び方って・・・。天国先生じゃ駄目かな・・・?他になんて呼べばいい・・・・かな・・・?
「・・・・じゃ・・・じゃあ・・・獄さん・・・?コウモリになってお帰りになるんですか・・・?」
「ああ。そうでなきゃ目立ちすぎるからな。
・・・・また質問がありゃあ事務所でも聞いてやるよ。・・・じゃあな。」
そう言って窓から飛び降りたんで、急いで窓の下を確認する。
すると何も見えなくて・・・いつもの景色しかなかった。
「_____あ・・・。」
でもぽっかりと月だけ浮かんだ夜空に、コウモリが一羽飛んでいくのを。
ずっと消えるまで眺めていた・・・・。
「・・・おはようございます。」
「おはようございます。・・・あれ、苗字さん。寝不足ですか?」
「ちょっと、変な夢を見まして・・・あはは・・・。」
その翌日。あんな出来事があったらそりゃあ素直に眠れるはずもなく。
なんとか眠りについたけど、起きたら枕元に貰った小瓶が置いてあったので夢じゃなさそう・・・。
天国先生は昨晩の事覚えてるだろうか。・・・ここで覚えてなかったら私のタチの悪い夢で済むんだけど・・・・。
コンコン
...ガチャリ
「失礼します。天国先生、少しお聞きしたい事が・・・・___」
「よう苗字。・・・その様子じゃ、あれから眠れなかったみてえだな?
そりゃあ非現実的な事が起きたんだ。無理もねえけどな。」
あ、駄目だ。やっぱりあれ夢じゃなかったんだ。
気のせいかどこか調子良さそうに笑顔でモーニングコーヒーを飲む姿にうなだれる。うう、やっぱり現実だった・・・!!
「ああ・・・。私、天国先生が吸血鬼になった悪夢を見てたんですが・・・・どうやら勘違いだったようです・・・。」
「悪夢呼ばわりとは失敬だな?勝手に押しかけたのはわりぃと思ってるよ。」
「今日も私の血を吸いに来るんですかー?」
「いや。話してなかったが、体質に合う血は長持ちするんでな。数週間に一回で良い。」
「ほっ・・・。そうですか・・・。今後来る時は連絡ぐらいしてくださいね、いきなりだと困りますので・・・。」
ああ、窓から差してくる朝日が眩しい・・・。あれぜーんぶ何もかも昨日の夜あったことなんだ・・・。
____あれ?ちょっと待って・・・・朝日・・・?
「・・・え。そ、そういえば・・・。天国先生、朝日大丈夫なんですかっ!?」
「ん?長時間浴びてなきゃ平気だ。大昔じゃねえし、いくらか耐性あるように進化してんだ。
俺が弁護士って職を選んだのも基本室内での作業が多い仕事だからな。現代の吸血鬼を舐めるなよ?」
どうも日の光があるとコウモリ状態にはなれないとか、ニンニクや十字架が効いたのは遥か昔だとか言う話をしてくれた。
まあ冷静に考えればそうだよねっ・・・。昨晩のあれがなければ、私は天国先生を人間だと思い込んでた訳だし・・・。
血がない時は他の食べ物や飲み物で補ってきたらしい。だから私に出会えたのはけっこうな幸運だったと喜んでいた。
「・・・天国先生も苦労されてたんですね・・・。
・・・っといけない、業務に戻りますね!失礼しました!」
「また答えてやっから、いつでも来いよ。」
バタン...
質問が多くて本来の仕事を忘れるところだった。いけないいけない・・・業務に戻らないと。
それから思いついた質問はメモに書き留めたりして、業務の合間に少しずつ聞いたりしていた。
いくら聞いてもこの世のものとは思えない事ばかりだけど・・・それが興味本位を刺激するのか、すっかり関心している私がいた。
この非現実的な出来事を必死に理解しようとしている。そうすることで、これが今起こってる事だと再認識出来るから。
それは質問したりするのもそうだけど・・・・。なによりリアルなのは、血を吸われる時だったりする訳で。
「・・・・っ・・・。」
「おいおい・・・名無もいい加減慣れたらどうだ?」
「でも・・・血を吸われてる時って・・・なんていうか、その・・・。取られちゃいけないものが出ていくような、ひんやりした感覚がするんですよ・・・。」
「そんな緊張すんな・・・。ストレスは血の味にも影響するから、あんま怖がるなよ・・・。」
何度目かの夜。回を増すごとに獄さんとは親しくなって、お互い下の名前で呼び合うまでになった。
けれど仲良くなるのは良いけどそれは吸血鬼としてのお食事で。いわば捕食者と共存しているようなものなので、それなりにまだ不安はある。
____私は正直、秘書という点に置いても。男性という意味でも。元から獄さんの事は好きだ。
だからこうして触れ合っているのは悪くない。・・・・はずなのに。
私としての本能はまだ吸血鬼である彼に気を許していないのだろうか・・・。
「どうすりゃもっと怖がらずにいてくれんだ?俺もちょっと傷付くぞ・・・。」
「私が嫌いな訳じゃないんです・・・。なんていうか、人間の本能的な部分だと思うんですよ・・・。
注射がいつまでも怖い人みたいに・・・こればっかりは厳しいのかも・・・。」
「・・・・・そうだな・・・・。多分だが、いざってなると身体が緊張しちまう反射って可能性もあるな・・・。
医者じゃねえからその辺は詳しくねえが・・・・次からは対策練りながらやってみるか。」
獄さんも美味しい血を吸う為にはなんだかんだ私に協力してくれるみたい。
私だって、正直この人を怖いと思ってはいないし思いたくはない。
むしろ不思議な存在として・・・なんだか惹かれつつある?ような気もする・・・。
だから二人で試行錯誤してみる事にした。
_____それから数カ月後。
「・・・・いまいち上手くいかねえな・・・。」
「やっぱりコウモリ状態で吸うのは駄目ですね・・・。なんかこう、動物に襲われた感があって逆効果です・・・。」
「今まで後ろからだのコウモリだのやってみたが・・・今月は全部変わらずか・・・。」
衣服を整えて吸血を終えたあとでも、獄さんと私は部屋で考え込んでいた。
姿が見えなければ大丈夫かな、と思って後ろからしてみたりリラックスする為に雑談してから・・・でもやっぱり駄目だったみたい。
難しいものだ・・・。私の身体はそんなにまだ獄さんが怖いのかな・・・?何か和らげる方法はないものだろうか・・・。
「前にやったアロマは良いところまで行ったんだがな・・・。」
「マッサージついでにアロマ焚いてみたんですが、いざ刺さると違うんですかね・・・。」
「・・・・シチュエーションってのがやっぱ大事なんだろうな。お前がいかに俺に対して警戒心を解けるか、だ。
俺達は曲がりなりにも親しい関係になってる。ここをどう活かすかだな。」
「・・・・来月からまたチャレンジですね。お互いもっと意見を持ち寄りましょう。」
なんかプライベートでも秘書と弁護士の会話みたいになってきてる・・・?・・・いやいや、そんな事はない。
私は獄さんを怖がりたくない。獄さんは私の血を美味しくしたい。
利害の一致というやつで、面倒見のいい彼に甘えてこうして何度も吸血を乗り越える手段を探している。
警戒心か・・・。・・・何か良い案が浮かぶといいけど・・・。
______そうしてまた次の週。少し雰囲気を変えてみることにした。
実はこれが・・・・私達の関係が変わるきっかけになるなんて・・・・。
「・・・あ!獄さんいらっしゃい!」
「おう。今日はえらくご機嫌だな?」
「分かりますか?今日見たドラマがすっごく良かったんですよ~!!」
あいかわらず窓の隙間から入ってきたコウモリが影に紛れて人の形になる。この変身も見慣れたもの。
そんな姿を横目にさっきまで見てた恋愛ドラマを思い出してにやにやしていた。
獄さんはタイトルだけ知ってるけどやっぱり興味ないみたい。そうだよね、だってあれ女性人気の方が高いから。
「ねえ獄さん!今日ちょっとロマンチックにやってみませんか!?」
「はあ?・・・・雰囲気作るのは構わねえが・・・ロマンチック・・・?」
「私の言った通りにしてください!騙されたと思って!」
「・・・ったく。弁護士が騙されてたまるかっての・・・。」
あまり乗り気じゃない彼はさておき。電気を消してお互い黙る。
・・・獄さんって、こうして見るとやっぱり普通に格好良いよね・・・。お相手にぴったりだなぁ・・・。
「・・・・あのっ・・・ちょっと恥ずかしいんですが・・・。
そ、その・・・・・手、握ってもらえますか・・・・?」
「・・・・手・・・・?」
いつものように肩だけずらして、利き手を獄さんに握ってもらう。
・・・あ・・・悪くないなっ・・・・。人肌の温もりを求めてもう一歩、彼に近寄る。
片方の手はいつも服がずれないように持っているんだけど。今日はなんか・・・心臓ドキドキしてるかもっ・・・。
「・・・・成程な。」
獄さんも何かを理解したみたいで、片手で肩をそっと抱き寄せる。
・・・うぅっ、近い・・・!!というか、これじゃあ恋人同士みたいで・・・なんかその・・・。イケナイ事してるみたいだなっ・・・。
「・・・・こうか・・・?」
「・・・・それで、大丈夫です・・・っ・・・。」
耳元でそんな低い声で囁かないでくださいっ・・・!!いや、こうしてって言ったのは私ですけど・・・!!
吐息が耳から首筋まで降りてくる感覚がする・・・。いつもと同じはずなのに、今日は意識してるからか熱っぽく感じる・・・!
緊張してるからか利き手に力を入れると、大きな手が撫でるように包み返してきて。
_____なんかこれ。本当に恋人同士みたいじゃない・・・?
「・・・っ!」
そう思ってるところに血を吸われているっ。でも、なんだろう。
少し冷たい感覚はするけど、いつもよりドキドキして・・・落ち着く、ような・・・・?
「・・・・っふう。今日のは旨い・・・今まで一番出来が良かったな。」
「そ、そうですかっ。良かったです!」
「お前もストレス感じてねえみたいだし。・・・・やっぱりお前も女だから、こうして紳士的に扱われるのは嫌いじゃねえみてえだな?
俺も吸血鬼として原点に帰った気がする。こういう雰囲気は大事だな・・・。」
「今後もこんな感じにしましょう!・・・・こう、恋人みたいな・・・感じで・・・。」
・・・あれ。おかしいな。なんかまだドキドキしてるぞ私・・・。
もしかして意識しちゃってる・・・?獄さんの事、ほんとのほんとに男性として見ちゃってない・・・!?
だ、だめだって!!年の差だってあるし、周りの目とかあるし、ていうか獄さんがそう思ってないでしょうし!!
「・・・・どうした名無?まともに俺の顔見ないが・・・・
"さっきの続き"でもしてぇのか・・・?」
「えっ・・・な、なにっ!?」
くくく、と笑い声が聞こえたと思ったら獄さんと目が合う。
いや・・・顎を持ち上げられて強制的に目線を合わせられている。
なぁっ・・・何この展開・・・!?獄さん、本気ですかあっ・・・!?
「ひ・・・獄さんっ・・・。さっきのは、雰囲気作りで、そのっ・・・。
こお・・・こんな小娘相手に・・・・本気になったりしないですよねっ・・・?」
「さっきの血・・・いつもより旨いのは
・・・・・お前、さっきの瞬間だけでも俺を"男"として認識しただろう・・・?緊張やストレスの味じゃあねえ・・・。」
ちょっと待ってっ・・・。さっきと違って手首掴まれてる・・・う、動けない・・・!!
今まで紳士的だったけどなんで急にこんな事っ・・・。・・・ああもう!!こんな状況でも心臓がバクバクしてるっ!!
「_____いっそ、俺の女になってみる気はねえか?」
「う・・・嘘ですよねっ・・・。だって獄さんは、私を質のいい血の持ち主としか見てないじゃないですか・・・!!」
「俺だってそのつもりだった・・・。これからもそうして契約したクライアント同士みてえになれると信じてた・・・。
・・・だが現実はどうだ?偶然にも名無は俺の秘書だ・・・こんな奇跡的に巡り合うのは運命だと思わねえか・・・?」
そう言って私の身体をさっきみたいに抱き寄せると、さっき牙を当てた場所に吐息を感じる。
やっぱり熱っぽくてっ・・・。でも、また血吸うの・・・・!?
「俺は・・・真の姿を晒せる相手が欲しかった・・・。今まで、吸血鬼と明かせば不利になる状況ばっかだったからな・・・。
それに比べて名無は・・・こうして関係が続いてる・・・。・・・嬉しいもんだぜ。
俺に少しでもその気があんなら・・・・ちと、考えてくれねえか・・・・?」
手首を掴んでいた手が緩んで。私を求めるように彼から指を絡めてきた。
....ちゅ
すると軽いリップ音を立てて、さっき噛んだ場所にキスが落とされる。
再びゆっくりと向き合った獄さんの目は情熱的で。今まで見た事ないくらい綺麗な瞳をしていた。
「・・・続きは、まだ駄目ですっ・・・・。・・・・でも・・・今までみたいに、少しずつなら・・・・。
貴方と・・・そ、そういう関係を・・・考えてもいいですよ・・・・・?」
「・・・そうか。焦る事はねえ・・・また来るからよ・・・。」
「_____獄さん・・・っ・・・。」
指を徐々に絡めていくと、最後に恋人繋ぎになって互いに優しく握り合った。
目を閉じると唇の端に触れる感触がして。少し追いかけるように寄せれば、そっとキスになるのが分かった。
・・・吸血鬼と恋人か。
・・・・この人になら、いつか食べられてもいいかも・・・。
・・・・なんてね。
「また、月が出た夜に来るぜ・・・名無。」