短編夢
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夢と現実の間はとても心地が良い。そんな中でぼんやりとした視界が明けていく。
徐々に意識が醒めていくと、自分が何者かでどういう状況かを思い出せる。寝起きとはそういうものだから。
朝起きて視界に入ってきたのは自分の腕。・・・とその奥に大柄な男の姿。仰向けで規則正しく息をしている。零さんはまだ寝ているようだ。
(・・・・・・ちょっと待って・・・。零さんが、どうして・・・?)
確か昨日一夜を共にしたのは覚えてる。こうして二人共まともに服を着ていない状況なのも納得はいく。
けれど私が驚いているのはそっちではなくて。朝起きても零さんがいる事自体に驚きを隠せなかった。
・・・・零さんは、基本朝まで居る人ではない。夜を過ごす事は何度かあっても朝起きて隣りにいるのはまずない。
ヘタしたら家中探してもどこにもいなくて、気配すらない時だってある。運が良ければリビングでコーヒーを飲んでいたりするけれど。
この人はとてもマイペースというか、1から10まで全てを話す人ではないから・・・。1や2を教えてくれてもはぐらかされて3以降は内緒になってしまう。
詐欺師だからあまり詳しく話せないのだろうと勝手に思っている。あまり深く考えると私が傷つくだけな気がして。
今のこの関係だって一応彼の口から"お前は俺の恋人だからな"と一度聞いたきり。ただ良いように言われているだけなのかも知れない。
けれど私はその言葉を信じて今日まで過ごしてきた。・・・・だから今、このレアなケースに出くわして少し動揺している。
(・・・・寝顔・・・・初めて見た・・・。こんなに無防備で、普通の人みたい・・・。・・・顔の傷を除けばだけど・・・。)
右目に刻まれた傷もあまりまじまじと見た事はない。見たくても帽子で隠れていたり本人が気配を察知して見せてくれないから。
・・・どうしたらこんな風になるの・・・。思わず触れてしまいたくなるのを我慢して、瞼に焼き付けるようにじっと見つめる。
外で雀が鳴いている中穏やかに彼の寝姿を眺めていられるって。・・・幸せだなあ・・・。
「____・・・・ん~・・・・・・?」
(あ・・・もう起きちゃた・・・・。)
朝日の眩しさからか微睡むような声がして、大きな左手で目を擦る。
少しだけぼんやり天井を見ると、私の視線に気付いたのか体ごとこっちへ向いた。
「・・・・よお名無。おはようさん・・・。」
「おはようございます・・・。」
「あぁ~・・・眠ぃ・・・。まだ寝ててぇなあ・・・。」
「・・・珍しいですね・・・。零さんが朝まで私のベッドにいるなんて・・・。」
「んん~?そうだっけか~・・・?」
まだ思考が働いてないのかぼんやりとはぐらかされる。私はこんなに驚いているのにこの人は・・・。
欠伸を一つして。少しずついつもの零さんに戻っていく。完全に緩みきった顔から、油断ならないニヤつき顔へ。この変化を見られるのは正直嬉しい。
「ここんとこちいと用事が立て込んでてなあ・・・。この前一段落ついたんで、俺もゆっくり出来るっつー訳よ。」
「そうですか・・・。私はてっきり、貴方は朝まで過ごしてくれない人なのかと思ってましたよ・・・。」
「そう言うなっての・・・。さては、その顔信用してねえな?
あとでおいちゃんが旨い店連れてってやるから拗ねんなよ・・・。可愛くねえぞ~?」
「ほっぺ、ひっぱらないでくだひゃい~・・・。」
ハハハ、と笑って私の頬をむにむにと摘む。完全に遊ばれてる気がする・・・。
軽く拗ねていたのもバレていたらしく、愛情表現とばかりに大きな手が顔のあちこちを擽る。くすぐったいが悪い気はしない。
いつの間にか私も笑っているのに気付く。これも零さんの思うツボだろうか。
恋人同士みたいな朝で・・・こんな風に過ごせるのが嬉しい・・・。一人の女として。この人の女として嬉しくなってしまう。
「ふふふっ・・・零さん。もう起きましょうよ。」
「そうだなぁ・・・でもおいちゃん。眠気覚ましのコーヒーがねえと、頭働かねえなあ~・・・。」
「今朝食の準備しますから。ちゃんとリビングまでは来てくださいね?」
「ほいよっと・・・。了解・・・・。」
二人してどうにか起き上がり服を整える。私の方が先に着替え終わったので、洗面台に行きとりあえずシャキッとする。
朝食を作ってる最中、のそのそと起きてきた零さんは窓の方を見ながら何か考えるように煙草を吸っている。
・・・・零さんは何を思って。何をその瞳に映しているんだろう。考えても分からない堂々巡りだろう。
その答えはきっと、零さんしか知らない。
「・・・出来ましたよー。食べましょう。」
「おう、そうだな。」
とりあえず合掌して頂きます。一口食べようとすると、零さんがどこかご機嫌に言ってきた。
「名無。これからは暫くのんびり出来っから、今日みてえに朝まで居れそうだぞ。」
「えっ、そうなんですか。だとしたら嬉しいですね・・・!」
「おうよ。俺は一度言った事は覆さねえからな。」
「ふふっ・・・よく言いますね・・・。じゃあ今日は私もお休みなんで、一日中付き合ってくれますか?」
「ああ、いいぜ。さっき旨い店連れてくって約束もあるし・・・たまにはお姫様の機嫌も取らねえとな。」
お姫様、ねえ。さらっと凄い事を言ってるけど、子供じゃあるまいし。なんて野暮なツッコミは心の中に留めておいた。
_____ずっとこんな日が続けば良いのに。きっと、今日という日が終わって、明日が来たら。
またふらりとどこかに行って、気が向いた時に来るんだろうな。零さんは。
でもその時は朝まで一緒に居てくれるって言うし・・・・今はその言葉を信用する。詐欺師の言葉を信用だなんて笑っちゃうけど。
たまに貴方が帰ってこれるような場所に、私はなれていますか・・・・?
この気持ちが独り善がりでないと、私は願っています。
貴方が何者でもいい。だから、零さんの恋人でいさせてくださいね・・・。