お付き合いする前
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言葉が理解出来なくて、少しの間放心状態になる。
けれど目の前にいる天国先生の真剣な顔でまた意識が戻ってくる。
告白・・・された・・・?私が・・・天国先生に・・・・・!?
「嘘・・・・。」
「たあけ。冗談でもこんな事言わねえよ・・・。」
そういうとゆっくり箱を手放して、ようやく私にホワイトデーのお返しをくれた。
どうしよう。心臓がドキドキする。箱を抱え込んでその場に立ち尽くしてしまう。目の前の顔が見れない。
「・・・えっと・・・・突然の事で・・・・。・・・・私っ・・・・。」
「・・・・返事は今すぐでなくていい。・・・だが俺は本気だからな。考えといてくれ。」
また顔を上げるとニッと口角を上げた顔。考えるって、天国先生と私がお付き合いするかどうかって事・・・?
天国先生がっ・・・私を"女性"として見てたなんて・・・。考えてなかった。思いもよらなかった。
・・・とりあえず頭がまだ追いついてないけど、帰る前だったのを思い出して一礼する。
「失礼、しますっ・・・・。」
パタン
部屋を出て。そのまま家に帰った。・・・のだと思う。気が付いたら家に居た。帰るまでの記憶がない。
ただ呆然と、リビングのテーブルに貰ったお返しを置いて眺める。そして起こった事が現実だと再認識する。
「_____・・・・。」
その夜。晩ご飯のあとに、箱をそろりと開けてみる。言ってた通り中身はショコラマカロン。それに他の味のマカロンもいくつか入っていた。
とても可愛らしいし、お菓子事情に詳しくない私でも聞いた事あるような有名どころだ。多分値段もそれなりにするのだろう。
家だというのにおそるおそる手に取って一口齧ってみる。
・・・・甘い。けど甘ったるいのではなく、ほんわかと香るカカオの風味が味わい深い。
甘すぎず、クリームの口溶けが滑らかで意識してないとあっという間になくなりそう。
(天国先生っ・・・。あの人は、私を『前からずっと惚れてた』って・・・。じゃあ私が恋愛目線で見てないと思っていたあの目は、全部・・・・。)
あの人の視線や態度は男女の意味合いを含まない上司と部下のものだとずっと思い込んでいた。
勿論社会人としてそれが常識で。私が天国先生をそういう目で見ていないから、尚更違うと思っていたけれど。
・・・告白されてそれが一気に覆ってしまった。分からないっ・・・どうしようっ・・・。私は天国先生をどう見てるの・・・・?
あの人は私の尊敬する人であり、遠回しでも私に光を与えてくれた人。そんな人がどうして私なんかに・・・?
(・・・・・この胸の高鳴りが、分からないっ・・・。緊張なのか、それとも恋なのか・・・。
私は・・・どうしたいんだろう・・・・。天国先生を、一人の男性として見れるの・・・・?)
私は男友達もいないし、そもそも男の人と付き合った事すらない。いじめられていた事もあり、どちらかと言えば男性は少し怖い。
でも天国先生には・・・そう思った事がない。そう思えない。むしろ他の女性社員以上に信頼を寄せている。
_____信頼と尊敬。緊張と鼓動。私の心は・・・・あの人とどうなりたいのかな・・・。
「天国先生、コーヒーお持ちしました。」
「おお、助かる・・・。PCの画面ずっと眺めてると目にくるな・・・。」
「・・・・・。」
仕事上での何気ない会話や仕草。それは以前と変わらないようにしか見えなくて。
ただ単に公私混同してないだけなんだろうけど・・・。告白されて以降も変わらない日々にしか思えなかった。
でも私の気持ちは・・・出会った時と同じなのかな・・・・?
「・・・そういえば、この前のマカロン有難うございました。とても美味しかったです!」
「そうか。なら良かった・・・。」
「甘すぎなくて上品な味わいでした。滅多に食べれないので嬉しかったです。」
「・・・・・苗字。・・・あの時の"返事"は出たか・・・?」
急に低いトーンで喋るのでうっ、と思わず息詰まってしまいそうになる。
なんだろう。椅子に座って私を見上げているはずなのに、圧倒されるようなこの真剣な眼差しは。
は、話を振るんじゃなかった・・・。私はまだ自分の気持ちが分からないでいる。そんなこんなで今日で3日目くらいだけど・・・。
「・・・・すいませんっ。まだ少し・・・・。
コピー取らないといけないので、失礼します・・・。」
「・・・・・・。」
天国先生の視線に耐えきれず、逃げるように部屋を出てしまった。怖いのではなく、真剣だから気持ちが焦ってしまう。
多分この鼓動は緊張・・・なのだろうか。こんな事をいつまでも続けても仕方がないって。分かってはいる。
_____いずれ結論を出さなきゃいけない。しかも近い内に必ず。
そう思えば思う程ますます分からなくなっていく。自分の事なのに、自分の心が分からないなんて・・・情けない・・・。
いっそOKしてしまえばいいのだろうか。でもそれで、男性として見れなかったらどうするの・・・?
断ったとしたら、これから仕事が気まずくなってしまう・・・。そうしたら、私はあの人の傍に居られなくなるんだろうか・・・。
どう考えても答えが出ぬまま。自分の家でプレゼントの箱を眺めてはぼんやりと考え、そのまま時が過ぎていく。
・・・優柔不断で、駄目だなって思ってしまう。自己嫌悪に陥るのは慣れている。慣れたくはなかったけど環境で慣らされた。
「天国先生っ・・・・私は・・・。」
一人部屋で呟いてみても。誰も返事してくれないのに・・・。
そうして気付けば一週間。あの日から日が経つのが早かったように思う。
外を見ればもう夕方。業務も終わってしまった。あとは帰るだけ。
(・・・・天国先生・・・・。もう待ちかねてるだろうな・・・・。)
迷ってばかりで何も決めれずに経ってしまった日付。そして淡々と過ぎてしまった時間。
帰り支度をする前に天国先生のところへ挨拶に行かないと・・・。でも・・・少し行くのに勇気がいる。
天国先生は何も悪くない。私が・・・・勝手に悩んでるだけ。結論を出せないだけ。
私は・・・・やっぱりあの人を"男性として"見れない・・・のかな・・・・。
コンコン
「失礼します・・・。
・・・・あ。天国先生も今からお帰りですか・・・。」
「ああ。今日はさっさと片付いた。そっちも終わりだろ?」
「はい・・・。あの・・・・ご挨拶だけしておこうと思いまして・・・。」
扉を開けたはいいけど、何を言い出すか。何から話していいか分からず視線が落ちる。
何事もなく・・・帰ってもいいかな・・・・。ってまた扉に向き合おうとした。
「ちょっと待て。・・・・苗字、分かってると思うが・・・。
この一週間、お前はどう思ったか聞かせてくれ。・・・・流石に俺も待ちくたびれてんだ。」
「・・・・・。」
仕方なく顔を上げると、首に手を当てて困ったような顔をしていた。こんな天国先生の顔・・・・見た事ないな・・・。
ここまで来たら・・・もう"正直に言う"しかない。思ってるまま伝えるしかない・・・。答えと言えるのか、分からないけど・・・。
「・・・・あれから、色々考えました。天国先生と・・・その・・・お付き合い、出来るのかなって・・・。
・・・・でもごめんなさい。私・・・自分の気持ちが分からないんです・・・!!」
「・・・どういう意味だ?」
「私は、貴方の傍にいられる事がとても幸せだと思っています・・・。それはずっと、貴方を慕ってきたからです。
でも私は・・・これが恋なのかどうか全然分からなくて・・・。いつか私の過去を受け入れてくださった時・・・あの時私は、嬉しかったのか・・・。
それとも一人の男性として見ていたから幸せに感じたのか・・・。・・・お恥ずかしながら・・・過去男性とお付き合いした事がないので・・・。
・・・こういう気持ちが初めてなんですっ・・・。上手く言えないんですがっ・・・。」
結局YESかNOかなんて決めきれなかった。だから素直にその事を白状する。
天国先生はどう思われたんだろうか・・・。散々待たせた挙げ句これじゃあ幻滅されただろうか・・・。
すると、天国先生がこちらに近付いてきた。かなり目の前に来たので、緊張しながら目線を合わせようとする。
「・・・・なあんだ。んなの簡単じゃねえか。」
「なにが・・・ですか・・・・?」
「どうやらお前は、俺をまだ上司としての目線でしか見てねえ。だから本当に好きなのかどうか疑わしいまんまなんだ。
・・・ならやる事は一つだ。俺と"
「えっ・・・!?」
「まずはお互いを知るとこからだ。・・・ちょうどいい時間だし、今から飯行くから一緒にどうだ?」
そう言って扉の方へ行くと、指の先で器用に車のキーを回している。
ど・・・どうしよう。お友達から・・・?私と・・・良いのかなっ・・・・?
「え、えっと・・・その・・・。ご迷惑でなかったら・・・。」
「よっし、決まりだ。俺の車分かるだろ?先にそっちで待っててくれ。」
「あ・・・はい・・・・。」
なんでこんな事になったんだろう・・・?でも・・・お友達か・・・。恐縮してしまうけど、なんだか悪い気はしないなあ・・・。
天国先生の後を追うように部屋を出て、それから駐車場へ向かう。
あまり駐車場に入る機会なんてなかったけれど・・・天国先生の車を見ながら今からこれに乗る事を考えてそわそわしてしまった。
そしたら程なくして天国先生が来たので、流れで助手席に乗せてもらった。
「俺の行きつけの店行くか・・・。今からだとちと早ぇが、混む前だしちょうどいい。」
「あ、天国先生っ・・・あの・・・。」
エンジンを付けて左手首の時計をちらりと見る。なんだかこの空間や仕草がプライベートな感じがして、勝手に緊張してしまう。
私が少し震えながらも声をかけると、少し息をついて座席の頭にもたれ掛かる。
「・・・いいか。俺には我慢ならないもんが二つある。」
(あ、いつものだ・・・。)
「一つ・・・話を聞かない奴。二つ・・・プライベートで『先生』だの『代表』だの呼ぶ奴だ。
俺達は今友人になろうとしてる。だから外でその呼び方はやめてくれ。」
「じゃあ・・・なんてお呼びすればいいですかっ・・・?」
するとニヤリと笑って、少し目を細めながら私を見つめてきた。
「・・・・俺はお前の事『名無』って呼びてえな?」
「・・・・っ!!」
「・・・・駄目か?」
「・・・・いいえっ!大丈夫です・・・ひ、『獄さん』っ・・・。」
その言葉を聞くと、なんだか満足そうに車を走らせた。
どんどん天国先生・・・じゃなかった。この人のペースに巻き込まれている気がする・・・。
そうだよね・・・。お友達同士だったらそう呼ぶのが普通だもんね・・・。
でも私は呼び捨てになんて出来ないし、向こうが年上だから敬語は抜けないだろうけど・・・。
名前で呼ばれる程親しくなれるなんてっ・・・・やっぱりドキドキしてしまう・・・。
車の中で"食いたいもんリクエストあるか?"とか聞かれたけど、正直お腹がすいてるすいてないの感覚がよく分からない状態だ。
なのでとりあえずないと答えて居酒屋に向かった。道中の運転する姿を横目でちらちら見てしまう。
・・・やっぱり獄さんはカッコ良い・・・。スーツ着た男性が運転してるのって絵になるなぁ・・・。
居酒屋に着いたらもう夕方から夜になっている。けれどそんなに待たずに中に入れた。やっぱり獄さんの言う通り混む時間の少し手前だったらしい。
カウンターに案内されて隣り同士で座る。い、未だにこの人と食事に来ている事実が信じられない・・・。でも嬉しい・・・。
獄さんは運転するのでお酒はなし。私はお酒を飲む気になれなかったのでとりあえずなし。
「名無は酒飲まねえのか?飲んでも俺が送ってくから問題ねえのに。」
「元々あんまり飲めなくて・・・。眠くなっちゃうタイプなんで、家でもお酒飲まないんです・・・。」
「ほおー・・・。まあでも、近場ならいつか飲みに行きてえな。事務所からそう遠くねえとこにもあるし。」
「そうですね・・・。」
うう、そんな不意にニコッとされると動揺してしまう。カウンターだから横を見れば笑った獄さんが目に入る訳で。
そうだ・・・この人と私はお友達・・・。だからこんなに緊張しないで私・・・。
程なくして料理が到着。店内も少し騒がしくなってきた。獄さんと同じ手羽先を頼んだので、とりあえず食べながら会話する。
「はあ・・・旨ぇ・・・。旨いもん食うと落ち着くな・・・。」
「そうですねえ。やっぱり手羽先は美味しいです!他のところはたれかかってないのが信じられないですね・・・。」
「たまに出張行った先でこれが食いたくなると、本当我慢ならねえよ・・・。マジで堪える・・・。」
「本当に手羽先お好きなんですね。獄さん。」
「おう。これがねえと話にならねえ。お前も手羽先好きで良かったよ。」
どうやら獄さんはご機嫌なようだ。良かった。好きな料理とか一緒だとなんだか嬉しいな。
他にもハムが好きなようで、獄さんの好きなもの談義を聞いていた。ところどころ私と好きなものが一緒だったので横で頷く。
これが交流を深める・・・ってことなのかも。獄さんは職場だと真剣な顔をしている事が多いので、こんなに微笑む方だと知らなかった。
「そういや、名無は休みの日何してんだ?」
「そうですね・・・。ニュース見たり、お料理作ったりしてます・・・。」
「料理が趣味なのか?」
「趣味ってほどでもないんですが・・・。休みは何していいか分からないんで、時間かけて作れるものとか挑戦したりします。」
「お前、私生活でもけっこう真面目みたいだな。」
「そうですか・・・?」
「なんとなくだが、レシピ本片手に鍋見てるのが想像出来る。」
(なんで分かったんだろう・・・。)
あんまりこういうのを人に話す事がなかったので、言い当てられて逆に関心してしまった。
言う程私は真面目なんだろうか。・・・そういう獄さんだって、けっこう真面目だなって思うけど・・・。
「いつかお前の飯も食ってみてえな。・・・・あ、そうだ。
花見の件、あれスケジュール取れそうか?」
「お花見・・・・。空却さんから誘われた話ですね!お休み出来そうですよ!」
「そらあ良かった。あいつらも喜ぶだろうし、あとで連絡しとくか・・・。」
そうだった。4月にお花見行くんだったよね。楽しみだなあ・・・。
・・・あれ?ああいうのって食事どうするんだろう。各自で持ち寄る感じでいいのかな・・・?
「お花見って、各自でお弁当とか持ってくるんですよね?」
「おう。そうだな。俺は酒持っていくとして、あとはなんか買っていく予定だが・・・。」
「・・・・何作ろうかな。・・・というか、何作ったらいいですかね・・・。
皆さんの好きなもの・・・ああでも勝手に持ってっちゃうと被っちゃいますよね・・・。」
「良いんじゃねえか?好きなもんはあればある程喜ぶだろ。あいつらよく食うしな。
ていうか、もしかして作ろうとしてんのか・・・?大変だろう、弁当作んの。」
その心配そうな顔も初めて見るなあ・・・って思っちゃった。さっきから、獄さんの知らない顔ばかりでとても新鮮な気持ちになる。
料理は一人暮らしを始めた時から元々やりたかった事の一つで。学生時代から他に趣味がない私は料理をしていた。
だから家にある3~4人用のレシピを引っ張り出せることに密かに喜びを感じていた。
「せっかく誘って頂いたんですし、大人数のレシピちょっと作ろうかなって考えてまして・・・。
私の取り柄これぐらいしかないですから・・・。良いですか?作っても・・・?」
「良いも何も、大歓迎だ!今度の花見・・・マジで楽しみにしてるぜ!」
「良かったぁ・・・ふふ、私も楽しみです!」
それから空却さんや十四さんの好きな食べ物なんかを聞いて、頭の中でどれを作ろうかと考えていた。
・・・といっても、私の味が皆さんのお気に召すかどうかは分からないけど・・・。それでも期待されている分頑張りたい。
獄さんの料理も作るんだし。・・・って、なんだかそんな事を言っていたら緊張がほぐれているのが分かった。
もう料理は食べ終わってしまって、もう帰らないといけない。けど本当に楽しい一日だった・・・これが"お友達"・・・なのかな。
「よし、お前は先に車行っててくれ。」
「いえいえ!お金出しますよ!」
「たあけ。俺が食事誘ったんだ、素直に払わせろ。」
うう・・・。確かに言い出したのは獄さんだけど、社会人としてやはり少し気が引ける。
だから私は、出した財布をしまいながら獄さんに呟いた。
「・・・じゃあ・・・今回はお言葉に甘えます。ですが、私達は"お友達"ですからっ・・・次からは会計別でお願いします・・・。」
「・・・・了解。」
やっぱり笑った顔カッコ良いな・・・。獄さんなら笑ってくれると思っていた。
こんな風に言える関係が嬉しくて。楽しくて。私は・・・今とても幸せだと感じた。
車の中でも互いの日常を話しながら、私の家へ着く。ほんの数時間だけれど有意義な時間を過ごせた。
「今日は有難うございました!なんだか最初は緊張しましたが・・・楽しかったです!」
「そうか・・・。んじゃあ、また飯行こうな。」
「はいっ、おやすみなさい。」
「また明日な、名無・・・。おやすみ。」
遠ざかっていく車を消えるまでずっと眺めていた。部屋に戻ると、ドキドキした感覚が消えているのが分かった。
やっぱり今まで緊張してただけなのかも知れない。だとしたら・・・恋じゃないのかな。よく分からない・・・。
この答えが出るのはいつになるのだろう。もしかしたら、結論を出さないまま関係が続いたりするのかな。
・・・・獄さんは、私を好きなのに。
そう思うと。途端に胸を焦がすような痛みがした。