お付き合いする前
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最近ようやく温かくなってきたと感じるこの頃。
もう早いところでは桜が蕾を付けて春の到来を待ちわびているとニュースで言っていた。
生憎事務所の近くに桜はないが、そういう話を聞くだけでも癒やされるのが日本人というもの。
「なあ~獄~。いつ休み取れんだっつーの!?」
「たあけ。いちいちお前らの都合で休み取れっかよ・・・・なあ苗字?」
「え、ええと・・・。」
そんな今日も天国法律事務所には来客が。天国先生が空却さんと言い争っている場面は正直もう慣れた。
どうも花見の相談に来たらしい。そうなると秘書の私が今後のスケジュール取りをしているので自然とこの部屋は賑やかになる。
騒がしい・・・とも言うんだろうけど、なんだか驚いていたのは最初だけで。今はすっかり馴染んでしまったように思う。
「拙僧のとこなら花見専用のスペースどーんと構えてやるってのに。他の場所よりずっと良いぞ?」
「わあーってるよ。空厳寺の桜はあの辺の名所だしな。行けるもんなら行きてえが・・・。」
「なんなら名無も一緒に行かねえか?花見?」
「え・・・・?」
急なお誘いに少しビックリして、ちょっと固まってしまう。困って天国先生の方を見ると、そちらも私の方を見つめていた。
お花見・・・か・・・。一人で散歩する時に見るのはお花見じゃないだろうし、だとしたら私行った事ないかも・・・。
「いえ・・・Bad Ass Templeのお三方のお邪魔になるでしょうし・・・。」
「邪魔なわけあっか!花見は賑やかな方が今も昔も良いに決まってらあ!
『
「まあ今後のスケジュール次第だが・・・。苗字もここんとこ働きっぱなしだろ?たまには羽伸ばす気にならねえか?」
「・・・・えっと・・・・確かに、3月の山場を超えた辺りなら調整出来そう・・・ですが・・・・。」
「俺達に気を使う事はねえよ。ここにはいねえけど十四もお前と話したいだろうし。
強制はしないが、良けりゃあたまには行こうぜ?俺も花見は嫌いじゃない。」
そ、そんなにお二人から迫られるとは思わなかった・・・。本当に私も行っていいんだろうか・・・?
・・・私はいじめられていた事実を誰にも悟られたくない。その一心で、公私混同しないと心に決めて今まで過ごしてきた。
けれど天国先生にはバレてしまった。それでもこうして私に微笑みかけてくれる。
それが嬉しくて、むず痒くて、けれど温かい。・・・私は・・・少しでも前向きな一歩を踏み出すべきなんだろうか・・・?
「・・・・・考えておきます・・・。」
私は小さくそう呟いた。今度のは本当に考えてみるつもりで。
どうしたいのか。私は、貴方達に近付いても良いんでしょうか?
・・・秘書としてではなく。"苗字名無"として。接しても良い日が来るんでしょうか・・・?
甘えすぎじゃないかなって思うけど・・・。でも、私も皆さんみたいに笑い合えたらって・・・ようやくそう思えるようになったから・・・。
それからまた暫くして。3月は年度末なこともあって少し事務所は忙しい。
天国先生が事務所にいらっしゃらない事も多いし、私も私でスケジュールに追われる日々が続いていた。
「_____よお名無っ!邪魔するぜ!」
「こんにちはっす、名無さん!」
「あ・・・空却さんに十四さん!いらっしゃい、でも今日は天国先生不在なんですよ・・・。」
そんな中唐突にこの二人は現れる。なんだかこの二人の顔を見るとどこか落ち着いた気持ちになる私がいる。
多分それだけもう会話をして、少しでも仲が深まったからだろうか。実に光栄な事だ。
「獄さん・・・最近連絡しても、遅くに返ってくる事多いんすよ・・・。」
「まあいねえもんは仕方ねえ。今回の目的はそこじゃねえし・・・。
名無、お前はどうなんだ?忙しいのか?」
「そうですね・・・。30分だけお待ち頂いたら、私も少しだけ空きますが・・・。」
「じゃあいつもの応接間で待ってるぜ~。あ、茶は別に持ってこなくていいからよ。適当に待ってるぜ。」
もうこの二人が応接室にいるのも慣れてしまった。ここか天国先生の部屋かどちらかにいる気がする。
今日は天国先生戻ってこられないし・・・。なんの用事か分からないけど、早いとこ電話をかけたり業務を片付けないと・・・。
ガチャッ
「お待たせしました。お二人共ジュースでよろしかったですか?」
「わあ!良いんすか?嬉しいっす~!」
「おう、サンキューな!名無にちいと相談事があってよ・・・獄がいねえ方が好都合だったんだ。」
「相談事・・・?なんでしょうか・・・?」
私もジュースを置いたら向かい側に座る。相談なら天国先生の方が向いてるのでは、と言いたいが何かあの人には言えない事なんだろうか。
一応ここに勤めている以上。人の相談や話を聞く機会は多いけれど、わざわざ私にって・・・なんだろうか?
「実はよ・・・。拙僧のダチが、ホワイトデーのお返しに何贈ったらいいかって悩んでて・・・。
女のお前の視点から聞きときてえと拙僧は思ったんだ。名無はなに貰ったら嬉しい?」
「・・・あぁ。そういうお話でしたか。」
あ、そうだった。この子達まだそういう事に興味があるんだった。たまにどこか達観したところがあるから年齢を忘れかけていた。
ホワイトデー・・・か。私はお返しなんて求めてないし、何貰っても嬉しいんだけど・・・。ていうかそもそも・・・。
「・・・実は、お恥ずかしながらホワイトデーにお返しなんて貰った事ないんですよね・・・。渡す相手も今までいなかったので・・・。
私は気持ちがこもってれば何でも嬉しいですよ。参考にならないかも知れないですが・・・。」
「えっと・・・じゃあ名無さん。甘い物とかどうっすか?マシュマロ・・・じゃなかった。ええっと、キャンディーとか!」
「ふふっ、どちらも好きですよ。」
「十四。あとアレ、なんつったっけ・・・。クッキー・・・?」
「違うっすよ空却さん!マドレーヌとキャラメルっす!」
「ああそうだった。マドレーヌな・・・。マドレーヌとかキャラメルなんかはどうだ?」
「それも、食べれますし好きですね。」
・・・?なんだかお二人とも様子がおかしいような・・・・。何か探ってる・・・?
というかホワイトデーのお返しって、何でも良いんじゃ・・・・。
______ってそうだ。思い出した。
「そういえば、ホワイトデーのお返しって何か贈る物に意味があるとか聞いた事ありますよ!」
「えっ!?」「う゛っ・・・。」
「だからその人が贈りたい気持ちの物を送れば良いんじゃないかと思います・・・。
・・・・どうしました?お二人共・・・?」
あれ。なんか急に静かになっちゃった。何かまずい事でも言ったかな・・・。
顔を見合わせて黙ってしまった。・・・その相手の人が、甘い物駄目だったりしたのかな・・・。
「あー・・・。んじゃあ、ダチにも伝えとくぜ。何でも良いんだな・・・?」
「そうですね。もしかして、贈る方が甘い物苦手ですか?」
「あ、いや。そういうんじゃねえんだ・・・。そもそも好きなもんすら分かんねえからなんとも、な・・・。」
「でも名無さんが甘い物好きみたいで良かったっす。それは参考にさせてもらうっす!
ちなみに好きなお菓子とか・・・何が好き・・っすか・・・・?」
好きなお菓子か・・・。日頃お菓子っていうと、自分へのご褒美にたまに買うぐらいかな。
その時々によって違うけど・・・。・・・・・そうだなぁ。
「・・・・私は、強いて言えば・・・。」
「強いて言えば・・・?」
「チョコレートですかね。バレンタインデーと同じなので、その方が分かりやすいかも知れないです!」
「・・・・十四。チョコの意味ってなんだ・・・?」
「・・・・・ああぁ!意味がないか"現状維持"かのどっちかっす!」
「現状維持って・・・。どうすんだこれ!?アイツにそのまま伝えんのか!?」
「と、とりあえず甘い物ならOKっす!それで伝えるしかないっすよ・・・!!」
「っだあーもうややこしいな!!アイツさっさと言っちまえばいいのによお!?」
なにか後ろを向いて、スマホ片手にコソコソと二人で揉めている。青春だなあ・・・。
でもチョコの意味はあまり良くなかったらしい・・・?ちょっと逆効果だったのかな・・・?
女性なら誰しも、プレゼントは嬉しいと思う。中にはこだわりがある人もいるけど、私にそういうのはない。
・・・・確かに先月。社員の皆さんや天国先生にチョコを渡したけど・・・お返しが欲しくてやった訳ではない。
元々私が発案したものでもないし・・・。・・・・天国先生には、もう渡せただけで良いと思ってるから。
(見返りなんて求めてない。もう大人だもの。お返しとかそういうのは、学生時代までかな・・・。)
「・・・その人は、本当に相手の事が好きなんでしょうね。
私は・・・意味がどうあれ、その人の喜ぶ顔とか。相手の事を考えて、気持ちを伝えるのが重要だと思ってます。」
「・・・・だな。拙僧もそう思う。大切なのはいつの世も心の在り方だ。・・・アイツにもそう伝えておくぜ。」
「じゃあ・・・自分達が言わなくても、意外となんとかなるかも知んないっすね。余計なお世話だったかも・・・?」
「・・・まあ、勝手にここ来ちまったのは事実だが。参考になるってさっきお前も言ってたろ?
無駄にはならねえよ。アイツなら、きっと役立てて自分なりに答えを出すだろうさ。」
「・・・じゃあ大丈夫っすね!!あとで報告しなきゃっす!!」
・・・?なんだか知らない間に上手くまとまったみたいだ。良かった。
当人達にか分からない事が少なからずある。だからこればっかりは深入り出来ないけれど。なにか答えを見つけられたのなら幸いだ。
私の意見も一応役に立ったらしい。その空却さんのお友達が、一体誰に何を贈るのか。
それは分からないけれど、良い結果になりますようにって。密かに心の中で願った。
なにか満足したようで二人はお礼を言って風の如く帰っていった。・・・この帰ったあとの静けさも慣れたものだなぁって思いながら。私は業務へと戻った。
_____そしてホワイトデー当日。その日の朝礼にて。
「・・・皆。仕事とは関係ねえが、女性陣が先月俺達にチョコくれたから。給湯室の冷蔵庫の上に俺達からのお返しがある。
各自一個ずつ取るように。数日経っても余るようなら、適当に分けてくれ。以上。」
『有難うございますー!』
珍しく天国先生直々にそんなお達しが出る。・・・知らなかった。
男性社員の方も気にしてくれてたんだ。お返ししなきゃ悪いと思ったのかな?
キャッキャと嬉しそうな女性陣を見て男性社員はニコニコとご機嫌そうだ。
有難いと思いつつ、朝礼が終わると自分のデスクに戻る。
お昼になってようやく給湯室に行くと、洒落たクッキーが個包装で置いてあった。
(・・・・あ、これだ。)
帰ってから食べよう・・・と思って自然と私の口角も上がる。こういう些細な物でもやっぱり嬉しい。男性社員の気持ちを服のポケットにしまった。
______それから数時間後。
よしっ・・・やっと今日の大きな資料のコピーが終わった・・・!
あとはこれを専用ファイルに纏めて、天国先生の部屋へ提出に行くだけだ。
これが終わったらあとは1、2件電話をして掃除をして・・・。よしっ。そうと分かれば天国先生のところへ行かなきゃね。
コンコン
「・・・・失礼します。天国先生、会議用のファイルこちらに置いておきますね。
それから付箋が貼ってあるのはこの前の書類になりますので、一応目を通して頂けると助かります。」
「了解だ。あとで確認しておく。」
机の空いたスペースにファイルを重ねる。天国先生はお忙しそうで、PCから目を離す事なく返事をした。
業務のお邪魔をしてはいけないので早々に退散しようとする。電話の順番は、まずあちらと____
「・・・そうだ、苗字。帰る前少し俺の部屋に来い。」
「・・・・はい?なんでしょうか・・・?」
「そんなに時間は取らねえからよ。良いか?」
「・・・分かりました。では失礼します・・・。」
パタン
つい次の仕事で頭がいっぱいになっていたが、一体なんの用だろうか?
帰る前・・・。・・・・ん?それってもしかして・・・ホワイトデーと関係してるんじゃ・・・!?
まさかとは思うけどお返し・・・?そんな、別に良いのに・・・。でも違う用事だったらどうしよう・・・・勝手に勘違いしてしまう・・・。
デスクに戻ると、自分はメモを持ったまま難しい顔をしているのに気が付いた。
・・・・い、今は仕事に集中しないと。そんな事考えられなくぐらい、業務をこなさないといけない。
・・・・気になって仕方がないけど・・・。夕方までに終わるだろうか・・・。
そんなこんなで、夕方。なんとか業務を終えた頃には社員の大半が帰宅していた。
夕方というかそろそろ夜って感じだけど・・・。まだ天国先生いらっしゃるし、とりあえず行ってみよう・・・・。
うう、扉をノックする手が緊張してる。なんでだろう・・・・最近こんな事が増えた気がする・・・。
コンコン
「失礼します・・・。天国先生、お仕事終わりそうですか・・・?」
「ああ。てかたった今終わった・・・。今日の分はなんとか片付いたぜ・・・。」
「そうですか・・・。えっと、私はもう上がりますが・・・・何か御用でしょうか・・・・。」
「おう、待ってたぜ。」
そういうと、立ち上がってカバンの中から一つの箱を取り出した。
こ、この展開って・・・・やっぱり・・・?
「ほらよ。今日ホワイトデーだろ。お返しやるよ。」
「あ、有難うございますっ!!お返しなんて別に良かったのに・・・!!」
「たあけ。貰ったのに返さねえってほど、俺は恩知らずじゃねえんだよ。
中身はショコラマカロンだが良かったか?」
「マカロン・・・!久々に食べますね、好物です!!」
マカロンって高いから、なかなか自分へのご褒美でも手の届かない品の一つで。
気軽には買えないのでここ暫く食べていなかった。絶対美味しいのが分かる。凄く嬉しい・・・!
その箱を受け取ろうと手を伸ばし、箱を掴んだが動かない。
・・・・?天国先生がまだ持ってる・・・?
_____その時。天国先生が、一つゆっくりと瞬きをしたのが印象に残った。
「・・・・苗字。・・・・ずっと言わなきゃならねえと思ってた事があんだ・・・・。」
「・・・・はい・・・・?」
「・・・俺には好きなもんが二つある。・・・一つ、酒に合う旨いつまみ。
二つ・・・・お前だ。」
思わず、その言葉に私は目を見開いた。
「・・・・・前からずっと惚れてたんだ。・・・俺と、付き合ってくれ。」
「・・・え・・・・?」