お付き合いする前
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「・・・天国先生。お疲れ様です。この間の件ですが、こちらに報告書をまとめておきましたのでご一読下さい。
それと、別件の裁判のお電話ですが。お話したところ条件を快く引き受けて下さいました。なんとかなりそうです。」
「おう、助かるぜ。お前の資料は見やすいから任せて正解だな。」
「あっ・・・有難うございます。それでは・・・失礼します。」
ガチャッ
き、緊張してる・・・のかな。あれから暫く経って、獄さんの事を妙に意識するようになってしまった。
会話の間を持たせるのに何を話していいか分からない・・・。変に辿々しくなってしまう。
・・・なんだか数ヶ月前も同じような事を思ったような・・・?けど、あの時とは状況が違う。
変な話だけど、男の人と恋愛を結びつけることなんてなかった。そもそも恋愛自体が縁遠いものだと思っていたから。
・・・でも。獄さんに気付かされて。あの人と一緒に居るうちに私は"そういう感情"を抱いてしまった。
私が今悩んでいるのは、初めて男性を好きになった戸惑いと。いつかこの気持ちを獄さんに伝えなければという焦り。
「・・・・。」
PCに向かっても仕事が進まない。資料や事務所の端に映る名前を見るだけでも物思いに耽る。それぐらい私は重症だ。
らしくないのは分かってる・・・。けれど、どうしようもなく止められない。
無理やり仕事を進めないといけないから時々エナジードリンクを飲んで気分を変えている。普段はあんまり飲まないんだけどね。
刺激が入ると一応頭も覚めてくる。あと何回かのもうひと踏ん張りを繰り返して。今日という一日を終わらせよう・・・。
...ガチャ
「______ふう。」
家に帰るなり一息を声に出す。肩を降ろして"帰ってきた"という現実を噛みしめる。
簡単な料理をして、お風呂に入って、テレビを見て。毎日の繰り返しの中、ソファーにはあい変わらず可愛い猫のクッション。
手持ち無沙汰になると感触欲しさに抱き寄せる。・・・なんだかこうしていると、少し安心する気がするから・・・。
\ピコン♪/
「うわあっ!?」
ゆっくりしている時に携帯の通知が来て変な声が出てしまった。仕事用ならまだしもプライベートではあまり鳴らないのでビックリした。
・・・あれ?十四さんから連絡が来ている?なんだろう・・・?
『こんばんわっす名無さん!ちょっと相談したい事があって・・・。
そろそろ獄さんのお誕生日が近いっすけど、名無さんは何送るんすか?』
「・・・・え。
えぇええーっ!?ひ、獄さんのお誕生日!?い・・・一体いつ・・・!?」
動揺してつい大声を出してしまった。け、けどそうなの・・・!?初めて知った・・・!!
今は6月の半ばという頃。誕生日なんて話題に出ないから聞いた事がない・・・。
『こんばんわ、十四さん!あの・・・お恥ずかしながら今の今まで獄さんのお誕生日を知らなくて・・・。一体いつですか?』
『6月29日っす!空却さんとも話したんすけど、名無さんの意見も聞きたかったので参考になればと思って!』
『思ってたより近いですね・・・。んー・・・明日獄さんにさりげなく聞いてみようと思います。
何か欲しいものとかあれば叶えてあげたいですね。叶えられる範囲なら、ですけど・・・』
『うわぁお願いしますっす!!自分達が聞いてもはぐらかされたりするんで、名無さんが聞いたら何か情報得られるかも!!
よろしくおねがいします!!』
獄さん何か欲しいものあるかな・・・。あの人なら自分で手に入れそうだし、あまり公にはしないのが想像出来る・・・。
かと言って私もどうやって聞きだしたらいいかなぁ・・・。休憩の時にでも少し話題に出してみようかな。
さ、最近プライベートな会話は緊張して言えてないんだけど・・・。
よし。そうと決まればどんな言葉をかけるか今から少し考えておこう。
・・・・上手くいくと良いけど・・・ね。
____その翌日。仕事をこなしていくとちょうど獄さんの部屋へ用事が出来た。
今日は事務所にずっといらっしゃる訳だし・・・タイミングはいくらでもある。問題は切り出し方かな・・・。
コンコン
「失礼します。天国先生、今よろしいですか?」
ガチャッ
「・・・おう苗字か。俺も落ちついたところだ。」
部屋に入るとちょうど一息つくところだったのか、ご機嫌にコーヒーメーカーの前でセットしていた。
た、多分今がその時だ・・・。仕事の話もそこそこに本題を聞かないと・・・!
「____・・・・あの・・・獄さん。・・・ちょっとお聞きしたいことがあるんですが・・・・。」
「ん?どした?」
「・・・獄さんは最近、困ってる事とかありますか?何かが手に入らないとか・・・何か欲しいものがある、とか・・・?」
「・・・・?・・・・急に言われても、あんまり思い浮かばねえな・・・・。
ついこの前まで忙しかったが山場は超えたから今はそうでもねえし・・・。」
そうか・・・獄さんは仕事熱心な方だから、ここ最近あんまりゆっくり出来てなかったのかも・・・。
少し前にBARに行けたのもようやくって感じだったし・・・。お誕生日の時ぐらい休ませてあげたいな。スケジュール調整してみよう・・・。
「そうですか・・・。でも、何かやってみたい事とか・・・遊びたい事とかないですか?そういうのが知りたいです!」
「______・・・・。ほう・・・?
いつぞや空却や十四も"同じような事を聞いてきた"が・・・さては名無。お前もその口だな・・・?」
ギクッ。ば、バレちゃったっ!?
ま、まずい。聞き方が直球すぎたかな・・・完全に誕生日の事気づいてる・・・!?
冷や汗が出るのが分かる・・・。い、今から取り返せないよね・・・?
「え・・・・えーっと、それは・・・・。」
「・・・ったく。気ぃ使わねえでも俺は俺で旨いもん食ったりするからよ。」
「あー・・・・。でも・・・何か叶えてあげられる事ならしたいと思ってまして・・・。・・・何かありませんか・・・?」
せめて十四さんになにか伝える分だけでも情報を得ないと・・・。
で、でもこれ以上聞いても無駄な気がしないでもないけど・・・。
「ふっ・・・。そういうのはな、気持ちがこもってりゃ何でも嬉しいもんだぜ。
誕生日覚えてたってだけでも、言葉一つで一日が違って見える・・・俺はそう思うけどな。」
「・・・・獄さんらしい意見ですね。」
多分獄さんなりの人との距離感も少なからずある気がする。近寄りすぎず、遠すぎず。
適切な心の距離をこの人は分かってるんだなぁ・・・。なかなか出来る事じゃない・・・。
「うーん・・・・じゃあ、そのままの感じでお二人にも伝えておきます。」
「やっぱりアイツらから何か聞いてたんだな・・・。ったく、俺から言ってもいいが謙遜がすぎると思われても癪だしな。
名無からうまいこと伝えておいてくれ。」
「はいっ。獄さんの気持ちを伝達しておきますね!」
獄さんは呆れたり怒ったりする感じではなく、少し照れているような満更でもない表情をしていた。
なんだかんだで嬉しくてくすぐったいのかな?いつもかっこいい獄さんがほんの少し可愛らしく見えた。
その夜。それなりに十四さんに伝えたらやっぱり何を送ったらいいかは悩んでいた。
気持ちでもプレゼントしたいよね・・・。私はスケジュール調整もだけど何にしようかな・・・。
お互いの意見を交換し合って、更に空却さんは得意の説法をすると言っていたのでますますどうしようかと悩んだ。
・・・・それからまた数日後。
この日はまだ誕生日じゃなくて、少し買い物に出ていた時のこと。
獄さんへのプレゼントを考えたくてデパートへ向かう途中だった。
(・・・・?向こうの道にいるの・・・あれって、獄さん・・・?)
道路を挟んだ反対側の道。そこで特徴的な服を着た・・・・っていうか、ああいうジャケット獄さん以外ないよね。
少し遠目から眺めていると誰かと話しているみたい。小さい子供とそのお母さんみたいだ。
(・・・あ・・・。あれってライブの時のハンドサイン・・・・。あの子、獄さんのファンなのかな・・・?
・・・なんだかどっちも嬉しそう。ふふっ・・・あんな風にファンサービスとかするんだ・・・。)
獄さんはナゴヤディビジョンの代表だから、やっぱり有名人なんだなって改めて思う。
少し困った顔をしながらも笑って誠実に対応している。・・・凄く微笑ましい光景だった。
やっぱり獄さんは優しくて頼りになる人だなあ。・・・それでいて・・・。
(______・・・・格好良いなぁ・・・。)
出会った時とは少し違う。"憧れ"という意味で輝いて見えた獄さんを、今はどこか目線で見ている。
これを・・・"慕情"っていうんだろうか。その果てに、私はあの人の姿が消えるまで見つめていた・・・。
・・・・やっぱり、私の想いを伝えなきゃ。そう思うと、また胸がトクリと鳴った。
そうして・・・今日は獄さんのお誕生日当日。
私は事務所。そして獄さんは居ない。
無事に休みを取れたから今頃は空却さん達と一緒じゃないかな。
お休みですって伝えたら、何か言いたげではあったけど・・・。
『ん・・・?29日・・・ここ休みになったのか?』
『はい。急ぎの用件もないですし、せっかくなのでゆっくりなさってください。』
『・・・・はあ・・・。どうやらたまたまじゃなさそうだが・・・。
まあいい。休みってんなら、それらしく過ごすとするか。有難うよ、"苗字"。』
『お任せください、"天国先生"!』
あくまで今日のは秘書としての誕生日プレゼント。個人的なのはまた別に用意している。
明日来た時にでもお渡し出来ればな、って思ってる。だから今日は一日責任ある立場として頑張らないとね。
天国法律事務所には獄さん以外にも弁護士の方はいらっしゃるんだし。今日は気合いを入れないと。
そんなこんなでこの日はまあまあ忙しく過ごしてたら一日が終わった。
(_____プレゼント・・・いつ渡そうかな・・・。)
その日の夜。私のお誕生日プレゼントは正直職場に持っていくものではない。
仮にそうでなくても重たいので電車や歩いて持っていくタイミングも重要になる。
・・・でも持っていって早々に渡してしまおうか?周りの目とかムードも何もないけど・・・それしかないかな。
prrr... prrr...
・・・ん?アラーム・・・じゃないよね。電話?一体誰から・・・
・・・・・って。獄さんっ!?な、なんで!?
「も、もしもしっ!?」
『おう、夜分にすまねえ。俺だ。何かしてたか?』
「いいえ何もっ!・・・あっ、お誕生日おめでとうございます!!今日はゆっくり過ごせましたか?」
『ふうー・・・。ゆっくりっつーか、楽しく過ごせたぜ。ガキ共が盛大に祝ってくれたよ。』
「そうでしたか!ふふっ、良かったです!!」
受話器越しに煙草を吸っているんだろうか。時々それらしい吐息が聞こえてちょっとドキドキする・・・。
なにか車が走ってるような音も聞こえてくるからまだ外にいるんだろうか?
「ところで・・・何かありましたか?」
『・・・用ってほどでもねえんだが・・・。名無、明日の仕事終わり予定あるか?』
「いいえ・・・。・・・何もないですよ。」
『仕事さっさと切り上げたら連れて行きてえところがあるんだ・・・。ちいと付き合ってくれ。』
っ!?つ、付き合っ・・・これってデートのお誘い・・・!?
・・・って。この前のBARに行った時も似たような感じだったけど・・・また獄さんのオススメの場所とか・・・?
「分かりました!大丈夫ですよ!」
『はは、良かった。・・・んじゃ、俺も帰るとするか。また明日な。』
「はいっ!・・・おやすみなさい、獄さん!」
『ああ・・・おやすみ。』
ツー... ツー...
・・・ううっ・・・ドキドキした・・・。まさか声が聞けると思わなかったから凄く嬉しいっ・・・。
獄さん、お誕生日楽しんだみたいで良かった。良い一日になったかな。
・・・・やっぱり明日プレゼント持っていこう。ちょっと重いけど、ロッカーとかに預ければいいし。多分バレないはず。
また獄さんと二人っきりになれるのかな?・・・明日の仕事は頑張って早く終わらせよう!
私はご機嫌でそのまま寝室へ向かった。寝る前に着信履歴を眺めたり、声を思い出してはにやけてたけど・・・。
・・・・これって。昔少女漫画で見た、片想いの人がするような事してる・・・。・・・・これが、恋なんだな・・・・。
その翌日・・・。
「おはようございます、天国先生!」
「ああ、おはよう。今日も一日頑張るとするか。」
「はいっ!」
職場にいる獄さんは、昨日はなんの日でもないみたいな振る舞いで真面目に仕事をしていた。
そこに居るのは間違いなく。私の知る"天国法律事務所の代表"としての顔。
昨日電話で聞いた声と同じはずなのに何か少し違う気がした。
時々誕生日を知っている社員さんから何か貰っているようではあったけど、特に何があっただのと話す事もなかった。
そんな獄さんを横目に必死で作業に没頭する。いつもと変わらない業務だけれど、ただ一つ願うのは。
大きな案件や遅れる事態が何も起きませんように・・・。そう思いながらあっという間に時が過ぎた。
「・・・・・。」
仕事終わり。駐車場にて獄さんを待つ。どちらの業務もスムーズに終わったので安心した。
程なくすると足音が聞こえてきて、振り返ると獄さんが笑顔でこちらへ歩いてきた。
「・・・よっし。んじゃあ行くとするか!」
「はい!今日行く場所はどこですか?」
「少し遠出になりそうだ。あんまり遅くはならねえが、途中で飯を食う感じになるな。」
「・・・?そうなんですか?」
てっきり連れて行きたい場所というのはこの前のような食べ物関連かと思っていたけど、今日は違うらしい。
エンジンをかけると獄さんお気に入りの曲がカーステレオから流れる。すごく"獄さんの空間"に入った気がする。
知っている景色を置き去りにして。途中獄さんがお誕生日の話をしてくれて二人で盛り上がった。
「十四の奴・・・なかなか良い肉くれたんだよな。あいつの小遣いなのかバイト代なのか、奮発したんだろうなあ。」
「なるほど・・・!何にするか凄く悩んでたみたいですけどお肉にしてたんですね!」
「空却からも心のこもった有難え説法くらったよ・・・。ったく、あいつらしいというか・・・初めて貰ったぞあんなプレゼント・・・。」
「プレゼントとしては特殊ですね・・・。でも空却さんはそれにするって迷いがなかったので楽しみにしてたんだと思います。」
「・・・・名無は全部知ってたのか。だいぶ仲良くなったんだな、お前ら。」
「ふふ・・・おかげさまで。」
プライベートなやり取りも出来るようになったのは最近の事で。
私が秘書だからってだけじゃなく、遊びの相談や食べ物の好き嫌いとかも話せるようになってきた。
本当にお友達として・・・。皆さんと話せている自分に時々驚くけど。
_____そうさせてくれたのは、私の勇気ってだけじゃなくて。勿論・・・。
「年甲斐もなくケーキとか食ったし、昨日はハチャメチャだったが悪くねえ一日だったよ。」
「お話聞いてるだけで楽しそうです!年に一度ですもんね、たまにはそんな日があっても良いですよ!」
「ああ・・・・。・・・・二人もお前の話よくしてたし・・・。
・・・・本当言うなら、お前も休めりゃ良かったんだがな。」
「・・・・え?」
「・・・社会人だからそういう訳にはいかねえし・・・・。お前にはお前の生活がある。
言っても仕方ねえが・・・あの場にお前がいればなって・・・少し思ったんだ。」
獄さん・・・・。それって・・・・一体どういう意味・・・?
『それは"お友達"として・・・・ですか?それとも・・・』って言いかけたけど。
信号待ちの時にじっと私の目を見てきて。それがどういう目線なのかと考えている内に、言いそびれてしまった。
「公私混同しすぎるのも良くねえしな・・・。・・・・お、ちょうど腹も減ってきたし。飯でも行くか?」
「あ・・・っそうですね。何か食べましょう。」
道路の端に小料理屋さんが見えて、ちょうどいい時間だったので寄る事にした。
お互いお酒はなしで。美味しい料理を食べながらもさっきの事を少し考えていた。
(・・・・私も、本当を言うとB.A.Tの皆さんとお祝いして過ごしたかったな・・・。
けど私のワガママでしかないし、スケジュールを空けるわけにもいかなかった。それを獄さんも分かってた。
・・・本当に仕方がないけど。私は・・・獄さんと"同じ気持ち"なのかな。楽しいって思う事は楽しくて・・・それを共有したいって思ってて・・・。)
その気持ちは、多分私の思ってる事とおそらく一緒で。
元々獄さんから"そういう思い"を受け取っていたから今私は隣りにいる。
・・・っ私・・・・いい加減言わないと。どこかで、貴方に言わないといけませんよねっ・・・。
この気持ちを・・・そのまま・・・・。
「_____名無?どうした?」
「・・・・へっ?ああ、いえ!少し考え事をしてました・・・。」
「そうか・・・。そろそろ着くからな。」
適度にご飯を済ませたらまた車を走らせる。気が付くとどうやら海沿いを走っているようで、船がたくさん見えてきた。
「港・・・ですか?」
「ここを少し抜けたとこだな。」
「・・・うわあ・・・!!」
船の数が少しずつ減っていく。するとどんどん海の奥に光が見えてきて・・・!
そこには水平線の先に広がる街。その街の明かりが海へ反射されて、壮大な夜景になっていた。
獄さんはある程度走ったところで車を止めると、公園の柵まで行ってそこで煙草を取り出した。
「昨日電話してくれたのって・・・ここからですか?」
「ああ・・・。昨日二人と別れたあと少し風に当たれる場所を探してたら偶然見つけてな。
多分昼間はこういう景色にならねえだろうし、休みの日にお前を連れ出すのも悪いと思ってな・・・。
ちょうど仕事終わりで来れねえ距離でもねえし。息抜きにこういう場所来るのも良いだろうと思ってよ。」
「・・・有難うございます・・・!!凄く綺麗ですっ・・・普段こんな景色、テレビとかでしか見ないので・・・!!
わざわざ連れてきてくださって本当に嬉しいです・・・!!」
そう言って獄さんの顔を見ると、笑って頷いた。
普段遠出をする機会のない私にとって、獄さんが見せてくれる景色はいつも輝いていて。
・・・・こんな一粒一粒の光を目に焼き付けたくて。暫く私達は黙って夜景を見つめていた。
「・・・・・・。」
_____景色を見て、私はふと気付いた。
獄さんと私の距離は、手を伸ばせば届きそうな距離で。
あと数歩。近くに寄れば触れられそうな姿があって。
「・・・どうした?夜風で冷えたか?」
「・・・!いいえ・・・何も・・・・っ。」
・・・な、何考えてるんだろう私。そんな事したら獄さんビックリするに決まってる・・・。
そんな度胸もないのに考えるもんじゃない。私達は"そんな関係じゃない"んだからっ。
・・・そんな・・・関係じゃ・・・・っ・・・。
「_______・・・・・。」
・・・獄さんはっ・・・。今でも私の事を好きでいてくれてるのかな・・・。
獄さんは、私のこの気持ち・・・気付いてないのかな・・・・?
「・・・・あの、獄さん・・・?」
「・・・・・ん?」
私・・・・っ私・・・・・貴方に、言いたい事があるんです・・・。
このままじゃ・・・嫌だっ・・・・!!
「・・・獄さんは・・・私が、貴方への気持ちを悩んでる事を知っても・・・・。こうして、ずっと・・・私によくしてくれましたね・・・。
お花見行ったり・・・ライブに行ったり・・・一緒にお買い物したり・・・ご飯食べたりっ・・・・。
・・・・今でもはっきり思い出せるくらい、一つ一つが私の中で大切なものになりました。」
「____・・・・・・。」
「・・・・・その中で・・・貴方を思う気持ちがなんなのか。少しずつ・・・明確になってきて。
私は・・・・このままの関係じゃ嫌だってっ・・・思うようになってきました・・・!!」
すると獄さんは、ポケット灰皿を取り出して。吸い殻をその中にしまいこんだ。
そして告白してくれたあの時のような眼差しで。私を真剣に見つめ返してきた・・・。
「・・・ひっ・・・・獄さん・・・!!私・・・・獄さんの事が、す・・・好きですっ!!
獄さんは・・・今でもっ・・・その・・・。・・・・私の事を・・・好きでいてくれてますか・・・・!?」
どうしようっ・・・。言っちゃった・・・。
顔が熱くて。何故か視界が歪んでて。心臓が今までにないくらい、バクバクとうるさい。
・・・・すると少しぼやけた視界から。獄さんが手を差し伸べてきたのが見えた。
獄さんは、何も言わなくてっ・・・。確か、告白された時もこんな感じで・・・手伸ばしてくれたっけ・・・・。
・・・・その手を取ると。
「わ・・・っ!?」
瞬時に目の前が暗くなって。なにかと思えばっ・・・ひ、獄さんに・・・抱きしめ・・・られてる・・・・!?
そうして私が徐々に、状況を理解し始めた頃。
「______当たり前だ。・・・・選んでくれたんだな。
・・・・ずっと、お前が好きだぜ。名無。」
耳元で聞こえた声が。とても優しくて。
目からは耐えきれなくなった涙が、ぽろりぽろりと。落ちていった。
「・・・・・わ、たし・・・・っ。未だに男性恐怖症で・・・。変に頑固なところとかありますけどっ・・・。
もしかしたらこの先、貴方を困らせてしまうかも知れません・・・それでも、良いですかっ・・・?」
「ああ・・・知ってるよ。お前と
・・・・俺には好きなもんが二つある。一つ・・・料理の出来る奴。二つ・・・前を向く事の出来る良い女だ。
恐怖症は少しずつ直していきゃあいい・・・。俺も協力する。
・・・っと、そういや今は大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ・・・!・・・苦しく、ないです・・・。」
獄さんは思い出したように少し身体を離して私の表情を伺った。
むしろ、もう少しこうしていたいぐらいで。・・・私は獄さん相手だと、本当に恐怖症じゃないのかも知れない。
この人となら・・・いつか完全に克服出来るかもって・・・思っている。
手のやり場を考えてなくて、どこに置いたらいいのか分からないけど・・・。そっと、獄さんの袖を握り返した・・・。
「・・・なら良いか。」
今度は私からも一歩を踏み出して、もう一度獄さんと抱き合ったっ・・・。
有難う・・・・っ・・・。獄さん・・・・。大好きですっ・・・・!
______それから暫くして。名残惜しいけど、遅くなるといけないので家まで送ってくれた。
車で何を話せばいいかなって思ったけど・・・。獄さんが"今度は二人で休日に出掛けたい"って話をしてくれたから嬉しくなった。
またチームの皆さんとも遊びたいし、ここからまた始まるんだって気がして・・・・。それが温かくて。胸がぽかぽかした。
あ・・・・というか私の家に着いたけど、降りる前に大事な物を思い出した。感動してて忘れるところだった・・・!
「あ、ちょっと待ってください!獄さん・・・・これ!受け取ってくださいっ!」
「・・・・?なんだこの包み・・・・。
ってこれ、アイラウイスキーじゃねえか!?しかもこの銘柄・・・・どこで手に入れたんだ!?」
「実は、いつか紹介してくれたBARに行きまして・・・。そこの方に教えてもらいました。手頃な値段のものしか買えませんでしたが・・・・。」
まじまじと瓶を見つめると。"しょうがない"と言いたげなため息をついて私の顔を見る。
「・・・・・・ったく。お前からのプレゼントはもう貰ったと思ってたぜ。」
「あれは秘書としてです。そしてこれは・・・・その・・・・苗字名無としての、個人的な物ですので・・・・。」
「・・・・んじゃあ、また時間ある時にゆっくり飲むとする。有難うよ名無。」
「えへへ・・・どういたしましてっ。」
リーゼントに手を置いて、少し照れくさい顔をしながらも袋ごとカバンの隣りにそっと置いた。
なんだかんだ喜んでくれたようで良かったっ!私の秘書としての聞き込み技術が役に立ったのかも・・・なんてね。
玄関まで送ってくれたので寂しいけどもうお別れ。・・・今日は本当に幸せな一日だったなあ。
「・・・・今日は有難うございましたっ!良い景色が見られましたし、それに・・・・嬉しくてっ・・・。」
「・・・ああ。俺も良い一日になった。・・・これから宜しくな。」
「・・・はいっ!」
そうして"おやすみなさい"って言おうとしたところ。
獄さんがなんだか周りを気にして、少し真剣な顔になった。
_____ちゅっ
・・・・ん!?何か今、視界が真っ暗になって・・・
おでこに、な・・・なんか感触が・・・っ!?
「じゃあおやすみ、名無!」
「ひ、獄さんっ!・・・もうっ、おやすみなさいっ!!」
真っ赤になる私をよそに楽しそうな顔をして車へ戻ってしまった。ど、ドキドキが収まらないっ・・・ずるいです獄さんっ・・・!!
これがデコチューってやつ・・・!?初めてされた・・・これからも、こんな事が起こるのかなっ・・・?
まだ獄さんと私のお付き合いは始まったばかりで。
初めての事とか、きっとどこかで躓く事もあるかも知れないけど。
それでも獄さんとなら・・・乗り越えられるって信じてる。
_____だって私は、天国法律事務所の秘書であり。獄さんの恋人・・・だもんねっ!!