お付き合いする前
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「____お電話代わりました。苗字と申します。・・・はい。・・・有難うございます。そちらの資料でお願いします。
・・・かしこまりました。では天国先生にもお伝えしておきます。はい。では失礼致します。」
お伝え、と言っても今事務所にはいないんだけどね・・・。
軽くため息をついてからメモ書きに"済"と丸印をしておく。あとで連絡だけは忘れないようにしないと。
お買い物やライブに行けたのは束の間の休日で。それから事務所は慌ただしくなり暫く忙しい日が続いている。
獄さんとは一緒に仕事しているけれど、細かな案件から大きな仕事までスケジュールがいっぱい。
今日も獄さんは出張で事務所にいない。どこかで落ち着くといいのだけれど・・・今は目の前の仕事に集中するしかない・・・。
(またどこかに行きたいな・・・・。そう思うのは私の我が侭かも知れないけど・・・皆さんと一緒にお出かけしたい・・・。
はあ・・・・獄さんに会いたい・・・。お昼ちゃんと食べてるのかな・・・って。わ、私がこんな事心配しても仕方ないのに・・・!)
獄さんの顔が見たいって思うようになったの今に始まった事じゃない気がする。けど心配するようになったのはここ最近かも・・・。
______はっ。気がついたら作業する手が止まっている。こんな事考えてる場合じゃない。
まだまだやる事は残ってるんだからこれぐらいでへこんでちゃいけないよね。だって私は『天国法律事務所の秘書』なんだから・・・!!
「・・・・ふう。」
ひとたび家に着くと小さく息をつく。業務を終える頃には辺りは既に暗くなっていた。
何個かの大きな仕事を連続でこなしている為こういう自体になっている。スケジュール管理している者としても、獄さんに申し訳なく思う。
一応今月までには片がつきそうだけれど・・・。それは新規の仕事が来なければの話。
誰だって無敗の弁護士に頼りたい。確実に勝てるなら縋りたくもなる。世の中は誰も、どんな人であれ救いの手を待っているのだから。
(・・・色々考えこんでも仕方がないよね。とりあえず用事済ませたら今日は早く寝てしまおう・・・。)
難しく考えても私がどうにか出来る事ではない。服を着替えて、この日は先にお風呂を沸かした。
・・・・それから数週間後。なんとか大きな仕事も今日でようやく終わらせることが出来た。
座る獄さんにコーヒーを差し出すと、片手に握り少しPCから離れて深く椅子へ腰掛ける。
「・・・・ふう。なんとか片付いたな・・・。」
「天国先生、お疲れ様でした。」
「流石に今回のは面倒だったな・・・。その分高く付くから申し分ないが。
・・・明日は休みだし、今日乗り切ったら皆に羽伸ばすよう言っといてくれ。」
「はい、伝えておきますね。皆さん喜ぶと思いますから!」
一件落着でホッとしている姿を見ると私も肩を撫でおろす。他の皆さんのことも気にかけるのは流石事務所代表だな、と思う。
その笑顔を見ているだけで私も癒やされる。軽く伝達を終えて、私も残りの業務を片付けようと自分のデスクへ戻ろうとした。
「・・・そうだ、ちょっと待て。」
「はい、なんでしょうか?」
「でけぇ事も済んだし・・・来週のどっか、二人で飲みに行かねえか?近場で良い店があんだ。」
振り向くと獄さんは少し顔を緩めて笑っていた。こういった顔はプライベートでしか見ない気がする。
突然のお誘いにビックリしてしまい、頬が紅潮していくのが感覚で分かる。
「えっ・・・?い、良いんですか?わ、私お酒あまり飲めないですし・・・お邪魔では・・・・。」
「たあけ。最近忙しかったし、たまにはゆっくり二人で旨いもんでも食おうぜ。
酒は無理に飲まなくていいさ。ああいうのは雰囲気で味わうもんだ。・・・な?名無?」
ドキッと久々に心臓が鳴る。ふ、不意打ちとはいえこうして名前で呼ばれるのも久しぶりな気がする・・・。
片手で頬杖をついてニコッとするのに思わずときめいてしまった。そんな急に少年のような顔をしないでください・・・!!
私にしか見せてないんだろうなーというのも分かってしまい、余計に緊張というか高鳴りが収まらない。
「わ・・・分かりましたっ。・・・なんだかこういうの久しぶりですね。」
「そうだな・・・。俺も楽しみにしてる。細かい日程はまた後日決めるとしよう。」
「・・・では失礼します。・・・・・獄さんっ・・・。」
「おう、またな。」
扉に向き合って聞こえてきた「またな」はいつもよりワントーン高い声で。楽しそうなのがこっちにも伝わってきた。
・・・・デスクに戻って即来週のスケジュールを確認する。確かにこのままだと早く終われそうだし、どの曜日でも問題なさそうだ・・・。
...パサッ
あ。ファイルの傾いた音で我に返った。別にそんな長い間見ていた訳ではないがつい上の空になりかけていた。
と・・・とにかく!それはそれ。これはこれ。今は目の前の業務に集中して、今日やるべきことを片付けてしまわないとねっ。
______数日後の夜。
遂にお食事の時がやって来た。今は獄さんが来るまでエントランスの椅子に座っている。
ちらほらと人の出入りはあるものの、ほとんど業務の締めって空気が流れている。
あちこちで談笑する声が時々聞こえてきて、誰も私の方を気にしていないようだ・・・。
「・・・・よお、待たせたな。」
「あっ、いいえ!全然待ってないですっ・・・!」
「・・・そう緊張すんな。腹も減ったし、とっとと行こうぜ。」
程なくして獄さんが来るのが見えて思わず声が上ずりかけた。そんな私にクク、と楽しそうに喉奥で笑っている。
エントランスを出て、先を行く獄さんに着いていく。歩いて行くってことはけっこう近いところなんだろうか・・・。
「あの・・・獄さん。そういえば今日は車じゃないんですね・・・?」
「ああ。俺も酒飲みてえからな。帰りはタクシー使うから問題ねえよ。」
「なるほど・・・。どうやって来られたのかなーって思ってました。」
「俺はバスとか電車は基本乗らねえしな・・・。手っ取り早くタクシーの方が良いんだ。」
「そうなんですか・・・。」
どうも獄さんは自分の空間を大事にする人だとは前から思っていた。けれどこの人なりのこだわりを聞いたのは正直初めてだ。
話を聞くと一人で単独行動したい派らしくて『自分の事は自分で責任持つ』っていう会社の理念と一致している気がした。
『自分の道は自分で切り開け』ってよく相談でも言ってるからそれと似てるのかも。
少し話すだけでもその人らしさってのが出てくるよね・・・。己をきちんと持った人だから、皆着いていくんだろうな・・・。
そんな事を思っていたら建物の一角で立ち止まる。お店に到着したみたいで、エレベーターで少し上がっていく。
この雰囲気・・・・大人なBARって感じがする。さっきまで夕方過ぎだった空気が一気に真夜中になったみたいだ。
は、初めて入るけど良いのかな・・・?でもところどころ会社終わりみたいな人もいるし、一応大丈夫なのかな・・・?
少人数用の席に案内されて二人で腰掛ける。メニューはお酒中心。食べ物は和洋中のそれなりに選択肢もある。
お腹が空いてる時にお酒は酔いが回りやすいとか聞いたからとりあえず私はお酒はなし。でも飲みたいのはあるからあとで頼もうかな。
「・・・・それじゃあ、獄さん。お疲れ様です。乾杯っ。」
「ああ、乾杯。」
グラスがカランと控えめな音を立てて当たる。ど、どうしよう・・・凄く大人な雰囲気だ。
私だって一応大人なんだからそんなに緊張しないで・・・。と喉に水分を送り込み自分で言い聞かす。
耳に入ってくるジャズの音色が少しだけ気持ちを落ち着かせる。あ、なんだか獄さんもこんな曲ライブで歌ってた気がするな。
「・・・なんだかとても獄さんらしい場所ですね。」
「そうか?俺はこれぐらいの雰囲気が落ち着くんでな。あんまり騒がしい場所は性に合わねえ・・・。」
「良いと思いますよ。自分らしく居れる空間があるのは素敵な事だと思います。」
「・・・・なかなか良い事言うな。そういうスペースがあるに越した事はねえ。世の中公私の切り替えってのが大事だ。」
お酒を飲む姿がなんだかこの場にピッタリだなあ。こういうのが似合う大人って格好良い・・・私にはちょっと背伸びした感じするけど・・・。
談笑して少しすると料理が到着。なんだか盛り付けとかソースのかけ方も洒落れている。
こういうのは今後作る上で参考になりそう・・・。私の腕で出来るか分からないけどね・・・。
「・・・ん、美味しいっ・・・!ここの料理人さん、腕が良いんでしょうね・・・サラダ一つでも見せ方から何までこだわってます・・・!」
「名無は料理するから分かるんだな。ここは雰囲気も良いが、何より料理目当てで来る奴も多い。本物、ってやつだ。」
「事務所の近くにこんなお店があったんですね!」
「気に入ってもらえたようで何よりだぜ。」
『____ご来場の皆様。本日も当店をご利用頂きまして、誠に有難うございます。』
・・・・?店内のBGMが小さくなったと思ったら、男性の声で静かにアナウンスが流れ始めた。
どうやらなにかのイベントみたい。ギターや管楽器を持った人が奥の小高いステージへ上がっていく。
そしたら小気味良い生演奏が始まった。なんのバンドかも分からないけれど・・・なんだか心が落ち着くなあ・・・。
音楽に二人で耳を傾けつつ、そろそろ良いかなぁと思ってひっそりお酒を注文する。度数の低いものだから多分大丈夫と思いたい。
「今日は演奏の日だったか。月に何回かやるイベントで、俺もたまにしか聞けねえんだ。」
「じゃあ運が良かったんですね。・・・ふふっ、大人な雰囲気です。私本当にここにいて良いんでしょうか・・・?」
「何言ってんだ。お前だって成人だろう?たまにはこういう空気にも慣れとけ。」
"大人ってのも悪くないぜ"と笑う獄さんはステージのライトに照らされていて。
・・・いつもとは違う。アダルトな一面を覗かせていて、不意にドキリと胸が鳴った。
____そっか。普段の仕事している姿、チームで話す時の姿。それはどれも"誰かと居る貴方"の姿で。
天国獄という"一人の貴方"は・・・・こんなにも私の知らない顔をするんですねっ・・・。
・・・お酒は冷たいはずなのに身体は熱く感じる。アルコールは不思議だ。
カクテルを飲んでるからドキドキしてるのか。それともその前からこうなのかは境が曖昧なんだけど・・・。
その頃舞台では小ステージが終わり、メンバーの紹介やライブの宣伝などを挟んで会場から温かい拍手が送られる。
私達も演奏に満足していたので称賛の拍手を送る。なんだか仕事終わりの格好なはずなのに、ドレスで来てるような気持ちになったなあ。
「・・・はあ。しっとりしてて良い演奏でしたね・・・。」
「ああ。いつにも増して会場もノッてたな。」
「獄さんならあのギターがどういう弾き方とかも分かるんですか?」
「ん?まあ・・・多少ならな。俺はある程度しかやってねえが、主張しすぎずにああして弾くってのも技術がいるもんだ。
腕がある奴にしか出来ねえよ。音の世界は奥が深いんだ・・・。」
そう言ってギターの事を話す獄さんはどこか楽しそうで。趣味でやってるんだろうけど・・・それでも好きな物への気持ちが伝わってきた。
どこか優しい眼差しで。その奥には決して消えない情熱が宿っている。
・・・ちょっと気取りすぎかも知れないが本当にそんな風に見えて。それだけ獄さんは熱心に話してくれた。
「_____・・・・つってもまあ。俺が出来る範囲はたかが知れてる・・・。ああいうのも・・・結局才能なのかもな・・・。」
「才能・・・ですか・・・?」
「・・・・俺より、兄貴の方が上手く出来てた。俺が時間かけて出来た事を、兄貴は最初っから出来てたみてえに弾いてたし・・・。
・・・・・ふー・・・。そんな俺は、今やこうして弁護士だもんな・・・。人生何があるか分からねえよ。本当・・・・。」
煙草を吸って瞼を伏せる。どこか寂しそうに見える顔って、やっぱりお兄さんの事を思い出している時なんだと確信する。
ギターの話をすると時折切ない表情を浮かべていたのはこれだったんだ。
家にあるギターもどうやら大半がお兄さんの持ち物だったらしいし。・・・獄さんにとって、お兄さんは憧れでありライバルだったのかな。
私が・・・こうして首を突っ込む立場じゃないのかも知れないけどね・・・。
「・・・・獄さん。一つ、お聞きしたい事があるんです。・・・こんな事、聞いていいのか分からないんですが・・・。」
「・・・なんだ?」
「・・・あの・・・っ・・・。ひ、獄さんはどうして、入ったばかりの私に亡くなったお兄さんの事を話してくれたんですか・・・?」
「・・・!」
「・・・事務所の中でも、知ってる人はあんまりいないって聞いて・・・。ずっと気になってたんです・・・・。」
お酒が回ってるからこんな事聞いてるのかも知れない・・・。・・・・でも、本当にずっと聞きたかった事で。
軽はずみな気持ちで話すような人じゃない。むしろ、心の中に留めておきたい出来事をわざわざ新人の秘書に教えるのかな、って・・・。
・・・ただそういう感情があったから、とかだったらどうしよう・・・。
「・・・・たまたま話すタイミングがあった。それに、秘書なら守秘義務は全うするだろうと思ってな。」
「えっと・・・それだけ・・・ですか?」
「・・・いいや。実は気付いてねえだろうが・・・お前、イジメの案件になると顔に出るんだよ。」
「・・・えっ!?・・・う、嘘っ・・・!?」
そ、そうだったの・・・!?無意識になにか表情が変わったりしてたのかな・・・!?
煙草を灰皿で消したあと。獄さんは腕を組んで真剣に語りだした・・・。
「怒ってる訳じゃねえんだろうが・・・なんつーか悲しそうな顔してな・・・。感情的な奴が来たな、って最初思ったが。
他の案件だと特に変わった様子ねえから、特別イジメ関連には思い入れがあるんだろうと踏んだ・・・。
調査するにしても妙に熱が入ってるっつーか。その必死さに『こいつとなら上手くやれるかもな』って思ったんだ。」
「そ・・・。そんな風に、してましたか・・・。私・・・・・。」
「ああ・・・・。・・・・だが良いか。俺が名無に、兄貴の話をしたのは同情してほしいからじゃねえ。
どんな理由であれ"前に進める"と考えたからだ。過去の出来事より、俺達にはやるべき事がある。
裁判って形でケジメをつけて。そんでそいつらに道を提示してやる事だ。法律事務所ってのはその為にある。」
癒える事のない胸の苦しみ。それは獄さんだって、私だってそう。
それが少し表に出てしまってたのは驚いたけど・・・。でも同時に、気付いてくれたのが嬉しかった。
そして私の思いと、獄さんの考えが。とても近いところにあって。
_____私にとって。誇らしかった。
「・・・・ええ、そうですね。・・・私もそう思ってます。獄さんの力になりたくて、秘書になりましたが・・・
何より・・・。過去のイジメを悔やんだり呪ったりする暇があるなら、どこかで苦しむ子達を助ける。
それが私に出来る事だって思ったから。今、秘書として貴方の傍にいますっ・・・。」
「ああ。良い心がけだ、名無。・・・・お前のそういうキッパリしたとこ。俺は好きだぞ。」
そう言った獄さんの笑顔はいつも通りカッコ良くて。でも少し・・・優しい顔にも見えて。
思わず涙が出そうになったけど・・・・泣いてる場合じゃないなって必死に堪えた。
そして「有難うございます」と笑顔で返した。
_____お食事して暫く。それなりに時間が過ぎてもう帰らなきゃいけない。
料理も美味しかったし良い話も聞けた。とても有意義な時間を過ごせて私は満足していた。
・・・でも、まだ一緒に居たいなって思ってるのはいつもの事なのかな・・・?
「久しぶりにのんびり出来ました。・・・なんだかまだ話足りないようにも思います。
あんなにお話したのに、不思議ですね・・・。」
「くくっ、嬉しい事言うじゃねえか。また一緒に来ような。」
「はいっ!・・・あ、獄さん、お金・・・!」
「いーんだよ。俺はカードで払うから気にすんな。」
立ち上がって払おうとするとご機嫌に一人でレジに行ってしまった・・・。
毎回奢ってもらうのはなんだか悪いと思っているんだけど・・・。
・・・ん?ていうかなんか上手く歩けない・・・。あれ?もしかして私ふらついてる・・・?
「・・・ん?名無、大丈夫か?」
「大丈夫です!ちょっと眠くなってきたのか、ふわふわしますけど・・・。」
「・・・・。顔も赤いし酔ってるみてえだな。タクシー呼ぶからちょっと待ってろ。」
「ひ、獄さん!私ここから家近いんで呼ばなくていいです!!夜風に当たって帰りますから!!」
「そうかあ?・・・つっても、んな状態で放っとくのもな・・・。なら家まで送らせろ。いいな?」
「はい・・・。なんかすいません・・・。」
晩ご飯のお代払ってもらったのにその上タクシーだなんて、近いのに悪すぎる・・・!!
そう思って必死に止めたら歩いて送ってくれるみたい。運動不足解消がどうとか言ってるけど・・・迷惑かけてないかな・・・。
もう少し一緒にいれるのはなんだか嬉しいけどねっ・・・。
「・・・んー・・・。夜風が涼しいですねえ・・・。」
「酒が入ってるから丁度いいな。あんまよそ見してると転ぶぞ?」
「子供じゃないですから大丈夫ですよ~。」
「______・・・・・。そうか。ならせめて・・・。」
・・・っ!?何・・・?浮かれ気分で歩いてたら・・・急に、手が温かくなって・・・
えぇえっ!!?・・・獄さんに、手・・・・握られてるうっ!?
「支えるぐらいはさせろ。なんつーか・・・見てて危なかっしいんだよ。」
「あ・・・・。う・・・すいま、せん・・・・。」
「謝んな。んな面白い顔して立ち止まってねえで、行くぞ。」
「・・・はいっ・・・。」
そんなに驚いた顔してたかな、私・・・。ど、どうしよ・・・・凄くドキドキする・・・。
あんまり人も歩いてない道を・・・・こうして二人で歩くなんて・・・。
なんか、少し道が暗いなーって思ってたけど・・・なんだか凄く安心する・・・。
獄さんの手・・・。私のより温かいなあ・・・・っ・・・。
「・・・なあ名無。」
「はいっ・・・?」
「・・・お前に少し聞きてえことがあんだ・・・。答えたくなきゃ、別にいいんだが・・・。」
「なんでしょうか・・・。」
すると歩くのを徐々に緩めながら、ふと振り向いて"らくしなく"呟いた。
「_____・・・・お前、男怖いはずなのに・・・。俺と触れ合う分にはいいのか・・・?」
「・・・・え・・・・。」
・・・っそういえば・・・・そう、だよね・・・。私、元々男の人は自分から避けてたぐらいだったのに。
いつの間に・・・こんなに獄さんの手が"落ち着くように感じた"の・・・?いつから・・・・"貴方の隣りに居たい"と願うようになったの・・・?
・・・・ドキンッ
鼓動が脈打つ。何回も、何回も、何回も。
えっと・・・・とにかく返事しなきゃ。でも、なんて言おう。
「っ・・・そう、みたいです・・・・。なんでか分からないですけど・・・空却さんや、十四さんみたいに・・・気を許してるからなのかっ・・・。
その・・・。・・・・私は、いつの間に・・・・貴方の事を・・・・。」
_______こんなに、想うようになったのでしょうかっ・・・・・?
「・・・・。まあ・・・俺達は
「・・・・・すいません。うまく答えられなくて・・・っ。」
「気にすんな。・・・行こうぜ。」
手を少しずつ握り返すと、導くようにまた包み込んで、また歩き出した。
顔が、熱いっ・・・。酔ってるからなの・・・?このドキドキって、本当にお酒のせいなの・・・?
分からないまま暫く歩いて。程なくしたら、私の家に"着いてしまった"。
「・・・・・今日は有難うございましたっ。ご飯美味しかったです!」
「そらあ良かった。・・・・じゃあな、名無。またな。」
「おやすみなさい・・・獄さん・・・・。」
キリのいいところで手を離して、一礼して私はゆっくりと玄関へ向かう。
最後にちょっと振り返るとタクシーを呼んでいるのか電話をかける獄さんが見えた。
バタンッ
「______・・・・・。」
静まり返った部屋。見慣れた景色に、帰ったことを実感する。
ふらふらとソファーに戻ると。いつか獄さんと一緒に取った猫のクッションがこちらを見つめている。
・・・・そのクッションを抱きしめて。未だ鳴り止まない心臓は、確かめるように自分の中に鳴り響いた。
「・・・私・・・・。いつの間にっ、こんな・・・・・
・・・・獄さんの事、好きになっちゃったの・・・・?」