お付き合いする前
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ピコン♪
『いよいよ明日はライブっすね!自分、精一杯頑張るんで見守っててほしいっす!』
『あの・・・十四さん。質問なんですが、こういうライブってヴィジュアル系の格好したりとか頭振ったりした方がいいですか・・・?』
『いえいえ!それは一部のファンの人達がしてくれてるだけっすから無理しなくても良いっすよ!』
(・・・・・なんか妙に緊張してきたな・・・。私の方が緊張してるなんておかしいよね・・・?)
あれから家でヴィジュアル系の事を少し調べてみた。初めてなのでよく分からないが・・・ヘドバンなるものがあるらしい・・・。
パフォーマンスの一種でファンが会場一体曲に合わせて頭を振っている。しょ、正直怖いと思ってしまった・・・。
ヴィジュアル系の曲自体もいくつか聞いてみたけど曲は好きな感じ。だからその辺は問題ない。
ところどころ難しい用語があったり歌詞の意味が伝わり辛いのもあるけれど・・・。
こういうのは雰囲気を楽しむものだと思うし、行ってみないと分からないのも当然かな・・・。
『明日が楽しみです♪おやすみなさい!』
『自分も皆さんが来ると思うと気合いが入るっす!おやすみなさいっす!』
この前と同じように明日は獄さんが迎えに来てくれる。会場は私が初めて行くところなので案内してくれるらしい。
昨日今日と仕事で一緒。そしてまた明日も一緒。
・・・・私はちょっと恵まれすぎてるな、なんて思う。こんな出来事が何度もあるなんて夢じゃなかろうか。
ピコン♪
「・・・・?」
『よう、お疲れさん。明日10時頃迎えに行くからな。』
「ひ、獄さん・・・!」
『お疲れ様です!いつも迎えに来ていただいて嬉しいです・・・有難うございます!』
『ライブの場所分かり辛えし現地集合で迷われても困るしな。それに俺が迎えに行きてえだけだ、気にすんな。』
『明日楽しみにしてますね!』
『そうだな。おやすみ。』
簡潔な文章だけど獄さんなりの優しさが伝わってくる。ライブの場所、都会とはいえ地下でやるみたいだから確かにピンと来てないし・・・。
"友人"だから・・・ってこんなに親切に送り迎えしてくれるだろうか・・・。いやでも・・・そんな訳ないよね・・・・。妙に考え込んでしまう・・・。
(そ、それより明日はライブだしもう寝てしまおう・・・。なんか楽しみで寝れないなんて小学生みたいだな・・・。)
携帯を枕元に置いて寝ようとする。暫くは獄さんや十四さんが頭によぎったりして、夢に出てくるんじゃないかと思いながら目を閉じた。
______翌日。朝の身支度を軽く済ませて鏡の前へ立つ。ヴィジュアル系のライブなので少しだけ派手な格好にしてみた。
多分普通の人からしたらそうでもないのだろうけど、ちょっとしたアクセサリーを付けるだけでも私にとっては背伸びした服装な訳で。
メイクもいつもより少し濃いめにしたり、いつもの自分と雰囲気が違う。ライブ会場は暗いからこれぐらいで良いはず・・・。
ピンポーン♪
「はーい!・・・ひ、獄さんおはようございます!」
「おう。準備出来たか?」
「オッス!なかなか気合い入ってんじゃねえか名無!!」
「あ、空却さん!おはようございます!」
獄さんはいつも良いタイミングで来てくれる。今日は先に空却さんのところへ寄ったそうだがそれでも私が身支度をバッチリ整えた後だった。
この姿を見られるのはちょっと緊張していたけれど・・・。でも普段からアクセサリーだらけの空却さんが目に入って正直安心した。
私の家から車を少し走らせてライブ会場へと向かう。何気に助手席に座らせてもらったけど良いんだろうか・・・?
「・・・名無。そのネックレスどこで買ったんだ?」
「へえっ!?あ、あの・・・・昔、デパートで見つけていいなと思って・・・。変でしょうかっ・・・?」
「いいや。その十字架のセンス・・・多分あいつなら気に入ると思ってよ。」
「だなー。十四も前似たようなペンダントかなんか欲しいだの言ってたもんな。
十四と名無、なかなかセンスが似てんじゃねえの?」
「そ・・・そうでしょうか。なら良いんですが・・・。」
獄さんはあまりこの格好に興味ないと思っていたけど・・・ちゃんと気付いてくれたんだ・・・。
十字架のネックレス。ウィンドウショッピングをしている時になんだか心惹かれて買った物。私の大事な物の一つだ。
付ける機会がないので暫くしまっていたけれど付けてきて正解だった。なんだか家で見るよりも輝いているように見えるのは気のせいだろうか・・・?
暫く走って目的地に到着。やっぱり周りの景色を見てもあまりピンと来ない場所だ。
長年名古屋に住んでいるはずなのに見覚えがないなんて不思議な感じ・・・。
遠くに見える建物で知ってるオフィスビルの近くだと分かるぐらい。先頭を行く獄さんに連れられて少しほの暗い地下のライブ会場へと降りていく。
(・・・・べ、別世界だ・・・・。)
防音の為か妙に重い扉。開くと既に音楽が鳴っている。・・・と同時に、ライブに来たお客さんやスタッフまで異様な雰囲気を醸し出している。
こういうライブに椅子はないんだとか。誰もいない中央のステージに照らされるライトが青紫にぼんやりと浮かんでいる・・・・。
「なんだア?名無、怖えのか?ずっと拙僧の後ろで固まってるが?」
「え・・・っと・・・。初めてなもので、どうしたらいいのか・・・。」
「開演までのんびりしときゃいい。始まったら騒がしくなるからな。」
「・・・・・・。」
「んなきょろきょろすんなっての。今から出てくんのは十四だぞ?なんも怖い事ねえだろ?」
「そ、そうですね・・・・。」
前に居た獄さんはさりげなく横に来てくれた。声をかけられた事で少しだけ息を整える。
空却さんと獄さんに挟まれてるのは・・・落ち着くようなそうでないような・・・・。
暫くすると、音楽が鳴り止んで場が一気に静かになる。始まりの合図なのだろう。
さっきまで騒がしかったのが嘘のようだ。
『皆さん。今宵のパーティーにようこそおいでくださいました・・・。
それでは、当方から会場内のルールのあと・・・開演となります・・・。』
派手な格好をした司会の人が丁寧に説明をしてくれる。なんだか今からライブじゃなくて演劇が始まるみたいだ・・・。
まあこういう演出とか雰囲気も会場全体が演劇に近いのかも知れない。なんだかまた異様な雰囲気に包まれる。
『_____ではまず、最初のメンバーをご紹介致します。
メンバァー入場っっ!!!』
『キャーーーー!!!!』
ひっ!?び、ビックリした!?思わず体ごと飛び上がってしまった。
確かこういう声ってシャウトとか言うんだっけ。異界のような雰囲気の音楽が鳴り響いている。
前列の人は動画で見たみたいに頭振ってるし、歌ってる側のパフォーマンスもすっかり現世から遠のいているような・・・。
曲は良いけどこの空気・・・。ライブ慣れしてない私がここにいていいんだろうかと自問自答したくなってきた・・・。
「_____続いては『アルゴξ楽団』の入場だぁーっ!!」
「アルゴξ楽団・・・いよいよ十四さんのバンドですね!」
「ああ、楽しみだな。」
「ヒャッハー!十四ー!気張れよー!!」
「今宵・・・時は満ちた。さあ、我と共にこの甘美なる宴に酔いしれるが良い!!」
『キャー!!十四ー!!』『カッコイイー!!!』
おお・・・!!いつもの十四さんと全然違う・・・!!なんだか歌声とか雰囲気もまるで別人みたい!?
私の知ってる十四さんは、どちらかと言うと半泣きなイメージが強くてこっちの格好良い方はあまり知らない。
最初会った時はこんな感じだった気がするけど・・・慣れてしまってあまり覚えていない。
十四さんのバンドは正統派というか、あまり激しい動きもないし歌詞の意味もなんとなくだが伝わりやすい。
「はああ・・・十四さん、格好良いですね・・・!!」
聞き終わる頃には、既にアルゴξ楽団のファンになっている自分がいた。す、少しだけど我を忘れていた・・・。
ヴィジュアル系と聞いてピンと来なかったけれど、これなら好きになるのも頷ける。十四さんの事をどこか誤解していたかも知れない。
その後、他の曲も聞いてみたけれど一番印象に残ったのはアルゴξ楽団だった。
「凄かったですねえ・・・とても心に残る良いライブでした・・・!」
「だな!十四の魂がビシバシ届いてたぜ!!」
「お前ら、本当に分かって言ってんのか・・・?まあこのあと十四と合流して飯行くから、車まで戻るか。」
「はい!」
階段を上がると外の太陽が眩しい。なんだか現実に戻ってきた感じがする。
私でさえこうなのだから、ライブをやってた十四さんはもっとじゃないだろうか。
獄さんの車に戻ってライブの感想を言い合う。獄さんも"俺の趣味じゃない"とか言ってたわりには楽しんでたみたいだ。
そうしたら程なくして十四さんがこっちに駆けてくるのが見えた。
ガチャッ
「はあ、はあ・・・。お待たせしたっす!」
「十四さん、ライブお疲れ様でしたー!!とても格好良かったです!!」
「へへっ・・・有難うございますっす!!ライブしてる時も三人の姿が目に入ったんで、いつもより気合い入れて歌えたっすよ!!」
「んじゃあ、その辺の話もしつつどっか行くか。十四、行きてえとこあるか?」
「えっと、それじゃあ・・・」
普段の十四さんと、さっきステージで歌っていた人が同一人物だと思えない。勿論それは良い意味で。
ふにゃっとした顔で笑う姿に癒やされる。後ろの席で空却さんにいじられるのを時々見ながらお店へ移動し、パスタの専門店へ着いた。
「______それで!その歌詞のところでギターがギュイーンってなったのが凄く決まってて!!」
「そうなんす!!あの高音パートで会場が一体になった感じがしたんすよ~!!分かってもらえるっすかー!!」
「・・・・なんつーか、名無と十四・・・。かなり気が合うみたいだな・・・。」
「拙僧らが入り込む隙がねえ・・・。まあ、『仲良き事は良い事』だ!楽しそうじゃねえか!」
ついパスタもそこそこに喋り倒してしまった・・・。気がついた時には空却さんと獄さんが温かい目でこちらを見ている。
自分でもこんなに楽しいとは思わなくて少し興奮してたのが今更恥ずかしくなった。
「・・・・あ、そうだ。さっきから言おうと思ってたんすけど、名無さんのネックレス凄く素敵っす!!どこで買ったんすか!?」
「これですか?昔デパートで見つけて買ったんです。暫く付ける機会なくて奥にしまってたんですけど・・・。」
「えぇ!?しまってたなんて勿体ないっすよ!!名無さん似合ってますし、もっとアクセとかそれぐらい盛った方が可愛いっすよ!!
そうっすよね、獄さん!?」
「なんで急に俺に振るんだ・・・。・・・・・。」
チラッとこっちを見下ろした獄さんと目が合う。
今日は十四さん寄りに合わせたファッションだけど・・・獄さんはどういうのがお好きなんだろうか・・・?
「・・・そいつがしたい格好で良いんじゃねえか?俺は人のセンスにとやかく言わんからな。」
「随分と控えめな回答だな獄ぁ?お前、本当は名無にもっと自分好みな大人の格好させてえんじゃねえのかあ?」
「大人な格好・・・。」
「じゃあ肩とか出る服もあるっすけどその方が・・・?」
「コラッ、勝手に話を進めるな!!公共の場で何抜かしてやがる!!
露出すりゃあ良いってもんじゃねえぞっ、ったく・・・。」
訴えるぞ、と一言付け足すと「また獄さんの法律ジョークが始まったっす~!」とその場は賑やかになった。
そこからその話題に戻る事はなかったけれど、なんとなく好みが掴めそうな気がした。
大人な感じか・・・。一応参考程度に頭の中に留めておく事にしよう・・・・。
その後。注文していたデザートが各々のテーブルに届いた。
すると獄さんが何か思い出したように十四さんに話しかける。
「・・・そういや十四。話は変わるが、ギターは練習してるか?」
「勿論っす!ちゃんと手入れも欠かさずしてるっすよ!!」
「へえ~。十四、ギター持ってんのか?」
「持ってるっていうか・・・獄さんがくれたんすよ。ホワイトファルコンっていうんすけど。」
「おお!なんかカッケェ名前だな!今度拙僧にも聞かせろや!!」
「ええぇ~!?まだ練習中だから全然聞かせられるような出来じゃないっすよ~!?」
そうなんだ・・・。獄さんギター持ってるんだ・・・。初耳なので普通に驚く。
ラップ以外に音楽をやってるのはてっきり十四さんだけかと思っていた。
「へえ・・・初めて知りました。獄さんは何かのバンドとか組まれたりしてたんですか?」
「いや。俺はしてねえ。ただ少し弾けるってだけだ・・・。」
「ギター弾けるなんて格好良いです!!私はそういうの疎いので分かりませんが、音楽出来る人って尊敬しちゃいます!!」
「そうか。・・・確かに、そういうのが出来るやつは格好良いよな・・・。」
・・・そう言って笑う横顔に、何故か影を落とす。この笑い方・・・どこかで見た事ある気がする・・・。
笑っているんだけどなんだか寂しそうな顔にも見えて・・・。・・・気のせい、ではないような・・・。
「俺も十四の出来がどんなもんか聞いてみてぇな。いつかお前が納得出来るようになったら聞かせてくれ。」
「はい!!これからも練習続けるっす!!」
この二人がギター弾いてるところ、見てみたいなあ・・・。いつかそんな機会が来たりするんだろうか・・・。
・・・・って私、一緒に食事とかライブに行かせてもらってるだけでも光栄なのに甘えすぎなのでは・・・。
ここ最近になって三人との距離が近いのでそんな事まで考えてしまう。違う、私は元々獄さんの秘書ってだけだから・・・。
・・・・それでただ、お友達ってだけ。
・・・・でも、もしこれが"お友達以上"になったら・・・。獄さんの事を、もっと知れるのかなっ・・・・?
「よし。飯も食ったし、これからどうすんだ?」
「自分!楽器屋さんに行きたいっす!!あとアクセのお店も!!」
「せっかく街に出たんだ、色々遊ばねえと損だぜ!!」
「名無はどっか行きてぇとこあるか?」
「え?私ですか?・・・特にないですが、強いて言うなら晩ご飯のお買い物くらいですかね・・・。」
「ヒャハハ!!んじゃあまとめて全部行くとしようじゃねえか!!」
ちょっ、あれ?いつの間にか皆さんと一緒に買い物する事になってる!?
というか一緒に遊ぶって・・・あんまりした事ないな・・・。良いのかな、私が行っても・・・。
「わ、私も良いんでしょうか?皆さんのお邪魔では・・・。」
「なぁに言ってんだ名無!お前は獄の彼女みてぇなもんだから、もう拙僧らの家族だろ?」
「へえっ!?」
「空却。・・・まだこいつは決めかねてんだ。その言い方はやめてやれ。」
「拙僧からしたら同じようなもんだがな。付き合おうが付き合うまいが、名無は仲間だ!
だから一緒に居てもなんの問題もねえんだよ!」
「自分も、名無さんと一緒にいるのは楽しいっす!!バンドの話も出来るし・・・センスも似てますし。素敵なお友達っす。
名無さんが嫌じゃなかったら、自分達と一緒に遊んでほしいっす!!」
_____私・・・・ここに居ていいんだ。今からでも、私の居場所はここで良いんだって。
なんだかそう思えて・・・本当に嬉しいなっ・・・・!!
「・・・・・有難うございます。なんだか、そうやって言われた事がなかったのでとても嬉しいです。
皆さんに仲間って思ってもらえるなんて凄く光栄です。・・・・一緒に遊びましょう!!」
・・・幸せだな。生きてて良かったって思う。
獄さんに・・・皆さんに逢えて良かった・・・・。
「よっしゃ!んじゃあまずはゲーセンからだな!」
「えぇ!?楽器屋の方が近いじゃないっすか~!」
「・・・・名無。」
「なんですか?」
「・・・誰ももう、お前を迷惑がる奴なんていない。空却が言った通り、俺にとってもこいつらにとってもお前は
だからもっと年相応にはしゃいだって良いんだぜ?・・・俺はそんなお前も見てみたい。」
「獄さん・・・。」
もっと素直になっても良い、って事かな。私は私らしく・・・過去出来なかった楽しい事を、今楽しんでも良いのかな。
獄さんもそれを望んでるなら・・・。私も、"楽しむ勇気"を踏み出さないとね。
「・・・・おい。ちょっと目離したら獄が口説いてるぞ・・・。」
「本当っすね・・・。名無さんにはあんな顔するんすね~・・・。」
「全部聞こえてんぞガキども。つーか別に口説いてねえからな?
・・・さて、さっさとここ出てどっか行くぞー。」
「ああぁ置いて行かないでくださいっす~!!」
「ごちそうさまでした。・・・行きましょうか!」
「おう!さっさと来ねえと獄に置いてかれんぞ~!」
この方角は楽器屋さんかな?私も小走りで獄さんの後を追いかける。
・・・まだまだ楽しい事がいっぱいだなっ。ふふっ。