お付き合いする前
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「ふー。食った食ったあ!ごっそさん!」
「はあ~・・・美味しかったっす・・・。お腹いっぱいで幸せっす~・・・。」
「凄い・・・。けっこう多めに作ったんですが全部なくなくなるなんて・・・。」
「言ったろ?こいつらよく食うからこれぐらいでちょうど良かったんだよ。」
「良かったです!作った甲斐がありました!」
重箱いっぱいに詰めたご飯やおかずはなんだかんだ話をしているうちになくなっていた。
多すぎたかな?と思っていただけに驚いている。食べ盛りというのは凄い・・・。まあ、お寺の人に途中で分けたのもあるんだろうけどね。
「夜までまだ時間あんな・・・。それまで他の場所も見てみっか?
ここは特別でけぇ桜だが、桜のトンネルみてえな場所もあっぞ!」
「わあ~見てみたいっす~!!どこにあるんすか!?」
「こっちだぜ!ほら、獄と名無もさっさと着いて来い!」
「はあ・・・。ったく、食い終わって早々元気な奴等だな・・・。」
ある程度周りの物を片付けて、荷物はこの桜の前に皆揃える。
『寺の境内で盗みを働くような罰当たりはいねえから安心しろや!』と空却さんが言うので貴重品以外は置いていく。
先を行く空却さん、十四さんのあとを追うように私と獄さんもゆっくり歩いた。
花見をしている人達を横目に桜の道を通っていく。一面の桜に見惚れてずっと上を向いたまま歩く。
「名無、そんなに拙僧んとこの桜が珍しいのか?さっきからずっと見てるが?」
「あ・・・ごめんなさい。普段こういった自然に囲まれる機会がないので、つい・・・。」
「謝ることなんざねーよ。・・・確かに、獄の職場んとこ全然緑ねえもんな。」
「そりゃあ俺のとこは都会の真ん中だからな。これだけの桜が咲いてるとこはあんまりねえし。」
「自分も、桜って言っても場所思いつかないっす。だからここは凄いところなんすよー!」
皆日々の癒やしを求めてこういった自然を感じたくなる。一時で散る運命だからこそ、今だけの景色を皆で分かち合いたくなるのだろう。
時々町中に咲いているのも見るけど、お花見出来るぐらいのスペースなんて見た事もなかった。
だから今年はこうして皆さんとの時間を共有出来るのが嬉しい。せめて年度の始まりぐらいは華やかに飾りたいから。
「着いたぞ!こっから先ずーっとトンネルだな!」
「うっわぁ・・・綺麗っすね・・・!!」
「ほお・・・凄ぇな、どこ見ても桜しか見えねえ・・・。」
いくつもの桜が左右に分かれてその真ん中に綺麗な一本の道が出来ている。
先程までばらけて咲いていた木々が一斉に整列しているようで。私達を迎えるように枝を揺らしていた。
「壮観ですね・・・!!ここで写真とか撮ったらきっと映えるんでしょうね・・・。」
「お、んじゃあここで写真撮っか!・・・ああでも拙僧の携帯置いてきちまったな・・・。」
「私持ってますよ!皆さん撮るので並んでください♪」
桜のトンネルを背景にしてチームの皆さんを撮影。なんて素敵な光景なんだろうか・・・。
SNSとかには上げないので安心してください!と前置きして私は皆さんから数歩下がろうとした。
「___何言ってんだ?お前も入るんだよ。」
「え・・・?ちょ、わあっ!?」
「えっとー?名無、これどこ押しゃあ良いんだっけか?」
「空却さんそっちライトっす。それがタイマーで。ああ!それカメラじゃないのになってるっす~!?」
何?何が起こったの!?一瞬理解しきれなかったが気が付くと皆さんが私の周りに集まってる・・・!?
どうやら獄さんに軽く腕を引っ張られて、その隙に空却さんに携帯を取り上げられていた。
カメラの操作がよく分かっていないようで私より背の高い三人が揉めている・・・。ていうか、ひ、獄さんとの距離が近い・・・!!
私は男性が少しは怖いはずなのに、不思議とそんな事を忘れてこの状況に緊張していた。
「わあーった!!とにかくこの丸いのを押すんだろ!?」
「そ、そそそ、そうです!!空却さん、早くボタン押してください・・・!!」
「名無、んな緊張すんな。今こん時だけだからよ。」
(分かってます・・・!!い、言えないけど獄さんの手が肩に・・!!なんか心臓の音が早い・・・!?)
「じゃあ皆さんピースっす!」
「んなガキみたいなポーズ出来るか。」
「それじゃあせめて笑っとけ!ほら、3・2・1!」
パシャッ!
・・・咄嗟だけれどちゃんと笑えただろうか・・・?緊張しながらもとにかくニコッとはしたはず。
写真を確認してみると・・・笑顔は出来ていた。けど私の顔が少し紅い・・・。皆揃って画面ぎゅうぎゅうって感じだなあ・・・。
「これ、あとで皆さんに送りますね。・・・あ、でも私空却さんと十四さんの連絡先知らないんで・・・獄さんに送っていいですか?」
「おう。忘れねえ内にこいつらに送信しとく。」
「ていうか、さっきのお花見した場所で連絡先交換しときたいっす!名無さんと友達登録しとくっすね!」
「拙僧にもあとで教えてくれや!知っといて損はねえしな!」
「んじゃあ・・・戻ったら教えてやってくれ。良いか?」
「勿論ですっ!!」
友達登録か・・・。あんまり使わないと思ってたけど、これからチームの皆さんとやり取り出来るなんて・・・。
まだ少し鳴り止まない鼓動を抑えて、桜のトンネルへ踏み入る。春らしく私の心は晴れやかだ。
進んでいく内に、夕日が木々の間を縫って差し込んでくる。もうそんな時間なんだ・・・と思い西の方角を見上げる。
そこにちょうどお寺の屋根が見えていて、少しだけれど物悲しくなった。
私は・・・こんなにゆっくりと時を感じた事が過去あっただろうか。ただ無為に過ぎていく日常を、青春と呼ばれるものを経験していただろうか。
もし、この人達に会うのがもっと前だったら。もし、あの暗い過去の中出会っていたとしたら。私の青春は変わっていたんだろうか・・・?
______でもそんな事を思っても過去は過去。今の出会いを大事にしたい・・・・。私は、この人達ともっと仲良くなりたいと素直に願った。
お話をしながらトンネルを抜けた先にまたお寺の景色が見える。どうやら一周してきたようで、ちょうど良いのでそこでお二人と連絡先を交換する。
その後も、空巌寺の一部が開放されていると聞いたので見学させていただいた。綺麗に手入れされたお庭は灼空さんがいつも管理されているのだとか。
大仏を見上げてこの寺の歴史を感じる。少し拝ませて頂いて、仏様に『ここに来させて頂き有難うございます』と心の中で感謝した。
「もう外が暗くなってきましたね・・・。」
「そろそろ親父がライト準備してる頃だな。見えやすいとこまで移動すっか。」
辺りも夕暮れから夜へと変わろうとしている。橙と紺の入り交じる空を眺め、お寺を出て桜の前へと歩く。
ちょうどライトアップまでのカウントダウンをしていたところで、ちょうど良いタイミングで間に合ったみたいだ。
バンッ!
「うっ・・・・わぁぁ・・・・!!綺麗っすね・・・!!」
「こりゃあ・・・見事なもんだなぁ・・・」
「凄く綺麗です・・・!!」
次々と桜が薄紫色のライトに照らされて風貌を様変わりさせる。昼の穏やかな景色と違い、どこか艶やかで大人な色合いに胸が熱くなった。
桜がこんなにも綺麗だなんて・・・・。近寄って見上げると花弁一枚一枚に当たる光がグラデーションになっているようですっかり見惚れてしまう。
「・・・・・・・。十四、あっちの方も綺麗だぞ!さっさと着いてこい!」
「あ…待ってください空却さん!今行くっす!」
・・・・?声のした方を振り返ると、空却さんと十四さんは少し離れた場所に行ってしまったようだ。
私と獄さんも後を追うべきだろうか・・・。と悩んでいると、獄さんの背中にひらりと花弁が付いているのが見えた。
桜を眺めているから気付かれないように取ってあげよう・・・。
「_____・・・ん?」
「あ・・・。えっと、背中に花弁が付いてたので・・・。」
「そりゃあこんだけ満開なら花弁の一つも付くだろうな・・・。」
やっぱりバレてしまった・・・。獄さんは日頃から人の気配に敏感なので、薄々こうなるだろうとは思っていた。
せっかく桜の方を見てたのに向かい合う形になってしまう。なんだか気恥ずかしくて桜に目線を反らす。
「・・・・・・なあ名無。」
「はい・・・?なんでしょう・・・?」
「お前、昼間弁当食ってる時俺に聞きてえ事があったんじゃねえか?」
「えっ・・・!?・・・・・あぁ、あれですか!?別に、大した事じゃありませんっ・・・忘れて下さい・・・。」
「たあけ。俺が今晩気になって寝れなくなんだろ。・・・ちょうど良いから話してくれ。」
獄さんの真っ直ぐな視線が痛い。私はこの人に見つめられるのに弱いかも知れない・・・。前はこれが嬉しかったはずなのに、今は直視出来ないでいる・・・。
というか、こんな事聞いていいんだろうか・・・。凄く個人的な事だし、あの時ふと思いついただけだったんだけど・・・・。
「・・・・じゃあ言いますけどっ・・・。先に言います・・・・・・こ、答えたくなかったら大丈夫ですからっ・・・・。
あの・・・・獄さん・・・・。 ・・・・・・獄さんは・・・私のどこを好きになったんですか・・・?」
「・・・・・!!」
真っ直ぐ見つめていた瞳を見開き、一瞬だけ獄さんの顔が周りの桜と一緒になった気がした。
そんな顔を初めて見たので、私も緊張で胸が高鳴ってきた。・・・・聞いたら駄目だったかなっ・・・。
瞬きをして。私と目を合わせてくれた時には、ニッとご機嫌な笑みを浮かべていた。
「・・・・そうだな。ただニコニコしてるだけじゃなく、自分なりの筋通すところとか俺は気に入ってるぜ。」
「筋・・・ですか?」
「いつか俺の陰口言ってる奴等に真っ向から対立した事あったろ?ああいう場の空気に流されねえところだな。」
そういえばそんな事もあったっけ・・・・。獄さんを思って咄嗟にした事だけど・・・・。
・・・・・そんな勇気も、元々貴方の近くだから出来た事なんですけどね・・・。昔の自分なら、あんな勇気はなかったでしょう・・・・。
「それに・・・・。」
「・・・・?」
すると、獄さんの手が私の頭に伸びてきた。突然だったので、一瞬目を瞑ってしまう。
______獄さんの手には、花弁が握られていた。
「外見も・・・・わりと俺好みだしな・・・・?」
「っ・・・・!」
「・・・・・・今のは忘れてくれ・・・・。」
自分の顔が紅くなる感覚がする。胸が熱くて、これが"焦がす"という表現なのだろうかと実感した。
獄さんも自分で言ったのに顔を少し逸らしてしまった。そんな本気の顔されたら・・・忘れられる訳ないじゃないですかっ・・・。
私なんかをどうして好きになってくれたのか。ずっと考えていたけれど、答えが出て良かった。
ちゃんとあの人の口から聞けたことで、また一つ気持ちを考えられる気がしたから・・・。
程なくして空却さんと十四さんが戻ってきた。
二人に連れられて桜の奥の道へ進むと、月をバックに夜桜が咲き誇っていた。
「・・・綺麗ですね・・・・・。」
「ああ・・・・そうだな。」
「・・・っ・・・・・・。」
独り言のように呟いても、隣りで獄さんが微笑んでいて。少し目が合うと、なんだかさっきの事を思い出して恥ずかしくなってしまう。
私、勢いとはいえとんでもない事聞いてしまったな・・・。それから暫く獄さんとまともに目を合わせられなかった・・・。
「おお、戻ってきたか空却。これから皆さんにカレーを振る舞うところだ。お前も手伝いなさい。」
「あぁ!?カレーあんならさっさと言えよ!・・・てかなんで拙僧が手伝わねえといけねえんだ?親父が勝手に用意して・・・・・」
「つべこべ言わずにとっとと手伝え!!」
「ちょっ!引っ張んな!?拙僧の服伸びんだろうがー!!はーなーせー!!」
お寺に戻ると、早々に空却さんが奥へと引き摺られていった・・・。どうやらこれがこのお寺の日常らしい・・・。
私達もカレーを頂けるとの事で、お言葉に甘えさせてもらう。
待っている間、"あれレベルはまだ可愛いもんだ"と空却さんの日常をお二人から勝手に聞かせていただいた。
ピコン♪
「ん・・・?ちょっとすいませんっす・・・。
・・・・あ!今度のライブ、エントリー出来たって連絡来たっす!!」
「ライブって、あのなんとかの夜会っつー集まりか?」
「『
良かったらお二人も来てみないっすか!?自分からの招待ってことで、話通るっすよ!!」
「えっ・・・?ヴィジュアル系のバンドライブに・・・・ですか・・・・?」
わ、私も行っていいんだろうか・・・?ヴィジュアル系は正直テレビでしか見たことないし、何も詳しくないのだけれど・・・。
ライブというのにも今まで行った事がない。獄さんはどんな雰囲気かは分かっているらしい。
・・・・スケジュール帳を観ると今のところ空いている。少し先の事なので、このまま予定が入らなければ行けるかも知れない・・・。
「名無もどんなもんか見てみたらどうだ?意外とハマるかも知れねえぞ?」
「そうっす!ヴィジュアル系はとにかくカッコイイんす!!生で見たらその良さが分かると思うっす!!」
「わ、分かりました・・・。せっかく招待して頂いたので、行かせてもらいます。十四さん、頑張ってくださいね。」
「はいっす!!明日からバンドの練習に熱が入るっすよ~!!」
こんなに十四さんが楽しそうにしてるの初めて見たかも・・・・。私も帰ったら少しヴィジュアル系のことを勉強しておこうかな・・・・。
そんなこんなで話していると、空却さんと灼空さんが人数分のカレーを持ってきてくれた。
カレーを頂きながら空却さんにもライブのお誘いをする。予定が合えば空却さんも来てくれるそうだ。
暫くしてカレーを完食。お寺のカレーがこんなに美味しいとは思わなかった・・・!
素朴だけれど印象に残る味だなぁ、今度お作り方を聞いてみたいところだ・・・。
いい時間になったので空却さんとはお寺で解散する。階段の近くまで見送ってくれた。
「______んじゃ。次お前らと会うのは十四のライブん時だな。」
「空却さん、今日は有難うございました!灼空さんにもお礼を言っておいてください!」
「おう!またいつでも来いよ!寺なんていつでも来ていいとこだしな。唐揚げ旨かったぜ~!!」
ゆっくりと階段を降りて、春の始まりらしい夜の涼しい風が頬を撫でる。
名残り惜しいけれど本当に素敵な一日だった・・・。桜も綺麗だったし、皆さんと連絡交換も出来た。
帰りは獄さんが車で送ってくれるので、まずは十四さんから降ろしてそのあとに私の家へ向かう。
信号待ちの時。携帯の写真を見るとぎゅうぎゅう詰めで撮った私達が映っている。
「・・・・ふふっ。」
「?・・・ああ。昼間の写真か。」
「はい。とても良い思い出になりました・・・。なんだかちょっと名残惜しいです。」
「心配しなくても、次は十四のライブがある。それにあいつらなら、どうせまた事務所に迷惑かけに来るだろう・・・。
寂しがってる暇ねえくらい忙しくなるかもな?」
そう言ってる獄さんの横顔は、少し呆れてたはいたけれどどこか楽しそうに見えた。
お花見だけで終わらない・・・私と皆さんの関係は始まったんだと思うと、なんだか胸が温かい。
____多分それは・・・獄さんとの関係も・・・。
「・・・んじゃあまたな名無。」
「有難うございました!おやすみなさい、獄さん。」
「おう、おやすみ。」
遠ざかる車を消えるまで見つめる。空の重箱を持って家に入ると、少しだけ重たい。
獄さんはこれより重いのを持っていてくれたんだな・・・。
「・・・獄さん・・・・。」
さっき離れたばかりなのに。こんなに相手を考えてしまうのはやはりそういう事なのか。
それとも、ただ空却さんや十四さんのように。友人としての感情なのか。
一人部屋で呟いては。また携帯の写真を眺めていた。